上半身を起こしてドアを見つめていたら、直ぐにセフィロスは戻ってきた。ゆっくりと近づいてきて、ベッドサイドに片膝を乗せて、ベッドの軋む音と共に俺の身体も揺れた。
「何が不安だ」
抱き寄せられて、さっきと同じように背中をぽんぽんと叩かれる。
不安なんて、俺が生徒でいる限り解消されることはないんだ。それはあと二年もないのに、卒業したらどうなるんだろう。俺はブリッツ一本の生活になるし、セフィロスは学校に留まったままで、今よりももっと距離が出来るし顔を合わす時間なんてなくなるんだ。
一度セックスしただけで終わりなんて思わなかったし、セフィロスだってそうだから俺をここに連れてきたんだろうと思う。
でも、でもさ。
この状況になったのは俺が怪我をしたからだ。大義名分云々は関係なくて、然るべき流れだったとしてもそれは受動的なことだから、セフィロスは……セフィロスは。
…あれ?
「…ティーダ?」
あれ、セフィロスって。
「なんで、ここにいるッスか?」
「今更それを言うのか…」
「え…、え…?」
だって俺は、いつでもきっちりと公私を分けるセフィロスに対して、当たり前で仕方ないと思いながら不満だったんだ。
俺のとっくに気付いているって言う気持ちは、独占欲だから。
単なる一生徒の俺が怪我したからって、セフィロスまで一緒に早退って…。
「代わりを置いてきた」
「代わり? 代わりってなに?」
「もう、黙れ」
体温の残るベッドに俺はまた逆戻り。この状況にびっくりなのと、急に俺を襲ってきたドキドキで息苦しくなる。
「お前がそんな不安そうな顔をするから」
キスされると思ってきゅっと目を閉じたのに、セフィロスの唇は頬に軽く触れただけ。目的はキスじゃなくて、俺の耳元で囁くことだった。
「―――…」
小さな声で俺に告げた言葉。きちんと聞いたのは初めてだった。
大人が誰かを好きになったら、その気持ちだけで突っ走れないのは頭では判っているつもりだったけど、大人が無茶なことをしない限り子供の俺はそれに気付かない。態度や言葉で示してもらって漸く感じる安堵に自己嫌悪した。
「…お前は?」
さっきの囁きの返事を、唇をなぞられて促される。俺もはっきりと言葉で伝えたことはなくて、どう返そうかと迷っている間に、セフィロスの指が口腔に潜りこんで俺の舌先に触れた。
「…んぁ、」
どうしよう、どうすればいい?
望んでいるものははっきりしているのに、促された途端何も言えなくなってしまった。照れ臭くて、恥ずかしくて、胸が苦しくなる。
口腔へ僅かに含まされた指先が、深いキスになる直前の舌のように感じて思わず唇を閉じた。
「……全く、初心な奴だな」
セフィロスは笑ってその指先を進めてくる。
「ん、…んっ」
雰囲気もそうだけど、このシチュエーションは酷くいやらしかった。顔が熱くなって目が潤む。セフィロスの指はどう動いていいか判らない俺の舌の上をゆるゆると撫でた。
く、と力を入れられて口を開かされると、指はすぐ出ていったけれども、セフィロスがキスをしてきて指の代わりに舌が絡んできた。
「ん、ふ…っ」
のしかかられているのに重さは感じない。ただ唇に熱くて優しい圧力を感じるだけ。
苦しくなって仰のくけれど、唇は塞がれたまま。
「…ゃ、ん…、…んむ…っ」
怪我をしていない方の腕でセフィロスの胸を押すと、やっと唇は離れていった。
「…くる、し…って…」
息をつきながら見上げれば、セフィロスは俺を見つめて目を細めている。その目は、いつも学校で見るような冷静さは欠片もなくて、以前一度だけ見た欲に濡れた瞳だった。
「あ…」
バスローブの合わせを掴まれ、ぐっと開かれる。もともとサイズの大きなバスローブだったから、着ているというより包まってるといった感じだった。簡単に寛げられた胸元にセフィロスの手の平が触れ、ゆっくり撫でられたかと思えば心臓の上でピタリと止まる。期待と不安で激しく動くのを確かめているみたいに、暫く手はそこから動かなかった。
まだ呼吸が整っていないのに、セフィロスはまた口付けてくる。口付けしたまま手の動きを再開し、雰囲気に酔って反応していた俺の乳首に触れ、そっと擦ったり、きゅっと摘んだりを繰り返す。
「ん、んっ、んー…っ」
唇と、胸だけだ。そこだけしか触れられていないのに、熱が伝導するみたいに身体の隅々、指先にまで言いようのない感覚が巡る。
