097

それから程なく市街地にさしかかり、わずかばかりの繁華街を抜け、その外れに立つ三階建ての陰気な雑居ビルに、永川は入っていった。
看板の類はまったく出ておらず、そこが何なのかを外から伺い知ることは困難だ。なにも知らずに見れば、空き家に見えるかもしれない。
薄暗いコンクリートの階段を上る永川の後ろを、山崎はきょろきょろしながらついていく。
「ここ何やの?」
尋ねる声がそこらじゅうに反響し、不気味な雰囲気にいっそう拍車をかける。永川はその質問に答えないまま、二階の部屋のドアを開けた。

「勇人さん、こんちは」
「おお遅かったな。待ってたぜ。入りなよ」
ドアの向こうには殺風景な事務所らしい風景が広がっており、体型のわかりにくいエスニックな服を着た、やや長髪の男が出迎えた。


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