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そのまま、メンフィスはひたすらキャロルを抱いた。
果てても果てても白い身体を離そうとせず、揺さぶり、突き上げ、かき回し、放つ。まるで自分の想いで白い肢体を埋め尽くそうとと言うように。
あまりの快感にキャロルが気を失うと、メンフィスは自らの欲望を放った後、遠慮なく刺激を与えて覚醒させる。
キャロルの体は理性をかなぐり捨てて、只ひたすら快楽を受けて泣き叫ぶ。
媚薬のせいか、本能のせいか。
夜も更け、明り取りの火が消える頃、キャロルはようやく放してもらえた。
「これでは薬を塗った意味がないな・・・それにしてもお前は本当に強情だ。感心するぞ。」
ぐったりと倒れ伏した娘は、口を利く気力も無いようだった。
「も・・・・・い・・・・・しょ・・・」
かすれた声で呻く唇に水を含ませ、零れた水を己の舌で舐め取ってやる。
十分飲ませてやると、キャロルは力なくメンフィスの胸に凭れ掛かった。
全身に花びらを散らし、汗を纏い、メンフィスが放った残滓と溢れた愛液で太腿を濡らしてぼんやりと身を預けている。
メンフィスの掌がゆっくり黄金の髪を撫でている。
「キャロル・・・愛している・・・・」
「・・・・・」
「契約などどうでも良い。お前を手に入れるために利用しただけだ。]
「嘘よ・・・信じないわ・・・・・なんでも手に入れることが出来る貴方が・・・・・そんなことをするなんて・・・」
「只一つ手に入らないのがお前の心だ・・・身体は私のものになった。だがお前は『愛している』と、未だに言ってはくれぬ・・・。」
「私が貴方を愛して・・・何の益があるの?・・・・・貴方を愛する人ならいくらでも居るわ・・・」
「私が愛しているのはお前だけだ。他の女など要らぬ。だから抱いた。どんな手を使っても失いたくなかった。」
「だけど私は・・・帰らなければいけない・・・」
「それは自分の意思か?それとも義務か?」
「・・・・・此処に私が居ても、例え貴方を愛しても・・・貴方には何の得にもならないわ・・・後ろ盾も財力も力も無い。何の役にも立たない・・・」
「それならいくらでも与えてやろう。」
「貰った物になんて・・・・・興味は無いわ・・・」
「だから放せなかった。媚を売る女とは違う・・・その心根が欲しかった。」
「・・・・・」
「・・・・・眠れ。疲れただろう。」
青い瞳が力なく閉じられ、やがて微かな寝息が腕の中から聞こえた。





明け方、キャロルは頬を撫でる感触に目を覚ました。メンフィスの黒い瞳が愛しそうに自分を見つめている。
「・・・・・なに・・・?起きるのなら支度を・・・服を下さい。」
重い体を引き摺って身を起こそうとする。
「いや、一度湯浴みに参ろう。その間に寝具を整えさせる。」
「じゃあ、貴方が戻って来るまでにやっておきます。」
「・・・・・聞こえなかったのか?私はお前を誘っているのだぞ?」
「・・・?・・・・・!!一人で行きます。」
「無理だろう、薬の効き目も切れたし、立てぬのではないか?」
そう言って自分は夜着を纏い、逃げようとしたキャロルをあっさり捕まえて肩衣で包む。
大切に腕に抱えて湯殿へ向かうと、既に準備が整っていた。
「・・・・・・・・・・?]
「どうした?」
「あ・・・いえ。」
「先ずはゆっくり浸かってそれから香油を塗るのだな。」
メンフィスはさっさと衣類を脱いでキャロルの肩衣に手を掛ける。
危うく逃れたキャロルが衣装箱から昼の服を出そうとすると止められた。
「夜着を出せ。お前の分もだ。」
「え・・・?だって此処には・・・」
入っていた。
「・・・・・・・・・・」
突っ立っていると後ろから肩を掴まれ、勢い良く引き剥がされて湯へ放り込まれる。
続け様にメンフィスが飛び込んできて盛大に水飛沫が上がった。
離れようとしたが水圧で自由が利かない。あっという間に腕の中に囚われて抱きしめられる。
「は・放して。」
「嫌だ。」
不埒なまねをされるのかと思ったが、メンフィスはキャロルを抱いたまま、じっと動かず湯に浸かっている。
キャロルも徐々に緊張を解いた。





戻るとやはり褥は綺麗に整えられ、朝食の準備が出来ていた。
それを見てキャロルは我慢できなくなった。
「ねえ、どうして誰もいないの?今日は何かあるの?」
「別に何もない。ただ今日は月の朔だ。物忌みに当たるので公の行事は行われない。
 特別に用事がない限り、人々は家で過ごし、夜間も殆ど出歩かぬ。」
「じゃあ、ナフテラも・・・」
「ナフテラは偶然だ。今日は昼過ぎに一つ所用があるだけだから、朝餉を済ませたらゆっくり眠るが良い。」
「所用って?」
「・・・・・その時になれば分かる。」
言ったメンフィスは、本当に切ない顔をしていた。
朝食の後、褥へ入ったメンフィスはキャロルを抱こうとしなかった。
只抱きしめて口付けを繰り返し、キャロルが眠るまで頬を撫でていた。
疲れきっていたキャロルが瞳を閉ざし、眠りに引き込まれる刹那、声が聞こえた。
「これで最後だ・・・・・・お前が好きだ。愛している・・・キャロル・・・」





