稗田の手記

 

 

●月■日 晴れ 一時 敵 ときどき 毒

 

 

 こんばんは、稗田阿求です。
 え、何ですか? 「変な名前」ですか。
 あはは、なかなか面白いこと言いますね。
 しんでしまえ。

 

 

 さて。
 いい天気が続きます。
 これも、里のみなさんが清く正しく生活を送っている賜物だと思います。
 たまにおなかを空かした妖怪やら賽銭箱を担いだ出所不明の巫女やらが出没する以外は、特に気を払うべき出来事もない日常です。
 え、何ですか? 「そのわりにお前もちゃんとメシ食ってんのか心配になるくらいちっちゃいな」ですか。ははは、幻想郷の方々はユーモアのセンスに溢れていて虫唾が走りますね。
 そんなあなたは、たまたま私が所持していた鈴蘭の毒で狂死すればいいと思います。
 ほら遠慮せずに。

 

 

 そうそう。
 このあいだ、うちの家に上白沢慧音さんというたいそう博学であらせられるお方がいらっしゃいまして。
 それと言うのも、この方は人間とハクタクのハーフでいらっしゃいまして、何でも幻想郷の歴史を全て把握しているのだそうですよ。というか確かめようがないんですけど。
 元気か、と馴れ馴れしく頭を撫でられたので、ちょうど手元にあった毒針で眉間を刺そうとしましたが届きませんでした。
 とんだ失態です。
 次は槍ですね槍。銛でもいいですけど。
 相変わらずだなあ、とからから笑う仕草がまた舐められてる感抜群です。
 あたまぽんぽん叩くな。縮む縮む。

 

 

 それはそうと本題です。
 何でも、里外れの畑から大根が盗まれたそうで、明らかにどこぞの巫女の仕業なのですが、とにかく目撃情報を集めているらしいのです。
 見ていないか、と聞かれたので、そういえばあれは確かに博麗の巫女でしたね、と顎に手を当ててそれっぽく言ってみました。
 慧音さんは、阿求の目が確かならそうかもしれない、と信じ切っていました。
 まあ嘘なんですけど。
 一度見たものを忘れない能力を持っている私が証言すると、それだけ真実味が増すみたいです。
 というかあの巫女、賽銭断ったら裏の畑からじゃがいもあるだけかっぱらって行きましたからね。
 からだじゅうの毛穴から明らかに人間じゃない色の血を垂れ流して悶死すればいいと思います。

 

 

 そうして、慧音さんはお礼を言って去って行きました。
 去り際の背中に吹き矢を打っときました。
 届きませんでした。
 むしろ、矢が風に流されて己の眉間に刺さるという失態を犯してしまいました。
 天狗殺す。
 しかもさりげなく毒矢仕様だったので、三日三晩三途の川と無縁塚の間をさまよい続けました。
 あと、私をガキ扱いした死神は、むねの重さで肩を脱臼して自分で嵌め直す作業を百回繰り返せばいいと思、ぐぇっ、ごばっ。

 

 

 

 すばらしい朝です。
 しかし記憶が曖昧です。
 とりあえずスズメがやかましいので石投げておきます。
 すると、遠近法の影響か、小さかったスズメが人間並にでっかくなって迫ってきましたが、石投げたの誰!? と尋ねてきたので、博麗の巫女です、と断言したら素直にそっちの方へ飛び去っていきました。
 いい天気です。
 もうそろそろ毒売りの人形が来るので、適当に騙くらかす準備でもしておきましょう。
 世は全てこともなし、スズメの悲鳴も食物連鎖の一環を担う鎖であります。
 お粗末。

 

 


 

 

●月▲日 晴れ のち 日照り ときどき 不死

 

 

