稗田の手記
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十月二十七日 万年筆が額に刺さると痛い

 

 

 痛いです。稗田阿求です。
 不覚にも、幻想郷縁起を執筆している最中にうとうと船を漕いでいましたら、何をまかり間違ったのか額に万年筆が突き刺さりました。
 ぎょあ、なんて面白くもなければ色っぽくもない粗野な悲鳴をあげてしまいましたよ。インクなのか血なのかよく分からないものが額を伝い、畳に滴り落ちる様は性質の悪い喜劇としか思えませんでした。
 実際、お手伝いさん何人か笑ってましたからね。
 減給。

 

 

 それにしても暑いです。
 十月なんですけどね。
 小春日和といったところでしょうか、風もないと直射日光を直に浴びることになるので身体に悪いことこの上ないです。特に私とか繊細に造られているものですから、あんまり無理はできないのですよ。こほんこほん。
 そこ笑わない。聞こえてますよ。
 わらわらと逃げていくお手伝いさんの顔を記憶し、真面目なお手伝いさんが宛がってくれた脱脂綿を額に押しつけます。正直、阿呆なことをやってしまったものだと思うのですが、誰かが見ていてくれれば笑い話にもなりますから、最悪の事態は免れたといっても良いでしょう。最悪でないだけで、あんまり面白くないのはまた別の問題としても。
 うお……太陽がまぶしい……。
 襖を閉めてしまおうかとも思いましたが、敷居をまたぐようにそんじょそこらの猫がまごまごしているものですから、あまり無碍にもできません。かわいいです。でもかわいいからといって何をしてもいいと思ったら大間違いだ!
 そういうわけでお腹を揉みます。
「うなー」
 おー、好い声で鳴くじゃないですか。
 ほーらここはどうだー。
「なぅー」
 私の手は猫じゃらしじゃありませんよ。そんなに細くないです。
 でもまあ、指を動かすと一所懸命追って来るのが健気ですね。この調子で、縁側から軒下に転げ落としてやってもいいのですが、困ったことに私の指を狙っているのは一匹のみならず三匹ほどのようで、子猫でもない黒と三毛と虎柄がきちんと座して私の指を注視しているのです。
 マタタビでも吸引したんでしょうか。
「……」
「……」
「……」
 睨み合い。
 トンボだったら洗脳は既に完了しているといっても過言ではないでしょう。
 ――いざ、勝負!
「しゃーッ!」
 私は指を中庭の方に向けると同時、追いすがる猫をかわすように縁側へと転がり込みます。嗚呼、なんて華麗な飛び込み前転でありましょうか! ごろん、ごろん、どさ。
 落ちました。私が。
 ついでに腰も打ちました。
 痛い。
「にゃーん」
 いたたた、噛むな噛むな。
 この猫ら、私の指を何だと思ってるんでしょうか。しかも三匹が群がるあたり、何かマタタビ的な魅力を備えているのやもしれません。確かにすべすべしてますし、もしかしたら指先ひとつで男を落とす魔性の女に転じることもやぶさかでは――。
「阿求様!?」
 ごめんなさいやぶさかでした。そんな素質ないです。
 だから早く助けてください。
 あと猫も追っ払ってください。

 

 

「どうして縁側から……」
 深くは聞かないで。
 ただまあ、私も調子に乗ることもあるのです、だって女の子ですから。
「はぁ……」
 そんなに心配そうな顔されるとすごく恥ずかしいんですけど。
「お怪我、なされませんでしたか」
 さっき万年筆で額をやったくらいですかね。
 ほんと今日は何なんでしょう、私らしくないというか、ひどく私らしいというか。気の迷いとも言いますし、歴史の必然と表現することもできるでしょう。
「思春期なのですね」
 羨ましそうな顔されました。
 そうかなあ……。
 違うと思うけどなあ……。
「でも、阿求様」
 はい。
「阿求様は、ご自身が考えてらっしゃるより、ずっと女の子でいらっしゃいますよ」
 ……そうかなあ。
 どうでしょう。実際。
 よくわからないことではあります。
 というか面と向かって言われるとものすごく恥ずかしいので、せめて笑い話にしてください。
「ふふふ」
 いえ、そういう意味ではなくて。
「にゃー」
 さっき追い払ったのにまた入ってきました。懲りないやつらめ。
 結局、暑いのは変わらないままで、恥ずかしい分、猫に噛まれた分、余計に暑苦しくなっただけなのでした。
 思春期も、青春も、春の領分だっていうのに。
 ……ああ、だから、小春日和だったのか。今日は。

 


 

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十月二十九日 北斗七星

 

 

