「…う…ん…?」
ゆらゆらと水面を揺れる木の葉のように意識が浮上してくる。ぼやける視界はまるでミルクを流し込んだような乳白色をしていた。なんだろう?と考えるよりもふわふわと浮いているような温かさがイワンの意識を眠りの淵へと誘う。その温もりにもっと埋もれようと体を丸くするとすぐ近くで何かが蠢いた。
「?」
今にも落ちそうだった瞼がゆっくりと瞬きを繰り返す。そうして徐々にクリアになっていく視界に写る『白』が単なる色の塊ではない事に気が付いた。よくよく見ていれば細かな淡い色の影を纏った毛であることに気付く。そろり、と手を動かして触ってみると、ふかふかでありながら、滑らかな手触りが伝わってきた。思わず顔を近づけて頬擦りをすると視界の端でぴくぴくと何かが動く。
「…な、に…?」
未だぼんやりとした思考のもと、まじまじと見つめていると…白に黒い筋が幾つも描かれていることに気付いた。しかも…やけに見覚えがある。そろり…と瞳を動かして…何かが動いた所を見てみれば…丸に近い『耳』がぴくぴくと動いていた。
「………・・・ ッ!!」
しばしの沈黙…思わず叫びそうになった声は寸での所で何とか押し込めた。
…が…
「(タイガーさん!?)」
がばりと勢い付けて起こした上体の目の前には真新しいシーツ…ではなく…イワンを包む様に丸くなっている白虎の姿があった。朝日の光をきらきらと反射する白い毛は、丸くなっている体に沿って光の輪を作り出し、腕に埋もれさせた顔は穏やかそうだ。安心しきっているのだろう…僅かに開いた口から小さな寝息が零れ落ちている。
じっと顔を見つめるも、起きる気配は皆無。間近でわたわたとしていたので起こしてしまったのでは…とハラハラしたが、事なきを得たようだ。
「……(…朝…)」
ゆるり…と顔を動かして部屋の中を見まわす。薄い紗が重ねられた天蓋や、部屋の広さから間違いなく虎徹の部屋ではある…あるのだが…
「・・・」
そっと額に手を押し当てる。何も変わった感触はないが…そこには綺麗にならんだ『虎徹の聖痕』が付けられている。鏡でも見たので疑ってはいないのだが…
「(…タイガーさんの…使徒…)」
ポツリと浮かんだその言葉に思わず頬が緩んでくる。誰かに必要とされる事…誰かの為に在る事…それがとても嬉しいのだ。仄かに頬を熱くしてあまりの喜びに漏れ出る笑い声を袖の中に顔を埋めて殺してしまう。
しばらくそうしていたが、ようやく衝動が落ち着いてきた。一つ深呼吸をして背筋を伸ばすと虎徹の様子を伺う。
「(…起きそうにない…かな…)」
昨日の朝はすっかり寝坊してしまって起こしてもらったのだが…毎日そうなるわけにはいかない。主より遅く起きるなどあるまじき事だ。先に起きて部屋の掃除をしたり、玄関口の清掃をしたりするのが常識だと思っている。なので、さっそく実行したいのだが…
「・・・(…動いたら起きちゃいそう…)」
改めて自分の体を見下ろすと…丸くなった白虎がぴたりと寄り添い、腰の辺りには長い尻尾が巻きつく様に絡まっている。…どうしようか…とぐるぐる悩みだすと、ふと曲線を描く体に目が止まった。
寒々しい白ではなく…柔らかな白い毛は滑らかな光を纏い、輝いているのだが…
「〜〜〜ッ」
浮き出る背骨や、肩甲骨の形…その体の下に無造作に広げられた衣に昨夜の出来事がフラッシュバックを起こす。全身からぶわっと汗が噴き出すように、体温が急上昇した。
「(…ひ…卑猥すぎる…)」
肌理細かく滑らかな肌…触れた指先から伝わる体温…肩越しに振り返る熱に浮かされた表情…甘く掠れた啼き声…擦れる度にぞくぞくと背筋を這い上がる快楽…口に含んだ極上の蜜を思い出してぶるりと震える。
「(…あ…朝からこんな…ふしだらなっ…)」
頭から蒸気を噴き出す勢いで赤くなった顔を両手で覆い隠し、念仏にように…治まれ…治まれ…と呟き続ける。
一向に収まる様子のない思考に焦っているとすぐ横で動く気配がした。ぴくっと肩を跳ね上げて見下ろしてみると…虎徹が身じろいている。起こしてしまったかと息を殺していると、睫毛がふるりと震えてその下から金色の瞳が現れた。
「…ん…」
まだ眠いのだろう…緩慢な瞬きを繰り返し、ぼんやりと見上げてくる虎徹をじっと見守っていると…ふわりとした光を纏い、見る間に人の形へと変わっていった。
「…ぉはよ…」
「…おは、よう…ごまい、ます…」
どうやら寝惚けているらしく、瞳が…とろん…潤んでいて今にも瞼が落ちそうだった。それ以上に目の毒だと思ったのは…人の形になったのに何故だか耳と尻尾が残っているその姿だ。しかも身にまとっていた衣が下敷きにされている為に白い朝陽の中、素肌が惜しげもなく晒されている。少しは治まったはずの熱がムラムラと再度湧き上がり始め、うずうずと疼く欲望にきちりと正座をしてどうにか押さえようと膝に力を込めた。
すると、そんなイワンの葛藤を知ってか知らずか…尻尾がぱたぱたとシーツを叩き、ゆるりと持ち上がると頬を撫でて来る。
「…タイガーさん…?」
甘えるように摺り寄せられる尻尾をそろりと撫でると、ぴくりと小さく跳ねたが逃げる事はなく…それどころか、手首や腕にも絡まってきた。何をしたいのだろう…とじっと見ているとぼんやり見上げてくるだけだった瞳がゆるりと弧を描く。
「…ちゅ…」
「え?」
「ちゅぅ…して…?」
「・・・ッ!」
一瞬何を言っているのか分からなかったのだが…分かった瞬間にオネダリされているのだと分かってしまいどっと汗が噴出した。顔にも血が上り、かぁ〜ッと熱くなっていく。そんなイワンに虎徹はというと、じっと見つめて待ち続けていた。
「〜〜〜っ」
見上げてくる期待に満ちた金色の瞳…無言で突きつけられる熱烈な『オネダリ』を断れるほどの精神力は持ち合わせていなかった。ごくり…と生唾を飲み込み上体を倒して虎徹の上に覆いかぶさる。するとよほど嬉しいのか、瞳を細めて虎徹が笑みを浮かべた。さらに、受け入れ態勢は万全、とばかりに仰向けへと体を転がし両手を差しのべてイワンを迎える。
「…ん…」
唇を重ねた途端に零れるため息にも似た甘い声…首に肩に回された腕がさらに引き寄せ体ごと密着した。…ちゅ…ちゅ…と濡れた音を立てて繰り返されるバードキス…その合間にももっと抱き寄せるように腕が、手が、指先が体を撫でてくる。ぞくっ…ぞくっ…と背筋を走り始めた覚えのある感覚に、イワンの中で何かがぐらりと傾いた。
「んぁ…ん、む…」
一秒たりとも離れたくないのだと言わんばかりに重ねられる唇…密着した肌の熱にくらくらとしてくる。口の中で擦り寄せられる互いの舌を絡め合わせて吸い上げると、下で虎徹の躯が跳ねた。立てられた足をするりと撫でると…もっと…と強請る様に押し付けられる…しっとりと吸い付くような肌を撫でまわせば浮かした腰によって躯の中心で育った熱を押し付けられる。
その瞬間…ぷつり…という音を聞いた。
「んんッ…」
膝から徐々に滑り下りた先…密やかに咲き綻ぶ菊華に辿り着くと躊躇なく指を突き立てた。びくっと跳ねる躯を己の肌で感じ取り、突然潜り込んできた異物に戦慄く菊華を攻め立てるべく指をうねらせると絡め合っていた舌が震えだす。きゅっ…きゅっ…と締めあげる内壁が、弛む瞬間を狙い澄ませて小さく出し入れを繰り返した。ぬくぬくと滑る内壁に己が昨夜ぶちまけた欲望が残っているのだと分かり呼気を荒げる。
「んふっ…ん、く…」
しどけなく開かれる足…指の動きに小さく跳ね続けた結果、イワンの二の腕辺りまで折り曲げ持ち上げられていた。それをちらりと横目で確認すると、空いた方の手で更に持ち上げて肩へと引っ掛ければ虎徹の腰が完全にシーツから離れる。斜めに大きく割り開かせた為、指の抽入角度が変わり、柳腰がもどかしげに揺れた。宥める様に担ぎあげた太股を撫でながら咥えさせた指をぐるりと回せば、ゆらゆらと垂れ下がっていた尻尾が腕に絡みつく。
「ひぁッ…」
ずるずると入口付近まで指を抜き取り、思わせぶりに軽く抜き差しを繰り返して…抜けるギリギリの所で留めていたが、もう一本指を増やして突き立てた。…ぷちゅ…と卑猥な音をさせて菊華に沈んでいけば、反らされる背中と力の抜け落ちた腕のせいで密着していた唇が解かれる。腕に巻き付いた尻尾がびくっと痙攣を起こし、反らされた喉から甘い嬌声が弾き出された。
「…きもちいい…ですか…?」
「んっ…いぃ…ッ…も、っと…」
黒髪の中に埋もれる白い毛…垂れてぴるぴると震えるその耳に口を近づけて囁けば、こくこくと頷いてくれる。切なげに寄せられた眉と朱に染まる目尻、しどけなく開かれた紅い唇…持ち上げる気力のない腕は放り出され、縋る物を求める指先によって握り締められたシーツが大きなドレープを描いていた。