 どうも、九代目の阿礼乙女はってる稗田阿求と申します。以後よしなに。
 特に意味はありません。
 最近暇ですね。幻想郷縁起にしたためる必要がありそうな大量死事件も起きませんで、お天道様も実に呑気です。
 むしろ暑いです。
 やたら暑いと思ったら、家の上空を火の鳥の形した人間っぽい生物が飛んでいました。
 とりあえず石投げときます。
 あと、この苛烈な熱波が人災によるものだと照明するために、彼女の顔と服装と体型をばっちり記憶しておきました。お好みで声も複声できますが、これはどちらかというと隠し芸です。
 くだんの焼き鳥は、巣か卵があるのか竹林の方角に飛び去っていきました。
 スカート履いてれば激写して模写して脅迫もできたのですけど、もんぺだったので如何ともしがたいです。
 程なくして、上白沢の慧音さんが翔けて来ました。
 でっかい火の鳥を背負った人間を見なかったか、と尋ねられたので、食べました、と言ったら無視されました。
 阿礼乙女の心は酷く傷付きました。
 思わず、彼女の脛を蹴ってしまいます。
 馬鹿みたいに硬かったです。
 それはそうと、慧音さんがいつになく挙動不審なので、今度ばかりは焼き鳥の行方を親切に答えてあげることにしました。ありがとう、とあたまをぽんぽん叩かれたので、膝の裏を蹴ると私が六尺ほど後方に吹っ飛びました。
 意味が分かりません。
 とりあえず、安全な位置から吹き矢打っときますね。
 届きませんが。
 そしてそれを拾いに行く己がまた惨めです。
 いつか、何かの拍子に慧音さんの乳がもげればいいと思います。

 

 

 なんやかんやで、いい天気ではあるのです。
 洗濯物を干していると、竹林のある方角から爆発音が轟きました。
 鳥や獣が一斉に逃げ惑う姿が見えます。あと人間ぽい兎もいたので、足払いを掛けて事情を聞くことにしました。
 初めは嫌がっていましたが、ちょうどいい大きさの鍋を披露すると、ものすごい量のだし汁じゃなくて汗を掻きながらこくこくと頷いていました。
 話が分かるひと、先生は好きですよ。
 にっこり笑ったらさめざめ泣かれそうになりました。
 いやあんた妖怪だろ。
 しゃきっとせい。
 と、それはともかく。
 その兎によれば、何でも竹林にて大規模かつ局地的な一対一の戦争が行われている、とのことなのです。
 そういや昔、そんな感じのことを先代が言っていたような気がしないでもないです。
 私自身はまだ一回もそれを目にしたことはないのですが。
 ちょうどいい機会なので、そこに連れて行ってくださいと脅しました。
 脅迫です。
 案の定、彼女はいやいやと首を振りましたが、スカートの中身は転んだ時に完全に記憶していましたから、その構造を模写した後で幻想郷中にばら撒く、と言ったらわりと簡単に要求を受け入れて下さいました。
 実際にばら撒くのはどこぞの天狗なので、嘘か真かの判断は読者の裁量に委ねられる訳ですが。
 まあどっちでもいいです。
 行きましょうか。
 幻想郷縁起にも、久々に刺激的な一頁を刻むことが出来るはずです。
 死ななければ。

 

 

 着きました。
 馬鹿みたいに暑いです。
 兎も先程より大量のだし汁を出しています。ちょっと美味しそうです。
 食べませんが。
 そんな彼女に竹林の案内を頼むと、そればっかりは勘弁してください、と涙目で拒まれました。
 とりあえず、あなたも妖怪なんですからもうちょっと威厳のある態度を取ってくれないと困ります。人間になめられてどうするのですが、いやまあ便利だからいいですけど、などとガラにもなく説教をしてしまいました。
 疲れます。
 ですので、労働に値する金銭を要求しました。
 兎、半泣きです。
 何だか私が悪者みたいです。
 とにかく、先程記憶した画を手元の紙面に描き起こし、彼女に見せることで事態の解決を試みました。
 涙は止まりましたが、今度はまじまじと絵を見詰めています。
 え、何ですか。「絵、そんなにうまくないですね」ですか。
 ハハハ。
 手が滑りました。
 毒針が彼女の眉間に刺さってしまいましたが、それも許容範囲内です。
 案内役は瀕死でどうにもならないので、もう勝手に先に進みます。
 最初からこうすればよかったのです。果てしなく時間の無駄でした。
 後ろの方で兎を回収する紅白の姿が見えましたが、世は全てこともなし、なのです。

 

 

