新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第72話 戦争の影 後編

「シンジは行かないわよ。アタシが反対するから。シンジはアタシの言うことなら、何で も聞くもの。」 それを聞いて、シンジの顔がぱっと明るくなった。 「えっ、行かなくても良いの?」 「そうじゃないわよ。行っちゃ駄目なの。アンタは、ここで本部を守らなくちゃ。」 「そ、そうだよね。僕もそれがいいと思う。」 シンジは、満足そうな笑みを浮かべた。それを見て、リョウジは苦笑しながら続けた。 「おそらく、碇司令も同じ考えだろう。シンジ君一人では本部を守るのに不安があるから、 シンジ君だけではなく、他の本部パイロットも本部からは出さないだろう。そうなると、 今はイラクに立ち向かえるエヴァが無いことになる。 では、研修生達はどうか?これも駄目だ。ATフィールドを張れないパイロットでは、正 直言ってエヴァが単なる的になる可能性がある。 おそらく、イラクもそのことに気付いたのだろう。だから、半年以内に準備を整えて、サ ウジアラビアへ侵攻するだろう。 だが、エヴァのいない国連軍が苦戦するのは間違いない。各国の軍隊の寄せ集めだし、勝 てるかどうか分からない戦争に、精鋭部隊を出す国もないだろう。最悪の場合、国連軍は 敗北し、中東はイラク一国になってしまう。」 そこで、今まで黙っていたサーシャが口を開いた。 「な、何とかならないんですか。パイロットなら私もいますし、ザナドもいます。私なら、 命を捨てても構いません。祖国を侵略から守るためにも、戦いたいんです。」 「いや、駄目だな。君は良くても、ネルフとしてはエヴァは出せない。エヴァは建造費も バカ高く、貴重なんだ。簡単に壊してしまう訳にはいかないんだ。」 「じゃあ、イラクの侵略を黙って見ていろって言うんですか。」 「そうは言っていない。だが、今のままではエヴァは出せない。それに、イラクが侵略戦 争を始めたら、国連軍が出動するさ。簡単にイラクの侵略が成功するとは限らない。」 「じゃあ、イラクに先制攻撃を仕掛けて下さい。フセイン政権を、今すぐにでも倒して下 さい。」 「おいおい、無茶を言うなよ。仮にもイラクは主権国家なんだぞ。簡単に先制攻撃なんて 出来ないさ。侵略戦争を始めようっていう、確かな証拠が無い限りな。」 「でも、イラクはクウェートに攻め入った過去があります。それを理由に攻めたらどうで すか。」 「それは無理だな。バレンタイン休戦臨時条約は知っているだろう。」 「でも、湾岸戦争は、まだ決着が着いていないんですよ。ザナドの叔母さんにクウェート 人と結婚した人がいますが、夫をイラク軍に拉致されて、返してもらっていないんです。 その叔母さんは、毎日、毎日、アッラーの神にフセイン政権の打倒をお祈りしていると聞 いています。そんな人も多いんですよ。」 「そういう人がいるのは知っている。可哀相だと思うし、同情するよ。だが、それを理由 に戦争は始められない。 バレンタイン休戦臨時条約が締結される前だったら、その理由でも良かったかもしれない。 クウェートがイラクに拉致されたクウェート人の奪還を理由に停戦条約を破棄して、クウ ェート軍とそれを支援する軍隊がイラクに攻め入るという筋書きが考えられなかった訳じ ゃない。 だが、その件は一度決着が着いているんだ。一度決着が着いたことを蒸し返すことは無理 だな。欧米各国の反戦家も、激しく反対するだろう。」 「その叔母さんは、言ってました。欧米の反戦家は、フセイン政権の存続を手助けしてい る。彼らは偽善者だ、罪無き弱者の存在に目を瞑って、自己満足のために反戦を叫んで自 己陶酔しているだけだって。まさに、神の名を騙る、悪魔の化身だって。出来るなら、反 戦家を皆殺しにしてやりたいって。あなたも、そんな反戦家と一緒なんですか?」 「おいおい、そう興奮するなよ。確かに、君の言う通りの反戦家も多い。何も考えずに、 反戦だけを叫ぶ愚か者も確かにいる、それは事実だ。それに、反戦を主張する者にも色々 いる。 反米主義者、アメリカが始める戦争は全て悪だと言う人もいる。 反ユダヤ主義者、イスラエルが嫌いだから、イラクに攻めるのは反対と言う人もいる。 武器商人、イラクがお得意さんだから、イラクに攻めるのは反対と言う人もいる。 軍拡主義者、強大な軍事力を持って、アメリカに対抗しようと言う人もいる。 懐古主義者、第三帝国や大日本帝国の夢よ再びと言う人もいる。 感情的反戦家、とにかく戦争で人が死ぬのは嫌と言う人もいる。 