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「…おい。あれじゃないのか。予定より早いが…、」

それだけつぶやくと、帆足は素早い動きでダッシュボードから脚を降ろし、岸を置いたままドアを開けてさっさと車を降りてしまった。その際、腰に挿した剣の鞘が車体に当たる、ガツンという音がした。
誰の車というわけではないにしても随分な扱いだが、そういう人間だから、どうしようもない。むしろ、岸にとっては車よりも、剣の扱いのほうが気になった。
解放戦線では、幹部へ昇格したさいには総帥から剣を贈られることになっているので、幹部はみな腰に剣を挿している。
とはいえ、実際に戦場でそれを振り回しているのは帆足ひとり、後は象徴的な意味合いのものなので、総帥含めてみな短剣であり実用品にはほど遠いが…、
なにしろ総帥から祝いとして直に渡されるのだから、本来、何にも代えがたいもののはず。
後は大沼本人が果物の皮を剥くのに使っているところを見たことはあるが、少なくとも、岸にはそんな使い方はできそうもなかった。それほど大切な物なのだ。
それをそこらへぶつけても気にしないとは、まったく大した神経である。
岸は無意識のうちに、まだ真新しい自分の短剣の柄を撫でた、それからシートベルトを外して、ようやく外へ出た。

そして岸が追いついた時には、帆足はすでに…、相手方の男と声を交わしていた。


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