中に入れば、予想通りに安岡と女はすでに繋がっている状態だった。
居場所の無い平山が所帯無さげに立ったままで居れば、部屋の脇に座る様に指先だけで指示される。平山は有無を言わさない安岡の動作に、観念してその場所に座った。
女は「見ないで」などと恥ずかしそうに頬を赤らめ、秘部を手で隠し、表情は安岡の身体に寄せ隠そうとしていた。平山はそう言われても困るのは俺の方だ。と眉尻を下げた。
安岡さんはこういう純粋そうな女がタイプなのか、と頭の何処かで、妙に納得している自分が居る事に苦笑するしか無かった。
その後の女との行為を目の前で見せつけられ、逸らしかける視線も、安岡が舌打ちするせいで、何も出来ずに見るしか無かった。平山だって男なのだ、男女の行為を見れば少なからず興奮はする。
ただ、この時だけは別だった。この二人の関係が金銭の括りの無い正しい関係だったならば、平山は愛人のような立場なのだから、顔には表さないが、苦痛でしかない光景だったからだ。
女の柔らかそうな首筋に、安岡の唇が赤い痕を残していく。
自分に対する乱雑な手付きとは違い、壊れ物を扱うような優しい手付きを初めて目にし、「この女を大切にしている」のだと、それに気付いた時に身体の奥深くに有る何かが崩れていく感覚が平山を襲った。
「……ぁ……」
幸か不幸か、小さく洩らした声は二人に気付かれる事は無かった。絶頂に高められていく女は安岡の方だけを見ていて、二人だけの空間を作り出していた。
崩れていく感覚が治まれば、平山は表情も無くそれを眺める事が出来た。女の秘部に刺さったままの安岡のそれから精が吐き出されていくところを目にしようが、視線を逸らす事も無く、命令されたままにただ見続けていた。
平山は「帰らなきゃ」という女の声に反応して、ようやく立ち上がった。女を労っている安岡から指示を受けることなく、手際良く別室から女の服を用意して持っていくと、二人はベッドの上で濃厚なキスをしていた。
が、それを目の当たりにして痛む心はすでに平山の中には存在していなかった。それどころか、二人を祝福するかのような笑みを浮かべる事さえも容易だった。その表情で、「ここに置いときますから。」と、言う事も苦にならなかった。
邪魔になるだろうから、と平山が立ち去ろうとすれば、
「まだ帰るな、お前は残っていろ」
と、安岡の声が平山を引きとめた。
平山は安岡が自分を呼ぶ声に何かを考えそうになるが、一呼吸して首を縦に振る事でそれを振り払い、その場に留まることにした。
甘い匂いをさせる女を玄関まで送っていった安岡の後ろ姿を目で追い、見えなくなった時点で、小さく溜息を漏らして乱れたベッドを整え、寝室の掃除を始めた。
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