新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部



第82話 パイロット達の作戦会議

「みんな、お待たせっ!」 アスカは、シンジを従えて颯爽とアスカルームへと入って行った。そこには、サーシャ達 ミラクル5のメンバー、トウジ達本部パイロット、それにミリア達サグのメンバー、それ にハウレーンらが待ち構えていた。 「どうだったの、会議の結果は?」 最初に口を開いたのはマリアだった。それに対して、アスカはため息をついた。 「会議で決まったのは、平和維持活動軍の大枠だけよ。そもそも、国連安保理での決議が 遅れているらしいのよ。まあ、それは時間の問題らしいんだけど。問題なのは、各国の思 惑が違っていることかしらね。」 「それのどこが問題なの?」 横からシンジが口を出すが、アスカは呆れた口調で言葉を返す。 「あのねえ、シンジ。少し頭を使いなさいよ。戦争なんだから、より多くの、より質の高 い戦力を投入した方が勝利の可能性が高いでしょ。それなのに、各国が戦力の提供を渋っ たら、勝てる戦いも勝てなくなるわ。」 「そ、それってまずいよね。」 シンジの顔が少し青くなる。 「だから、困ってるんでしょうが。」 アスカの頬が膨らむ。 「でも、アスカ。それじゃあ作戦の立てようがないじゃない。何でここにみんなを集めた の?」 「あのねえ、そんなこと言って手をこまねいていたら、大勢の罪のない人達が次々に犠牲 になっていくのよ。そうならないように、どうしたらいいのか考えないといけないいのよ。 アンタ、分かってるの?」 「う、うん。ごめん。」 アスカにやり込められて、シンジは俯いてしまった。 「まあ、いいわ。そういうことだから、アタシ達だけでも準備を進めるわよ。エヴァの出 撃が決まり次第、いつでも動けるようにね。良いわね?」 アスカの言葉に、その場の全員が頷いた。もちろん、サーシャは誰よりも強く頷いた。 「じゃあ、アタシの考えを最初に言うわね。」 アスカは、自分の立てた作戦を説明していった。ちなみに、現在の正パイロット候補は、 以下のとおりである。 支部のエヴァンゲリオン部隊の隊長:ハウレーン 中国支部のエヴァの正パイロット候補  :ミンメイ ドイツ支部のエヴァの正パイロット候補 :マリア アメリカ支部のエヴァの正パイロット候補:キャシー ブラジル支部のエヴァの正パイロット候補:ミリア エジプト支部のエヴァの正パイロット候補:サーシャ フランス支部のエヴァの正パイロット候補:ハウレーン このうち、この場にはキャシーを除く全員、ミンメイ、マリア、ミリア、サーシャ、ハウ レーンの5人がいた。 「今回出撃予定のエヴァは、最大で4体よ。エジプト支部、フランス支部、アメリカ支部、 中国支部に配備予定のエヴァよ、いいわね。最初に肝心のエヴァ部隊の隊長なんだけど、 ハウレーンにお願いするわ。」 「分かった。」 ハウレーンは頷く。 「最初に出撃するのは、ハウレーンとサーシャにお願いするわ。二人の役割は重要よ。」 「ええ、分かったわ。」 サーシャは、先程に続いて強く頷く。 「ハウレーンは、傭兵部隊の指揮もお願いするわね。」 「ああ。」 「そして、戦況を見ながらだけど、ミンメイとアリオスを投入するわ。キャシーは、エヴ ァには乗らずに、傭兵部隊の指揮をとることになるわ。」 「りょ〜かい。」 ミンメイも頷く。 「マリアとミリアは留守番ね。でも、どんなことが起きるか分からないから、いつでも出 撃出来るように、準備だけは整えておいてね。」 「いいわよ。」 「了解した。」 マリアとミリアは、揃って頷く。 「で、アタシの考えている今回のエヴァの役割は2つ。国連軍の重要拠点の防衛と、敵重 要拠点の攻略よ。その辺は心得ておいて。だから、パイロットも一人じゃ足りないわね。 1体のエヴァに対して、交代要員も含めて最低3人は必要になるわ。えっと、最初はサー シャに聞くわね。一緒に行くパイロットは誰がいい?」 「そうねえ、ザナドは決まりね。もう一人はイリスがいいけど、全員エジプト支部ってい うのはまずいわよね。」 「そんなことないわよ。じゃあ、その3人に決まりね。でも、3人で大丈夫なの?」 「う〜ん、そう言われるともう一人欲しいかも。インドネシア支部のクリスティンにしよ うかしら。」 「クリスティンね。いいわよ。」 (ちょっと気に食わないけど、まあいいか。) クリスティンにはシンジを襲おうとした前科があったので、アスカは気に入らなかったが、 かえってシンジから遠ざけた方が得策と考え直した。 