新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
第35話 ヒカリの誕生日
「ヒカリ,誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
アスカの合図で,みんなは一斉に大きな声でヒカリの誕生日を祝った。クラッカーがポン,
ポンと良い音を立てながら飛び散り,まさに誕生会と言った雰囲気をかもし出している。
今日は2月18日の木曜日。前の日からユキとケンスケが中心となって準備をして,学校
が終わると,皆一目散に帰ってきて,ヒカリの誕生日会に突入したのだ。
ヒカリとアスカ以外の参加メンバーは,ノゾミとコダマの姉妹に,ユキとその弟妹,トウ
ジと妹,シンジにケンスケにカヲル,それにリツコとミサト,さらには転校生のマリア,
ミリア,キャシー,マックスとアリオス,それにB組の転校生アールコートがエヴァのパ
イロット候補であることから呼ばれて,総勢20人だった。
残念ながら,ハウレーンは入院しているため,来ることが出来なかった。その代わりにア
ールコートが急遽呼ばれたのだ。もっとも,ヒカリが心配しないように,適当な理由で誤
魔化しておいたが。それにしても,大人数になった。
アスカは,この日のために,日曜日から火曜日までの3日間,ミサトの家を大規模に改造
し,大勢の人間が入っても大丈夫なように,リビングを大きく広げていたのだ。
アスカ曰く,シンジに太陽の当たる部屋を用意したかったのも大きな理由とのことだった
が,この改造によって一番得をしたのがアスカであるため,説得力は今一つであったが,
それでも大勢の人間が一同に会せるようになったのは好ましいことと言えるだろう。
その広くなった部屋には,テーブルが5つ繋げて並べられ,その上にはジュースや料理が
山のように並んでいた。
ジュースは,オレンジ,アップル,グレープの3種類に,炭酸飲料も3種類ほど。料理は
ユキが作った料理に加えて,かっぱえびせんやポテトチップ,チョコレート菓子などが並
んでいた。
「さあ,みんなでヒカリにプレゼントよ!」
アスカの合図によって,次々とヒカリにプレゼントが渡された。
「ありがとう。みんな,ありがとう。」
ヒカリはプレゼントを受け取るたびに笑顔で礼を言う。たちまちヒカリの腕の中は,プレ
ゼントで一杯になった。
「さあて,最初のメインイベントは終わったわ。次のイベントが来るまで,お腹一杯にし
ましょう!」
その声を合図に,特にトウジが目の色を変えて食べ始めた。それを見たアリオスらも負け
じと食べ始め,ミサトも負けずにビールを飲み出した。
「あ〜あ,がっついちゃって,しょうがないわねえ。」
アスカは呆れたが,ヒカリは慌ててフォローした。
「す,鈴原って,本当に美味しそうに食べるのよね。私は嬉しいけどな。」
「はいはい,ごちそうさま。」
「なによっ,アスカの方こそごちそうさまでしょ。」
「ど,どこがよ。」
「鈴原から聞いているわよ。碇君は嘘がつけない性格なんですってね。」
「な,なによっ。それがどうしたのよ。」
「碇君て,『毎朝3回キスしてるんやろ。』って聞くと,『1回だけだよっ。』って答え
るし,『惣流の右胸ばかり揉んでるんやろ。』って聞くと,『左右同じ位だよっ。』って
言うらしいわ。」
「あ,あわわっ。あのバカ。」
アスカの顔は,真っ赤になっていく。
「あら,まだ言って欲しいの。まだまだ続きはあるのよ。」
ヒカリはニヤリと笑う。
ふと気付くと,ユキとマリアがニコニコしながらアスカを見ていた。期待に胸を膨らませ
て。
「ヒカリ,それが恩人に言う言葉なの?」
だが,アスカも直ぐに気を取り直したようだ。ヒカリとトウジの仲を取り持ったことを暗
に指して,ヒカリを黙らせようとする。
「わ,分かってるわよっ。感謝してるって。」
さすがに,ヒカリも言い過ぎたと思ったらしい。直ぐに話題を変えることにした。
それを聞いて,期待に胸を膨らませていたユキとマリアは,がっくりと肩を落した。
さて,今この場では,5つのグループが出来ていた。シンジ,トウジ,ケンスケ,カヲル,
