283
そう言って苦笑する倉は確かに、お世辞にも美形ではなかったが…、しかし森野はそのハリネズミのような頭髪を見て、きっとこの人は孝市法師の血を引いているに違いないと思った。
「その後、孝市法師はこの寺を修復させ、自身の用いた術を後世に伝えるべく、生まれた子供たちにその奥義を託しました。それが現在まで受け継がれ…、英心と勝浩と、ついでに私で5代目です。
ちなみに、孝市法師の出自については、はっきりしたことはわかっていないのですが、先代…、つまり私の父が調べたところによれば、
どうも今の佐賀県のあたりに、それらしい修験者の伝説が残っていまして、それが法師の若き日に残した伝説ではないかと。調査はまだ継続中のようですがね」
「すると、先代は、健在でいらっしゃるのですか」
「ええ、健康そのものですよ。ただ、この寺からスラィリーマスターを出してしまったのでね、一時マスコミの標的になりまして、それを避けて別居して以来、ここに暮らしてはいませんけれども。
ただ、今お話しましたような故事がありますので、この寺で住職をするにはね、頭髪が多くないとダメと決まっているのです。
そもそも秘術の継承者と寺の住職が分かれたのも私たちの代が初めてでして、代々、有事の際には、住職がスラィリーと戦えなければいけなかったわけですからね。
年齢が若くて健康でも、ハゲてしまうとね、そこで世代交代になります」
[NEXT]
[TOP]
[BACK]