昼過ぎまで眠り、ファラオの呼び出しに応じてキャロルは身支度を整えた。
何時も通りの白い衣に、ファラオが選んだ最低限の装身具。
メンフィスは女を飾るのが上手い。キャロルの白い肌にそれはよく映え、初々しい色香を漂わせる。
キャロルが現れるとファラオは只一人、将軍だけを伴って待っていた。
「参れ。」
一言命じて王宮の庭に少女を連れて行く。
将軍が控えていた兵士に命じて、その場に現れ、拝跪した二人を見てキャロルは声を上げた。
「セチ!セフォラ!」
「キャロル。キャロル!!」
「どうしてここに?なにがあったの?」
「キャロルこそ元気そうで良かったわ。挨拶に来たの。」
「え?どういうこと?」
「生まれた村に帰ろうと思って。ファラオが解放してくださって、身分の保証もして下さった。
 僕達は自由になったんだ。」
青い瞳に驚きを浮かべて振り返ると、ファラオが微かに頷いた。
「そう・・・よかったわね。」
「本当に貴女ののおかげよ、キャロル。骨折した私を救い、セチを介抱してくれて。お医者様も言っていたわ。
 王宮の医者でもこんな技術を持っている者は珍しいって。」
「えっ?」
「知らなかったのかい?後で僕達を診てくれたのは王宮の医者だったんだ。高価な薬を惜しげもなく使ってくれた。」
もう一度振返って見たファラオの顔は無表情だった。
「それで・・・キャロルが良かったらいっしょに来ないか?」
「家も土地もあるわ。王宮暮らしというわけには行かないけれど、三人なら何とか食べて行けると思うの。」
「でも・・・」
「遠慮なんかしなくていい。君は僕達の恩人なんだ。お礼がしたい。」
「行くが良い・・・キャロル。もう契約は破棄されたのだ。」
ファラオの声が聞こえた。
思わず振り返って見つめたファラオの顔は、やはり無表情を装ってはいたが奇妙に歪んで見えた。
「立つが良い・・・此処で見送ってやろう。最後の別れだ。この者達と行くもよし、好きなところへ行くもよし。」
キャロルは黙っていた。あれほど望んだ自由。セチとセフォラはもう命を脅かされることもない。
自分は好きなところへ行ける。是とさえいえば、自分は自由なのだ。
なのにどうして素直に喜べないのだろう。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・どうした・・・立ち去ったからといって追っ手をかけたりはせぬ。ファラオとして約束しよう。」
「・・・・・キャロル。」
セチの声がしてはっと我に返った。
「どうする?君はもう自由なんだろう?一緒においでよ。」
「・・・・・いいえ・・・行けないわ。」
セチは悲しそうに笑った。
「やっぱり・・・君はファラオを好きなんだね。」
「い・いいえ。」
「嘘が下手ね・・・。ファラオは貴女を愛している。そして貴女も。その目を見れば分かるわ。」
「本当は分かってたんだ。君は最初から僕を見ていないって。たとえ僕が貴族だろうとファラオだろうと、そんな物に惑わされる君じゃないって。
 だけど僕は君が好きだったよ。たとえ少しの間でも僕を見てくれて有り難う・・・じゃあね。」
二人はキャロルを抱きしめ、背を向けると振り向かずにゆっくり歩き出した。
セチが拳で顔を拭い、セフォラが優しく寄り添って、二人の姿は門の外へ消えた。





「・・・・・・・・・・」
「何故去らなかった?お前はもう自由なのだぞ。今からでも遅くない、此処を出てゆくが良い・・・ミヌーエ。」
ファラオが将軍に声を掛けると、将軍が黙礼して下がって行く。
「これで最後だ・・・立ち去るが良い。お前は私を愛しておらぬ。だが。」
一度白い肢体を強く抱きしめて離す。
「私はお前を愛している。これからもずっとだ。どんなことがあろうと、私が愛しているのはお前だけだ。
 ・・・さあ・・・行くが良い・・・私の愛しい黄金の小鳥・・・さらばだ。」
踵を返して、逞しい肩が遠ざかってゆく。
キャロルはその場に立ち尽くした。
あれほど望んだ自由。鳥籠の扉は開かれ、自分は大空へ放たれた。
なのに、どうしてこんなにもおぼつかないのだろう。まるで飛ぶことを忘れてしまったようだ。





太陽が輝き光溢れる庭で、キャロルは自分の心を探して彷徨うばかりだった。







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