アリオス,マックスの男の子グループ,ミサト,リツコ,コダマの年長者グループ,アス
カ,ヒカリ,ユキ,マリアのグループ,ミリア,キャシー,アールコートのグループ,そ
しておちびちゃん達のグループである。
アスカがふと見ると,ミリア達のグループは話が弾んでいないようだ。無口のミリアに,
大人しいアールコートが一緒では,致し方無いといったところか。アスカはすっくと立ち
上がった。
「は〜い,皆聞いて。これから,相田と鈴原の漫才が始まるわよ。皆はくしゅう〜っ。」
それを聞いて,みなヤンヤヤンヤと拍手する。それを合図にケンスケとトウジが腰を上げ
た。今回は,ヒカリの誕生日とあって,トウジも気合が入っており,練習もしている。二
人は,部屋のはしの臨時ステージ−と言ってもビニールシートが敷いてあるだけだが−の
上に立った。
「これから,似非(えせ)関西人,鈴原トウジと。」
「相方の相田ケンスケの。」
「「漫才のはじまり,はじまり〜っ。」」
こうして,二人は得意の?漫才を始めた。トウジらしいどつき漫才で,ボケ役のケンスケ
との絶妙なコンビネーションが,皆の拍手喝采を浴びるのだった。
「さ〜て,お次は転校生による,踊りと歌よ〜っ。」
次は,マリア,ミリア,キャシー,アールコートの4人組による,歌と踊りだった。4人
とも,ミニスカートにフレンチシャツという出で立ちで,英語のヒット曲をメドレーで歌
いながら,プロ顔負けの素晴らしい踊りをみせたのである。
特にミリアは,キツイ顔とは対照的に,ブラジル出身らしい情熱的な踊りだったので,男
の子達は大喜びだった。女の子達も,ミリアの踊りが情熱的ではあるが,いやらしさをあ
まり感じさせないものだったため,十分に楽しめたのである。
「は〜い,お次は寸劇よっ。」
次は,桃太郎をアレンジした寸劇だった。
「むか〜し,むか〜し,おじいさんが山に芝刈りに,おばあさんが川に洗濯しに行ったと
ころ,川の上流から,大きな大きなタマゴが流れてきました。おじいさんがそのタマゴを
家に持ち帰って割ると,中から出てきたのは,美少女戦士,セーラーユキでした。」
その声と同時に,張りぼてのタマゴを割って,セーラー服を着たユキが現れた。何故か,
額には黄金色に輝く長いハチマキが巻かれている。顔は何故か真っ赤だ。おそらく恥ずか
しいのだろう。まあ,こんなことを人前で恥ずかし気なく出来る方が珍しいかもしれない。
なお,語り部はケンスケだ。
「おじいさんとおばあさんは,セーラーユキに,悪の鬼退治をするように頼みました。そ
して,旅の途中で,きび団子と引き換えに,エヴァ初号機,エヴァ弍号機,エヴァ参号機
を家来にしました。」
それぞれ,シンジ,アスカ,トウジがプラグスーツを着て,顔にエヴァの仮面を被っただ
けの姿で現れた。ただそれだけだったが,皆には大受けした。
「こうして,鬼ケ島の鬼退治に出かけたのです。鬼ケ島には,赤鬼と青鬼がいましたが,
セーラーユキとエヴァは,鬼を相手に勇敢に戦いました。」
赤鬼は,酒を飲んで真っ赤になったミサトが,青鬼は仮面を被ったリツコが扮した。そし
て,ちゃんちゃんばらばらと,戦う真似事をして,エヴァにやられてしまった。それを見
ていた子供達には大受けで,大笑いしていた。
「こうして,セーラーユキとエヴァによって,鬼は退治されました。」
その声に合せて,アスカがミサトの尻を踏んづけた。
「こうして,鬼退治に成功したセーラーユキは,次のもっと悪い敵,ゼーレを倒しに旅に
出ました。」
最後は,何故かアスカが先頭に立ち,全員で右手を握りしめ,拳を高く掲げて『ゼーレを
倒すぞ〜っ。えいえいお〜っ!』と揃って叫んで終わった。
こんな調子で,代わる代わるステージに立って,漫才をしたり,歌を披露したり,かくし
芸を披露したりして,盛り上がっていったのである。さらに,途中からはワインが出され
たこともあり,異様な盛り上がりをみせたのである。
夜の8時頃になると,おちびちゃん達は家に帰された。そうなると,今度は大カラオケ大
会となった。歌の得意な者は一人で,不得意な者はアスカやヒカリと一緒に歌ったり,デ
ュエットをしたりして,必ず歌わされた。
もちろん,ヒカリとトウジのデュエットが行われたのはお約束であるが,アスカとシンジ