 ごきげんよう。稗田阿求です。
 今日はこんなにも天気が良いのに何処にも行けません。それというのも、先日のっぴきならない事情によって縁側から転落してしまった影響で、腰の痛みが引けないのです。加えて、大宇宙的な運命によって額の傷の治りもよくないものですから、三日は静養、できるならお医者様へ、というのがお手伝いさんのお願いなのでした。
 命令や強制ではなく、お願いとしているところが味噌です。
 別に私が稗田家のお偉いさんだからという意味じゃなくて、こういうときに命令されたり強要されたりすると、私が余計意固地になることが解っているのでしょうね。確かにそういうところはあります。私のことをよく見ているお手伝いさんといえるでしょう。
 でも見透かされてるのは気に入らん。
 あとでなんかちょっかい出そう。

 

 そういう経緯で、腰が痛いのに出歩けるわけないでしょばかばかと駄々をこねたわけでもないのですが、断じてそういう不埒な真似をしたわけではないのですが、今回はお医者さんの方から問診に来るという形に相成りました。
 よっしゃと声を大にして言いたいところなのですが、よりにもよってと言いますか、別に里の馴染みのお医者さんでいいところを、何故竹林の奥深くに住む凄腕なのに得体の知れないお医者さんに問診を依頼するのか、その理由が皆目見当もつきません。
 いわく、阿求様が心配だからだそうで。
 過保護なのもいい加減にしてもらいたいものです。そんなに子どもじゃないのです。どなたがいらしても毅然と対応するくらいの気概はありますが、流石に謎の薬物を投与されて平気でいられるほど無神経ではないのですよ。
 うーん……。
 腰が痛い……。
「阿求様、先生がいらっしゃいました」
 あんまり悩んでる暇もなさそうです。
 いっそ逃げるべきだったのかもしれません。……何処に? 決まってるじゃないですか、わたしたちの明日ですよ!
「こんにちは。八意永琳と申します」
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
 とまあ馬鹿なことを考えてると、そういうのが顔に出て熱があると思われそうなので、ここは無難な対応を心掛けることに致します。
 お手伝いさんに通されたのは、八意さんともうひとり、兎の耳と尻尾を生やした眼鏡のブレザーっ娘でありました。八意さんの服もたいそう独創的なのですが、こちらはむしろコテコテといっても過言ではありません。
「……鈴仙、です」
「よろしくお願い致しますね」
 できれば、もうちょっとはっきり喋ってくれると嬉しいんですが。
「ごめんなさいね、この子ってば最近どうもアレで」
「なるほど、アレですか」
「アレ……」
 良からぬ想像に不安を抱いていることだけは解ります。表情に出るぶん、そんなに悪い子でもないような気が致しますが。
 まあそのへんのことは安易に判断できないですね。
 私だって基本そんなもんですし。

 

 まずは、腰の具合を見てもらいます。
 うつぶせに寝転がりまして、着物をぺろっとめくりあげて私の白い柔肌が露になるわけですね。興奮するといいです。もち肌なので触った感触とか補正かけるとなお良し。
「うぐ……」
 それはそうと、痛いのは事実なのでぐいぐい揉まれると色気のない呻き声も出ようかというところです。あんまり可愛くないです。
「痛む?」
 当たり前だろと言いたい。
「腰痛ですね」
 最初からそう言ってるし。
「何か心当たりは」
 あんまり言いたくないんですけど。
「そういえば、先日縁側から転げ落ちて……」
 わざわざ言わなくていいですお手伝いさん。
「何故そのようなことになったのか、どうしても話してくださらなくて……」
「大宇宙的な……」
「私が思うに、猫と戯れているうちに調子に乗って飛び込み前転を二回行ったところで彼我の距離を見誤り、なんだかよく解らないうちに転落して置き石に腰を打ちつけた――と、そんなところかしら」
 何故わかった。
 八意さんは、ついと中庭に目を向けます。つられて鈴仙さんもそっちの方を向きますが、私は体勢的に無理でした。でも、辛うじて猫の鳴き声だけは聞くことができました。
「猫。たくさん棲んでらっしゃるようで」
「若気の至りで……」
「思春期なのですね」
 全く同じことを一昨日にも言われた気がします。
 お手伝いさんもくすくす笑わない。八意さんも鈴仙さんも。
「むぎゅぅ……」
 腰……。

 

 

