セフィティダ同盟

Hesitation love

作者:はこ様 匣入-はこいり-

 なんだか、試合の後にも似ているような気がした。気怠い心地良さというのか、いっそ爽快というのか。
 仰向けのまま呼吸を整えていたら、俺に重なっていたセフィロスが身体を起こし、俺の中から出ていった。
「…ぁ、ぅ…っ」
「風呂は、もう無理だな」
 開いたままの足を閉じることすらしない俺を見て、セフィロスはクスっと笑う。
 左腕だけ着ている状態のバスローブを手にして腕から抜くと、全裸の俺にそれをそっと掛けた。
「寝るなよ、食事がまだだからな」
「……ん…」
 短く答え、何時くらいだろうかと寝室を見回すと、壁掛け時計は八時半を回ろうとしていた。
 しかし…風呂に入れないってのはちょっと厳しいかもしれない。
 お湯で絞ったタオルで身体を拭われるのは気持ちよかった。あんなとこやこんなとこを見られたり触られたりするのも、まだ余韻が残っているから羞恥心が麻痺していたみたいで割と平気だった。
 でも、でも…。
「や、…うぅ…っ」
 余韻があるとはいえ、身体も頭も元に戻りつつある今、後孔を再度指で掻き回されるのは…。
「あっ、あ、や、だ…」
「我慢しろ」
 腹に力を入れろとか言われてもそんな簡単にいく筈がなくて、なら仕方ないとばかりに指で掻き出される。
「い、やだぁ…っ」
 疲れていて、どこにも力は入らないし、仕方ないといえばそうなんだけど。だったら中に出さなきゃいいのにと文句を言いたくなった。


