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――ギエエエエ、と鶏の鋭い声が響く。複数の鶏に一斉に襲い掛かられ、思わず森野は反撃した…、咄嗟に手から槍を出し、それを一振り、飛び掛ってきた何羽かをはたき落としたのだ。
しかし同時にいくらか攻撃も食らった。鋭い爪とくちばしに加え、並の鶏とはケタ違いの発達した筋力、攻撃を食らえば確実に皮膚が裂ける、出血は免れない。
はからずも今の一撃で、瞬時に槍を出すコツは掴めたような気はするが…、この槍一本でこれだけの数をどう相手すればいいのだろう。
一羽一羽がこの凶暴さ、うっかりすれば目も潰されそうな勢いだ。あまり長い時間はかけられない、と森野は思ったが、
しかし次の瞬間にはふと気づいたように、頭の中からその考えを振り払った。
危うく勘違いするところだった、これはそもそも、地鶏と闘う訓練ではないのだ。どうにかしてこいつらを全部、あの小屋へ押し込まねばならない。さてどうしたものか。
ひとまず森野が考えたのは…、鶏たちを威嚇して追い込むことだった。

「ゴラー!大人しく小屋に戻れ、戻らん奴は焼き鳥だぞ!!」

…槍を振り回しながら大声を出して追い立てる森野の声が辺りに響く。着想は悪くない。家畜を纏めて動かす方法としては、これは一般的には有効な手法だ。
しかし…、そこは広島の地鶏、いや広島の地鶏ならばすべからくこんな運動能力を持つとは、いくら余所者の森野でもさすがに思わないが、
ここの鶏たちに限って言えば、ダテにあの山崎の訓練につきあわされてはいないらしい、俊敏な動きで槍先をかわして、逃げるどころかしきりに襲い掛かろうとしてくる。
それでも群れの一部は少しずつ小屋のほうへ押されてくれているようにも見える、これはいけるか…、と森野が内心希望を持ったその瞬間…、
群れの中の一羽が突然地面を蹴り、鶏と思えないような力強い羽ばたきで頭上へ舞い上がった!

「うぎゃあああぁぁぁ!」

森野は思わずよろめいて、咄嗟に二歩ほど後退した。悲鳴が一帯に響き渡り、裏山に当たってこだまする。今のはおそらく前田の耳にも入っただろう。
真正面から強烈な蹴りを食らった額から、眉間を通って血が滴る。


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