いずれにも共通するのが、イラク帝国の元でどんなに弱者が虐げられていても、確証が無 いとか、アメリカの情報操作だとか言って、フセイン政権で大勢の弱者が死に至っている 事実を認めないことだ。 イランに攻め入って数十万のイラン人を殺害し、多くのクルド人を弾圧・虐殺し、クウェ ートを侵略して大勢の人命を奪い、反体制を弾圧・虐殺したという事実があり、湾岸戦争 後推定100万人の死者が出ているというユニセフの報告書もあるのにだ。 イラク帝国が出来た時や、それ以降は、さらに多くの犠牲者が出ているだろう。 だが、誤解してはならないことだが、反戦家は人道主義者ではない。自己の利益や欲求を 追求しているだけなんだ。人道主義を掲げる反戦家がいれば、それは確かに偽善者だろう。 だが、そう多くはいないはずだ。 それに、反戦家にも色々いて、おかしなことを言う人も多い。だが、仮に戦争に反対する 人が全ておかしいことを言っているからといって、戦争が正しいということにはならない。 それに、戦争というのは、感情で始めるのは危険だし、実際に戦場に行く兵士だって不死 身じゃない。必ず死人が出る。正当な理由も無しに攻め入るのは、兵士の士気にも関わる し、そうそう簡単に出来るもんじゃない。 特に、実際に兵士を出す国だと、自分の家族を戦争に出したくないと言う人も多い。他国 で数千万の人が死のうとも、家族一人には代えられないと言う人を責めるのは酷だろう。」 「でも、でも…。」 「それにな、ネルフは対使徒専門機関だ。人間相手に戦争をする軍隊じゃないし、国連の 下部機関だから、戦争を始める権限もない。事実上、イラクに攻め入ることが出来るのは、 国連か、アメリカか、周辺の国家だろう。戦争を始めるように頼むなら、そこにするんだ ろうな。」 「そ、そんな、私なんかの意見なんか、聞いてくれる訳ないじゃないですか。あっ、でも、 アスカなら、アスカの意見なら聞いてくれるかも。ねえ、アスカ。一生のお願い。国連で もアメリカでもいいから、イラクに戦争を仕掛ける様に頼んで。お願いよ。スーパーアイ ドルのあなたの頼みなら、きっと国連やアメリカも前向きに検討してくれるに違いないわ。」 「ちょっと、冗談でしょ。アタシは嫌よ。」 (なっ、なんでアタシに振ってくるのよ。) アスカは露骨に嫌な顔をした。 「あなたは他人事だからいいでしょうけど、私やザナドにとっては大事なことなのよ。ア スカだって、イラクの周辺にお母さんが住んでいたら、同じことを言えるの?」 「ええ、言えるわよ。」 「もし、お母さんがイラク軍に殺されたら、それでも戦争に反対する?」 「反対はしないわ。でも、他国をけしかけて戦争を起こそうとは思わないわ。」 (その時は、自分一人でも戦争を起こすわね、きっと。) 「実際に起きてもそんなことを言えるのかしら。私には奇麗事に思えるわ。」 「どう思ってもらっても良いわよ。それに、エヴァは基本的には防衛兵器よ。こっちから 攻めるのは不利なのよ。」 「じゃあ、碇君がイラク軍に殺されても同じことが言えるの?仕返ししようとは思わない の?それとも、ザナドの叔母さんのように、毎日毎日、20年以上も神に祈るの?」 「別に、アタシはシンジが死のうが、どうなろうが、気にしないわ。でも、シンジは本部 を守るべきパイロットだから、戦争なんかには行かせないわ。」 「もう、いいわ。アスカがそんなに冷たいとは思わなかったわ。」 サーシャの目には、大粒の涙が浮かんだ。それを見て、アスカはちょっと言いすぎたかな と思い、優しい口調で言った。 「ちょっと待ちなさいよね。別に、何もしないとは言ってないじゃない。アンタがその気 になれば、いくらでも出来ることはあるでしょ?イラク軍の機密データを盗むとか、戦争 が起きた時にイラクのコンピュータを狂わせるとか。」 「ええっ、協力してくれるの?」 暗く沈んだサーシャの顔が、アスカの一言でぱっと明るくなった。 「そりゃあ、そうよ。仲間だもの。でもね、アンタはATフィールドを発生出来る様にな るまで訓練しなさいよね。そうすれば、アタシが碇司令に掛け合って、万一の場合、エヴ ァの出撃許可をもらうわ。」 「ア、アスカ…。本当に?」 「ええ、アタシも祖国を守りたいっていうサーシャの気持ちは分かるから。でも、ATフ ィールドを発生出来る様になるのが最低条件よ。そうじゃないと、アンタが無駄に死ぬだ けだから。」 「ア、アスカ…。ごめんね。酷いこと言って。」 「いいってことよ。アタシ達、仲間でしょ。