白装束に身を包んだ虎徹が腕に絡めてあった淡い緑色をした絹を手に舞い踊る。軽やかに地を叩く足の跡にはぼやりと青い光が灯り、絹の通った跡にも光の帯が細く引いて地面へと下りていった。踊る間にずっと口ずさむ虎徹の詩は子守歌か…賛美歌の如く…低く優しく響いている。
 その光景に目を奪われていると青い光で作り上げられた円陣に気が付いた。細かく模様が書きこまれたそれの中心に虎徹が立つと、おもむろに装束を脱ぎ落とす。

「!?」

 晒された一糸纏わぬ裸体にびくりと肩を跳ね上げてしまった。均整の取れた四肢…無駄なくついたしなやかな筋肉…同性だというのに壮絶な色香を纏い立ち尽くすその体から目が離せない。
 緩やかに動いていた唇が一度引き結ばれた。かと思った次の瞬間大きく開いた口は天に向けられ、地響きを伴った咆哮が上げられる。びりっと震える大気に一瞬目を伏せてしまったが…そろりと開いた時には虎徹の姿は獣に変わっていた。ぼんやりとした青い光を放っていた円陣も、まるで地面の中に太陽があるのではないかと思うほど、強く輝いている。

『イワン…こちらへ』
「……はい…」

 低く響く声に誘われるがまま…ふらり…と足を運んでいく。光る円陣の中へ…何一つ恐れることなく入っていくと、虎徹の目の前まで来た。何を言われるでもなく…膝まづくと、瞳を閉じて頭を垂れる。
 そのイワンをじっと見つめていた虎徹は一呼吸置くと静かに言葉を紡ぎ始めた。

『名をイワン…今より折紙サイクロンの名を冠して我が使途と成らん』

 低く優しく響く声が言葉を紡ぎ終わった瞬間、イワンの体を淡く痺れるような感覚が走り巡った。それらは一瞬の内に駆け巡り脳髄を突き抜けて霧散していく。緩やかに呼気を吐き出しじっとしていると、額に柔らかな感触が押し当てられた。

「終わったぞ?」
「………」

 虎徹の声にゆっくりと瞳を開くとすぐ目の前に琥珀色の瞳が見える。そっと伸びてきた手がそっと前髪を掻き上げていった。

「…綺麗に付いたな…」
「…え?」
「聖痕。俺のものだって証。」

 とても楽しげに微笑むとちゅっと額に口付けられた。何の事だろう?と額に手を当ててみるも、特に変わった感触はなく…ますます首を傾げてしまう。

「鏡を見たら分かるさ」
「は…いッ!!?」
「ん?どした?」

 見えない額を見上げていた視線を虎徹に戻すと、優しげに微笑む顔の他に…むき出しの肩が見えた。頭の中で叫ぶ制止の声を無視して視線は更に下がり…一糸纏わぬ裸体である事に声を詰めてしまう。わたわたと近くに落ちている装束を手繰り寄せてきょとりと不思議そうにする虎徹を包み込んだ。

「………そんなに焦ることじゃないだろに…」
「あっ焦りますっ!そんな無防備なっ…」
「…無防備?」
「とっとっとにかく!ちゃんと着てくださいっ!」
「んー…でもだるくて動きにくいし…」
「それじゃあ、お部屋に運びます!」
「ん、よろしく〜」

 装束で適当に包み込んだ体を抱え上げればするりと回される腕…肩口へ埋められる顔にどきりとするが、運ぶことだけに集中して黙々と歩き出す。向かう場所はもちろん虎徹の部屋。ベッドに…と思えば寝椅子の方を示されるので素直に従った。

「鏡見てみな?」
「え?」

 そっと下ろすと、気だるげに上がった指が壁を示す。指し示す先を見てみれば壁掛けの鏡がある事に気付いた。そろりと近づいて覗いてみる。そこに映ったのは今までとなんら変わりのない自分の顔。額を見られていたな…と思い出して前髪を上げてみる。

「!」

 額に丸い模様が緩く弧を描いて並んでいた。両端の模様だけ少し大きく色が深いように見える。

「…痕?」
「そ。俺が噛んだ痕が聖痕になるんだ」
「え?噛んだんですか?」
「おぅ。痛くなかっただろ?」
「全然…気付かなかったくらいですし…」

 もう一度その痕に指を這わせてみる…やはり滑らかな肌の感触しかなかった。
 くるり、と虎徹を振り返ってみると…淡い笑みを浮かべて肘掛に凭れかかっている。しなだれかかる…という表現の方がしっくりくるだろうか…どこか気だるげな雰囲気がひどく婀娜っぽい。

 …ぞくり…と肌が粟立つ…

 儀式の最中に貫き消えていった痺れがじわじわと体に広がっていく…

「…タイガー…さん…」

 縋るように名を呼ぶと、彼は僅かに首を傾げて答えてくれた。

 さらり…と流れる黒髪…
 細められた瞳がゆるりと揺れる…

 ごくり…と喉が鳴った。

 口の中が干上がる…
 手を伸ばして触れる頬が僅かに熱い…
 薄く開いた唇に誘われるよう…

「…んっ…」

 噛みついた。


「…ぅん…ん…」

 拒まれることなく受け入れられた唇は柔らかな肉を食み、隙間から舌を差し入れる。小さく跳ねたように感じたが、拒絶は窺えない。間近に見える金色の瞳にも咎める色はなかった。