 お手伝いさんは急な呼び出しをくらいまして、私のことが気になる様子でしたが八意さんに任せておけば問題ないと踏んだようで、後ろ髪を引かれまくりながらどこぞに消えて行きました。
 私としては、お手伝いさんがいれば八意さんも妙な薬物を投与したりはしないだろうと踏んでいたのですが……。
「それにしても」
 あれだけぐいぐい押した以外は特に何もしていないのに、何故か腰の具合は心なしか良くなったようでした。心理的な作用かもしれません。ぷらしーぼとか言うらしいです。詳しくは知りません。
 今は、傷付いた額の治療という名目の、他愛もない雑談です。
「珍しい身体をしているわね」
 何だか、値踏みをするような視線が気に掛かります。
 その言葉が何を意味するものなのか、推測できないほど無知ではないつもりですが。
「そうでしょうか。あまり自覚はないのですけど」
 額に宛がわれた脱脂綿は、たしかにお手伝いさんから頂いたものより爽やかで、痛みも速やかに抜き取られていくような気がします。
 ちなみに、額の治療をしているのは鈴仙さんです。終始無言です。
 なんか喋れ。
「日常生活を送る分には、さほど問題ない造りになっているようね。それこそ、幻想郷縁起を綴れるくらいには」
 やっぱり、知っているのでしょう。
 若干、眉間に寄った皺を、鈴仙さんが面倒くさそうに解きほぐしているのが微笑ましいです。
「流石は、地獄謹製といったところかしら」
 ふと、頬に伸ばされた彼女の指から逃れようとして、その前に鈴仙さんに頬を掴まれます。痛い。
「動かないで」
 真剣なのはいいことですが、もうちょっと加減してくれると助かります。
 鈴仙さんのそんな態度に気が殺がれたのか、八意さんは伸ばしかけた手を下ろし、腕を組んで苦笑していました。
 助かった。
 というのは、少し失礼に値するかもしれませんが。

 

 

 ひととおり治療も終わりまして、軽く挨拶をした後におふたりは速やかに辞して行きました。最低限、明日まで無理な運動は控えるように、とのことでした。
 そのへんのことは猫にも言い聞かせてほしいです。
 私が構ってやらないとにゃーにゃーうるさくて。
「阿求様」
 正門に佇み、嘆息する私を見て、お手伝いさんが何か言いたげな顔をしています。
 言ってみ。
「今晩、阿求様のお好きなものをお作り致しますが」
 何が良いでしょう、と嬉しいことを言ってくれますが、特に嫌いなものはありませんし、それ以前にいつも私の好きなものを作ってくれているわけじゃないんですね。
 愛されてるなあ、私。
「コロッケがいいです」
 ハンバーグもいいですけど。
「心得ました」
 お手伝いさんはにっこり笑って、会釈をしてから厨房に引っ込んで行きました。
 うーん。
 気を遣ってくれたのでしょうか。
 まあ、そのへんのことは深く考えないことにしましょう。
 とりあえず、今晩のコロッケを楽しみにすることにして、まず戦わずして猫を黙らせる方法を考えなければ。
 やっぱり、最終兵器マタタビの出番か……。

 

 


 

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十二月十二日
明日に向かって走ればいいじゃない 私は寝るけど

 

 

 師走です。
 某お師匠様の方々が忙しなく駆け出さんとする今日この頃、皆様は如何お過ごしでしょうか。
 私は特に何もしておりません。
 超暇です。

 

 それというのも、何故か雨降ってるんですよね。冬なのに。むしろ雪が降ってきてほしいんですけど、全然降りませんね。どういうことでしょう。お天道様は私の言うことなど聞いてくれないのでしょうか。このか弱き乙女の祈りは天に届かず、傍若無人な不良天人によって下界の天気も縦横無尽に荒らされる羽目になるのでしょうか。
 でもそんなのはまっぴらごめんなので、見つけ次第物干し竿で突きます。
 初めはお尻にしようかと思ったんですけど、それは流石にあんまりなのでお腹で勘弁してあげます。
 ……私? いや私じゃなくてお手伝いさんがやります。
 いやいや遠慮せずに。

 

 折角、腰の調子もよくなったというのに、こう雨が続くと外にも出歩けませんし、気も滅入ります。
 猫もどこかに行ったまま帰ってきませんし。家に常駐しているのは炬燵の中にひっこんでおりますし、あんまり無理やり引っ張ってくると容赦なく爪立ててきますからね、きさま飼い主を何だと思ってるんだ。
 とか言っても猫だから聞きゃしませんが。
「阿求様」
 そんなこんなと、畳に寝込んだままぐだぐだ物思いに耽っていると、お手伝いさんが恭しく敷居の前に膝を付いていました。彼女はお手伝いさんの中でも礼儀を弁えていて、私の頭を撫でたり髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱したり羽交い絞めにしたり、そんなことは一切しない方なのです。
 というかそんなことばっかしてるのかうちのお手伝いさんは。
 ともあれ、気を取り直して起き上がります。まあでも用件聞いてからでもいいか。起き上がるのにも体力は必要。消費は極力抑えるべき。
「お客様がいらしておりますが」
 はて、どなたでしょうか。
「――風見幽香様でございます」
 げっ。
 やばい今「げっ」て言ったの聞こえたかな。
「ご都合が合わないようでしたら、お引き取り願うこともできますが」
 いやそれはやめた方がいいんじゃないでしょうかね。
 いや別に怖いからとかじゃないですよ。
 本当ですよ?
「そうですか」
 そうです。
 というより、あなたがそこまで強気に出られる理由がいまひとつピンと来ませんが。
「……ご用命とあらば、命すら捨てる所存でございます」
 そこまでされると困ります。
 いのちだいじに。

