「あー……帰りたい……」

 いつぞやと同じ言葉をまったく違うテンションのもとつぶやく。というのも、本日はヒーロー全員がトレーニングジムに訪れる事になるのだと知っているからだ。いつもならここまでぐったりはしないだろうけれど、今日はそうもいかない。いつも……いや、いつも以上に会うことが緊張する人物、ワイルドタイガーこと虎徹と確実に顔を合わせねばならないことがイワンの気分を急下降させている。
 というのも、昨夜見てしまった写真が頭に過ぎっては一枚一枚鮮明に浮かび上がり、絶え間なく再生されてしまっている。もちろん虎徹はイワンがあれらの写真を見たことなど知らない。その分、イワンは罪悪感を感じて仕方ない。さらに、あれらの写真を『おかず』にしてしまった後ろめたさもある。いっそのこと体調不良で帰宅しようか、などと社会人にあるまじきことまで考えが及んでしまう。

「……うぅ……」
「どしたー?体調でも悪いのか?」
「ぉぎゃんッ!!!」
「おぉ?」

 廊下のベンチに座り込みがっくりと項垂れていたイワンの視界に、虎徹の顔がひょっこり割り込んできた。あまりにタイムリーな人物の出現に悲鳴を上げてベンチの上で跳ね上がってしまった。

「あぁああおぉおおおぉおおぉぉ」
「だ、大丈夫か?折紙」
「……っ……っ……っ……!!!」

 がっくんがっくんと大げさなほどに頷いてみせるも、虎徹の浮かべる心配そうな表情が変わる事はなく。何とかフォローしなくては、とぐるぐる悩んでいると『ある事』を思い出した。

 それは……今の虎徹の体勢が原因。

 ティーシャツにハーフパンツとラフな格好でベンチに座ったままのイワンの顔を覗きこんだわけなのだが、猫のように四つん這いで覗き込んでいる。その為に自然と上目遣いになるわ、弛んだ襟周りからは魅惑の谷間が覗き見えるわ、更には突き出した腰でヒップの形が良く見えていた。
 しかも間の悪いといおうか、そのポーズは昨夜見た内密に渡されていた写真の中にあったポーズなのだ。写真の方は、今の格好とはまったく違う。いや、むしろ今の方が心臓に優しい服装である。何せ……ランジェリー姿だったのだから。

「ッ〜〜〜〜〜!!!!!」
「お?お??」

 一瞬にして頭に過ぎった画と、今目の前にいる虎徹の姿がぴたりと綺麗に重なり合い、足の先から頭の天辺まで真っ赤に茹で上がってしまった。目まぐるしく変化を見せるイワンに虎徹もどうしていいものやら。心の底から心配しています、という表情でおろおろしている。

「お〜い、何やってるんだ?」
「!」

 何も言葉を話せないままあわあわとしていると、廊下の向こう側からアントニオの声が聞こえてきた。二人の様子がおかしいことに気づいたのか、首をかしげているようだ。

「おぅ、ちょっと医務室行ってくるわ」
「医務室ぅ?」
「折紙が体調悪いみたいでさ。付き添いしてくる」
「そうか。気をつけてな?」

 虎徹の説明に納得したのだろう、アントニオは手を振ると戻っていってしまった。そんな彼をぽかん、と見つめていたイワンだが、肩に手を乗せられて虎徹へと視線を戻す。

「よぉし、行くぞ、折紙!」
「え?……えぇッ!?」

 気合の入った声に何事かと見上げれば、NEXT能力特有の青いオーラに包まれる。かと思えばひょい、とばかりに担ぎ上げられて医務室へと運ばれていった。あっという間の出来事。はっと顔を上げた時にはすでに医務室のベッドの前だった。

「……タイガーさん?」
「さて、ぺろっと吐いちゃおうか?折紙君」
「……はぇ?」
「何があったか知らないけど、胸の内に溜め込むのは毒だ。
 誰かに聞いてもらった方が楽だしすっきりするぞ?」
「い、や。そのぉ……(タイガーさん相手だからまずいっていうか)」

 目の前で仁王立ちになっている虎徹を困った表情で見上げてしまう。
 確かに相談事ならば聞いてもらえば楽になるが、相談の種になる人物に直接聞いてもらっても全く解決にならないと思われる。かといってこれほど心配してくれている虎徹に、「何もない」と言って通じるかといえば通じそうにない。
 どうしよう、とぐるぐる悩んでいると、じっと立っていた虎徹が目の前に座り込んだ。

「俺だと頼りにならないか?」
「あ、う、い、えっ……あのっ、そのっ……」

 へなりと眉が下がり、淋しそうな表情の虎徹にイワンの混乱がピークに達してしまう。それとともに、むにゅり、とでも表現しようか。薄手のシャツの中で膝と抱える腕とによって押し潰された胸が、いかにも柔らかそうな弧を描いている様を見せつけられていた。思わず脳内に浮かぶビキニ姿を重ねてしまい、体温を急上昇させてしまう。

