骨張った大きな手が胸に伸びてくる。思わず全身を跳ねさせると、アッシュは満足そう目を細めた。
「綺麗だ……」
上がり気味の眉に切れ長の目、細い顎、ほんのり赤く薄い唇はどれも生意気そう。
自分でさえ鏡を見るたびに反感を持つきつい顔立ちが、偶然、この変態の興味を引いてしまった事実は諦めよう。
恨めしいのは体格の差。骨格は細いが、華奢なわけでも背が低いわけでもない。確かに男の体だ。
しかしアッシュと比べると一回りも違う。
拘束されていなくても、抗えない。恰好の餌食だ。
「君の肌は本当にきめが細かい。手に吸いついてくるようだ」
アッシュは手触りを楽しむようにジゼルの白い輪郭をなぞっていく。下腹部まで手を下ろしていくと、薄くやわらかな毛をひと撫でしてからジゼル自身を握った。
そこはアッシュの手の平にすっぽりと治まってしまう。
「いつ見ても小さい」
気にしていたことだ。無遠慮に言ってのけたアッシュを睨みつけたが、彼はそこを揉みしだきながら耳に唇を密着させてくる。
「口の中でもてあそぶのにちょうどいい大きさだ。して欲しいか?」
「誰がっ」
「そうか。素直にねだればしてやろうと思ったが、君はこれが待ち遠しいらしいな」
ぱっとそこを放すと、アッシュは媚薬を手の平に滴るほど出す。ひどく楽しそうなその様子から、何をされるかは想像がつく。
「ひっ……」
それでも揃えた二本の指をいきなり後孔にねじ込まれ、悲鳴を上げずにいるのは無理だった。
そこは液体でぬるつく異物の侵入を、拒むことなく受け入れる。薄い粘膜を掻き回す生々しい骨張った指の感触に、ジゼルは息を詰めて背中を弓なりに反らした。
途端に縛られている手首の皮膚が引きつり、鋭い痛みが走る。それはすぐに甘い疼きに変わって下半身に伝わる。
「気に入ったようだな」
なじませるように抜き差しを繰り返しながら、アッシュが口を歪めた。
痛みに感じて下半身を反応させた自分に、戸惑っている暇もない。
腰に力が入らない。強張る脚が小刻みに震えている。くちゅくちゅと卑猥な音を立てる後孔が熱い。触られている箇所から皮膚や肉、すべてが溶けていくようだ。
息が弾む。体もおかしいが、頭もおかしい。手首の痛みと体内で異物がうごめく気持ちの悪さ、それと快感の区別がつかなかった。
「は……あ、あぁん……っ」
空いた片手で固く尖った胸の突起を摘まれると、あられもない声がこみ上げてくる。股間で反り立つ性器は恥もなく先走りの蜜をこぼした。
こんな恰好をさせられて、せめて感じたくないのに、連日のようにアッシュに性的な刺戟を教え込まれている体は理性を裏切る。
薬のせいだけではない。うっすら汗の浮かぶ首筋に舌を這わせられただけで、肌が粟立つような快感に襲われた。
「まだ足りないようだな」
意地悪く囁かれても言い返せない。
もっと掻き回して欲しい。本当に足りないのだ。
淫らな気持ちが抑えられない。アッシュの指は内壁をくまなく愛撫しているが、ジゼルの一番感じるところにだけ触れてくれない。そこを知っているはずなのに。
我慢できずに腰を揺らしはじめると、アッシュの愛撫がぴたりと止まった。
後孔から指を引き抜かれる。続けて欲しいのに。
「ア……シュ?」
乱れた呼吸の合間にすがるように名前を呼ぶと、両肩を抱きしめられた。
「この状態で一昼夜ほど放置したら、君はどうなってしまうだろうな」
何を言われたのか、すぐには理解できない。
「薬には持続性がある。君のそこは冷めることを知らず、満たされることもなく……ジゼル、快感に弱い君はやるせなさに狂ってしまうかもしれない」
アッシュはジゼルの耳に唇を密着させて、残酷な言葉をひどく楽しそうに口ずさむ。ジゼルは首を傾げて背後にいるアッシュを潤んだ赤い瞳で見つめた。
愛撫を失った後孔が疼く。これが自分の体だと思うと、情けなさに居たたまれない。
しかしいつの間にか股間で極限まで張り詰めたそれに、地下室の湿った空気が触れるだけで達せない切なさに息ができなくなる。
「……ごめん、なさい」
火照った吐息が無意識に唇から漏れていった。
「それで?」
アッシュは片方の眉を器用に上げて更に言葉を要求してくる。
「もう逃げ出さない、から……れて……」
「聞こえない」
服の上からでも分かるほど固くなった自分自身を、アッシュが腰に押しつけてくる。それは全身を這い回るこの熱を解放してくれるもの。
ジゼルはきつく瞼を閉じた。
「アッシュの……挿れて」
甘い小さな声で欲望のままに懇願したジゼルを見て、アッシュは目を細める。ジゼルの頬を手の平でやさしく包み込むと、ご褒美のように唇を吸った。
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