 

「ごきげんよう」
 うわ本当にいた……。
 なんでいるの……。
「なんでいるの、みたいな顔されてもねえ」
「比較的、歓迎しているかのような雰囲気を醸し出しているのですけど」
 だいぶ無理のある表現ですが、稗田阿求は正直者で通っているのであんまり的外れなことは言えないのでした。
 内側から滲み出る善良さが憎い……。
「ただの雨宿りよ。それ以上の意味はないわ、今のところ」
 そんな幽香さんは玄関に居座っておられまして、畳んだ傘を握ったまま私の遥か後方に隠れてこそこそと幽香さんを眺めているお手伝いさんたちを威嚇して遊んでいます。蜘蛛の子を散らすように逃げていく彼女たちを見て、嗜虐的な笑みを浮かべる幽香さんの嬉しそうな表情といったら。
「今のところ、ですか」
「正直者でいたいからね。あなたと一緒で」
 とりあえず石突を人に向けるのはやめた方がいいと思います。
 誤って突かれようものなら、余裕で死ねます。
「帰るまで天気が持てば良かったのだけど、そうもいかなくてね。花屋から傘を借りて、雨宿り」
「そのまま、花屋さんのところにご厄介になれば良かったのでは」
 いや別に私のところに来なければよかったと言いたいわけでは。
「うぅん、私もそうしたかったのだけど。ね」
 どうしてそんなに楽しそうなのかよくわかりませんが。
 こっちが人間友好度最悪って書いておいてなんですけど、幽香さんは人里に下りて花屋さんに行くこともあれば甘味処に足を運ぶこともある、わりと人間と交流のある妖怪さんです。
 ただし、長いこと生きてるせいかめちゃくちゃ強くて、そのうえ趣味が弱い者いじめと来れば、そりゃ危険が服着て歩いているといっても過言ではないわけです。私のせいじゃない。
「中。入っても構わないかしら」
 すみません、今玄関に地雷が埋まっているので……。
 誰か、空気を読んで本当に埋めておいてくれなかったのか。
 竜宮の使いも気が利かない。
「あら。嫌そうね」
「誓ってそんなことは」
「嘘おっしゃい」
 ぴしゃりと言い放ち、私の艶やかな額を指で弾きます。
 ごめんなさい、そっちは軽くやってるつもりでも、こっちは超痛いので物理攻撃はやめてください。
「でも、ごめんなさいね。わたし、他人の嫌がることをするのが大好きなの」
 そういって笑う、風見幽香は生粋のいじめっこである。
 笑顔は綺麗なのに、とても勿体ない。
 でも、今更幽香さんが周りに優しく振る舞い始めたら、それはそれで気持ち悪いものがあります。
 日頃の行いって大事ですね。

 

 結局、幽香さんはよりにもよって私の部屋に陣取り、炬燵に引っ込んでいた猫を引きずり出して転げ回した挙句、書きかけの幻想郷縁起に落書きをしたり八雲紫の項に根も葉もない噂を追記したり、暴虐の限りを尽くして嵐のように去って行きました。
 雨も上がり、何も持たずに帰ろうとする幽香さんに傘を渡そうとすると、「また来るから、その時にね」と意地の悪い笑みを浮かべておりました。
 私は、お手伝いさんにお願いして、花屋さんに傘を返しに行ってもらいました。これで一安心。
 自室に戻り、私より遥かに上手い似顔絵の描かれた紙面を見返し、どうしたものかと首を捻ります。とりあえず、紫さんの髭は消した方がいいでしょう。もしばれたら幻想郷が真っ二つに分かれるような大喧嘩になるし。
 おお、くわばらくわばら。
「阿求様」
 ん、どうかしましたか。
「塩を、撒いておきましたので」
 ばれたらまずいでしょそれ。
「そのときは、私が盾になりますので……」
 たぶん私ごと貫かれると思う。
「そうですか……」
 そうですね。
 とりあえず、幽香さんに何か言われたらナメクジ溶かしてましたって言っておいてください。
 根がいじめっこなんで、きっと納得してくれるでしょう。
 うん。
 根拠はない。

 

 


 

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一月九日
乾布摩擦なんてしませんよ……夢や小説じゃないんですから

 

 