「じゃあ、ハウレーンはどうなの?」 「私は誰でもいい。特にいないので任せる。」 「それじゃあ、アニー、イライザ、エカテリーナの3人にするわね。」 「ああ、構わない。」 「それでっと、次はミンメイだけど、どうする?」 「そうねえ。同じ中国支部のフェイがいいわね。後は、インド支部のラシッドとカリシュ マかしらね。」 「分かったわ。で、アールコート達なんだけど、特別に5人にするわ。アリオスとキャシ ーに加えて、テリーとニールよ。でも、キャシーはエヴァには乗らないで、傭兵部隊の指 揮に専念してもらうから、実質は4人だけどね。アールコートからアリオスとキャシーに は伝えておいてね。」 「はい、分かりました。」 こうして、出撃する研修生は次の通り、9支部17人となった。 エジプト支部:サーシャ、ザナド、イリス インドネシア支部:クリスティン フランス支部:ハウレーン イギリス支部:アニー、イライザ ロシア支部:エカテリーナ 中国支部:リン・ミンメイ、フェイ インド支部:ラシッド、カリシュマ アメリカ支部:アリオス、アールコート アメリカ第3支部:キャシー、テリー、ニール 出撃するメンバーが決まると、次は本部の体制の話しに移った。 「それから、本部の体制なんだけど、テロの危険があるから警戒を強めるわ。パイロット は、第3の外には出ないようにしてちょうだい。マリア、シンジ、渚の3人は交代でいつ でも出撃出来る体制を維持すること。」 「ええ。」 「うん、分かったよ。」 「承知したよ。」 「鈴原、相田、ミリア、マックスも、交代でいつでも出撃出来るように待機体制を維持し てもらうわ。」 「おう。」 「うん。」 「了解した。」 「ミリアは、マックスにその旨伝えてちょうだい。」 「了解した。」 「それじゃあ、各自急いで準備にかかって。それと、シンジ、ミンメイ、ミリア、マリア、 サーシャはここに残って。」 アスカの言葉に全員頷き、残るように言われたメンバー以外は部屋を出た。 「さあて、アンタ達は情報戦もお願いするわね。イラク軍の情報を残らず探るのよ。でも、 サーシャとミンメイは出撃する予定だから、マリアとミリアの二人が中心になってやって ちょうだいね。」 「ええ、もちろんよ。」 「了解した。」 「サーシャとミンメイも、時間があれば手伝ってちょうだい。」 「もちろん。」 「分かってるわ。」 「それじゃあ、ミラクル5の活動開始よ。」 「「「「OK、Boss!」」」」 明るく返事をすると、マリア達はスーパーコンピュータ、ランスの端末を操作し、作業に とりかかった。 *** 「わが国は、軍事行動には反対です。話し合いによって解決しようではありませんか。」 「もはや、そんなことを言っている場合ではない。早く行動を起こさないと、大勢の人命 が失われるのだ。」 「ふん、そんなこと言って、本音は新兵器の実験をする気ではないんですかね。」 「何ですとっ!失敬なっ!」 その頃、国連では不毛な言い争いが続いていた。アメリカ、イギリスがイラクへの侵攻を 主張するのに対して、ドイツ、フランス、ロシアは慎重な対応を主張し、議論が進まなか ったのだ。 表向きは平和的な外交交渉による解決を主張していたこれらの国々だったが、その実情は 呆れたものだった。ドイツの幾つかの企業がイラクに化学兵器の技術支援をしていたし、 フランスの企業とロシアの企業はイラクに大量の武器を売りつけていたのだった。 だからイラクが戦争に負けるとそれらの企業は大きな痛手を受ける。そのため、各々の政 府に強い圧力をかけていたのだ。それがイラクへの侵攻を反対する真の理由だったのだ。 だが、その流れを変えるため、ゲンドウは今年の4月頃から半年にわたって各種の工作を 行っていた。その成果がここにきて現れた。 「わが国は、イラク侵攻に賛成です。」 突然、スペインの代表が立ち上がった。そして、国連事務総長の隣に座っていたゲンドウ に向かってこう言った。 「ですから、わが国の軍隊とエヴァとで共同してイラクに攻め入ろうではありませんか。 そして、ゆくゆくはわが国にエヴァンゲリオンの配備をお願いしたい。」 「いや、それはわが国にっ!」 今度はイタリアの代表が立ち上がった。 「わが国もですぞっ!」 「ならば、わが国もっ!」 次はポーランドの代表とウクライナの代表が同時に立ち上がった。 「ほう、それは頼もしいですな。是非、前向きに検討いたしましょう。ヨーロッパの支部 の統合移転を丁度検討していたところです。