新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部 仕組まれた戦争



第81話 開戦

「おい、国境付近の状況に変わりは無いか?」 「はい、変わりありません。静かなものです。」 「そうか。何かあったら、知らせてくれ。」 「はっ。」 返事と共に、一人の兵士が部屋を出て行った。部屋に残った男は、立ち上がると窓から砂 漠の広がる外の様子をじっと眺めて呟いた。 「ザナドは元気にやってるかな。もう、半年も会っていないのか。」 その男は、ザナドの叔父だった。ネルフエジプト支部に所属し、現在はイラク国境付近の サウジアラビア領内に設置したネルフの仮設基地で、イラク軍の動きを監視していたのだ。 「おや、あれは何だ?」 男は、窓の外に光るものを見つけた。男が目を凝らして見ると、その正体が明らかになっ た。イラク軍のミサイルだった。ミサイルは、急速に近付いて来る。 「ちくしょうっ!ザナド、頼むぞっ!俺の仇を討ってくれっ!」 それが男の最期の言葉となった。男が言い終わる頃に、部屋にミサイルが飛び込んできて、 大爆発を起こしたのだ。そして、イラクのミサイルが次々と基地を襲い、30分もしないう ちに、その基地はガレキの山となった。 こうしたイラク軍の奇襲は、サウジアラビアの至る所で行われたのだった。 *** 「シンジ!今度の日曜日に、デートしようよ!」 シンジが教室でトウジやケンスケとおしゃべりしていると、マナが教室の中に入ってきて 元気な声で言った。だが、シンジの答えは決まっている。 「ごめん。今度の日曜日は先約があって…。」 「じゃあ、その次!」 「ごめん、駄目なんだ…。」 「その次!」 「ごめん…。」 「んもうっ!いつだったらいいのよっ!」 「いつでも駄目なんだ。ごめんよ、マナ。」 「一回くらい、デートしてくれてもいいでしょっ!別に、惣流さんと別れろなんて、言っ ていないでしょっ!シンジ!そんなに惣流さんが怖いのっ!意気地なしっ!」 マナは次第にヒートアップしてくる。 「そ、そんなことないよ。アスカは優しいし…。」 シンジの言葉に、周りからは忍び笑いが聞こえてくる。 「じゃあ、いいじゃないのよっ!」 マナは、シンジに詰め寄った。だが、シンジの答えは変わらなかった。 「ごめん。でも、駄目なんだ…。」 「シンジのバカッ!」 マナは泣きながら教室から出て行った。 「ごめんよ、マナ。」 シンジはすまなさそうな顔をしたが、トウジとケンスケは笑っている。 「霧島も、あきらめの悪いやっちゃなあ。」 「そうそう。それに、毎朝同じことを言っているんだぜ。良く言うよって、思うけどな。 シンジも悪いんだぜ。変に気を持たせるようなことを言うから。はっきり言えばいいんだ よ。『マナ、めぐり合うのが少し遅かった。僕にはフィアンセがいるんだ。悪いけど、僕 のことは忘れてくれ。』って具合にな。」 「もうっ。人ごとだと思って。酷いよ、二人とも。」 シンジは頬を膨らませる。だが、マナが嘘泣きをしているのに気付いていないシンジだけ に、トウジやケンスケに何を言われてもしょうがないのだが、本人は分かっていない。 「でも、いいよなシンジは。惣流みたいな物凄い美人と婚約したうえに、あんな可愛い女 の子に言い寄られるなんて、羨ましいよ。俺と代わって欲しいよな。」 「そうや、そうや。同感や。ずるいで。」 「って言ってるけど、どう思う?森川さんに洞木さん。」 「「げっ。」」 トウジとケンスケは、真っ青になって後ろを振り向く。 「す〜ず〜は〜ら〜。聞こえたわよ〜っ。」 ヒカリは、目を吊り上げて仁王立ちしていた。 「相田君、今日からただのお友達になりましょうか。」 ユキは対照的に、氷のような笑みをにっこりと浮かべていた。 「か、堪忍やっ。」 「ご、ごめん。本心じゃないんだ。許してくれっ。」 トウジとケンスケは、ペコペコ頭を下げる。そんな光景を見て、アスカはくすりと笑う。 「しょうがないわねえ、アンタ達も。シンジにしてやられるなんて、だらしないわよ。」 