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こんな天気の日にはさ

01 雷雨が唄う誕生日

「雨かぁ」
「やだねぇ」
数日続くお天気に、みんなちょっとうんざりって呟きが零れたとき、
そうですか?と彼女は笑った。

「なんだか、よくありません?冷たいし、にぎやかで」
傘の外に手を伸ばし、水を受ける。
それがほんとうに、嬉しそうな顔だ。
傘を倒して空を見上げて、また傘をさして、雨音を聞いているのか濡れるのが楽しいのか、
ついには傘を閉じてしまった。

「濡れるよ、円花さん」

雨脚はけして弱くはない。
続く雨に不平を零す声にも賛同はできないが、彼女の肩ではすでに上着が色を変えている。

傘を差し掛けると、首を傾げて僕を見上げた。
「先輩」
水も滴る佳い女って、こういうときに使う表現じゃ、ないよな?
見上げる瞳は無邪気に澄み切っていて。

「傘差したら?」
「え、はい。・・・でももうちょっとだけ」
子供のような顔をする。
うん、まあ、言ってることもやってることもほんと子供だよね。
「そんなこと言っても。もう、だいぶ濡れてるよ?」

「濡れるのも、楽しくないですか?」
そのとき稲光が走って、鮮やかな紫の光の中で彼女は笑った。

ほんとうに楽しげで。
ああ、だから。

「風邪ひくよ。身体を大事にしなさいって、言ってるんだけど?」
「え、あの・・・はい」
たぶんいままで後輩たちに使ったことのない口調が思わず零れた。
ちょっと驚いたらしくて素直に頷いた彼女は可愛いと、自覚する。
だから放っておけないんだよなと思った自分も。

雷雨が唄う、多くの人がちょっとうんざりするのも仕方のないありふれた一日。
けど俺にとっては特別な、恋心の誕生日になったらしい。
素材:Little Eden さま
お題:午前零時の鐘 さま

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