「……あ。」
「……ふぁ?」

 脳内暴走によって涙が滲み出てきたイワンをしばらく見上げていた虎徹がふと何かに気付いたらしい。どこかを見つめながら、顎に手をやって考え込み始めた。

「あ〜……これは……確かに言い辛いよなぁ」
「……へ??」
「自分で解決しないとって思うけど……みんないるとこだしなぁ」
「は、ぁ……???」
「恥ずかしいもんなぁ?」
「う、ん?」

 何のことかは分からないが、確かに今とても恥ずかしいし、みんなのいないとこに行きたくて仕方なかったし、自分でしか解決できない。あながち間違いでもないその羅列に思わず頷くと、虎徹は…ぽん。と膝を打って徐に立ち上がった。

「……あ、あの?」

 立ちあがった虎徹を見上げていると、ベッドの周りに取り付けられたカーテンを引き始めた。きょとんと目を瞬いている内に、カーテンで遮られた向う側を移動して、カチャン、という金属音が聞こえてくる。何の音か、としばし考えていると、室内が薄暗くなった。

「この暗さなら心おきなく出来るだろ」

 何をするのかさっぱり分からない。ただただじっと座っていると戻ってきた虎徹がにっと笑みを浮かべる。

「ふぇ?……えぇ??」

 ぱちぱちと瞬く間にも虎徹はイワンのすぐ目の前にまで迫って来た。近付く事で感じる体温に体が敏感に反応して、じわりと体温を上げていく。ぽん、と肩を叩かれた。と同時に視界が回っていった。
 視界には相変わらず優しい笑みを浮かべる虎徹。その肩越しに真っ白な天井が見えている。どうやらベッドの上に寝かされたのだと理解すると、徐にシャツを脱ぎだした。突然何を始めるんだ??と困惑している内に、黒のタンクトップ姿になった虎徹はじりっと顔を近づけてくる。

「!?」
「いい子だからじっとしてろよ?」

 何の事だろう?と疑問符だらけで呆然としていると、唐突にズボンを下ろされた。

「ッ!?!?!!?」
「おぉ〜……立派、立派ぁ」
「〜〜〜ッ!!!」

 下ろされたズボンから自分の雄が勢い良く飛び出して、かぁっと顔が熱くなった。昨夜見てしまった写真の数々を脳裏に思い描いた結果、『男の本能』が働いたらしい。首をもたげ戦闘態勢に入ってしまっている。

 まさか……それを『写真の相手』に見られるとは……

 しかも隠そうと手を伸ばす前に虎徹の細い指が絡みついてしまった。

「今楽にしてやっからなぁ?」
「っ!?ッ?!?」

 言うが早いか、動くが早いか、あ〜ん、と大きく開けた口の中に含まれてしまった。

「たっ……たいがぁさんっ!!?」

 止める隙もなく放り込まれた口内は熱く、ぬるりと滑り柔らかな肉の塊を這わせられる。あまりの光景に目も離せず凝視していると、琥珀の瞳がちろりと見上げてきた。バッチリと視線がかち合うと瞳を細め微笑みを浮かべられる。
 見せつける様に顔を上向きにしながら頭を動かし、紅い唇からぬめぬめと光る雄が出し入れされた。時折口から出して竿へと流れる汁を舐め取るように舌を突き出してなぞり上げられる。

「っは……すっごいデカさに育ったな」
「……ぁ……ぅ……」
「せっかく今女になってんだし……サービスしちゃいましょうか?」
「ふぇ?」

 もういっそ殺してください、と言ってしまいたい気分のイワンを余所に虎徹はタンクトップを脱いでしまった。

「○※☆§◇%△×□ッ!!!!!」

 声になってない悲鳴が上がる中、目は本能に忠実で。晒された円い柔らかそうな肌を押し寄せるレース布地から離れられないでいる。頭が噴火したんじゃないかと思う程に頬が熱く、目が回りそうなくらいに酸素がいきわたらない。そんなイワンに気付きもしない虎徹は脱ぎ去ったタンクトップを床に落として軽く腕を組む。すると、両腕の間で押しつぶされた胸がくっきりとした谷間を描き出し、淡く色づく紅い実をちらちらと覗かせていた。

「ッん!」

 完全に起ち上がった楔が柔らかな肌の隙間に押し込められる。初めて味わう柔らかさと温かさ、そして滑らかさに、今にもぶちまけてしまいそうなほどの快感が走り抜けた。さらに追い討ちをかける様に体を揺するものだから、耐え切れずに声が零れ落ちる。呼気がだんだんと荒くなってきた頃……

「……ん……ぁっ……」
「っ……ぁつ……」

 虎徹の声が聞こえた。乱れた呼気と掠れた声……ちらりと見下ろした貌は薄暗がりでも分かる程に頬が紅潮している。琥珀色の瞳もどこかうっとりと細められ涙が滲んでいるのか、潤んでいるようだ。