「…ん、む…」

 頬を包み込んでいた手が緩やかに動く…体の形をなぞるように首を…肩を這い…肌に纏わせていた衣を落としていく。
 綺麗に浮かび出た鎖骨を撫で、しっとりと吸い付くような胸元へと手を這わせていった。指先に肌質の違う感触がぶつかると、ぴくっと跳ねる。他の肌質よりも幾分柔らかいその部分を確かめる撫でていると、ぷくりと膨れてきた。更にしっかりと開いていた金色の瞳がゆるりと歪められ、涙を纏う。それでもしつこく撫でまわせばシコリのような塊が出てきた。

「っ…んぅ……っふ…!」

 出てきたシコリを摘み上げれば背を反らして躯を跳ねあげる。肘掛の向うへと反らされる顎を見上げてイワンは濡れた唇を舐めた。口内に残る虎徹の甘露を喉の奥に納めて、ちらりと視線を下げる。すると淡く桜色に染めあがった肌が露わになり、摘んだ指の間で熟した胸の実が更に濃く色づいていった。

「…ぁ…ッ…く…」

 名残惜しく唇を離れれば小さく漏れる艶声が耳に心地いい。指先で実を潰せば逸らされる喉に舌を這わせた。

「…ぁ…ぁ…」

 顎の下から…つぅ…と滑り下りる舌に濡らされた肌が酷く敏感になっていく。喉を過ぎる吐息が焼けるように熱く、くらくらと揺れる頭では何も考えられない。けれど、じわじわと炙られるような熱だけは鮮明に捕らえ、貪欲に求めているのが自分で分かる。

「…ぅあ…っ!」

 首筋に立てられる歯にびりっと走り抜ける悦楽を感じ取った。たかが首筋に噛み付かれただけでこんなに喘いでしまうのに…さらにあちこち舐められるとどうなることやら…恐ろしいと思う反面、悦楽の海に沈められたいと願う躯に戸惑いを覚える。
 今、自分の上に乗りあがっているのは、まだ少年の域を脱していない青年…押しのけることなど容易いのだが…彼に嬲られる事を望む躯がいう事を聞かない。

「んっ…ぁ…あっ…」

 鎖骨から徐々に下りていった唇が胸の実を捕らえる。ぞくぞくっと震える躯の芯に熱い息を吐き出していると、舌をねっとりと這わされて更に煽られる疼きに背を逸らせて啼いた。…ちゅ…と小さく音を立てて離れていく唇に、安堵だか、物足りないのか…判断のつかない溜息が漏れる。

「……いいです、か…?」
「っふ…ここまでしといて…いま、さら…」

 脇腹へ手を這わせながら優しく尋ねる声に笑いが漏れた。ここまでしておいて今頃尋ねる事ではないだろう。甘く痺れた手をゆるりと持ち上げて朱に染まる頬を撫でると、とても嬉しそうに微笑んだ。ふわりと伏せた頭に手を乗せて、柔らかな髪に指を絡める。ちゅっ…と音を立てて肌を吸われると躯の芯を逆撫でされるような感覚が広がり、唇から熱い吐息が零れて行った。

「っふ…ん…んっ…」

 髪を梳いていた指先が肌を嬲る度にぴくりと跳ねる。舌先でぷくりと膨れた実を舐めながら見上げると、反らされた喉しか見えなかった。

「(…顔が…見たい…)」

 しゃぶり尽くした実から徐々に離れて下りていくと引き締まった腹筋と柳のように細い腰が視界に入ってくる。尖らせた舌でへその周りをぐるりと回り、魅惑的なラインを描く腰に噛みつくとびくりと跳ねる躯が愉しい。

「ん…ぅ…っ!」

 はむはむ…と軽く咬み続けていれば、髪に絡まる指が離させようとしてくる。その動きに眉間へ皺を刻むと今度は少しだけ強く咬みついた。

「ひぁ!」

 悲鳴とも嬌声ともつかない声が喉から吐き出される。それとともに咬みつく唇から逃れるようにひっこめられた腰に伴い、反らされた顔が俯きに変わった。
 振り乱した黒髪の隙間から覗く貌は、汗が滲んでいるのか艶めかしく淡い光を纏い…上気した頬…薄く開かれた紅い唇…涙に潤む金色の瞳…すべてを浮き彫りにしているようだ。切なげに寄せられた眉にさらなる嗜虐感を煽られ、腰で止まっていた唇を再び動かしだす。

「…っ〜〜!」

 じわじわと獲物を追い詰めるような唇の動きに、頭の隅で止めなければ…と考えるも…甘い毒に侵された躯では制止すらままならない。堕とされる恐怖と、犯される躯の悦びですでに可笑しくなりそうだった。せめて変な声を上げないようにと耐えているのに、それすらも容易く流されてしまうだろう。
 ぴちゃり…と音を立ててその時が訪れる。

「ーーーーーッ!!!」

 へそから更に下りた場所…緩く交差する前合わせの隙間から指を差し込んで開いた所に、ふるりと立ち上がりかけている肉棒が顔を覗かせる。先端からすでに涙を溢れさせているソレは、まるで追い詰められた小動物のように微かに震えていた。愛らしい反応に口元が自然と笑みを象る。
 次々に溢れる雫を舌で舐め取ると震えるだけだった虎徹の躯が大きく跳ねた。

「…ッ…ッ…」

 背を限界まで仰け反らせ、唇を強く咬み叫びそうだった声を押さえ込む。目の前がチカチカと明滅しているような感覚に軽くイったのだと気づいた。

「(…っ舐められた…だけ…なのに…っ)」


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