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…自身が師の元を去って以来、時間の経過に伴って、永川も相当の使い手になっていることは梵にも容易に想像できるし…、実際、その目でしかと見届けたばかりだ。
射撃の腕を別にすれば、実に余裕のある戦いぶりだった。相手も手負いだったとはいえ、最後に手から放った一撃など、おそらく全力からはほど遠い。
しかし梵は現在まで、その永川よりも常に力で優位に立ち続けてきた。今やスラィリー折伏術の事実上の継承者となった永川が一向に手出しをしてこないということが、そのことに対する何より確実な証明だ。
無理もない、そもそも実力で互角以上、加えて梵にはスラィリーたちがついている。冷静に考えるなら、これほど恐れるような相手ではない。
そう、冷静に考えるなら…、
…駄目だ。今朝はどうにも胸騒ぎがする。
ピロロロ、と再びスラィリーが鼻を鳴らした。その心痛の音を聞いて梵はハッと我に返り、やっとの思いで、毛皮を掴んだまま強張った手をゆっくりと離した、
そして、その手のひらを、いまだ動悸の収まらない胸へと押し当てた。
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