キャロルの意識が水面下に沈み、周りが騒然となる。
ナフテラが飛んできて水を飲ませようとしたが意識が無い。口に含ませても零してしまう。
「ちっ」
苛立ったメンフィスが杯をひったくり、口移しで飲ませた。僅かに仰向いた喉が動いて、確かに嚥下している。
「・・・・・」
見ている先で瞳が開いた。ぼんやりと辺りを見ている。
王姉以外の全てのものが安堵して、辺りは再び賑わいを取り戻す。
「キャロル・・・大丈夫か?」
「ねえ・・・私どうして此処に居るの?・・・」
「?しっかり致せ。宴に出るよう命じたではないか。」
「宴・・・?何かのお祝いなの?・・・私の誕生日は終わったし・・・ママのはまだ先だし・・・・兄さんは先月で・・・ロディ兄さんは・・・・」
「私の宴だ。側に侍るよう命じただろう?」
「侍るって・・・・・やだ、夜のお仕事みたい。」
くすくす笑う。眼の焦点が合っていない。
笑い声は次第に大きくなり、あっけに取られている人々の中、メンフィスの肩を叩いて大声で笑い転げる。
「ああ・・・おかしい・・・わたしが・・・・こんなわたしが・・・・夜のお仕事ですって・・・・
 ・・・クラスで一番もてなくて、ボーイフレンドはジミーだけ・・・他の皆はもう彼が居て・・・」
「周りの男は見る眼が無いな。お前は綺麗だぞ?まあ多少色気は無いがな。そんなものは私が・・・」
聞いていない。肩を震わせている。メンフィスの肩衣を両手で掴んで泣きじゃくる。
「おいどうした?」
「・・・・・よ・・・」
「なんだ?」
「そうよ〜! ひどいのよ!マリアだってアンナだってボーイフレンドが三人も四人も居て毎日デートしてるって言うのに!
 私は学校が終わったら直ぐ兄さんの差し向けた迎えの車に家まで連れて行かれて、後は勉強と習い事。
 したくも無いピアノやフランス語のレッスンより私も一度でいいからデートしてみたい!
 目一杯おしゃれして素敵な男の人と一緒に映画見てお茶をして・・・
 そうしたらいくら私だって少しは綺麗になれるかも知れないのに!そう思うでしょ?」
「『デート』とやらなどせずとも良いが・・・お前が私以外の男と逢っているなど、考えただけでこの胸に毒蛇が棲むわ。」
「メンフィスったら焼餅?駄目よ。メンフィスはアイシスと結婚するんでしょ?二股はいけないわ〜。そうよ・・・二股は・・・」
今度は怒り出した。
「兄さんって私のやること全部駄目って言うのよ!私もう子供じゃないわ!もう16よ!
 私だってそのうちお嫁に行くんだから!好きな人と結婚して子供だって生むんだから!
 いつまでもキャロルキャロルって子ども扱いしないで欲しいわ!」
それだけ言うとまたわっと泣き出し、ファラオの肩衣に顔を埋めた。
辺りはすっかり静まり返り、皆酒の酔いも醒めて決まり悪げだ。
「お前の兄はお前が好きなのだろう・・・見境を失くすほどにな・・・」
ちらりと見やった瞳がまた戻される。王姉が唇をゆがめる。
キャロルの言ったことは半分も理解できなかった。だが年頃の少女らしい願いを持っているということはなんとなく分かったし、
それより何より、自分に縋って泣いているのだ。此処で慰めてやらなければ男が廃る。
「よしよし、落ち着けキャロル。・・・かわいい奴だ・・・だがそんなに泣くと綺麗な顔が台無しになるぞ。」





少女がぱっと顔を上げる
「本当に?私本当に綺麗?」
「ああ。お前は綺麗だぞ。黄金の髪も青い瞳も白い肌も。」
「只珍しいだけでしょ?」
拗ねたように甘えたように上目遣いをしてみせる。
理性がぐらりと揺らぐ。何処でこんな媚態を覚えた?
メンフィスにしてみれば、キャロルは決してこんな仕草をしないので内心たじろいだのだが
キャロルはこれを何時も父や兄に対してやっている。
媚を売っているのではなく、単純に本能だ。
「メンフィス・・・私のこと好き?」
「おお。勿論だとも。何ならこの場で証明してやろうか?」
キャロルが笑った。くすくす笑いながらとんでもないことを言った。
「うふふ〜〜、じゃあ、キスして。」
全員が固まった。ファラオを引っ叩いてびくともしない少女が、そんなことをそんな口調でねだるとは。
「・・・ほう・・・珍しいな・・・お前が接吻をねだるとは・・・やっと素直になったか?ん?」
周りが凍り付いている中で、ファラオと少女は回りそっちのけでいちゃついている。
王姉がぶるぶる震えて出て行ったが、誰もそんなことに構う余裕はなかった。
ファラオは上機嫌だし、少女は見たこともない色香を纏ってファラオにしな垂れかかっている。
しなやかな指が細い顎にかかった。誰かが、いやその場にいた全員が固唾を飲む。
キラキラ輝いた青い瞳と艶めいた黒い瞳がゆっくり近付いてゆく。
キャロルはまだくすくす笑っている。そして少し唇を開き、瞳を閉じた。
メンフィスがキャロルの顎を支え、微笑んで唇を重ねようとする。
少女の身体がずるりと滑り落ちた。
「!?」
温かい胸の上でくーくーと寝息を立て、キャロルは眠っていた。
「〜〜〜〜〜〜ッ!!キャロル―――――ッ!!!」





翌朝。痛む頭を抱えて起き上がると其処はいつもの寝台だった。
「あいたたた・・・・・。・・・・・?どうしてメンフィスが此処に居るの?」
メンフィスがぶすっとした顔で長椅子に座り、腕組みをしている。
随分なご挨拶だな・・・・昨夜自分が何をしたのか、本当に覚えておらぬのか?」
「え〜〜と・・・あたた・・・お酒・・・飲まされて・・・・・」
「それから?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「やはり思い出せぬのか・・・これからは酒を無理強いせぬ。あんなになるとは思わなかった・・・せっかくのところで・・・」
「あんなにって?せっかくって?」
「・・・・・聞いたら死ぬほど恥ずかしい思いをするぞ?」
メンフィスが悪霊のような笑顔を見せる。二日酔いが吹っ飛ぶような寒気が走る。





そしてキャロルは自分が仕出かした『恥ずかしいこと』を完璧に再現され、悲鳴を上げてのた打ち回り、
打ちひしがれて暫くの間部屋から出てこなかった。
王宮の警備は格段に楽になったという。





                                                             王様逆転勝利!かな(苦笑)





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