無意識に瞳をきゅっと閉じられた虎徹の顔を間近で見つめながらイワンは肌の滑らかさを堪能していた。しっとりとしたサテンのような肌触りはいくら触っても触り足りないと手が疼くほどに魅力的だ。するり…するりと撫で、鼓動を探るように気まぐれに止める。すると一定の間隔で手の下でひくりと震える反応に気付いた。
「…っ…っ…」
探るようにじわじわと撫で回し、位置を変えたり…としていると躯を振るわせる場所が分かった。
「んっ!」
確かめるように押しつぶすと喉が綺麗に仰け反って啼き上げた。その声をもっと聞きたくてぐりぐりと押さえ付けると、身を捩り始める。
「っや…め…ソコ…っばっか…っ!」
どこか切羽詰ったように聞こえる耳障りのいい声を聞きながら弄る手は休めない。それどころか固く熟してきた実を摘み上げた。
「ぁう!」
きゅっと指先で挟めば虎徹の背が仰け反る。びくりと跳ねる躯から吐き出された声にイワンは喉を鳴らした。顔に釘付けだった目線をそろりと下ろして行けば自分の指に弄られる実が見える。色濃く熟した実はまるで食べてくれと誘っているようで…ゆるりと顔を伏せた。
「ッひゃ!?」
片方離された…と思った瞬間ざらりとした熱く柔らかい感触が這わされる。覚えのある感触ではあるが…思わず確かめるように視線を下ろすと思った通りイワンが胸に唇を寄せていた。伏せた髪の隙間から白い顔と紅い舌がちろりと動くさまが見えてかぁっと頬が熱くなる。
「ぅんっ!(乙女か!?俺は!!!)」
はっきり言えば男に抱かれた事など数えられないほどある。それこそ最愛の人が死んでからしばらくの間、淋しさを埋めようと渡り歩いてすらいたのだ。
だが、今まさに体験した事のない状態に陥っている。胸を少し弄られたくらいで嬌声を漏らし、声を耐えられないほどに感じ入ってしまっていた。もっと言うなら、抓られて舐められているだけでイきそうなくらい気持ちいい。
「ぃわ…っん!」
「?」
切羽詰った声で名前を呼ばれて顔を上げる。すると目尻に涙を浮かべた虎徹がソファのカバーを握り締めて震えていた。
「も…ソコ…は…いいだろ…?」
顰めた眉…紅い頬…拗ねたような声音…それらから拾い上げたイワンの答えは…
「(…Lie…)」
「ぅあっ…」
ぱさりと髪が覆いかぶさると再び胸に舌が這わされる。さらに歯を立てられてびりっと走る悦楽の刺激に啼き声が上がった。
耳に心地良く響く声をもっと聞きたくて脇腹にも歯を立てる。僅かに突いた歯の痕を舐めるとまた艶声が上がった。
「ッは…ぁっ…ッんん…!」
唇で肌を辿りふるりと震える場所に歯を立て舐め上げる。先ほどまでのテンパりぶりが嘘のようにイワンの心は凪いでいた。受け入れられる絶対的信頼と、閉じ込められないと分かっている存在を腕の中で自由に啼かせる優越感…それらが混ざり合い躯が求めるままに目の前の躯を貪る。
「っあ…っふぁ…!」
てっきり自分がリードするものだと思っていたのに意外な展開になってきている。するりと撫でる指先と唇が肌を震えさせ、気まぐれに立てられる歯と舐め上げる舌がじわじわと肌を炙る…痺れるような快感の行き渡った四肢は思うように動かずされるがまま…けれどこの心地良さを手放したくない躯は言う事を聞かなかった。
「…ッんぁ!」
ふと唇の動きが止まったと思った瞬間、その部分につきりとした痛みが走る。ぴくっと躯を跳ね上げると唇が離れて舌が痛みを宥めるように撫でていった。
「……綺麗…」
痛みの走った部分に指を這わせたイワンのうっとりとした声音に花弁を散らされたのだと分かった。まるで絵画を全体的に見るように少し体を離して見下ろしてくる。細められた藤色の瞳が欲に塗れた色に変貌していた。
「…ぁ…ぁっ…」
