初めて円花を叩いて叱ったあの日からもうすぐ一年。
いま俺たちは二人で今年初めての桜を見ている。
***
「いたぁ・・」
あの日、円花のお尻を真っ赤にさせてから、俺はようやく手を止めた。
彼女は膝の上でそのままぐずぐずと泣いた。
そっとお尻を撫でるととても熱かった。
自分のしたことだ。
円花の気持ちもわかっている・・・つもりだ。
けど。
俺は円花の反応を、固唾を呑んで待った。
「ごめんなさい」
しばらくそうしていたら、円花がちいさく呟いた。
俺は思わず、彼女を抱き締める。
「や、いたぃ」
抱き起こしたらお尻が床に当たって、彼女は顔をしかめつつもぎゅっと俺を抱き返してきた。
心底ほっとして、でも、その気持ちは円花に隠す。
素直だね、と囁いてから、
「誰に謝ってんの?」とそっと聞いた。
「・・・。意地悪」
そんなお返事が戻ってくる。「それで?」
答えずに済ませてあげる気はないよ。
「ゆうちゃんに、だよ。・・・。」
ちょっとふくれて答えがある。
俺を恨んでないのはありがたいけど。それじゃ足りないだろ?
「ん、それから?」
「・・・・・。」
円花の目を覗き込むと、恥ずかしそうな目が応えた。
「・・・わかってる、ちゃんと謝る。・・・朝から、けんかしてたの。
ゆうちゃんにも心配させたよね」
言いたいことはいっぱいあるんだけど・・・とつぶやく円花を髪を撫でてなだめる。
「愚痴なら聞くよ。あとで、いくらでも」
「うん」
携帯を手に取った円花を置いて部屋を出ようとしたら、服を掴まれた。
「まど?」
彼女は何も言わずに、空いた片手で電話を掛ける。
「もしもし、お母さん?・・・うん、・・・うん、ごめん、ひどい言い方した。・・・」
声を抑えて話は続き、俺もなるべく耳を閉じてる。
それでも、ときどき服を握る手に力が入るのがわかる。
無事に電話を切り上げて、携帯をぱちんと閉じたとき、円花はふうっと息をついて、俺を見て笑った。
「ありがとう、ゆうちゃん」
満開の、薄紅色の花のような、やさしい、ほっとする笑顔。
こんなの、ほかの奴には絶対見せたくない。
俺は思わず円花を抱き締めて、「きゃ、ゆうちゃん、痛いったら」
彼女にまた小さな悲鳴を上げさせてしまったのだった。
***
俺たちの目の前で、桜が揺れてる。
これまで何度か俺は円花を泣かせた。それでも今、二人でいる。
感謝してるのは俺なんだ。円花、ほんとにありがとう。
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