 暑いです。
 地球の中心かと思いました。
 あと、私を脱がせたいのかとも思いました。
 ……。
 ごめんなさい。
 でもそんなに貧相じゃないと思うんですけどね。
 あと、慧音さんはそろそろ乳がもげるべきだと思う。
 それはともかく。
 爆音が大きくなって参りました。絶叫も聞こえます。
 近所迷惑もいいところです。わりと遠場ですが。
 とりあえず傍観しますね。
 ……。
 うわ。
 あー。
 ぅぇ。
 ぐちょぐちょですね。
 情け容赦なく。
 べちゃべちゃ、ずちゃずちゃ、ぶじゅぶじゅ、げどげど、ごぶごぶ、何でもいいです。よりどりみどり。
 しかも、一度見たものを忘れない能力のせいで、わりとしっかり覚えちゃってるんですけど私。
 四肢や五臓六腑を吹っ飛ばされた端から自動的に復元されてますからね。
 えぐい。
 あーもうきもちわるいことこのうえないです。
 一人でも不死身ですね。二人でも大量死ー、とかそんな感じでしょうか。
 三が飛んじゃったけどまあいいでしょう。
 記憶ですよ記憶。
 でもこれしばらくおにくたべられませんよね。
 いや食べますけど。

 

 

 しばらくすると、慧音さんが二人の頭上から降ってきました。
 私より早く出たはずなのにどこで何してたんだって感じですが。
 あ、やべ。
 問答無用でスペル爆裂されるみたいなので逃げますね。
 お二人は人体修復中なので逃げ切れそうにありませんが、例によって不死身でしょうから特に問題ないでしょう。
 義理もないし。
 熱波だし。
 では、さようなら。
 そうして駆け出した数秒後に、威勢のいい怒声が鳴り響きました。
 ちょ、はや。

 ――国符「三種の神器 剣・玉・鏡・郷」

 混ざってます混ざってます。
 三種とか言ってるのにひとつ多いですし。
 破壊力だけは折り紙付きですね!
 嬉しくないです。
 案の定、巻き添えとか喰らいましたよ。
 いろいろもげてしまえ。

 

 

 

 目覚めると、見慣れていない天井がありました。
 外を見ると、もう完全に夜です。
 洗濯物干しっぱなしです。
 おなかもすきました。
 そういえば、いつの間にか服も着替えさせられています。
 この服、どこかで見たことがありますね。
 そう、そうです。
 三和土の方から現れたのは、天敵の上白沢慧音さんです。おかゆを持っています。食べるか、と聞かれる前に頷いているあたり、業が深いのは人間の性でありましょうか。
 そこで紅白の巫女を思い出したりしましたが、全ては梅粥の前に消え去りました。
 ところで慧音さん、はだか見ましたか。私の。
 うん、そうだな、てどういう意味ですか。
 いやにこやかに微笑まれても困るんですけど。
 あんなに小さかった子がなあ、とか言われても、こちとらどうしようもありません。
 とりあえず吹き矢吹こうと思ったんですけど、手持ちの矢がありませんね。毒針も使ってしまいましたし。
 仕方ないので、鎖骨を全力で殴っておきました。
 微動だにしません。
 微妙に病み上がりですしね、こっちも。
 いや、だからそこで「大きくなったもんだな」と言われても困るんですが。
 今日はそんな雰囲気なんでしょうか。
 慧音さんも、人間とハクタクのハーフということで、いろいろと思うところがあるのでしょう。
 くだんの火の鳥を背負った人間や、彼女と戦っていた女性にしても不老不死の身であったようですし。私のようにただ何事もなく成長できる人間を見て、何かしらの感傷に耽ってしまうこともあるのでしょう。
 そう思うと、この梅粥もいつもより美味しく感じられます。
 私はその鍋と、慧音さんの嬉しそうな寂しそうな顔を瞬時に記憶、手持ちの紙面にさらさらっと描き出しました。
 しばらくぽかんとしていた慧音さんも、私がやっていることに気付いて何となく顔を綻ばせていました。
 とりあえず、私はあなたを覚えているということで。
 加えて、稗田のコレクションにあなたも入っているということです。上白沢慧音さんは稗田一族の天敵ですからね。一応。
 まあ、絵を見てすぐに噴き出しそうにはなりましたが。
 あはは。
 吹き矢、吹き矢どこ。