しばし鑑賞していたかと思えば再び顔が伏せられる。首筋…胸元…鳩尾…脇腹…ゆっくりゆっくり移動し、辿り着くたびに走る小さな痛みと宥める舌の動き…再び開放された時には四肢の力が抜け切ってくたりと躯を放り出した状態になった。
「…虎徹殿は…」
「…ぅ…ん…?」
「時折…妖艶な雰囲気を持ってる…」
「…妖艶?」
躯の中で燻る熱が冷めないように指先があちらこちらと揺れ動いて撫でていく。時折敏感に感じる部分を掠めるものだから、ぴくっと跳ねるとソコをしつこく撫でてきたりもした。そんな嬲り方をしておきながらも会話を普通に始めている。
「今日とか…」
「っん…」
「3日前も…それから…10日前…あと…先月の末にも…」
ぽつりと上げられる日を頭の中に思い浮かべる。どれもそこら辺の男に抱かれた次の日のように思う…バツが悪く思わず口元を腕で覆い隠してしまった。
「すごく惹かれて…困った…」
「…なに…が…?」
「襲い掛かりたくて仕方なかったから…」
困った…という言葉に繋がるものが何なのが分からずに思わず口を挟むとむっとした顔をされてしまった。けれどやっぱりどうして困るのかが分からない。
「?襲ったらよかったのに…」
「・・・」
「?????」
正直に言うと…イワンとこういったコトにもつれ込めばいいのに…と思ったのは今日だけではない。気まぐれに唇を重ね合わせたりした時などは特にこのまま先まで進めばいいのに…と思っていた。けれどイワンの様子を見る限りではいつもいっぱいいっぱいな雰囲気なのでソレ以上は求めずにいたのだ。
だから当人が望むのならば押し倒すなり襲い掛かるなりして良かった。
…しかし…ぽつりと漏らした本音にイワンの表情が険しくなる。
珍しいその変化にぱちりと瞬いた。
「ジムのベンチ…」
「…へ?」
「打ち上げと称した飲み会…」
「…う…ん…?」
「任務終了直後の帰り道…」
「………」
次々と上がる場所を思い浮かべてその全てが人目に付きやすい公衆の場だと気付いた。…もしかして…と思いつつも紡がれる言葉を静かに聞き入る。
「そんな場所で虎徹殿に無体を働いて嫌われたくないですから…」
「…そ…そう…か…」
「それに。虎徹殿との初夜をそんな場所で迎えたくなかった」
「しょっ…!!?」
「…虎徹殿は無自覚だから性質が悪いです…」
最後に囁いた言葉はちゃんと聞き取れなかった。首を傾げてみるも言い直してくれる気はないらしい。聞き返せないように口まで塞がれてしまった。
「…っふ…ぁ…」
舌の付け根が痺れるほどたっぷりと絡められた。生理的に滲み出た涙でぼやける視界にイワンを捕らえて腕を伸ばすとその背に回して抱き締める。
「んっ…」
再び重ねて互いの呼吸を奪い合っていると押し付けられた腰にぴくっと反応をしてしまう。身長差の加減で下っ腹辺りに押し付けられた腰は、確かにソコに存在する熱の高ぶりをまざまざと意識させ躯の芯を疼かせた。
「ッ!」
そろりと背から滑り降りていった手が腰を撫でてベルトを外そうとしている。その手際の良さに少々面白くない気分にもなるが触れてくる手が心地良くてなすがままにしておいた。
「っ…!!」
「お…立派な男の子だなぁ…」
ファスナーの下りる音を聞いた直後、ぞくっと背筋を駆け上がった感覚に息を詰めた。
…虎徹の手が自分の雄を握り締めている…
たったそれだけのことのはずなのに…意識するだけで今にも達してしまいそうになった。唇を軽く噛み締めて目の前の首筋に額を押し当てる。
「んっ…く…」
手の中に迎え入れたイワンの雄はすでに反り返り先走りで濡れそぼっていた。するりと撫で上げるだけでぴくぴくと反応を示し、耳元で乱れる呼気が聞こえる。素直な反応に笑みが深まり…荒い呼吸に自身も興奮してきた。
「…こて、つ、どの…」
「ん…きもちぃいか?」
「…って…」
「…ぅん…?」
「っちょっと待ったあぁぁぁーッ!!!」
「!?」