 別の新しいバスローブを借りて漸く食事をした頃には俺は睡魔と戦っていた。ある程度腹が満たされてからは、椅子に座ったままうとうとしちゃって、セフィロスが何を話したのか余り覚えていなかった。
 だから、再びベッドに連れて来られたときの記憶も曖昧で、なにやら騒がしい音に目を覚ましたのは十時くらいのことだった。
「……?」
 時計を見るまでは真夜中だと思っていたから、隣にセフィロスがいないのが変に思えた。
「…セフィ…?」
 目覚めたきっかけになった騒がしさはリビングから聞こえていて、始めはテレビかなんかだと思った。
 寝室のドアをそっと開けたら、俺もよく知ってる聞き慣れた声。
「アンタって狡いよな、ホント…」
 既に散々文句を言った後で、呆れて脱力したかのような声の持ち主は、体育教諭のザックス。
「あの時間から受け持ちの授業はなかっただろう」
「そーだけど…」
「養護教諭の免許もあるしな?」
「そーだけど!」
 ザックスはセフィロスと同じく今年度に赴任してきた新任の体育教諭だ。若くて気さくで友達みたいで、女子にも男子にも凄く人気がある。というか、生徒みたいでよく学年主任に怒られているのを見掛けるせいか、親近感があるんだろうな。
「まさかティーダを連れ込んでるなんて思わなかった」
「!」
 俺がここにいること、ザックスは知っているみたいだった。話を聞けば、セフィロスが言ってた代わりってのがザックスのことなんだろう。たまに会議で保健室を不在にすることもあるけど、俺に付き添って早退までしちゃうイレギュラーなことしでかしたんで、それで理由を話したのかもしれない。
 少しだけ開けたドアの隙間から二人の会話を聞いていたのは、ちょっとだけ不安が過ぎったからだ。
 時々、ザックスとセフィロスが親しげに話をしているのを知っているから、元々知り合いなのかなと思っていたけど、マンションを訪ねてくる仲だなんて知らなかった。
「生徒連れ込んでる悪さするなんて、アンタ昔と全然変わってないのな」
 …それ、どういう意味。
「人聞きの悪いことを」
 俺の他にも誰か、そういう人がいるってこと?
「事実だろ〜? 幼気な高校生だった俺を手籠めにしたくせに」
「………」
 セフィロスが溜息を吐いた。ザックスが嘘を言ってるようには見えないし、セフィロスもそれを否定しなかった。
「後悔しているなら謝るが?」
「よせやい、そんなんじゃねっての」
「大体、捨てられたのは俺の方だ。お前ときたら男も女も関係なしに靡いて相手がいようといなかろうと手を出すから、見ろその頬の傷」
「あ? あはは、こんなん、過ぎたことだよ」
「俺を本気で好きになれないと言ったのはお前だ。終わったことをいちいち蒸し返すことはないだろう」
「…じゃなくて、俺が言いたいのは!」
「アンジールに構ってもらえなくて拗ねているんだろう?」
「ち、違ぇよ、仕事代わってやったんだから今度何か奢らせようかと!」
「…それくらい承知の上だ。いい加減、声を抑えてくれないか。ティーダが起きてしまう」
「……ふ〜ん、無理、させたんだぁ?」
「………」
「怪我人に色々致しちゃったんだぁ?」
「独り寝が寂しいならいつでも相手してやるぞ…」
「冗談でそんなことばっか言ってたら、ティーダに愛想つかされるぜ?」
 二人のやり取りは、大人のちょっと下品な冗談なんだって判る、判るよ、でも。
「……ふ…、…ぇ…っ」
 俺は寝室のドアの前でしゃがみ込んで泣いてしまった。夕方発熱してた上にあんな激しいことしちゃったから頭ん中ぐるぐるで、聞き流せばいいのに盗み聞きした冗談を真に受けてしまって。
「…うっ…、うぇ…っ」
 俯いてボロボロ零れる涙を懸命に拭っていたら、目の前に…足。
「ティーダ?」
 突然、わしゃわしゃと頭を撫でられて、泣き顔のまま顔を上げたら困った顔のザックスがしゃがんでいた。
「ごめんな、起こしちゃったか。てか、聞いちゃったか」
 苦笑いをするザックスに更に頭を撫でられて、バツが悪くて顔を逸らすと、
「いてっ!」
 ゴツ、という音と共にザックスが呻いた。
「帰れ」
「な、殴ることないだろ!」
「色々とバラされたくなかったら大人しく帰れ」
 ザックスは渋々といった具合に立ち上がり、腰を屈めて俺の涙を手の平で拭った。
「あんま気にしないでくれよな、昔の話だから」
「ザックス」
「はいはい、っと」
 じゃあな、と俺に手を振って、ザックスは帰っていった。途端に静寂が訪れて、静まり返った寝室で、ズズっと洟を啜った俺は不貞腐れながらセフィロスを見上げた。
「…俺、聞いてない」
「何を」
「ザックスが…ザックス先生が、セフィロスの昔の恋人だったの、聞いてない」
「………」
 そんなこと、わざわざ言うことでもないんだろうけどさ、でも、昔の恋人と職場が同じで、今みたいに聞かれたらとかそういう心配とか………しないんだろうな、大人は。
「…お前は、」
 セフィロスもしゃがんで俺と目線を合わせ、ザックスがしたみたいに頭を撫でるのかと思っていたら。
「え、…わぁっ!」
 軽々と抱き上げられてベッドにドサリ。何回目だろ、このシチュエーション。
「いちいち話すことでもないが、聞きたければ聞かせてやる」
「……あ、やっぱ、いい、言わなくていい」
 今からじゃ想像もつかないけど、昔二人が付き合ってた事実さえ判ればもういい。ただでさえ俺って独占欲が深くて、すぐ不安になってすぐ落ち込むんだ。当時の話なんて聞いたらまた泣くかもしれない。
「ザックスのことは、好きだった、本当に」
「……いい、ってば、言わなくて…」
「今はただの同僚…友人だ」
「……でも、」
「色々あったんだ、あいつも、俺も。お互いが納得して別れたのだし、後悔はしていないし、ただ」
 セフィロスは、涙で潤む俺の目尻に軽く口付けて、前髪をサラリと梳いた。
「お前とのことをきちんとしていないのに、ザックスのことを話す訳にはいかなかった」
「………うん」
 そうだった。
 俺は、今日までずっとセフィロスとの曖昧な間柄に悩んでいた。一度関係しても、ただの教師と生徒だと思い込めば傷つかなくて済むからと、でもそんな曖昧なのが嫌で、ずっと嫌だと思っていたのにセフィロスを避けて、避けて。
「…ごめん、……話してくれて、ありがと」
「こんな風にお前に知られるとは思わなかったからな…」
 セフィロスは俺の額に唇を押し付けて、
「熱、上がったな」
 そう言った。
「無理をさせたな、すまない」
「んーん…、俺が、わがまま言った…から…」
 安心したけど、ほんの少し切なさは残った。
 過去のこと、終わったことを本人たちが納得ずくで今を過ごしていても、過去を遡れない俺は置いてきぼりみたいで。
「ティーダ」
「……ん…?」
「お前は…、……に、ならないでくれよ」
「………なに…?」
「……おやすみ」
「…………ん…」
 なんて言われたのか、よく聞こえなかった。もしかしたら聞かせるつもりもない願いだったのかも知れない。
 胸を焦がす切なさは、俺がずっと踏み出せなかった躊躇いに似ている。
 本当の気持ちを殻の中に閉じ込めて、一人で何も出来なくてうじうじしているのになんとかしたいと思っていて、どうしようか、何かしようかと悩んでいた、そんな躊躇いに。