ドイツからイタリアへ、フランスからスペイ ンへ、ロシアからポーランド又はウクライナへ、それぞれ支部の移転も考えましょう。」 ゲンドウがにやりと笑って言うと、ドイツ、フランス、ロシアの各代表の顔は蒼白になっ た。特にドイツ代表は、自国からネルフの支部が移転するなど、微塵も考えていなかった ため、一際動揺が大きかったようだ。 「こ、ここらで一時休憩を提案したい。」 ドイツ代表は休憩の提案が認められると、早足で退場して本国と連絡をとり、その指示を 仰いだ。フランス、ロシアも同様の行動を取ったのである。 *** 「…という訳で、ネルフは支部の移転も検討していると申しておりますが、いかがいたし ましょう。」 「そうか、ネルフはそう出たか。ゲンドウめ、エヴァを握っているからと、いい気になり おって。」 「は、はあっ。何とも悔しいですが。」 「だが、やむを得ん。他国にエヴァを配備されると後々何かと厄介になるし、失う物が大 き過ぎる。今回はイラク侵攻に賛成するしかなかろう。」 「はい、分かりました。そのようにいたします。」 ドイツの代表は、本国の責任者に連絡を取り、イラク侵攻に賛成へと回ることになった。 だが、ドイツの代表者には知る由が無かったのだが、ニヤニヤ笑っている本国の責任者の 手には、アスカの生写真が握られていた。 *** 「…という訳で、わが国はイラクへの侵攻については反対です。ですが、サウジアラビア 国民を助けるために軍隊を送ることには賛成いたしましょう。いかにお考えですかな。」 会議が再開されて、最初にトルコからゲンドウに質問が出た。 「攻撃は最大の防御だ。だから、イラクを直接叩く必要がある。」 ゲンドウの答えに、トルコの代表は苦笑した。 「あなたの言うことは正しいかもしれません。ですが、同じイスラム国家を攻めるとなる と、我々の民衆が黙っていません。その事情を考慮していただけると助かるのですが。そ うしていただければ、他のイスラム国家も賛同しましょう。我々も、そのための力添えを いたしましょう。」 その答えに、一瞬ゲンドウは迷ったが、結局より多くの国の賛同を得ることを優先させた。 「分かりました。まずは、サウジアラビアの民衆を助けましょう。」 その後、サウジアラビアへ国連軍を派遣する決議案が提出され、賛成多数で可決された。 こうして、国連軍のサウジアラビアへの派兵と、国連軍の指揮をネルフが行うことが決定 した。 *** 「よお、アスカ。作戦会議はどうだった?」 アスカルームに、ぶらりとリョウジがやって来た。 「もちろん、万事抜かりなしよ。みんなでイラク軍の情報収集をしているわ。」 「そうか。いい知らせと悪い知らせの両方だ。どっちを先に聞きたい?」 「いい知らせは、ようやく国連軍の派兵が決まったこと。悪い知らせは、イラクへの侵攻 が認められなかったこと。そうでしょ、加持さん?」 「はははっ、やっぱりアスカにはお見通しか。」 「まあ、イラクへの直接攻撃が認められるとは思っていなかったけどさ。やっぱり、ほん のちょっとは期待していたのよねえ。」 実は、アスカは2通りの作戦を立てていた。 本命の作戦は、イラクの心臓部を直接叩き、イラク軍の指揮命令系統を目茶苦茶にしてか らサウジアラビアに侵攻したイラク軍を蹴散らすというものだった。この場合、エヴァは 重要拠点の攻略に用いられる予定だった。 だが、この作戦は政治的に認められる可能性がかなり低いという欠点があり、次善の策と して、エヴァで拠点防衛をしつつ、イラク軍を撃退するという作戦が考えられた。 ところが、次善の策ではイラク軍は自国領内では自由に活動でき、しかも補給も楽に出来 ることから、ネルフは相対的にかなり不利になると考えられるため、アスカは本命の作戦 の実行を強くゲンドウに申し入れていたのだ。 ゲンドウも手は尽くすとは言ってくれたのだが、やはり力及ばずイラクへの直接攻撃は認 められなかったらしい。今後も難しそうである。 「仕方ないわね。やれるだけやるしかないわね。」 アスカはそう言いながらも、既に幾つかの作戦案を考えていた。 (第82.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  ようやく研修生達は実戦に参加することになりました。果たして、どんな活躍を見せて くれるのでしょうか。 2003.10.12  written by red-x



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