でも、アンタの仲間はアタシだけじゃない、 そうよね。」 アスカは、そう言って周りを見渡した。 「ええ、私もお手伝いするわ。」 マリアが最初に口を開いた。 「私も協力するわ。」 次は、ミンメイだった。 「私もだ。」 次はミリア。 「俺も、協力するよ。もちろん、作戦部長や技術部長もな。アスカの頼みじゃ、断れない しな。」 とリョウジが言い、ミサトとリツコが頷いた。 「ワイも協力したるで。」 「僕も協力するよ。」 「僕に出来ることはあるかい?」 「俺も、軍事情報なら任しておけよ。」 こうして、その場の全員がサーシャに協力の意思を表明した。 「ありがとう、本当にありがとう…。」 サーシャは、再び涙を流すのだった。 ***  一方、家に帰った後、アスカとシンジは少し気まずい雰囲気になっていた。アスカは、 『アタシはシンジが死のうが、どうなろうが、気にしないわ。』と言ってしまったため、 シンジが気にしていないかどうかが心配だったのだ。 「あのさ、シンジ。さっき、アタシが言ったこと、本心じゃないからね。」 「えっ、どのこと?」 「『アタシはシンジが死のうが、どうなろうが、気にしないわ。』って言ったじゃない。 あれは、勢いで言っちゃったことで、本心じゃないのよ。」 「うん、分かってるよ。だって、アスカは、僕が不良高校生に襲われて怪我した時に、物 凄く心配してくれたじゃないか。そんなアスカが、あんなことを本気で言うなんて、思わ ないよ。」 「そ、そう。シンジにしちゃあ、良く分かっているじゃない。」 そう言いながらも、アスカはほっとした。 「分かるよ、だって、アスカは本当はとっても優しいもの。」 「何よ〜っ。誉めても、何も出ないからね。」 「別にいいよ。でも、僕が心配だったのは、アスカに逃げずに戦えって言われることだっ たんだ。もし、そう言われたらどうしようかと思って、悩んじゃったんだ。」 「あのねえ、襲いかかってくる敵に対しては逃げずに戦えって言うけど、こっちから戦い を仕掛けるのは別よ。嫌なら戦わなくてもいいのよ。」 「そうだよね。でも、サーシャさんの言うこともよく分かったんだ。もし、家族が向こう にいたら、心配でたまらなくなるだろうから。」 「そうねえ。でもね、戦争って、簡単に起こせるものじゃないのよね。それにね、シンジ。 もし、イラク政府が100万の人を殺すって分かったら、シンジは戦う?」 「そ、それは、多分戦わないと思う。」 「それは何で?」 「だって、助かる人もいるけど、僕が殺しちゃう人もでるでしょ。そんなの嫌だよ。」 「そうね、それは人として自然な反応かもね。でも、それを臆病と呼ぶ人もいるわ。卑怯 ともね。助けられる人を、なぜ助けないのかって。」 「そ、そんなこと言われても、僕には分からないよ。」 「そうね、その通りよ。何が正しいのか、分からないわ。だから、戦争って難しいのよ。」 アスカは、とりあえずシンジが落ち込んでいないことを知って、安堵した。 (第72.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  アスカは現実主義者ですから、純粋に軍事的な有利不利を考えて、先制攻撃に反対しま した。もちろん、シンジは戦争に行くこと自体が嫌です。  ちなみに、イラク戦争に反対する人の意見がライコスの掲示板にたくさん載っていたの ですが、そこに今回の反戦家の例として挙げた、反米主義者、反ユダヤ主義者、武器商人、 軍拡主義者、懐古主義者、感情的反戦家、などがいました。  ですが、匿名の掲示板なので、実際にはあらしの意見である可能性もある訳で、また、 戦争に賛成する人が、訳の分からない理由で反戦を主張して、反戦家を陥れようとした可 能性もある訳です。  イラク戦争に関心を持っている人は、一度見てみたらいいでしょう。掲示板への書き込 みは出来なくなっていますが、閲覧は可能です。  なお、今回のイラク戦争では、英米軍に限って言えば、味方に殺された人の多いこと。 もし、シンジが軍隊と一緒に戦ったら、早々に壊れてしまったでしょう。シンジが乗って いるかぎり、エヴァと軍隊との共同作戦は難しいんですね。  軍隊とエヴァが共同作戦をとるSSもりますが、リアルな感じでいて、実は軍事行動に 伴う死者が出ないという虚構の上に成り立っているということが良く分かりました。   2003.4.28  written by red-x



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