「なんだよ、それ。ちょっと酷くない。」 アスカの言いように、シンジは頬を少し膨らます。 「何よ、文句あるって〜の?」 アスカが少し眉を吊り上げる。すると、途端にシンジの勢いが無くなる。借りてきた猫の ようになった。 「いいえ、ありません…。」 「いいのよ〜。マナとデートでもなんでもしてきなさいよ。お互い若いんだから、好き勝 手なことをしてもいいと思うのよねえ。アタシも誰かとデートしようかしらねえ〜。」 「ア、アスカ、僕が悪かったよ。だ、だから、そんなことを言わないでよ。」 シンジの目が潤み、体が震え出す。それを見たアスカは、いつものことながら、呆れてし まう。 (か〜っ、本当に情けない奴ね。でも、あんまりいじめても可哀相か。) 「じゃあ、何を言ったらいいか、分かるでしょ。」 「いいけど、みんなの前で言わなきゃ駄目?」 「あっそ。アタシはその程度の存在なのね。」 「あっ、ごめん。分かったよ。」 シンジは、大きく息を吸った。最近言い慣れたとはいえ、やっぱり恥ずかしい。 「アスカ、他の男となんて、絶対にデートしないでよっ!そんなことしたら、僕、絶対嫌 だよっ!お願いだから、やめてよっ!だって僕、アスカのことを愛してるんだよっ!」 (くっくっくっ。シンジったら、良く言うわねえ。恥ずかしくないのかしら。でも、面白 いからいいか。) アスカは、心の中では笑っていたが、表情には出さない。 「ふうん、しょうがないわねえ。そこまで言うならやめてあげる。」 「ううっ、アスカ、ありがとう。」 シンジは、ほっとした。アスカを怒らせても、いつもこう言えば許してもらえるとはいえ、 やっぱり許してもらえないかもしれないと不安に思っていたのだろう。だが、そんなのど かな雰囲気は一瞬にして崩れた。ネルフ関係者全員に非常招集がかけられたからである。 *** 「なんですって!イラク軍がサウジアラビアに侵攻したですって!」 イラク軍の侵攻を知ったサーシャは、思わず大声をあげてしまった。エヴァのパイロット 達は、研修生も含めて全員ネルフの会議室に集められ、イラクのサウジアラビア侵攻の情 報をマヤから伝えられたところだった。他の研修生達も、騒然となった。 「皆さん、お静かに。話にはまだ続きがあります。」 マヤは、ある程度研修生の騒ぎが収まってから話を続けた。緊急に国連安全保障理事会が 開催されること、そこでイラク軍に対する派兵が決定される見込みであること、その場合、 ネルフに対しても派兵要請が来ると予想されること、状況によってはエヴァの派遣もあり 得ること、それらのことを手短に話していった。 「したがって、皆さんの中にも作戦行動に従事してもらう人が出るかもしれません。研修 スケジュールも近々大幅に変更になると思いますが、それまでは極力現行通りにするつも りです。但し、いつ出撃命令が出されるか分かりませんので、本部パイロット以外は当分 の間、本部で待機願います。今後、新しい情報が入り次第お知らせしますので、今日はこ れで解散とします。以上です。」 それだけ言うと、マヤは一礼して去って行った。 マヤが会議室を出ると、研修生達は再び騒然となった。怯える者、興奮する者、暗くなる 者、様々であったが、今後どうなるのかという話をする者が多かった。。 そんな中、アスカはシンジを従えて会議室を出ようとしたが、サーシャに呼び止められた。 「ねえ、アスカ。ちょっと待ってよ。」 「ごめん。言いたいことは分かるけど、今は急いでいるのよ。アンタの知りたいことは、 『ランス』を使って調べていいわ。だから、話は後にして。」 ランスとは、MAGIと同等の能力を持つコンピュータで、事実上アスカ専用マシンであ った。アスカはそれを使って良いと言ったのだ。これでサーシャの知りたい情報は、かな りの程度分かるはずだった。 「分かったわ。ありがとう。」 サーシャは血相を変えて走って行った。行き先は、技術部副部長室、通称アスカルームで あった。ここの端末だけが『ランス』につながっているのである。 「じゃあ、アタシ達も急ぐわよっ!」 