 良い――朝ですね。
 ごめんなさい超眠いんですけど。
 ……あらやだ、意味も無く「超」なんて耳触りの良い言葉なんか使っちゃって、美しき日本語を愛する稗田阿求にあるまじき行為です。全国八百万のファンの方々を失望させてしまったのではないかと、先程の失言を恥じるばかりです。
 と言いたいところですが、眠いです。
 いえね、本当は早起きするつもりなんて無かったのですよ。閻魔様は早起きは三文の得だとか徳だとか仰ってますが、多分早起きしても辛くないのは年齢のせいだと思うんですよ。元地蔵だし。いや地蔵は関係ないかも。
 まあどっちでもいいです。
 結局、今朝があまりにも冷え込んだせいで、眠っているうちに何故か掛け布団が身体から剥がれてしまうという病に侵された身としては、お腹が冷えて睡眠どころではないのです。
 冬よ滅びろと声を大にして叫びたいのは山々ですが、この冬を謳歌している方も数多くいらっしゃいますので、私ひとりの我がままで季節を掻き乱すことなどあってはならないのです。
 ああでも寒いなあ。眠いなあ。
 寝ても、いい……ですよね。なんだ、私は寝てもいいんだ! 何も恥じることはない、自分に正直に生きるべき! 昔のひともそう言ってた!
 よし寝る。
「ぐぅ……」
「おいこら」
 机に突っ伏す私の頭を叩く、そんな恐れ多い暴挙に及ぶことができるのは、世界広しといえども三十人くらいです。
 結構多いですよね。何か間違ってる気がします。
「やめてください……セクハラで訴えますよ……」
「セクハラの意味もわからないくせに」
「慧音先生のおっぱいのことですよね……」
「何故」
 ちくしょう、何故とか言ってるよこのひと。
 滅びればいいのに。
「滅びればいいのに……」
「たまに物騒なことを言うな。阿求は」
 心外な。
 この外見からして超可愛い稗田阿求が毒を吐くからこそ、その意外さが愛嬌たっぷりで受けるのではありませんか。
 きゃっ、また「超」なんて使っちゃいました。てへ。
「ぐふ、うふふふ……」
「よし、寝惚けていることは解った。先生は悲しい……だが、三、二、一」
 ゼロ。
 なんでそこだけ言語が違うんでしょうかね。

 

ガッ ゴッ

 

 えぇ……二発とか信じられないんですけど……。
 意識が飛びましたよ、えぇ、確かに記憶が途切れています。そんな体罰教師はおっぱいを手錠で拘束されるがよいです。
 ……何、そんな手錠は存在しません、と?
 馬鹿野郎! なんで初めから諦めるんだ! 無ければ作る、そうして人類は試行錯誤しながら発展していったのではないのですか!
 求む、おっぱい拘束具。
「目が覚めたか」
「完膚なきまでに」
「表現がおかしい気もするが、まあ良しとしよう」
 どうやら授業が再開されるようです。
 再開される以前の授業内容も全く頭に入っていないのですが、教科書の洗い直しでしょうから大して問題はないかと思います。
 ならばどうして、と疑問に思われる方もあるかもしれませんが、彼女が私のところに個人授業をする時は、大抵何らかの悩み事を抱えている時なのです。
 相談事があるのなら、授業などといった前振り無しにさっさと切り出せばいいものを、そのあたり不器用なのか恥ずかしがり屋なのか、どっちにしても寝起き間もないか弱き阿礼乙女の貴重な自由時間を消耗させるだけの価値がありやなしや。
 ……だめです、眠い上に頭突き二発喰らったから、自分でも何を考えてるのかよくわかりません。症状的には末期です。
「つまり、博麗神社があの場所に建てられていることには立派な意味が」
「慧音さん」
 先生とは言わずに、彼女の名前を告げる。少々、険のある口調になってしまいましたが、このやり取りは過去に何度も繰り広げられていますから、彼女も意図するところは理解しているはずです。
「お話したいことがあるのでしたら、お早めにお願いします」
「……すまない」
 申し訳ないと解っていても、心の準備が出来るまで、関係のない話をしないと気分が落ち着かない――というのが、彼女の言い分らしく。
 私の思い切りの良さを分けてあげたいです。
「……実は、生徒のことで悩みがあるんだ」
「いつも通り、頭突き一発で解決すればいいのでは」
「そういうわけにもいかないよ。その生徒は、私のことを好いていてくれるようで」
「いいことじゃないですか」
 内心、男はみんなおっぱいが好きなんだろ、とやさぐれたりしていましたが。
 でなくても、慧音さんが好い人であることは、恐らく万人が認めるところでしょう。
 問題は、彼女のことが好きだと告白する人が絶えないことです。
 もうみんなまとめて寺にでも押し込んどけばいいんじゃないですかね。楽だし。
 三日もすれば、「南無三!」としか言えない身体になりますよ。
「その……今回はまた、状況が複雑で」
 慧音さんは、言いにくそうに眉を潜めています。
 はて。
「複雑、とは」
「その……な。告白してくれたのが、女の子なんだ」
「はぁ」
 はー。
「かなり真剣な様子で、付き合ってください、と……いや、私も突然のことで驚いたんだが」
「付き合っちゃえばいいんじゃないですかね」
「そういうわけにもいかないだろう」
「新たな世界の扉を開く良い機会だとは思いませんか」
「思わん」
 ううむ、慧音さんにその気はないようです。
 まあ、もし彼女にその気があったなら、私など五十回慰みものにされていること請け合いなので、ここは素直に胸を撫で下ろしておきましょう。ほっ。
「なるべく、傷付かないように断りたいんだ。その……この先、あの子が誰を好きになるか解らないが、どうあっても、自棄にだけはなってもらいたくない」
「何言ってるんですか、振られて傷付くのは当たり前じゃないですか。そこに優しさなんてものを持ち込んだら、付け入る隙があると思われるか、傷口に塩を塗りたくるか、どっちにしても面倒なことになるだけです。絶対」
「そ、そうなのか」
「絶対です」
 二回繰り返したのは大事なことだからです。
 別に経験があるからではないです。たぶん。
「しかし……」
「ああもう、本当にこういう時の慧音さんは煮え切らないですね……!」
「す、すまない」
 恐縮しきりな慧音さんも貴重で可愛いのですが、なにぶん、彼女に純真無垢らしき少女の告白を突っぱねるだけの勇気を持ってもらわないことには、私も彼女も女の子も先に進めません。
 というか早く眠りたいんです私。
「なんだかんだいって、女の子も意外に逞しいもんですから、たとえ振られても三日泣いたら元に戻りますよ。まあ、寺子屋には来なくなるかもしれませんが」
「ううん、それも困るな……」
「なるようになります。大事なのは、他ならぬ慧音さんの口から告げることです。言い方は、まあこの際ですから優しさを持ち込んでもいいことにしましょう。話が進みませんし」
「ありがたい」
「でも、毅然とした態度でお願いしますよ。でないと、尾を引きます」
「ううむ……難しいな。努力してみよう」
 始終、難しい表情を浮かべていた慧音さんでしたが、ここに来てようやく顔の筋肉も解れてきたようです。
 ……うわあ、相変わらず愛想笑いが下手くそですね。
「……悪かったな。どうせ、作り笑いは上手くないよ」
「すみません、顔に出ていましたね」
「わかってやってるだろう」
 当たり前じゃないですか。この瞳に焼き付けたからには、そう簡単に忘れませんよ。
 私に相談を持ちかけ、弱味を見せる難点はそこにあります。別に、弱味を握った私が何か悪さをするわけではないのですけど。ただ、本人を前にして話の種にするくらいです。普段は愛想笑いのひとつも浮かべない方が、顔を真っ赤にして照れるさまを見るのは心が潤いますね。
 でも、何度もそういう経験をしているにもかかわらず、慧音さんは何度も私のところに相談を持ちかけてくるのです。
 他に友達がいないのでしょうか。
 いやそれはないとは思いますが。
「ありがとう。参考になった」
 おもむろに立ち上がり、慧音さんは頭を下げて感謝の意を述べてくれます。どんなに親しくても、礼を重んじるのが慧音さんの良いところです。親しき仲にも礼儀あり。わりと図々しいのが多い中で、彼女のような存在は貴重です。
「では、私は失礼するよ。ゆっくり休んでくれ」
「そうします。頭も痛いですし」
「私もだ」
 最後に、ようやく含みのない笑みを見せて、慧音さんは軽やかに私の部屋から去って行きます。
 静かな足音が徐々に小さくなり、扉を開く音も靴が地面を踏む音も聞こえなくなって、私はぐでーんと後ろに倒れました。布団を敷くべきだと脳の片隅が警鐘を鳴らしているのですが、そんなの知ったこっちゃありません。私は寝るのです。睡眠は時と場所を選びません。状況すら放棄することもしばしばあります。今の私は睡眠する機械と化しました。誰に話しかけられようが額に落書きされようが鼻に落花生を詰めこまれようが、全く意に介さず、お手伝いさんに排除をお願いします。
「ぐぅ……」
 ともすれば、お腹の虫と勘違いされかねない呻き声を放ち、まぶたを閉じて、夢の世界に落ちて行きます。
 ああ、なんと甘美な二度寝の誘惑……! 極楽浄土はここにあった!
 今度、文々。新聞に投稿してみようかな……。

 

 そうして、睡魔の誘惑に負けた私は、この先に待ち受けている試練など知る由もなかったのです――

 

 とか言っとけば、そこそこ盛り上がるんじゃないですかね。
 ぐう。

 

 


 