というペアはもちろんのこと,ユキとケンスケ,ミリアとマックスも歌わされ,嫌がるリ
ツコはアスカが一緒に歌い,その他の者もアスカが強引にペアを指名して歌わせたのであ
る。
こうして,カラオケ大会は夜中まで続けられた。なお,10時を過ぎた頃には,加持やマ
コトも参加し,それぞれミサトやリツコとデュエットをアスカに強制されたのは言うまで
もない。
11時を過ぎると,さすがにカラオケを歌う者はいなくなり,幾つかのグループに別れて
ワイワイとおしゃべりをするようになった。そんな中,アスカは女子転校生達を集めた。
「皆にお願いがあるの。実はね…。」
そうしてアスカは,皆の耳の傍でヒソヒソ話しをした。
それから30分後,急にアスカが立ち上がった。
「さあて,これからヒカリに最後のプレゼントを上げたいと思います。渡すのは,鈴原君
で〜す。立ってくださ〜い。」
それを聞いたトウジは,けげんそうな顔をしながら立ち上がった。
「はい,ヒカリの傍に行って。」
トウジはアスカによって,ヒカリの傍へと連れて来られた。
「さて,皆さん。鈴原君からヒカリに渡すプレゼントは,何が良いと思いますか。」
アスカが問いかけると同時に,転校生達が次々と声を発した。
「キスがいいで〜す。」
「そうで〜す。」
「さんせ〜い。」
それを聞いたトウジは真っ赤になる。
「さて,それじゃあ,リクエストもあったことだし,皆で鈴原君にお願いしましょう。せ
〜の,キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」
アスカの合図により,皆も声を合わせて言い出した。
「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」
「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」
「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」
「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」
「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」
「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」
徐々にヒカリは真っ赤になり,トウジも同じように真っ赤になった。
「おい,すずはら〜。アンタ,男でしょ。早くしないと,ヒカリの誕生日が終わっちゃう
じゃない。男らしく,さっさとやりなさいよ。」
皆に責められて,心を決めたのか,トウジはヒカリを見る。
「ヒカリ,ええんか。」
その問いにヒカリは答えず,首を縦に振った。
「ヒカリ,ワイはお前のことが好きや。だから,…。」
トウジはヒカリにキスをした。ヒカリの顔は一瞬驚いたような顔になったが,直ぐに恍惚
の表情へと変わっていった。
1分位キスをしてから,二人の口は離れた。それを見ていたアスカは,祝福の声を上げた。
「ヒカリ,良かったね〜っ。お誕生日おめでとう。良かったでしょう。アタシに感謝しな
さいよっ。」
それを聞いたヒカリとトウジは,真っ赤になってしまった。
宴は果てし無く続くかと思われたが,さすがに12時を過ぎる頃にはお開きとなり,この
マンションに住んでいない男性陣は,マコトの部屋に移って行った。女性陣,ユキにミリ
アにアールコートにマリアはリツコの部屋である。もちろん,綺麗だからという理由だが。
リツコは嫌々ミサトの部屋に寝る破目になった。
アスカは,疲れたからというのと部屋が狭いからという理由で,ユキ達の誘いを断って,
自室へと向かった。そのおかげで,残った4人の女の子達の話題は,共通の友人である,
アスカの話しに終始し,大いに盛り上がったのである。
(第35.5話へ)
(第36話へ)
(目次へ)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2002.4.28 written by red-x