「…はぁ」
 ―嫌な夢を見た。最悪だ。こんなんじゃ目覚めが悪いのは当然だ。まぁ、よくあるパターンだが、起きた時には、背中が 汗で濡れていて気持ち悪かった。体をゆっくりと起こす。まだ頭が痛い。なんとかベッドから降りて、部屋のドアを開けた。
「おはよー…」
「おはよっ、ソウル。…どうしたの?顔色悪いよ?」
 彼女はいつも通り、笑顔で挨拶してくれる。さっきの夢が、まるで嘘だったかのように。
「いや、別に…。ただ、変な夢見ちゃってさ」
「夢?」
「うん、それもすっげえひどくて…」
 内容は、言えなかった。どうせマカは信じなさそうだし、俺も口に出したくはなかった。
「へぇ、まぁ気にしないほうがいいんじゃない?すぐ忘れちゃうと思うよ?」
 彼女はそう言うと朝食の支度を続けた。自分もこの話題は引っ張りたくなかったから、このときは忘れようとした。

 けれど、そう簡単には忘れることはできなかった。あの日から毎日、同じ夢を見るようになってしまったから。ずっと、あの 場所から始まる。何とか夢を変えようとして行動を起こした。だけど、いつも同じ結末になってしまう。マカが嫌な程綺麗に 真紅に染まる。そして、此方を向いて微笑む。それを見る度に、目覚める度に、頭が重かった。

 夢を見始めてから一週間が経った。流石に耐え切れなくなって、テラスで独りになる事が多くなった。 近くの階段でみんなが話す声が聞こえる。
「変な夢?どんな?」
「うん、一週間ぐらい前からかな…。毎日その夢を見るらしいんだけど、何も話してくれなくて」
 話せたら、話してる。でも、あんなグロテスクな内容、誰が信じるだろうか…。
「人には言えないような悩みでもあるんじゃないか?」
「悩み…ねぇ」
 悩みはまさにこの夢のことなのだが…。とそんな事が言えるはずもなく、俺はずっと空を眺めていた。

「あのさ、どんな夢だったの?」
 夕方。マカが唐突に聞いてきた。
「え?何で?」
「だって、悪夢って言ってもいろいろあるでしょ?」
「まあ…」
 返答に戸惑った。言いたくなかった、例え、マカが笑うとしても。けど、彼女は急かしてきた。
「ねぇ、話してみてよ、笑わないからさ」
「本当に信じてくれる?」
「うん」
 なんかもうこそこそ隠すのも面倒だから、俺は重たい口を開くことにした。
そして彼女は。
「へぇ…なんかすごい夢、だね?」
 疑問形なのは、いまいち理解出来ていないからだろう。現実的には到底あり得ない話だし。
「な?変な夢だろ?」
「…もしかしたらの話だけどさ、疲れとか、大きな悩みってない?」
「…はい?」
「いや、そういうのが関与してるって事もあったらしいし」
 …そんなものは無い、はずだ。あったとしても、そんなに深刻な悩みはない。
「無いよ、あったらマカに相談してる」
「そう言うけどさ、来た試しがないじゃん。…私そんなに頼れない人間?」
 その場逃れは出来ないようだ。
「別にそんな事無いよ、只…」
「ただ?」
「っ…マカに心配掛けたくないだけ!」
 そう言って、俺は話を断ち切って部屋に入った。本当は、勇気とか、タイミングが無いからだったけど、そんな事を 彼女には言えるはずがなかった。
「ソウル…」
 細々く呟かれたマカの声が、余計哀しく聞こえた。



 

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