 

 


 

 

●月●日 雨 のち 人

 

 

 時に、稗田阿求です。
 本名「ひえだのあきゅう」なんですけど、たまに「ひえだの」の「の」を付け忘れる方がいらっしゃいます。ですが、特に問題はございません。
 ただ、忘れた頃にご自宅の囲炉裏が爆散する程度です。
 私、一度見たことは決して忘れないのですよ。
 肝に銘じておくことです。
 ふふふ。
 とまあ、意味の分からない導入なのですが。
 今日は雨です。
 たまに降りますよね、雨。
 こないだは紅魔の湖に居を構えている悪魔だか蝙蝠だかが、あのへん一帯に霧を撒き散らしたみたいでして。
 迷惑ですね。
 溺れたらいいんですけどね。
 溺れないですね。
 溺れたら絶対に記憶して記録するんですけどね。おもしろいから。
 あのブン屋とどっちが早いでしょうか。
 別に遅くてもいいんですけど。私は趣味でやってるので。
 縄張り意識というやつですね。
 違うような気もしてきました。
 まあ何でもいいです。

 

 

 そぼ降る雨の中、さしてすべきこともないので絵の鍛錬をします。
 何故だか知りませんが、私の絵を見た人たちは必ず微妙な顔をするのです。
 一度三途の川を渡った方がいいですね。
 すっきりしますよ、と経験者は語ります。
 ふと思い付いたので、あの忌々しい肉付きの死神を描くことにします。
 悪意たっぷりに。
 しゅっしゅっしゅっしゅっ、しゅらしゅしゅしゅー、っと。
 独り言を呟いている己を顧みるのはしんどいものです。
 しかも曖昧に頬が緩んでましたしね。不気味。
 絵を描いていると、何だか昔のことを思い出すのですよ。お前は天才だー、とお祖父さんによく褒められたりもしましたから。
 と、ここで急に振り向く。
 いました。
 賽銭巫女です。
 賽銭箱と同じイントネーションで違和感なく言える辺り、相当業が深いですね。
 小窓から覗く瞳がぎらぎら光っています。
 物欲しそうにこっち見てるので、とりあえず吹き矢で撃退しておきますね。
 あ、打ち返し! 打ち返し弾です! 素人にも全く容赦がありません!
 畳にも針が次々と突き刺さります。
 しばし、軒下と居間の境目で鋭い火花を散らします。
 やがて、巫女のものらしいお腹の虫が大きく鳴き、事態は収束に向かいました。
 何か食べますか。
 お願いします。
 だ、そうです。

 

 

 食いすぎ食いすぎ。

 

 

