「雨かぁ」
「やだねぇ」
数日続くお天気に、みんなちょっとうんざりって呟きが零れたとき、
そうですか?と彼女は笑った。
「なんだか、よくありません?冷たいし、にぎやかで」
傘の外に手を伸ばし、水を受ける。
それがほんとうに、嬉しそうな顔だ。
傘を倒して空を見上げて、また傘をさして、雨音を聞いているのか濡れるのが楽しいのか、
ついには傘を閉じてしまった。
「濡れるよ、円花さん」
雨脚はけして弱くはない。
続く雨に不平を零す声にも賛同はできないが、彼女の肩ではすでに上着が色を変えている。
傘を差し掛けると、首を傾げて僕を見上げた。
「先輩」
水も滴る佳い女って、こういうときに使う表現じゃ、ないよな?
見上げる瞳は無邪気に澄み切っていて。
「傘差したら?」
「え、はい。・・・でももうちょっとだけ」
子供のような顔をする。
うん、まあ、言ってることもやってることもほんと子供だよね。
「そんなこと言っても。もう、だいぶ濡れてるよ?」
「濡れるのも、楽しくないですか?」
そのとき稲光が走って、鮮やかな紫の光の中で彼女は笑った。
ほんとうに楽しげで。
ああ、だから。
「風邪ひくよ。身体を大事にしなさいって、言ってるんだけど?」
「え、あの・・・はい」
たぶんいままで後輩たちに使ったことのない口調が思わず零れた。
ちょっと驚いたらしくて素直に頷いた彼女は可愛いと、自覚する。
だから放っておけないんだよなと思った自分も。
雷雨が唄う、多くの人がちょっとうんざりするのも仕方のないありふれた一日。
けど俺にとっては特別な、恋心の誕生日になったらしい。
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