天文学部なんて、真面目に参加しているのはほんの数名だけと言う、この、ほぼ名前だけのようなクラブにも、一応、夏合宿というものが存在していた。
この時ばかりは、どこから湧いてきたんだと言うくらい、名前だけ在籍していたような輩がいけしゃあしゃあと参加する。
まあ、そういう俺だって、アレンがいなければサボりまくっていただろうけれど。
日程は2泊3日。
場所は毎年決まっていて、山の中にある合宿施設だ。
これが最大のチャンスだと思った。
なのに、初っ端からそれはくじかれてしまう。
行きのバスで、さり気無くアレンの隣に座ろうと思うも、一切俺とは目を合わせようともせずに、リーバーの隣の席にさっさと座ってしまった。
因みに俺の隣に座ったのは、小競り合いに勝ったらしい、良く喋る女。
その彼女には悪いけど、俺は目的地に着くまでの間ずっと、適当に相槌くらいは打ちながらも、楽しそうにリーバーと話をしているアレンの後頭部を見つめていた。
宿泊施設に着いてからも、うざいほどに絡んでくる女の子たちの邪魔が入る所為と、相変わらず何故なのか理由の分からないまま、巧みに俺を避け続けるアレン自身の所為で、一向に話しかけるタイミングのないまま呆気なく、一日目の夜が更けようとしていた。
都会の厳しい熱帯夜と違って、山の中の夜は驚くほど涼しいのに、眠気はまるで訪れてこない。
理由なんかは、良く考えなくてもわかっている。
悉く、それこそ誰かの陰謀なんじゃないかと疑いたくなるほどに、同室になれるんじゃないかという俺の僅かな期待をも打ち砕いてくれた部屋割りの所為で、今は一階下の部屋で眠っているであろうアレンのことが気になっているからだ。
今頃何してる?
俺みたいに、眠れずにいるのだろうか?
俺のこと、少しは思い出してくれてる?
それとも…。
俺の思考が悪い方向へと流れていき、何度となく夢で見ている光景がチカチカと目の奥で再現される。
もしかして、今頃、リーバーと……。
いや、そんなことはないと首を振る。
もし仮に、リーバーもアレンのことが好きだったとしても、彼の真面目な性格からすると、教師と生徒と言う立場である限りは手を出すようなことはないだろう、という確信がある。
否、違う。
そう信じたいんだ。
自分に言い聞かせてみても、僅かに残った不安が胸の中を渦巻いて、眠ろうとするのを邪魔する。
「あ〜ダメだ!眠れないさ!」
こんなに誰かを思って眠れない夜を過ごすだなんて、アレンに出会うまでは一度だってなかった。
さっぱり訪れを見せない眠気に、俺はすっぱりと諦めて、先ほど俺が上げた声にも気付かずに暢気に眠っている同室者を、ほんの少し妬みながらも起こさないように注意しながら、そっと部屋を抜け出した。