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しかし…、この推理には、腑に落ちない点がひとつある。
永川と梵は寺の秘術の跡継ぎだから、前田の選ぶ余地もなく当然のように手元で修業をさせる流れになったにすぎないが、
山崎だけは唯一、前田が自分の意志で連れてきた弟子だ。
戦地の孤児など恐らく星の数ほどいるだろう、その中からなぜ、あの子を選んで連れてきたのだろうか。カーサはそれが気になった。
その眼力をもってすれば、おそらくは気の素質がないことも初見で見抜いていただろうに…、
それでも、その赤の他人の子供を、大怪我を負いながらも連れ帰り、ここまで育てた前田の情熱はどこから来るものなのだろう、
一体、なぜ…、
…カーサがそれを尋ねようとしたところで、ちょうど、また窓の外からけたたましい鶏の声と、人の叫び声とが飛び込んできた。
「それにしても、随分、騒いどるの」
「様子、見てきましょうか」
騒ぎの様子が見えるはずもない窓の外に向かって前田が首を伸ばそうとするのを見て、カーサは言った。
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