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「…そうじゃの。うん。ちらっとな」

先刻は茶を入れてもらうのも渋っていた前田だが、今度はいとも簡単に使いを頼んだ。
これは、あの『出掛けるまでが面倒くさい』心理と同じで、一度動き出しさえしてしまえば、あとはどうでもよくなる現象である。

「わかりました。お茶のおかわりは」
「いや、ええ。ありがとさん」
「じゃ、片付けますね」
「ああ」

片付けますねと言ってはいるが、これは単に茶碗を下げますねと言っているに過ぎないことを前田は知っている。
カーサは水仕事が嫌いなのだ。だから実際に片付けるのは、山崎あるいは食器洗い機の仕事である。
何でもします的な態度をとりながら好きでない仕事は決してやらないというのは、いかにも狐らしい…、
前田は頭の中で悪態をついた。

「…そうだ、あの人はどうなんです?さっきの数字でいうとどのくらいなんですか?」

そんな前田の気を知る由もなく、盆を手に立ち上がったカーサが、ふと思い出したように尋ねた。前田はほんの少しの間逡巡し、その質問に答える。


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