 今、彼女は囲炉裏の前でダウンしています。
 仮にも神に仕えているようなそうでもないような名目上の巫女なのに、全くだらしがないったらありません。
 遠慮も謙遜もせずに、芋粥の全てを平らげてしまいましたし。
 ちなみに、賽銭箱は部屋の隅に寄せられています。こんな雨の中でも賽銭を求めに訪れるあたり、強欲と言いましょうか仕事熱心と言うべきでしょうか。
 しかしこうしてお腹を押さえて寝転がっている今なら、この様相をつぶさに描くことが出来そうです。
 いい反省材料にもなりますからね。
 詭弁ですが。
 じゃ、描きますねー。
 うー、やめろー、と当社比一.五倍の低音が聞こえてきますが、ひとまず無視して描き続けます。
 人間は食いだめ出来ない生き物だって知ってるんでしょうか。
 愚かですね。
 人の業を垣間見ました。
 この絵が完成した暁には、里の総合掲示板のど真ん中に貼り付けようかと思います。
 それが嫌だったら、博麗神社に伝わる秘法や秘宝をお見せなさい、と脅すつもりです。
 恫喝です。
 話によれば、博麗霊夢は如何なる脅迫、威嚇、圧力にも屈しない――というより、それら全てを平坦化する力を持っているそうです。
 というかさっき負けましたけど。飢餓に。
 身から出た錆と言っちゃあおしまいなのですが。
 げぷ、と馳走に与った身分とは思えないほどの弛み具合にこめかみが引きつるのを感じながら、稗田阿求渾身の一作が今ここに完成致しました。
 題して、『或る巫女の死』。
 名作です。
 これは次の世にも残る傑作となるかもしれま、あ、ちょっと変なとこから覗かないでください。あと頭に手を乗っけてぐりぐり撫でないでください。重いです重いです頭があたまあたま。
 肘鉄。
 悶絶。
 自業自得です。
 うつ伏せに倒れこんだ巫女さんに、私は描き上げた絵を見せ付けます。
 ほら、この精密に描写された凄惨な光景を掲示されたくなかったら、博麗神社に代々伝わっているかもしれない秘伝の書やら秘術やらをですね。
 え、何ですか。
 あなたも変な絵とか言うんですか。
 違うんですか。
 というか吐くのやめてくださいね。
 もし吐いたら氾濫した川に流しますから。
 漬物石で。
 何やら物言いたげな巫女さんですが、肘鉄の影響からか下手に喋ると一体の土座衛門が出来上がってしまうので、うつ伏せのまま絵の隅っこに何やら伝言を残すようです。
 なになに。
 「あんたの絵は、時代の百年後を逝っている」ですか。
 ……。
 え、それって褒めてるんですか?
 こくこく頷いてます。
 信用しませんけど。
 げぷ、というかげっぷ吐きすぎですあなた。やりたい放題ですか。仮にも神に仕えているような、えーと何でもいいですけど、え、何ですかもうしつこいですね。
 「一宿一飯のお礼に、妖怪受けする絵の描き方を伝授してあげる」ですか。
 いいですよ別に。
 妖怪に受けても仕方ないですもん。
 しかもごく自然に泊まるつもりでいますよね、あなた。
 ああもういいですよ、分かりましたからこの世の終わりみたいな顔しないでください。
 しかし、よくそんなので生きていけますね。
 「全てはあるがままに」ですか。
 胡散臭いですねえ。

 

 

 霊夢さんの教えを適当に聞き流しながら、思うように感じるままに筆を滑らせていきます。
 あー、そうくるかー、とか言われてもどうしたらいいのでしょう。
 まあ別にいいけどねー、とか仮にも先生の言うべき台詞ではありません。
 こっちも好き勝手やらせてもらいます。
 しゅっしゅっしゅー、と。
 描くときには独り言くらい出ます。にやにやしないでください。
 警告抜きで殴りますよ。
 とか言ってる側からにやにやしないでください。
 喧嘩売ってるんですか。
 というか、さっきから髪の毛に触るなとかあたまぽんぽん叩くなとかさんざん言ってるでしょう。
 なんで、と言われても嫌なものは嫌なんですよ。
 霊夢さんにも、されると嫌なことのひとつやふたつあるでしょう。
 ――そうね、私が悪かったわ。
 不気味です。
 素直に謝られるととても据わりが悪いです。
 無理に謝らなくてもいいですよ。
 特に、霊夢さんが謝るとしばらく雨が続きそうですので。
 そのうち霰や雹が降ってくるかもしれませんね。
 にやにやするな、てそれはこちらの台詞です。
 ふふふ。
 あはは。
 はははは。
 あはははははは。
 何ですかこれ。
 分かんない。

 

 

 その後、一宿一飯と言っておきながら夕食の卵粥まで綺麗に召し上がりまして、まあ出す方も出す方なのですが、誰かと共に食事をするのがふと懐かしく思えてしまったのです。
 若気の至り、鬼の目にも涙というやつですね。
 鬼ですか私。
 そんな訳で、霊夢さんは私の布団を占拠して眠りに就いています。
 私は何故かお客様用の布団です。
 でも、そっちの方が多少豪華であることは秘密です。
 それでは、お休みなさい。
 と、その前に。
 この様子だと、霊夢さん絶対朝食も食べていくでしょうね。
 あの絶望に滲んだ瞳を思いながら、うんざりと布団をかぶります。
 隣から、慎ましいとは言いがたい寝息が聞こえてきます。
 仕方がないので、鼻の穴に落花生詰めておきますね。
 ふがふがしてます。
 それでは、改めて。
 お休みなさい。
 また、良い明日を。

 

 

 



OS
SS
Index

2006年6月19日 藤村流

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