セフィロスは水のよう。
俺の全身を包んで溺れさせる。
絡んでくる舌に舌を絡ませて応えた。ヌルリとした感触が俺の脳を焦がして駄目にしてしまう。もう、どうにでもして欲しくなる。
バスローブのウエストの紐なんて意味がなくて、腕を通してるだけの状態になれば着替えがなかった俺はほぼ全裸だった。キスの間に大きく開けられた合わせは左右に広がり、名残惜しげにキスを止めたセフィロスが身体を起こせば、俺は全裸を晒す格好となる。
「…セフィ、ロス…」
紐が間抜けに見える気がしたけれど、スルリと解かれて紐の端はベッドの上に落とされた。
片足を立たされ、開かされる。もう片方も同じように、ゆっくりと。
「…っ」
恥ずかしさが窮まってまともに見ていられない。俺、今凄くいやらしい格好をしていて、それを見られている。見られているのに感じて身体が疼いている。
見られているだけで何もされてないのに、勝手に息があがって涙ぐむ。唇を噛んでも鼻を鳴らすような声が漏れる。元より目は閉じていたけれど、耐え切れずに顔を逸らした。
きっとどこを触られても反応すると思うほどに出来上がった身体は、その最もたるところへの愛撫が始まった途端に小さく弾けてしまった。
「あっ、…あ…」
言い訳をすれば慣れていない上に感じ過ぎていたから。自分でもこの状況に驚いてセフィロスの様子を窺ったら、頬を濡らした白い液体を拭っているところだった。
「…ご、…めん…、おれ、」
「構わない。それだけ感じてくれていたんだろう?」
「……う…」
図星だけど、素直に頷けなかった。射精しても身体の中心はまだ熱かったし、疼きは消えないし、セフィロスはドンドンと先に進めてしまうし。
「ぅあっ」
突然、セフィロスは射精して萎え始めていた性器を口腔に銜え、口の中で軽く押し潰したまま上下に扱き出した。
「あっ、あ、あ、あ、あっ…」
細切れの自分の喘ぎが寝室に響く。知らず知らず浮いた腰をがっちりと掴まれ、もう身を捩っても逃げられそうになかった。
「や、や…っ、」
こんなに熱く、激しく扱かれたら次の射精もあっという間だ。思考は千千に乱れ、喘ぐ恥ずかしさすら感じる余裕もない。
「ん、あ…!」
もういっぱいいっぱいなんだ、だけどセフィロスの愛撫は休むことなく続けられる。後孔の周りを指でマッサージするように弄られ、俺の声は喘ぎ声と言うより泣き声だった。
「やぁ、も…ぉ…、」
愛撫に緩急をつけられて、イくにイけない。それがずっと続けられたものだから俺一人で泣いたりパニックになったりを繰り返した。
普段、奥底に留まっている痴態がセフィロスの愛撫で顕わになり、浮されている俺はその様を晒すことに恥ずかしさを感じなくなっていく。乱れ狂うって、こんな感じなのかも知れない。
でも、
「あぅ…っ」
中に挿入された指が脳を現実に引き戻す。一本だけなら然ほど痛みを感じないけど、そのあとの痛みを俺は知っているから。
指は中を広げるように動き回り、前も同時に愛撫されていた俺は再び快楽の渦に引き戻された。
自分の身体の状態が判らなくなってくる。射精の手前で焦らされながら、後孔を解すための指に翻弄され続け、どんないやらしい声を漏らしているのか知覚するのが難しい。
不意に抱き上げられたときも、暫く何が起こったのかも判らなかった。
ベッドの上に座ったセフィロスの膝の上、後ろから抱き締められて身体を持ち上げられる。こんなことをしているのに、自ら望んだことなのにセフィロスが何をしようとしているのか理解するのが遅れて、
「ひっ!」
それでもゆっくりと減り込んできたセフィロスの熱い性器が齎す痛みに叫び声を上げた。
「…痛い、か…?」
十分に解されたし、初めてじゃないのに圧倒的な質量は痛みだけを送り続ける。ポロポロと涙が零れ、痛いけれど首を横に振った。痛みだけでもセフィロスが欲しいという気持ちは少しも萎えなかったから、身体を離そうとするセフィロスの腕を掴み、嫌だ嫌だと喚いた。
バスローブの分だけの距離すらもどかしい。大きなサイズだから裾だって邪魔になる。もっと直にセフィロスに触れたい。藻掻きながら片方の腕だけバスローブを脱いだら、やや強引に退けられて剥き出しの背中がセフィロスの胸に包まれた。そんなに小さな身体じゃないのにスッポリと抱き締められて、ぐ、と突き上げられる。
「あぁあアっ!」
もう、訳わかんない。
前はどんなだったっけ?
