獣が眠る

 

 

「うあっ」
 突然、上ずった吐息が漏れたのは、剥き出しになった双丘を撫でられたからだ。
 片手でそこを揉むように撫でながら、もう一方の手で胸の突起の輪郭をなぞる。同時に肩や背中を唇でついばまれた。急き立てるのではなく、この接触にジゼルが慣れるように。
 くすぐったい。小さく身じろいで耐えていると、体の芯がじわりじわりと火照り出す。
 背中に押しつけられた舌を背骨に沿って這わせられると、足の先から頭の先までざわざわと甘い悪寒が駆け抜けた。
「ん……」
 アッシュの手が太腿と腹部に移動してくる。唇は双丘の割れ目に近づいてくる。
 四肢を固くしてそこへの愛撫を覚悟した途端、不意にアッシュは離れていった。
 布ずれの音が聞こえてくる。服を脱いでいるのだろうか。やがて背後からぴたりとくっついてきたアッシュの肌が触れ、彼も裸になったことを知った。
「こっちを向かないか? 顔が見たい」
 甘えた声でねだりながら、耳を甘噛みしてくる。耳の中に舌先を入れられるのに耐えきれず、もぞもぞと仰向けになるとアッシュの手が股間に伸びてきた。
 触られると思ったのに、脚の間ですでに首をもたげているそれには触れない。
 奥に潜む蕾に辿り着いた彼のその手は、しとどに濡れていた。
「単なる潤滑剤だ。入れるぞ」
 慌てて止めようとすると、アッシュはジゼルの不安を否定する。同時に固く閉じた後孔を押し広げ、やわらかな粘膜に体の一部を埋めていった。
 小さな水音をたてながら、ぬるりと入ってくる。骨張った指の感触をまざまざと感じた。

 そこは待っていたのかと思うほど従順にとろけ、アッシュの指に絡みつく。ゆっくり掻き回されると、全身が生あたたかい波に攫われていくような悪寒と浮遊感に襲われた。
 ジゼルは大きく息を吸い、瞼を閉じた。
 はじめての時のように慎重に動かしている。
「ん……そんな、に……したら……」
「気持ちがいいか?」
 腰を退きたくなるほど居たたまれないこれは、気持ち悪いのではなく、やはり気持ちがいいのだと思う。しかし体はそこへ与えられる刺戟を知っている。丁寧にされればされるほど、焦らされているようだ。
 アッシュはジゼルの額に汗で張りついた髪を片手で払いのけ、胸に口付けを降らせてくる。小さな突起を口に含まれ、ジゼルは手と足の指でシーツを握り締めて喉をのけ反らせた。
 強く吸われると、蝶番が壊れた扉のように開いた唇から逆上せた吐息が溢れる。
 一度も触られていないのに脚の間で高ぶるそこは、触って欲しいとねだっているのだろう。以前、愛撫された記憶に想いを馳せて震え、先端から蜜を流している。
 アッシュの手が、強張る内腿をゆるりと撫でながらそこへ近づいてくる。
 ほんのり色づく柔肉を手の平で包み込まれ、鋭い快感に呑まれた。
「ひっ、あ……!」
 いいだけ焦らされ、触って欲しかっただけに刺戟は強すぎた。
 短く息を詰めた途端、目の前も頭の中も真っ白になる。自分がどこにいるのか分からない。何も聞こえない。この森まで、アッシュの魔術で移動した時のように。
 それでもあの時と同じように、体に触れているアッシュの体温だけは鮮明だ。ぼんやりと視界が元に戻ってきた時、両手が掴んでいるのはシーツではなくアッシュの腕だった。
 アッシュは満足げに目を細めながら、残りの蜜を搾り出そうとジゼルの果てたそこを扱いている。その様子をぼんやり見ていると、遠くからか細くせわしない呼吸音が聞こえてきた。ジゼルのものだ。
 胸が小刻みに上下している。体の中で動いているのはそこだけ。自分の意志で指一本動かせないほど力が抜けていた。
「ア……シュ……」
 上手く動かせない唇を、アッシュの弧を描く唇が吸う。

 塗り込まれたのは、本当にただの潤滑剤だったのかと疑ってしまう。
 達した余韻がまだ残っているのに、脚と脚の間でまた疼きはじめているものがある。もっと触って欲しいと、後孔がひくひくと震えている。もっと奥までアッシュの感触に侵されたいと、火照った吐息は冷めることを知らない。
 アッシュは余計な刺戟を与えないように指を引き抜く。腹部に散った白濁を丁寧に舐め取りながら股間に近づいてくる彼の頭を、思わず両手で掴んで止めた。
「心配しなくても、今日は奉仕に徹する。それ以上のことはしない」
 だから離して欲しいと、真っ赤な顔で睨むジゼルにアッシュは少し困ったように苦笑する。まるでぐずる子供を相手にしているようだ。
 もっともぐずっている理由は、子供のように可愛らしいものではない。
「俺だけ気持ちよくなるのは……嫌だ」
 アッシュが好きで、彼に愛されたいと思う心と体の素直な欲望。
 しかしそれを口に出した途端、アッシュは目を丸くする。今のは聞き違いかと、自分の耳を疑っているのかもしれない。
 はじめに恥ずかしがっていたジゼルの様子を思えば、当然だろう。言葉を失うほど驚くのも分かるが、何か言ってくれないと居たたまれない。
「したく、ないならいい……」
 目を反らして照れ隠しに呟くと、アッシュが顔を近づけてきて唇を重ねた。
 小さくついばんですぐに離れ、息をつく間もなくまた唇を唇で覆い包まれる。ゆっくりと何度もついばんでは離れ、またついばむ口付けを繰り返される。愛おしそうに、ジゼルの感触を味わうように。そのうち、アッシュの舌が口の中に忍び込んできた。
 口腔を舐め回す彼の舌にたどたどしく応えているうちに、言い知れない喜びがこみ上げてくる。胸にしつこく居座り続けていたわだかまりが、溶けていくような気がした。

 アッシュが必要だと、素直に認められる。アッシュに必要とされているのだと、素直に感じる。たとえ今だけだとしても、それがすべてのような気がした。
 言葉を重ね、唇を重ね、体を重ね、想いを包み隠さず伝え合い、未来を杞憂するよりも今ある幸せを噛み締める。
 お互い一番に望むのは、愛し合っていたいということ。
 唇を重ねたままアッシュはジゼルの腕を背中へ導き、固い自分の牡を後孔に押しつけた。
 ゆっくりと体の中に埋められていく。そこはまだアッシュを受け入れられるほどやわらかくなっていない。それでも彼は止まることなく、慎重に腰を進めて呑み込ませていく。
 指とは比べものにならない。激しく脈打つそれの圧迫感に息を殺した。
 アッシュが眉間にシワを寄せて呻く。しかしジゼルの深部に辿り着いた彼の方が、ずっと熱い。
 ぎゅっと大きな腕に抱きすくめられ、ジゼルもアッシュの背中にしがみついた。
「ジゼル、愛してる」
 何度、囁かれてもその言葉は褪せない。
「俺も、アッシュが好き……」
 記憶が戻る前に泣きながら伝えた言葉を、再び口にした。
 しかしあの時とは違う。今、頬を伝うこの涙は、喜びでしかない。
 

 

 

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