ふるふると震え始める肩に絶頂が近い事に気付きイかせようとした瞬間、伏せた顔がガバリと上げられる。さらに両手を捕らえられてしまった。
「ど…どした?」
「だめ…で…す…」
「へ?」
「男たるもの…嫁よりも先にイくことは許されないんです!」
「………よめ…?」
ぎゅっと手を握り締め真剣な顔で断言された言葉の内容にくらりと眩暈が起きる。おじさん相手に『嫁』という単語が使われるとは思ってもみなかった。
「ッ!?」
うっかり唖然としているとベルトが外されファスナーを下ろされる音を聞いた。ヤバイっ!…と思うも時すでに遅し…きゅっと握り締められて喉が仰け反った。
「ッあ!」
「…コレが…虎徹殿の…」
徐にきゅっと掴み上げられたばかりに加減もない強さに躯がぶるりと震える。反り返る背を戻すよりも先に…にちゃ…と音を立てて擦り上げられてしまった。
「っく、ぅんッ!」
ぞくぞくっと忙しなく駆け上がる悦楽に唇を噛み締めるが漏れ出る声を止めることは叶わなかった。
「ぁ…ぁ…ぅ…」
「…虎徹殿…」
性急に高められる悦楽と快感の渦に抗う事が出来ない。ざわざわと粟立つような内腿と腰の奥の熱になんとしても抗おうと無駄な抵抗を見せる。
「ひぁう!!!」
途端に止まった手の動きにほっとしたのも束の間…温かい泥濘のような空間に放り込まれた。
「なっ!いっ、いわっんんっ!!」
股上に埋められた金髪が嫌な予想を肯定している。引き離そうと頭を掴むも…じゅるッ…と音を立てて吸い上げられると指先から力が抜け落ちていった。
年上の矜持が…とか…イタイケナ青少年にこんなことさせてはまずい…とか…頭の中で数々の言葉が浮かぶが解け切った躯では逃げることも出来ない。
「…あっ…あぁあ…っ!」
恐ろしいほどの快感が躯を埋め尽くしていく。いつもなら押し殺せるはずの嬌声も促されるがままにあふれ出てきた。信じられない己の躯の反応にうろたえながらも蠢くイワンの舌に思考をかき乱される。
「いわっんん!もっ…もぉっ…はな、せぇっ!」
ぐずぐずに解けたように動けない下半身に煮えたぎるような熱が膨れ上がってくる。頭の中が真っ白に霞み行く中、内腿が振るえ絶頂が目の前に迫ってきた。まさか彼の口の中で果てるわけにはいかない…と必死に離させようとするのにイワンは全く聞き入れてくれない。それどころか滴り流れる蜜を菊華に塗りたくり始めた。
「やっ…やめぇッ…!!」
絶え間なく襲い掛かる悦楽の牙にぎりぎりで保っていた理性が崩されていった。前の楔へと与えられる快感だけでもいっぱいだというのに…後ろにも攻めの手が回されると精一杯の抵抗はあっけなく流されてしまう。手から逃げようと腰を捩るもしつこく付き纏う指先は容赦なく…つぷり…ともぐりこんできた。
「ッあぁああぁぁぁぁぁッ!!!」
背筋が限界まで反り返る。爪先がぎゅっと丸くなり淡い金髪に絡めた指がかたかたと震え始めた。目の前がチカチカと明滅するほどの感覚に躯が痙攣を繰り返す。
「っは…ぁっ…ぁっ…!」
イった直後の余韻にびくっびくっと跳ねる躯を見上げてイワンはゆっくり口を離した。つい今しがたまで口の中で白魚のように跳ね、固く張り詰めていた雄は力をなくしへなりと落ちていく。痙攣していた躯が徐々に治まるにつれて時折ふるりと震える雄の様子が愛らしい。
ぐたりと脱力してしまった虎徹い淡く笑みを浮かべながら口の中に溜めたままの蜜を指へと垂らす。
「…ぅあっ!」
くちゅ…と音を立てて埋め込まれた指が動く。ぞくっと背筋を駆け上がった悦楽の波に朦朧としていた意識が覚醒された。けれどそれも一瞬のことで…ちゅくちゅく…と動かされるとすぐに霞んでいってしまう。
「だっ…だめっ…だめっ、ぃわっんんっ!」
受け入れる事になれた菊華にイワンの指は細いのだが…イった直後の敏感な内壁を擦られると関係なくなった。ソファの布を手繰り寄せ容赦なく遅い来る快感の波に身悶える。