「……たぃが、さん……」
「ぅん?」
「その……ま、ま……さきを……」
「舐めてほしい?」
「っはい……」

 堪らず強請ってしまうと、見上げた貌が妖艶な笑みを刻む。素直に頷けば今にも弾けそうな剛直を胸に挟んだまま舌を伸ばして舐め始めた。

「……っ……」

 子猫がミルクを舐めるように舌でちろちろと先を擽る。たらたらと流れ出ていた蜜を綺麗に舐め取る間にぷくりと滲み出てきた雫に舌を伸ばして、ちぅ、と音を立てて啜りあげた。ちら、と見上げてくる瞳に、ぞくっと背を震わせれば楔が肉の谷間から解放されてしまう。かと思えば、先端を弾力のある胸に押し当ててぐりぐりと擦られた。

「うっ……んッ……」
「イっていいんだぜ?」
「……で、もっ……」
「たっぷり……か け て ?」

 わざとらしさすら感じるゆったりとした言い回しをした後に一際強く扱き上げられる。……ぞくぞくっ……と駆け巡る快楽に抗う事も出来ず、耐えに耐え続けた欲望を吐き出した。

「くっ……う……ぁ……ッ!」
「んっ……」

 勢い良く飛び出る白濁の蜜が紅潮した頬や黒い髪に飛び散る。その光景をぼんやりと眺めていたが、虎徹の指が頬を伝う蜜を拭い上げる動きに我へと帰った。

「すっ、すいませっ」
「ぅん?」
「ッうわぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 慌てて首にかけたままだったタオルで拭おうと手を伸ばしたのだが、それより先に虎徹が指についた蜜を舐めてしまった。あまりの衝撃に叫んでしまう。

「なっ、なっ、なっ……」
「??そんな驚くことじゃないだろ?」
「だっ、だっ、だっ、だっ……」
「あ……もしかして口でしてもらうの初めてだったりとか?」
「あうああああ……」
「……あちゃー……」

 とてもばつの悪そうな表情にイワンの方が申し訳ない気分になってしまったようだ。虎徹は苦笑を浮かべている。

「悪いことしたなぁ……もっと可愛い子の方が良かっただろうに」
「いいえ!とんでもない!タイガーさんにしてもらえるなんて嬉しすぎてッ」
「………え?」
「………あ……」

 否定するだけにとどまらずうっかり口を滑らせてしまった。きょとん、とする虎徹に己の失態に気づいて口を両手で塞いだ。とはいえ、もう言ってしまったので後の祭り。奇妙な沈黙が広がるばかりだ。

「……そっか……嬉しかったか」
「……え?」

 どうしよう?とぐるぐる悩んでいると、虎徹の口からぽつりと言葉が零れ落ちた。思わず反らせていた目を向けると照れたようにはにかんだ表情が見える。その顔にぼんやり見とれていると琥珀の瞳がちらりと見上げてきた。

「……え、と……」
「……あのさ……」
「は、はい……」
「……お願いがあるんだけど……」

 真剣な面持ちで囁かれる言葉に思考がうまく回転しない。あの虎徹の縋る様な視線と表情で金縛りにあったように体も動けないでいる。唖然としている間に立ちあがった虎徹は徐にブラジャーを外してしまった。

「ッ!!!?!?!?!?」
「……イワン……」
「ッふぇ?!」
「……抱いて……くれねぇかな?」
「ッえぇぇぇ!!!」

 晒されてしまった素肌と、とんでもない発言に混乱が頂点を極める。今何を言われたのかすら見失いそうなイワンに対して虎徹の表情はさっと陰ってしまった。

「……やっぱ俺なんかじゃ嫌か……」
「いいいぃぃいぃえ!そうじゃ、なくっ、て、あのっ」
「……さっきから……この辺がうずくんだ……」
「……ぅ……え……??」

 そう呟いてそっと手を当てたのは下腹の辺りで、見ている間にも膝同士がもじもじと擦り合わされている。ごくり、と喉を鳴らしてそっと顔を見上げると、心なしか頬の色がさらに赤く染まり、さきほどまでまっすぐに向けられていた瞳が逸らされていた。

「イワンのを、さ……咥えてたら、興奮してきて……抱いてくれないかなぁ、とか思って……その……」

 虎徹自身もかなり恥ずかしいのだろう、声が徐々に小さくこもりがちになってきてしまっている。

「ぼ、ぼく………なんか、で……?」

 言われた事は分かったが、やはり信じられない、という思いばかりが降り積もってしまう。しどろもどろになりながらも聞いておきたいことを口にしてみると、逸らされていた瞳がちらりと向けられた。

「ん」
「!」

 突然両肩を掴まれたと思った途端、ふにゅり、と唇に温かく柔らかい感触が広がる。暫しの硬直の後に『キスをされている』という事態に気づいた瞬間、頭の中が大爆発を起こした。体中からどっと汗が吹き出し、今にも卒倒しそうになったがそれよりも先に頬を細い指が撫でてくる。

「……どうでもいいやつのイチモツなんか咥えられるかよ……」

 一瞬何の事だかわからなかったのだが、虎徹なりの告白なのだと気付き胸の奥が熱くなった。石のごとく固まってしまったイワンに所在なさげな虎徹が視線をあちらこちらと彷徨わせている。


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