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お題:『後天性♀虎』シリーズから折虎話
※時軸は〜Honesty is the best policy.〜の直前です。

”Tomorrow, another wind will blow.”
『明日には明日の風が吹く』


「おはよう、イワン君」
「あ……おはようございます」

 出社するなり声をかけてきたのはヘリペリデスファイナンスCEOである。イワンの上司であり、よき理解者でもある。
 ヒーローには向かない能力でありながらも、ロゴをアピールする為に見切れる事を重きに置く方針は彼のアイデアであり、とても喜んでくれる。ポイント獲得よりも喜ばれるのは少々複雑な気持ちではあったが、イワン自身がヒーローとしての自覚と自信を持ち、行動が以前と変わっても彼は喜んでくれた。それは一重に『折紙サイクロンがどういう形であっても活躍してくれるならいい』という親心的なもの。そんな彼に対してイワンも存分に活躍して恩返しをしたいと常々思っていた。

「先日は急な仕事を入れて申し訳なかったね?」
「いいえ……おかげ様で貴重な体験をさせて頂きました」

 先日、というのはマンスリーヒーロー特別企画の撮影の件だ。
 企画者であるアニエスから二日前にオファーが来たのだ。本来ならばもっと早い段階で依頼を出されるのだが、特別企画とだけあって、会議を重ね案を練って……としているとどうしても時間がかかってしまったらしい。元々企画の主役であるワイルドタイガー一人を撮影するだけだったのだが、ヒーローの人気が下火になっていた彼の元の姿は人々の記憶にさほど残っていないのではないだろうか?という危惧が出てきた。真横に並べて比較する方が購入者にとっても分かりやすいのではなかろうか。
 そうした経緯で辿り着いたのは、折紙サイクロンに元のタイガーに化けてもらおう、という事だ。以前、キャンペーンでタイガーに化けた事もあるので問題はない。

 たった二日前にオファーを入れられた為にその日のスケジュールをすべてキャンセルにすることになった。とはいえ、撮影の日のスケジュールはスーツの開発チームとの打合せだけであり、残りはジムでの体作りだけだった。言い方は悪いが特に大したスケジュールは入っていない。なのでオファーの返事もほぼ二つ返事。あれよあれよという間に決まってしまったのだった。

「実はね。カメラマンの方が、早朝から申し訳ない、と言いつつ、君に会いたいと言って来ているんだよ」
「え!?僕に、ですか?」
「随分興奮した様子で……お礼がどうの、と言っていたからねぇ」
「は……はぁ……」
「とりあえず応接室で待ってもらっているから。行ってくれるかい?」
「はい、分かりました……」

 カメラマン、というのはタイガーの撮影での中心に動いていたあのカメラマンだろう。
 撮影が始まると、時間を追うごとにテンションがヒートアップしていっていたのをよく覚えている。よくバーナビーの雑誌用ピンナップの撮影をしていたカメラマンで、タイガーの撮影、と聞いてあまり乗り気ではなかったらしい。
 けれど、それもほんの数分、いや、数秒で覆されたらしく。嬉々として指示を出してくる彼はスタッフ曰く−−−

−「あれほどテンションの高い彼を見たのは初めて」

 ……だ、そうだ。
 それほどワイルドタイガーに魅力があるのだ。と、イワンは小さくほほ笑む。テレビでは写されていなかった彼の『格好いい面』。多くの人にばれてしまうのは少々悔しいが、知っていた人間として誇らしく思う。

「……何の用なんだろう……?」

 そんなカメラマンが興奮冷めやらぬ雰囲気だった。というには、何かあったとしか思えない。しかもワイルドタイガーである虎徹のもとではなく、イワンの所に訪ねてきている。ますます訳が分からない。
 とにかく会わなくては、と折紙サイクロンのマスクを被り、イメージを損なわない様に、と着流しに着替えて応接室へと向かった。