 翌朝は熱が下がっていたからいつも通りに登校した。流石にセフィロスに送ってもらう訳にはいかないから、最寄の駅まで乗せてもらった。
 電車から降りたらスコールが声を掛けてきて、学校まで一緒に登校していたら。
「おー! おはよー!」
 背後から颯爽と自転車で現れたザックスが、俺達の前でブレーキを掛けた。
「…おはようございます」
「おはよ、スコール! ティーダ、熱下がった?」
「あ、う、うん」
「…熱出していたのか?」
 昨日から、やたらと俺の心配してくれたスコールが顔を顰める。
「ティーダはいつも無理するからな! なんかあったら俺に言えよ、なんっでも相談に乗るから!」
 ザックスはそう言って来たときと同じく颯爽と走り去った。
「おい、ティーダ」
「もう下がったから登校したんだって! ほら、ちょっと縫ったからそのせいで」
「…具合悪くなったら…」
「ちゃんと行くから! …保健室だろ?」
 スコールはまた顔を顰めた…。そりゃ、昨日の態度から一変してるから当たり前だろうな。
 …それにしても。
「お前、シャツの裾を出すな。それでも教師か!」
 ザックスが、正門のところで学年主任に怒られているのが見えた。
「……スコール」
「なんだ?」
「あの学年主任の先生さ、なんて名前だったっけ?」
 生徒の前でみっともなく怒られているザックスが、やたらと嬉しそうだったから気になった。
「ああ、確か…アンジール・ヒューレー先生だったかな」
「……え」
 なんだ、そうか。
 そう思いながら、大人も色々複雑な想いを抱えているんだな…と思った。

――――――――――――――――――――――――――――――
匣入-はこいりのはこ様から頂きました!!学パロでセフィティえろです!はすはす!
私がとある情報を調べてはこさんに教えた時のお礼としていただきました。恐れ多くもリクエストしちゃいました……!学パロで保健医×生徒と!!
むしろお世話になっているのはこちらの方だというのにっ……!><
自分の気持ちをちゃんと伝えてなくて、セフィロスの気持ちもちゃんと聞いてなくて、なティーダがやきもきするのが激しく萌えですvv
はこさんの書かれるセフィも超男前で好・き(*´д`*)
怪我してるけどセフィに抱きつきたがるティーダとか怪我人に色々致しちゃうセフィとかもう本当私好みに仕上げていただけて感謝感謝です!
はこさん、素敵な小説ありがとうございました〜vv

10.07/25

back/裏展示室TOPへ

  

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル