77777hitお礼最後の高天くん♪
こちらはスパです(^^ゞ
道標

「もしもし?」
母さんが出るといい、そう願ってかけた電話だったのに、電話口に出たのは父さんだった。
「あ、父さん・・・」
直接声を聞くと、ここ数日の気まずい雰囲気がやっぱり思い起こされる。

まあでも、ケンカをしてたりするわけじゃない。
しかもこっちに言わなきゃいけないことがあるわけで、ここでひるんでいる場合じゃない。

「高天か?どうしたんだ、こんな時間に電話なんかかけてきて」
ただいま、午後6時。こんな時間に父さんが帰ってるなんてめずらしいのに。
でもそれも、気まずさの原因だったりするここ数日の話し合いのせいかもしれなかった。

「え、えっと。あの、ごめん!」
「・・・?」
「いま、兄貴の家にいるから。帰るの、遅くなる」

一瞬、父さんは俺の言った意味がわからなかったらしい。
次の声は、慌てているような怒っていいような、どちらともつかない声だった。
「なんだって?ひとりで?いきなり?・・・高天、お前今日学校は?」
「だから、ごめんって!ちゃんと今日帰るから、遅くなるけど心配しないで」

「心配しないでって、高天。いますぐ帰って来なさい、話はそれからだ」
「えーと。帰る時間は調べて連絡するから。ごめん!」
「おい、高天、」

ぷつっ、と。電話切っちゃった。
兄貴が横で苦笑している。

「父さんだったんだ?お疲れさま。電話貸して、僕も話しとくから」
「う、お願いします・・・。すぐ帰って来いって言われて、思わず」
「まあ、無理ないとは思うけど。帰ったら謝っときなね」
「・・・そう、するけど。でも帰って謝ることって、いっぱいありすぎ」

はああ。
全部自業自得っていうかわかってやったことだから、いまさら嘆いてもしかたないんだけど、
それでもうんざりではある。
高校サボって、電車で4時間の兄貴の下宿に押し掛けた。
いますぐ帰っても10時だから、門限ももちろん破る。
まあそんなこと十分わかってて、それでもどーしても兄貴に会いたかったんで、別に後悔はしてないけど。

わかってても謝らなきゃいけないこととか叱られなきゃいけないこととか、
やっぱそーゆーの嫌だよね。

「父さん?うん、僕。高天はちゃんとここにいるから。夕飯食べてから帰すよ。
電車代?大丈夫だよ。僕にだって余裕はあるし。新幹線で帰らせるからさ、9時半くらいかな。
そんなに心配しなくても、大丈夫だって。塾から帰るより、早いくらいだろ。

ん?何しに来たのかは、聞きたいなら高天に聞いて。僕は迷惑じゃないよ、久しぶりに会えてよかった。
うん、元気だよ。ありがと。うん、また」

兄貴は穏やかに話をまとめてくれて、ちょっとほっとして。
俺だって、無駄に父さんを心配させたいわけじゃないんだよ?
何しにここに来たかを、父さんに話せるかどうかは、わからないけどさ。

そうして俺たちは、ちょっと家のことは棚上げにしてふたりで夕飯を食べて、何気ない話をいっぱいして、
そして兄貴は俺に帰りの電車賃をくれた。
姉ちゃんから旅費は援助してもらってることを言うと、「じゃあ片道づつだね」って。
雪菜によろしく、って兄貴はほわっと笑っていた。

で。
いま俺は電車に揺られている。在来線で4時間かかっても、新幹線だと2時間もしない。
あー、帰りたくない。
もちろん、そんなことできっこないってわかってるけどさ。

俺は高校生で、親の世話になってて、もちろん家に帰らなきゃいけなくて。
それにそもそも、帰りたくないのはどっちかっていうと叱られるからっていうより気まずいからで。
そこで逃げ出すのはだめだろ、って矜持は俺にもある。

うん。
兄貴みたいに、わかってもらえなくても自分の進路だって、割り切って思えるならそれもいいだろうけど。
わかってもらいたいのにわかってもらえなくって、拗ねて何も話さないってのは。
・・・・・。そういうふうに気が付くとへこむ。
それも逃げてるってことじゃ一緒だもんな。

大丈夫、ちゃんと帰るし。
ちゃんと、話す。・・・努力する。

そう思える自分は、そう思えない自分よりいい。
だから、兄貴に会えてよかった。
そのせいで叱られても、それでも。

降りるべき駅がコールされて、迎えにいこうか、って姉ちゃんからメールが入った。
「大丈夫、ありがと」って返信して在来線に乗り換える。それから駅に置いた自転車を回収。
午後9時45分、俺は無事に自宅の前まで戻った。

深呼吸して、「ただいまっ!」
いつもより3割増しに大きな声でドアを開けたら、みんな出てきた。

「心配かけて、ごめん。ただいま」
「おかえり、高天」
みんなの声はきれいに揃った。俺はそれにちゃんとほっとする、大丈夫。

ちょっと父さんと視線を交わして書斎に行こうとするのに、姉ちゃんが声をかけた。
「高天、先にお兄ちゃんに、電話したら?」

あ、うん。
電話するとワンコールで出てくれて、みんなに心配かけたなぁって思うのは隠しておいて。

「あ、兄貴?無事に帰った。うん、いま家。今日はありがと」
沈黙にも色がある。
兄貴は電話口の向こうできっと穏やかに笑っているんだろう。
返事はゆっくりと返ってきた。