 * * * * *

「………」

 何事もなく終わった一日。けれど朝一に渡された紙袋を前にイワンは正座をしていた。

「・・・」

 その紙袋は、頭の血管が切れるのではないかと心配するほど大興奮状態のカメラマンから渡されたものだ。しかももらいうける際、御丁寧に……

−「家に帰ってから一人で見てね」

 と、ハートマークが付きそうな調子で言付かった。
 言われた通り、家に帰ってきて自室にこもること数十分。紙袋は未だに開かれていない。

「(この大きさからして……マンスリーヒーローかな……でも……どうして一人で???)」

 もそもそと紙袋の上から触り、感触を確かめるも紙の束。という感じ。端の方を触ってみれば雑誌の綴じ部分の感触もあるのでやはりマンスリーヒーローに違いないようだ。
 色々腑に落ちないものの、今回の雑誌ならば早く取り出して中を見てみたい、という欲望がふつふつと湧いてくる。
 何せ今のワイルドタイガーは、黙っていればアジアンビューティー。しかもかなり妖艶ではあるが、イワン好みの大和撫子(どちらかというと甲斐姫だが……)に間違いはないのだ。雑誌にしてある写真なのだから選びに選び抜かれたものであるはずという点でも楽しみでならない。

「(いざ、尋常にっ!)」

 ずぼっと手を突っ込み、雑誌を引っ掴むと勢い良く抜き出した。そしてお目にかかった表紙にイワンの思考が制止する。

「ッ!!!!????!?!?!」

 出てきたのは間違いなくマンスリーヒーロー。その表紙を飾るのはもちろん主役のワイルドタイガー。……けれど。

「なっ……なッ……なぁッ!?」

 表紙はお馴染みのアイパッチを着けた現在のワイルドタイガーその人。
 ホルターネックの黒いドレスで、ワインレッドのベルベットが貼られたアンティークのソファに寝そべった姿ではあるのだが、その表情が、姿勢が、半端ない色気を醸し出している。

 ソファの上に仰向けで寝転んでいるタイガーは、片足を真っ直ぐに伸ばし、もう片方は肘掛を蹴るように立てている。その為に深いスリットからすらりとした足が太股の際どい位置まで露出しており、伸ばされた足の爪先に脱げかけのミュールが引っ掛かっていた。
 反対側の肘掛に乗せた頭は僅かにこちらを向いており、前髪を掻き上げている為、アイパッチ越しの流し目が強烈だった。淡く色づきぷるりと瑞々しそうな唇は僅かに開かれ今にもなにか言葉を発しそうだ。
 反らされた首にはまるで肉食獣に付ける様な太い黒革のベルト。細いチェーンが金具の位置から鎖骨の中心を通り、胸の谷間をなぞって下りていく。ドレスのフロント部分は大胆にもヘソの辺りまで開いており、面積の少ない布地は胸に『引っ掛かっている』という表現が正しい。持ち上げられた布の隙間から下乳が惜しげもなく晒され、40前とは思えないプロポーションを見せ付けていた。

 トドメとでも言うのか、表紙の煽り文句には−−−

−『飼い慣らしてみる?』

 と、挑発めいた言葉が書き込まれている。

「た、た、た、……タイガーさぁんッ!?」

 思わずこの場にいない人物の名前を叫んでしまった。だがしかし。人間の悲しい性か、中のスナップが気になってしまう。なにより、魅かれたのは……

 『豪華袋綴じ』

 ……の文字。今までマンスリーヒーローで『袋綴じ』など入ったことはなかった。それが喩えバーナビーやブルーローズの特集が組まれた時でも、だ。
 一体どういったものなのだろう?前例がないだけに気になって仕方ない。とりあえず袋綴じ以外を見て、と雑誌を前にびしり、と正座をして恐る恐る表紙を開いた。

「ッ!!!」

 途端、突っ伏してしまった。
 というのも捲った見開きいっぱいにソファで寛ぐ『タイガー』の上に覆い被さる『タイガー』のショットが目一杯大きく載せられていたからだ。

「〜〜〜っ」

 このショットには見ての通り『イワン』もいるので、もちろん身に覚えはある。けれど、こんな淫媚な雰囲気ではなかったはずだ。
 「ソファでじゃれあうように遊んで」と簡潔な指示を出されて二人して顔を見合わせた。『遊んで』といってもどうやって?と首を傾げていると、『タイガー』が袖を掴んでソファに座る様に肩を押してくる。促されるがままに座ればカメラの位置を確認して靴のままでいいから寝そべれ、と言ってきた。何をするのだろうか?と不思議に思いながらも言われるがまま寝転び、『タイガーらしさ』を損なわないように足を軽く組む。  すると『タイガー』がのそりと体の上に跨ってきた。アニエスのようなスリットの深いスカートでそんな事をすれば、美脚が惜しげもなく晒されることとなる。

