―悪夢を見始めてから二ヶ月経った。もう限界だった。同じ夢を見る事が習慣になってしまっていた。何事にも興味を示せなく
なって、ただ時間の流れを見つめている、そう感じた。
周りは哀れむような眼で此方を向く。それすらも、もうどうでも良くなっていた。
マカや仲間達は必死で励まそうとしてくれた。けど、その時の俺は、感動すら覚えなかった。今考えると最低な人間だった
なと思う。
そして、あの日が来た。
俺は夢を何も観なかった。この日は久しぶりに気分が晴々した日。そして、絶望のどん底に突き落とされる日々の初日
となった―。
「マカ」
「ソウル!おはよう、なんかすごく元気だね」
「今朝は何も観なかったんだ、だから肩の荷が降りたっていうか」
「良かった、じゃあ今日からは元気一杯に過ごせるって訳だね!」
マカの久しぶりの笑顔を見た。それだけでとても嬉しくなった。
驚いた。全く頭の中に無かった、というより全然耳に入っていなくて…、感覚が鈍っていたのかもしれない。この二ヶ月間、
マカ達が俺をいろんな所に引っ張り回した(らしい)のに、何も覚えていなかった。まるで、その記憶だけがもぎ取られたかの
ように…。
でも、今日は違う。久しぶりにいつも通り、話ができる。それに感激して、皆に会った途端、夢を見る前よりも沢山
しゃべった。仲間達は嬉しそうだった。これ以上最高なことは無い、そう感じた。
そして、またいつも通りの生活が始まる。
…そう、思っていたのに。
事故は起きた。
「あ、」
「どうした?マカ」
「財布置いてきた…」
「取りに行ってこようか?」
「大丈夫、すぐ戻るから。先に帰ってていいよ」
「え、だけど…」
「早めに体休めないとまた気分悪くなっちゃうよ、ほら」
彼女はそう言うと、俺の肩を掴んで、帰り道の方向へと向けた。すると、無理しちゃだめだからねと言いながら、元来た道を
戻っていった。そんなことを言われたら、追っかけるのもなんになったから、俺は仕方なく一人で家に帰ることにした。