「…虎徹殿…」
「んくっ、んっんぁ、あっ!」
「…厭らしくて…綺麗…」
「ぅあッ!あっあぁっあ!」
自己制御などとっくに出来なくなった躯を持て余し、頭を振り乱して啼き上げる虎徹の顔を間近に迫って見つめる。
頬を染め上げ…熟れた赤の唇から甘い声が溢れる度に覗き見える舌がちろちろと蠢きイワンを誘っているようだ。切なげに寄せられた眉と目尻を伝う涙…初めて見る貌に喉が干上がる。
「っふぁ!んっ、ひっ…はぁう!」
指に慣れてふわりと菊華が綻ぶ度に増やしていたのだが…3本を飲み込んだ辺りから腰がゆらゆらと誘うような動きに変っていた。ぺろり…と乾いた唇を舐めて甘い声を上げる唇を掠めると、焦点の定まらなかった瞳がイワンを見出した。
「やっ、やっ!も、う…ッ!」
押さえつけずともおのずと開く足…その間で蠢く菊華がもっと違うものを寄越せと蠢いている。淫靡な光景に喉を鳴らすとナカを犯し続けていた指を抜き取り己の分身を押し当てた。すると虎徹の躯は期待するかのように小さく振るえ、貌が綻びを魅せる。
「…虎徹殿…」
「ん…おい、で…?」
許可を求めるように見つめる紫の獣の瞳に微笑みかけると腰がぐっと密着してくる。躯に見合った大きさ…だとは思うが、圧迫感からは逃れられなかった。それどころか、内壁を擦り上げる快感に溺れてしまいそうな耐え難い波に飲まれていく。
「はぁ、あ…!」
「ん…っふ…」
内側から押し開かれる…ただそれだけの行為が全く違うものに感じられる。近くに聞こえる乱れた呼気…煩わしいと感じていたのに…イワンだと思うだけで満ち足りた気分になる。
「…こてつどの…」
「んっ…」
熱に浮かされた貌をしながらも唇を寄せてきた。唇に纏いつく互いの熱い吐息を心地良く感じながら小さな背に腕を回す。答えるように腰を一撫でされると躯の芯がふるりと震えた。
「んっあぁ!」
ぐるりと世界が回りそうな悦楽が躯を突き抜ける。
ぐっと更に奥へと押し込むように腰を密着させると甘い啼き声とともに喉が仰け反らされる。綺麗に反らされた喉に口付けて、きゅうきゅうと閉まる内壁に暴走してしまいそうな腰の動きを抑えこんだ。
「あっ…あっ…」
「…ふっ…ぅ…」
奥まで入れられただけだというのにくらくらと眩暈がするほどの悦楽に包まれている。擦り付けてくる唇がくすぐったくて…酷く心地良い…
ナカがひくりと蠢く度に咥え込んだ熱を意識してしまい、かぁっと頬が熱くなる。それとともに詰められる呼吸を聞き余計に躯が痺れたような心地良さに包まれた。
「…こてつどの…」
「…ぅ…ん…っ…」
最初の衝撃が少し治まってきた。ひくひくと震える躯をそのままにそろりと瞳を開くと眉を顰め頬を上気させたイワンの貌が見える。名を呼ばれてきゅっと絞まるような疼きを胸に首を傾げると額に張り付く髪を掬い上げられた。
「…だいじょうぶ…ですか…?」
晒された額…汗の滲む頬…痺れたかのような舌で満足に言葉を紡げない唇…全てに愛しいと語りかけるように唇を押し付けられた。そうして囁かれる気遣いの言葉…
「(……あぁ…)」
自分にも余裕がないのに相手を気遣うイワンにふわりと瞳が弧を描いた。
「(…愛される…ってこんな感じ…だったっけ…)」
胸にじわりと広がる甘く疼く熱に…ほぅ…と吐息を吐き出した。全てにおいて心地いい…満たされる感覚…ずっと忘れていた感覚に虎徹は頬を緩めた。
咥え込んだ楔の熱さも大きさも決して楽なものではない。どちらかといえば苦しい。
それでも…こうして様子を窺われて、気遣われて…大切にされる…たったそれだけの行為が心を軽くし、躯の苦痛を和らげた。
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