 しかし。『タイガー』は『タイガー』だった。

 下着が見えてしまうんじゃないか、とおどおどする『イワン』ににやりと笑みを向けると、わしっと脇腹を掴んで擽ってきた。もちろんあまりのくすぐったさに身を捩り笑い転げてやめさせようともがきにもがいて、けれど結局『タイガー』の手を止める事は叶わず、だったらせめて反撃を、と抱き寄せてがっちりホールドしたのだった。

 そんな一連の動作だったはずが、どこをどう切り取れば−−−

 『転寝中に悪戯しようとしたら引き寄せられた』

 ような構図になるのだろうか?
 しかもスナップの互いの表情だけを見れば見つめ合い、今にも口付けに発展しそうな雰囲気を醸し出している。

「(……写真って恐ろしい……)」

 雑誌の最初の数枚は『イワン』との2ショットばかりではあるが、カメラを意識して撮った物は一枚もなく。すべて合間の自然な表情と、際どく見える構図ばかりだ。それこそ、抱きしめてもいないのに抱いているように見えるもの。背景データの交換の間に出来た僅かな寛ぎの合間に乱れた髪を手櫛で整える様が誘っているように見えるものまで。表情が曖昧なものを選ぶ事によって撮影当時の心境を隠してしまい新たな描写を加えてしまうそれらの写真は一言でいうなら恋人同士のように見え、イワンには刺激が強かった。

「(あ……ここからはピンショット……)」

 ようやく自分が混ざったピンナップが終わった。と思えば、今度はタイガー個人の悩殺ショットが連ねられている。際どいグラビアポーズの嵐に鼻息荒く食い入るように見入ってしまっていた。
 一通り見終わり、雑誌を閉じる頃には吐き出すため息に熱がこもっている。数秒の恍惚とした、達成感というか、充足感というか。いわゆる賢者タイム突入時のような心地の中、ゆるりと下ろした視線で再び表紙を見つめた。

「(格好いい……可愛い……色っぽい……なんだかすべてを持ってるって感じだなぁ……)」

 興奮し続けながらも色っぽいだけで、格好いいだけでは終わらないタイガーは本当に憧れの人なんだ、と感嘆の息を漏らす。そして、ひたり、と表紙の文字に視線が固定された。

「……袋綴じ……」

 ぽつり、と声に出して囁く。マンスリーヒーロー初の袋綴じがまさか『ワイルドタイガー』になろうとは誰も思い付かなかったに違いない。袋綴じじゃないページでこれほどの興奮。果たしてこの『開かずの扉』の中にはどんなピンナップが隠されているのか。興奮と期待と、一種の冒険心がイワンの足を動かし、引き出しの中からカッターを取り出させた。

「う〜……ん〜………と……真ん中……」

 束になったページを弄りながら輪になった中央を探し当てる。人生初の袋綴じを開く瞬間。しかもその袋綴じが憧れの、愛して止まない人物の写真、となれば、指だって自然と震えてしまう。破いたり、可笑しな開き方をしないように、と慎重に慎重を重ねてじりじりと、じれったくなるくらいゆっくりと開いていった。

「っぃよし!!」

 端から端まで切り離すと捲れなかったページが開く様になる。どきどきと高まる胸を押さえながら震える指先で一枚捲ってみた。

「ッ!?……てぃ……っしゅ!!!」

 開いて最初のページ。『KEEP OUT』と書かれたテープで部分的な位置を隠す程度に体の前で交差させ、薄くほほ笑むタイガーがコンクリートむき出しの壁の前に立っていた。
 破廉恥極まりない光景に、ゆるりと弧を描く瞳。薄く開いた唇はキスを強請っているかのようで。テープによって局部はかくされているとはいえ、バックから淡く照明を当てているせいで体のラインがはっきりと写し出されている。胸元も、トップをきっちりかくしてはいるが、下乳も胸の谷間もバッチリ写されていた。
 くびれた腰とうっすらと割れた腹部も惜しげもなく晒され、正面と横向きと、二枚が左右のページに並ぶ。