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十二月二十日
でもこの風…少し…泣いてます

 

 

 どうも稗田阿求です。
 最近は雪が降ったり降ってもすぐにやんだりして、なかなか積もるまで行きませんね。積もったら積もったで屋根の雪下ろしが大変なのですけど、積もらないのはやはりどこか寂しいものです。
 同じように、寒いのは苦手なのですが寒くない冬というのも何かしっくり来ないものがあります。肌がピリピリと刺激される感覚、指先がかじかみ、喋り続けていなければ口も上手く開かないような寒さを感じられるのは、一体いつになるのでしょう。
 まあ、秋に比べればずっと寒いわけですし、いきなりマイナスを記録されても困るわけですが。散歩するのにも重装備を強いられる身にもなってみてください。こちとら冬の妖怪でもないのですから、お天道様もそのあたりある程度は気を遣って頂けると有り難いというかなんというか。
 ……ええと、まあ。
 前振りさんは終了しました。
「…………」
 現在進行形で散歩中の私なんですけど、背中に凄まじい殺気を感じます。殺す気です。奴は私を殺す気です。
 はははそんな馬鹿な。
「……あのアマァ」
 振り返っても目線を逸らしませんよあの子。
 見た目は私と大して変わらないのに、若いうちから殺気振り撒いて神経が擦り減らないんでしょうか。彼女の将来が心配ですね。
 というか私の命の方が心配ですよ。
 あんな小娘に殺されるものかよとも思うんですが、博麗印の御札とか守矢印の破魔矢とか持って来られると流石の私も滅せられかねないので、ここは若干形振り構わない手段を取ることにします。
 いざとなったら私の吹き矢が火を噴くぜ。
「いらっしゃいまー、あぁ阿求ちゃん。今日はお買いもの?」
「そんなところかな」
 そんなこんなで、花屋にやって参りました。
 殺気の持ち主も、無関係の人間がいる前で犯行に及ぶこともないでしょう。確証はありませんが。見ようによっては人質と取れなくもないですが、私は友達思いの良い子ちゃんなので、盾にしようなどと考えているわけでは。
 考えているわけではないですよ。
「何だか会うのも久しぶりだねー」
「まあ、腰をやったりしたからね……いやーあれは酷かった。腰は駄目ですね、致命的です」
「そうだねえ。うちのお父さんも、こないだ腰を痛めちゃって……治るまではお店の方も手伝えなくて、忙しいのなんのって」
 ぷんぷんと可愛らしく怒っているわりに、表情がいやに冷めているのは何故でしょう。その理由については幾つか考えられますが、彼女の名誉のために割愛してあげたい
「……あの、阿求ちゃん。後ろ」
「なるべく気付かない振りをして」
「う、うん。わかった」
 私たちが殺気びんびん物語の真っただ中にいるためか、お客さんもそそくさと店内から去り、結界が張られたように花屋に踏み込んで来る人もいなくなってしまいました。とんだ営業妨害です。反省すべき。
「あの子、寺子屋で見たことあるよ。その……目立ってたから」
「わかります」
 慧音さんに告白してテンションが上がったり、振られてテンションが下がったりしたんですよね。わかります。
 そして、負の感情が私に対する憎悪へと変貌を遂げるのに、そう長い時間は掛からなかったのです……。
 ていうかなんで私が……。
「こないだも元気無くって……話しようと思ったんだけど、その、怖いこと呟いてばっかりだったから……」
「話しかけないでよかったかも」
 標的が変わるのは助かるのですが、この子はだいぶ普通の子なのであっさり殺されてしまうかもしれません。
 いやはや物騒な世の中になったものです。人が人を殺す時代が来るとはな……!
「うん……阿求ちゃん、大丈夫なの? 先生に言った方がいいんじゃあ」
「うーん、告げ口したいのは山々なんだけど、それだと本当に解決したことにはならないと思う」
「でも……」
 チラッと私の背後を窺うと、すぐに視線を戻して私の肩をぐっと掴む。
 すごい怯えてますね。今にも泣きそうな。
「やっぱりやめよう……! 阿求ちゃん一人で解決できることじゃないよ……!」
 むっちゃいい子ですね。さっき自分で自分を良い子とか評しましたけど、あれ訂正したいくらいです。
「まあ、いざとなったら私の盾になってくれれば」
「それは嫌だけど……」
 でしょうね。
「じゃあ、行ってきます」
「あ……」
 心配する彼女の手を振り払い、私は妬まし子と対峙する道を選びました。
「や、やっぱり誰か呼んでくる……!」
 別にいいのに。
 まあ、何があるかわかりませんし、打てる手は打っておくに越したことは、あ。
「おおぉぅッ!?」
 その一撃は、せつない。
 なかなか研ぎ澄まされた一撃です、そのすりこぎがナイフや包丁だったら即死でした。
 おのれまだ幻想郷縁起完成してないんじゃボケ。使命果たさずに転生できるか。
「やってくれるわ……」
「……稗田阿求、だな」
「いいから、それ下ろしなさい」
 そんなもん振り回してたら怪我しますよ。
 主に貴方が。
「あーあ、そんなに髪振り乱して……結構可愛い顔してますのに、貴方」
「うるさい! あんたにそんなこと言われぶぎゅッ!」
 頭突き。
 上白沢式の。
「……、いま喋ってる途中だったよ! ずるい!」
 知るか。
 この稗田阿求の貴重な自由時間を潰した罪は重い。
 万死に値すると思え。
「あぅ、いたっ、いたい! やめ、あたま叩かないでよ! あたっ、なんてあたまばっか、えうぅ!」
「ふははは、私に逆らうからこういうことになるのですよ! 柔肌に一生残る傷痕が刻まれなかっただけ有り難いと思うのですね!」
「んぎゃ、もうやめてよぉー! うぅ、わた、私が悪かったからぁ!」
「謝って許されるとでも、思っているのですか、ふふ、笑わせてくれます、ね!」
「みゃぁん!?」
 うは、テンション上がってき

