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「その、ご住職、そのへんのお話はいいですから…」
「まあ、そう言わず。どうせ後世の創作ですよ。今ほどスラィリーが頻繁に現れず、スラィリーそのものが珍獣であった頃には、この寺もその神秘性から観光名所として有名だったのです。
 その観光客向けに講談師が語って聴かせた物語ですから、むしろここからがメインで」
「いえいいです、なんでもいいですから」
「そうですか」

こうも頑なに固辞されては仕方がない。倉は少し残念そうな顔をして、話を元の軌道に戻した。

「…まあ、そういう訳で、孝市法師は娘と契りをかわし、この地を旅の終着点としたのです。
 この掛軸の絵は、その法師の妻となった、絵師の娘のかな子が描いたものと伝えられております。当時の農村の女性の作と判明しているという点で大変めずらしく、文化財的な価値も認められています。
 ただまあ、身内の描いた絵ということでね、法師が本当にここまで眉目秀麗だったのかどうかは、わかりませんが、」
「いえ、まあ、お話から推測するに…、きっと随分な男前でいらしたでしょう」
「そうですね、そう思ったほうが、浪漫がありますね。その血が自分に受け継がれていると思うと腑に落ちないところもあるのですけれども」


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