「お疲れさま。それからがんばって。
いい進路が選べるように、願ってるから」
「・・・うん、ありがとう」

電話を切ると俺の話しぶりを見ていたらしい父さんと目が合う。
ちょっと嫌だったけど、でも、ぐっと我慢して見つめ返す。
俺たちは書斎に入って、ドアを閉めた。


「高天、どうして突然祐樹のところに行ったんだい」
父さんが、そう聞くのは当然だよね。どう答えようか、迷うけど。
「兄貴に、会いたかったから。どうしても」
嘘で誤魔化すのは嫌だ。だけど、全部を話すのも。

「会えてよかったと思うし、いろいろ考えた。父さん、ここ数日ごめん。
俺はやっぱり、文系を選ぼうって思うんだけど。ちゃんと話す態度じゃなかったのは謝る」

そこまで。
俺にとって大事だったのは、俺と兄貴とを比べないこと。
だけど、それは俺が納得できればいいことで、誰に話すようなことでもない。兄貴にも。
俺がそれを考えるには、兄貴と会って話すことが必要だったけど。
父さんに言わなくてもいい。姉ちゃんは、気づいてるかもしれないけどでも言わない。
俺がそれを納得して、兄貴と関係ない俺の希望を、ちゃんと丁寧に話せばいい。

父さんは、じっと俺を見ていた。なんか、ふだん俺を叱るときとはちょっと違う視線。
そういえば、さっきも普通に聞かれた、よね。

「行ってよかったって、思うんだな?」
「うん!」

俺は即答する。

「わかった、確かにそうなんだろう」

父さんは噛みしめるように言った。
「声が、昨日と違うからな」
そう、かな。そうかも。それは兄貴のおかげ、だよ。
頷いた俺に、父さんは頷き返した。うん。
父さんは俺のことをわかりたいと思ってくれててるって、気が付く。昨日までだって、そうだったのかな。

「進路の話は、明日聞くよ」
それでいいかい、と尋ねられて、俺にももちろん異論はなかった。
今日はもう遅いし、いいかげん疲れた。それに。

「先に片付けないといけないこともあるしな」
だよ、ねぇ・・・。

それだけでわかる自分も嫌だけど、「ごめんなさいっ!」ってとりあえず叫んどく。
そう言ったからってどうなるものでもないんだけどさ。
兄貴に会いたかったことわかってくれて、ちょっとは期待したんだけど。

「叱られるの覚悟の上で行ったんだろう?祐樹に会いたいって話とは、別問題だよ。
おいで、ルール違反の罰はちゃんと受けなさい」

「そ、そうだけど・・・。どうしても、会いたかったんだもん」
「週末にすればよかっただろう。だいたい、学校にはなんて言ったんだい」
「あ、・・・体調悪いって」
「じゃあ、ずる休みの分と、嘘をついた分、それから門限を破った分だね。来なさい」

う〜。
まあここで、往生際わるく足掻いているのもそれはそれで格好悪いから、言いたいことをぐっと飲み込む。
立ち上がった父さんに一歩近づくと、椅子に手を付いて、って言われた。
言われるままに身体を曲げると、父さんに横から抱えられる。

「あれ、えっと?」
「黙って。お仕置きだよ」
ズボンを下ろされて、ぱしぃん!

・・・・・。昔と体勢は違っても、やっぱり痛いのは痛かった。
ぱしぃん!
確かに、いいかげん膝の上って歳でもないよな・・・。
「余計なこと考えない。ちゃんと反省しなさい」
ぱしぃん!
あれ、何でわかるんだろ。

ぱしぃん!
「学生は学校行って勉強するのが本分だってわかっているかい」
ぱぁぁん!
「わ、わかってる」
ぱしぃん!
「それはよかった。自分の義務はちゃんと果たしなさい」
ぱぁん!
うう、まあ。高校に行くのが俺の義務だってのはそれはそうで。

ぱしぃん!
「一人で誰にも連絡せずに祐樹のところまで行くなんて、何かあったらどうするんだ」
ぱしぃん!
「帰りだって遅くなるし、心配するだろう」
ぱぁん!
「だ、だから連絡したじゃん!・・・・心配かけたのは、ごめんなさい」
ぱぁぁん!

途中いくつかの失言を挟みつつ、一応はひたすら謝って。
電話ガチャ切りしたこととかも。

ぱしぃん!

この体勢だと、逃げずに立ってるのが辛い。
もう、そろそろちゃんと立ってるのが限界だと思ったころに、ようやく父さんは手を止めてくれた。

「無事に帰ってきてくれて、よかったよ。お帰り」
「ん・・・ごめん、ありがとう。ただいま」

痛かった、けど。
学校サボったこともだけれど、それより昨日までの自分をリセットしたみたいで。
ただいま、ってどこか違う何かから帰ってきたような気分。
うん、きっと。どこか迷ってたとこから、たぶんちゃんと帰ってきた。

もういいね、って笑ってた父さんの顔も、なんだか久しぶりに見たかのような。
ちゃんとまっさらなところから明日は話せる、そんな気がした。


2013.09.29 up
ええと、なんかスパなんだか何だか、いえスパなんですけどううむ。
ぐるぐるしてるとことスパのネタが別物だから、その噛み合わせが微妙ですね。
・・・ええ力量の問題です。いや兄弟コンプレックスにどこまで向き合ったかって問題かな・・?
スパにしなくていいものをスパにしたって話?いやいやでも、学校サボっちゃまずいよね。
ううむ。

やっぱり書き手の力量の問題のようでした。
明日の高天くんはきっと頑張ってくれると思います(^^ゞ。

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