 

ガッ ゴッ

 

 すみません調子に乗りました。
 反省してますから路上に正座させるのはやめて頂けませんか、上白沢先生。
 痛いですし。
「だめだ」
 そういえば私被害者のような気もするんですが。気のせいですか。
 泣いてるのは主に隣の子ですけど。
「過剰防衛という言葉があってだな……」
 難しい話はいいので、話を先に進めてください。
「……そうだな」
 確かに、建設的な話をするのは難しいと思いますが。
 私のようなぽかぽか殴って排除することが慧音さんに出来ない以上、言葉を尽くして事を解決するしか道はないのです。まあわりといたちごっこになりそうな予感もありますが、その時はその時で私の吹き矢が火を噴くぜ。
 最近噴いてないですけどね。キャラ作りとかあるので。
「……そんなに、辛かったのか。阿求に当たるくらいに」
「ひぐっ、えぅ……」
 えづきながら、涙を隠そうともせずにこくりと頷きます。先生は溜息を吐き、それでも軽蔑したり大喝したりはしません。流石にそこまで鈍感ではないようです。
 こういう手合いは一発頬でも張った方が目が覚めるとは思うんですけどね。
 次になんかあったら引っぱたきますが。
 容赦とかはしない。
「いいか。私と阿求は、そういう仲じゃないんだ。むしろ、誰に対してもそういう仲じゃないというか……誰も懇意にしている人はいないというか……」
 説教しながらへこんできたらしく、肩を落とす慧音さん。
 がんばって!
「……誰かを傷付ければ満足なら、私を傷付ければいい。傷付けたのは私だからな。それくらいは受け止めてやる。だが、その矛先が他の誰かに向けられるようなら、私は」
 拳を握り締めて、救いを求めるように見上げる女の子に警告を与える。
 一瞬、びくりと身を震わせて、また涙を溢れさせる女の子。よく見れば、私と同じくらい小柄で、華奢な女の子です。そんな子がすりこぎを振り回して暴れ出すのですから、恋の生み出す力というのはまことに恐ろしいものです。
 ぶっちゃけあんまり関わりたくないです。
「……私は」
「ごめんなさい……ごめんなさい、先生……」
「謝るのは、私じゃないだろう」
「ふぎゅ……ご、ごめんなさい……稗田、さん」
「今度やったらただじゃおきませんからね」
「阿求」
 すみません調子乗りました。
「まあ、別に抱き着いたり接吻したりするくらいは大目に見てくれるんじゃないですかね。慧音さんだから振り解けないでしょうし」
「えっ」
「だめだぞ、そういうのは」
「うぅ」
 めっ、と人差し指を突き付けて否定するものの、そういう状態に陥ったとして、毅然として態度を保っていられるかは怪しいところですが。
 今度抱き着いてみよう。

 

 結局、一時間ほど正座を継続したままの説教が終わったところで、私たちは無罪放免となりました。何故私が最後まで付き合わされたのかはわかりません。
 花屋の子は私が無事と知るや結構な勢いで抱き着いてきましたが、この子かなりいい匂いがします。花屋の娘、侮りがたし。将来この子と付き合う男は苦労しそうですね。
 あと、追記することがあるとすれば、寺子屋ですりこぎ娘に会ったとき、いやに熱っぽい目で見られてたことくらいです。
 なんだ、マゾなのか、あの子。
 まあ、慧音さんも頭突きしてくるからね。そういうことか。そういうことなのか。
 世も末ですなあ。

 

 


 

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2010年12月23日  藤村流
東方project二次創作小説

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