「あっ…ぁ!」
求められるがままに指を増やせばしなやかに躯が反り返る。弾む四肢に揺られる虎徹の雄を見下ろせば、赤く爆ぜた口から蜜を滴らせ腹へ、シーツへとその雫を飛び散らせていた。
「(…勿体ない…)」
瞳を眇めて啼き狂う虎徹を見下ろしていたイワンがそっと頭を埋める。蜜を散らせた腹を舐め上げ綺麗にすると、今度はたらたらと溢れさせ続けている肉棒へと移っていった。舌で擽るだけで高く啼き上げる虎徹を見上げながら、たっぷりと絡めて嬲っていく。
「ん…(…美味し…)」
「あッ…いぁッ…っん、ぁ!」
「?」
啼き続ける囀りの中に自分の名前が混ざっているような気がして顔を上げると、涙で潤む瞳とかち合った。何か…縋るようなその視線に、口へと含んだ虎徹の雄を解放する。
「っぁ…ふ…」
名残惜しげに舌先で擽りながら離れていけば強張っていた虎徹の躯が弛緩していった。甘ったるい吐息を零す唇に軽く口づけると、ゆるりと揺らぐ瞳が開かれる。
「…タイガーさん?」
「…ちがぅの…ほし…」
熱に浮かされた声…オネダリする虎徹が首を小さく傾げると、腕に絡まっていた尻尾がするすると解け…イワンの太股に這わされる。撫でる様に、擦り寄る様に擦りつけられたかと思えば登り詰めた股上をするりと撫で上げてきた。
「っ!」
「…これ…ほ、しぃ…」
あられもなく開かれた足の間で…咥えさせたままの指が美味しそうに食まれる光景が見える。ひくひくと震える内腿に淫媚な華の動きへ釘づけになっていれば…腰が揺らめいた。すりすりと撫でてくる尻尾の付け根が垣間見え…あぁ、本当に生えてるんだ…と変な所に感心してしまう。
「ぁ…んんっ…」
抜き出していく指でゆるゆると絡む内壁が厭らしい…ゆっくりと抜き取れば子猫がむずがるように躯をくねらせて泣き声を漏らした。…はふ…と小さく息を吐き出すとゆるりと揺れる瞳で見上げてくる。熱に…期待に…浮かされた瞳は言葉よりも雄弁で…
「…ぁ…ぁ…」
形をすっかり変えてしまった欲望を押し当てると貌が期待の色に満ちていく。
「んっ…んっうぅ!」
「…っく…」
ぐっと腰を押し付けナカへと押し入れば切なげに表情を歪めて仰け反った。少しずつ…奥へ…奥へと進む間にも絡みついてくる内壁の気持ちよさに今にも出してしまいそうになる。ぐっと奥歯を噛んで互いの肌が密着するまで耐え切った。
「ぁ…ん、ん…」
「っふ…ぅ…」
切っ先が最奥を叩く…途端にぞくっと背筋を駆け上がる快感にぶるりと身震いをした。熱い息を吐き出してどうにかやり過ごしていると、腰に…脚が…尻尾が巻きついてくる。ふと顔を見上げてみるも、横っ面をシーツに押し付けて乱れた呼吸を繰り返すだけだ。
「…ぅ…ん…」
へたり…と黒髪にぴったりとくっ付いた白い耳…呼吸を整える手助けをするように頭を優しく撫でているとと…ぴるぴるっ…と小さく震えてまた伏せられた。
「(…可愛い…)」
精悍で…『虎』の姿に見合った逞しい四肢…けれど、それは丸い耳と尻尾が生えているせいか、とても可愛らしい姿にしか見えない。思わず繋がったままであることも忘れて指先で弄んでしまう。
「・・・」
「…ぁ…」
しばらくは擽りに来る指先を細かく震えることで退けていたのだが、最終的にはむっとした表情の虎徹に睨まれて中断させられた。その上、存在を思い出させるかのように腰に回された尻尾が…ぺしぺし…と背中を叩く。
「…すいませ…」
苦笑を浮かべて謝っても表情がむっすりとしたまま動かない。本格的に機嫌を損ねたようで…どうしよう…と困惑していると首に腕を回された。鼻が触れるほどの距離まで顔を近づけられてまたじっと動かなくなってしまう。その行動にしばし考えると…
「…ん…」
丁寧に口付けた。すると、背中を叩き続けていた尻尾がするりと絡まってきたので、どうやら正解だったらしい。たっぷりと舌を絡め合い、互いに甘噛みを施してそっと離れた。それと同時に緩く突き上げる。
「ぁんっ!」
途端に零れ落ちる甘い啼き声…その声に浮かされるようにイワンは更に腰を打ち付けていった。
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