「こ……こんな……」

 しょっぱなからこんな写真でいいのか!?と突っ込みを入れたくなる中、ぺろり、と捲った次のページでは白のビキニで素肌を存分に晒し、膝立ちした足の間にクリアカラーのビーチボールが置かれていた。透ける素材であるために、小さく谷を描く股上がばっちりと写り、明らかにサイズが小さめのブラからは今にも胸が零れ落ちそうだ。しかも隣のページではバストアップなのだが、木の影に写し込んでいるのか、肌の上に転々と光が当たり、組んだ腕の上でたわわに実った胸が紐の拘束から解放され、あわやバストトップが見えそうな位置までずれ落ちている。
 その上、今にも語りだしそうな唇がさらにいやらしかった。

「(卑猥過ぎるッ!!!)」

 慌てて取り出したティッシュを何枚か重ねて鼻元に押し当てると、その場に突っ伏す。しかしもう片方の手は未だ雑誌のページを捲ろうと捕らえたまま離れない。ある意味男らしかった。

「(ま……まだ折り返しまでいってないのにっ!)」

 折り返し地点である真ん中のページまでまだあと2・3枚はページを捲らねばならず、しかもその枚数に比例してショットの数があるという。もう喜んでいいのか悲しんでいいのか、感情のコントロールも分からないくらい混乱してきていた。

「(だがしかし……男一代イワン・カレリンッ!この袋とじ!制覇してみせるでござるっ!!!)」

 決意を新たにくわっと顔を上げて挑む姿勢になったイワンは再びページを捲り始めた。
 だが、一枚、二枚と進んだところでおもむろに立ち上がってトイレへと駆け込んでしまった。

 何があったか……あえて書かない方が彼の為かもしれない。

 * * * * *

「………やって……しまった……」

 息も絶え絶えになりながらも、袋とじを制覇したイワンはぐったりと伏せていた。とはいえ、正座のままに太腿をぴっちりと閉じて押さえ込むように前かがみではあるが、もそもそと位置を変え、角度を変えとしている。けれど一向に治まりそうもない現象にイワンは眉を顰めた。

「……うぅ……侮ってたわけじゃないけど……強烈過ぎです……タイガーさん……」

 またもいない人物に文句を零し、イワンは魅惑の表紙を隠そうと元の紙袋を引き寄せる。すると何も入っていないと思っていた袋が思ったよりも重く、首を傾げた。改めて手に取ってみるとまだ他に封入されていたらしい。雑誌にばかり気を取られて全く気づけずにいたようだ。

「……何だろう……??」

 がさがさと漁って取り出してみれば雑誌より一回り小さい封筒。丁寧に封までされたソレを開けるべく出したままのカッターで丁寧に開封する。すると、中から出てきたのは生写真で……

「えぇええぇぇ!?」

 思わず雑誌の下に手を突っ込んで隠してしまった。一気に跳ね上がった鼓動は治まることなく。今しがた目にしたものは幻だったのでは、と再び覗き込んで見るも、そこに写された光景は変わらない。収まりつつあった熱が再び噴火する勢いで上がっていく。

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

 真っ白なシーツに埋もれ、何も身に纏わず、かろうじて腰から下に布を巻きつけた状態で横たわるタイガー。胸は両手の指先で押さえ隠れているのだが、AVさながらのショットに思わず目が釘付けになってしまう。逸らしたくても逸らせない。といったほうが正しいかもしれない。恐る恐る次の写真へと移れば、真っ白なビキニのヒップラインを直している光景だ。しかもわざわざ後ろから撮っているせいで、ただでさえ面積の狭い白い布が桃尻の狭間に食い込む様がデカデカと写されている。さらに肩越しの流し目。究極ではないだろうか?

「……もしかして……こんなショットだらけ?」

 恐る恐るもう一枚。さらに一枚。と、突っ伏したり、項垂れたりしながらじっくり、ゆっくりと進んでいく。 時計の針はすでに頂点を通り過ぎ、新しい日になっているのにイワンはまったく気付いていなかった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

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