アスカは、シンジと共に走り出した。 *** 「お待たせしましたっ!」 アスカ達は、ネルフ幹部達の集まる会議室に入って行った。 ちょっと広いこの会議室には、冬月副司令、葛城作戦部長、赤木技術部長、マリス広報部 長、真田保安部長、葛城諜報部長、日向作戦部長代行、伊吹技術部長代行らが集まってい た。 これに加えて、ジャッジマン、ウォルフ、ブルー、バレス、レッドウルフらの、傭兵部隊 の代表者も集まっていた。 「これで全員揃ったようだね。では、続きを話すとしよう。おそらく今日開かれる国連安 全保障理事会において、イラクへの派兵とネルフへの派兵要請が決定されるだろう。現在 国連本部へ向かっている碇だが、到着次第派兵要請を受諾する予定だ。そこでだ。これか らの対応を協議したいと思うのだが、何か意見のある者はいるかね。」 冬月の問いかけに、特に反応は無かった。そこで、冬月はリョウジに目配せをし、リョウ ジが作戦案の説明を始めた。 「諜報部長の葛城リョウジだ。では、現時点での作戦概要を説明する。 ご存じの通り平和維持活動軍の大枠だが、基本的な戦力は、エヴァンゲリオンと支部の機 動部隊、本部の機動部隊、それに各国に要請して派遣してもらう地上部隊だ。 今回の作戦においては、エヴァンゲリオンを最初に2体、必要に応じてさらに2体まで出 すつもりだ。 支部の機動部隊だが、当面はエジプト支部の機動部隊を使う。支部の主な機動部隊だが、 エジプト支部はエヴァンゲリオンを配置予定であったため、戦闘機10機、戦闘ヘリ20 機、戦車20両、特殊装甲車30両、地上部隊2個中隊が配備されている。だが、必要に 応じて他支部の機動部隊も投入する。 本部の機動部隊については、レッドアタッカーズ1個中隊、ヴァンテアン1個中隊を投入 する予定だが、投入時期については今後検討したうえで決定する。 また、周辺各国にも地上部隊の派遣を内々に要請している。少なくとも10万人規模の派 兵が行われる見込みだ。 これらの指揮を誰が行うのか、それはこれから国連で話し合われる予定だが、おそらくネ ルフだろうと考えている。これは、エヴァンゲリオンの存在が大きい。どの国もエヴァの 指揮を経験したことはないし、その実力や運用方法も良く知らないはずだ。 最大の戦力を活かせない者に指揮は出来ないし、ネルフとしても機密漏洩やパイロットの 保護などの観点などから、ネルフに一定の指揮権を要求せざるを得ないが、それでは全軍 の指揮に乱れが生じ易い。これらの理由から、ネルフに全軍の指揮権が委ねられるはずだ。 ここまではいいかな?」 リョウジは、いったん話を切って参加者の顔を見渡した。 「さて、これからが本題だ…。」 リョウジは話を続けた。 *** 「ねえ、アスカ。これから一体どうしちゃうんだろう。」 会議が終わって、アスカとシンジはアスカルームに向かう途中だったのだが、シンジが不 安そうにアスカに聞いてきたのだ。 「戦争になるに決まってるでしょ。」 「それは分かるけど、研修生のみんなはどうなるんだろう。」 「半分以上はここに残ると思うけど、何割かは戦場に行くわね。その中で再び生きて会え るのは何人かしらね。」 「やめてよ、アスカ。縁起でもない。」 「はあっ?アンタ、バカァ?戦場に行けば、死人が出るのは当たり前でしょ。」 アスカはそう言って、シンジを冷たい目で見るのだった。 (第81.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  ついに始まってしまった戦争です。アスカとシンジは戦場には行かないようですが、研 修生のうち幾人かは戦場へと向かうことでしょう。果たして、誰が行くのか。そして、ミ サトやリョウジらも戦場へと行くのでしょうか。また、戦争の行方は?第5部からは、再 びシリアスっぽくなりそうです、多分…。 2003.9.17  written by red-x



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