痛かった覚えはあるし、泣いた覚えもあるけれど。
「ひ…ぃ……」
ガチガチに強張った身体の、肩と首の境目にキスをされて、抱き締める腕は身体中の愛撫を始める。体格差があるから俺はまるで糸の切れた人形みたいだった。
じっとしていれば平気なくらいまでセフィロスは動かなかった。あやすような仕種での愛撫はずっと続けていたけれど、性急さを感じない優しいだけの愛撫に次第に落ち着いた俺は、ゆっくりと振り向いて無言でキスを強請った。
「……ん、」
上手く唇が合わせられなくて、お互い舌を伸ばして絡めるだけ。それに留めたのは、今動いたら俺が痛がると思ったセフィロスの気遣いなのだと思った。
「…キス…、ちゃんと…」
自分が思っていた以上に、俺はキスが好きみたいだった。セフィロスが身体を少しだけずらしてキスをくれる。俺の腹にあるセフィロスの手に指を絡めながら、一時のキスに酔った。
「ん…、…セフィ…おれ…」
「…なんだ?」
「……き、…おれ、セフィロスが、すき…」
「…そうか」
学校では決して見られないセフィロスの優しげな微笑みに胸が熱くなる。熱くなって、泣きたくなる。
こんなに好きになってしまって、どうしよう。
「あ、」
ゆらり、と身体が揺れてセフィロスが小さく吐息を零す。
「…あ、…あ」
繋がっている部分から身体中を浸蝕する甘い痺れが、感情にまで達していく。
「…平気か、ティーダ」
「んっ、へい、き…」
痛みは多分にあるけれど、壊れてしまってもいいと思えた。
「もっと欲しい…」
俺がそう呟いてからは、まるで嵐のようだった。
「ん、あっ、ひぁっ」
痛みに涙したのが嘘みたいに、突き上げられて擦られるのがとてつもなく良かった。散々に喘ぎ、声を枯らしてもなおセフィロスを求めて、離れたくなくてしがみつく。既に初めの頃と体勢は入れ替わり、向かいあって身体をピタリと密着させていた。
腕の痛みも忘れ、せっかく巻いて貰った包帯も解け、嵐の中で踊り狂う。
「や、また、イく…っ」
「何度でもイけばいい」
「だめ、も…っ、あ、ああ、あぁ…っ」
足をセフィロスの腰に絡み付かせ、それだけじゃ我慢出来なくて目の前の肩に噛み付いた。
「んぅっ、んっ、んん〜っ!」
身体の間に手を差し入れられ、さっきから腹に擦られて敏感になっている性器を扱かれる。
「ああぁっ!」
射精を促す手の動きにもう太刀打ち出来なくて、
「あ、ア、アっ、イくっ…!」
ビクビクと吐き出した白濁がお互いの腹を濡らす。それでもセフィロスの手の動きは止まらないまま、激し過ぎる愛撫に目が眩んだのかと思った。
「え、」
視界がぐるりと回転し、あられもない格好のままベッドに仰向けに押し倒された。
「セフィ、あ…!」
両足首を掴まれて、大きく開かされて、中を激しく穿たれる。
「ひっ」
虚勢を張る余力もなく、身体は前後に大きく揺さぶられ、中のイイところを擦られて、泣きながら身悶えた。
「も…、ゆるし、て…!」
壊れてしまってもいいと思ったのに、それじゃセフィロスに抱き着けないと思ったから許しを請う。
腕を伸ばしてセフィロスを引き寄せて、中に熱い飛沫を感じながら、俺はイったばかりだというのにまた腹を白く染めた。
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