「さて……時間だな」
すぅっと細めた視線の先にいる者達は固く頷き、各々の持ち場に向かうのだった。手元のキーボードに短い文をうつと彼女も席からゆったりと立ち上がる。と、肩にふわりとマントが掛けられた。まっすぐに立ち上がると当然のように掛けた相手はマントの留め金を留めて襟を正す。その一連の動作ににっこりと微笑みを向けると相手は一礼し、二人は連れ添って部屋から出て行った。
その日は新総督の就任演説が行われる予定だった。普段は静かな政庁前も新総督の姿が現れるのを今かと待ち望む一般人が詰め寄り、それを制する為に軍が出兵している。中央玄関前を演説会場としてセッティングし、士官たちも緊張の面持ちで袖に控えていた。何を緊張しているのかと言えば、総督と昨日から連絡が取れないでいる。一昨日、彼女の騎士から体調が優れないとの連絡はあったが、それきりだ。延期するかと問い合わせのメールを入れたが、必要ない、と素っ気無い返事が返ってきたので準備の中止も告知の取り下げもしていない。朝になってもなんの連絡も入っていない。そして時間が差し迫っているというのに姿も現さない。
もう一度連絡を取るべきかと悩んでいると、正面に掲げた特大のモニターに砂嵐が走り出した。慌ててモニターを見上げるとそこに映し出されたのは政庁内にある謁見の間だ。赤い絨毯の先に玉座を模した椅子が設置されている。
「殿下……準備が整いました」
「ご苦労」
ぽかんと見上げているとスピーカーから低い男の声と固い女性の声が聞こえる。そうしている内に画面端から黒い布が写り込んできた。よくよく見ているとそれは特別なデザインであり、羽織る者はごく限られたマントであることに気付く。
黒い布地に金色の紋章……ナイトオブラウンズ。
その証のマントについ魅入ってしまう。すると更にもう一枚のマントが現れた。こちらは真紅色をしている。玉座を前に二人が振り返ると誰もが息を呑んだ。今まで見てきた雰囲気とは全く違えど、その顔に偽りはなく、つい先日までメディアで大きく映し出されていた皇女と彼女の騎士だった。騎士とは違いふわりとした笑みを浮かべていた皇女の表情はラウンズの制服に合い、凛として険しい表情をしている。その彼女がマントを払い優雅に一礼をした。
「まずはメディアの方々に謝罪を。この度の電波ジャックをお許しください。そして演説を心待ちにしてくださった皆様にも、お待たせしてしまってことにお詫びを」
「……総督!?」
「バカな!なんだこれは?!!」
再び顔を上げた彼女の表情はいつもメディアに見せていた柔らかなものだった。
ゆったりと彼女が座るとその表情が再び挑戦的なものに変わる。体の前で両腕を組み幼子に言い聞かすように、それでいて叱責を言い募るように口を開いた。
「この日本の総督に就任します、第3皇女にしてナイトオブラウンズを勤めております、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。以後お見知りおきを。
そしてこちらが私の専属騎士、ナイトオブラウンズの一人紅月カレン。名前でお分かりになりますよう、『日本人』です。」
スピーカーから流れる彼女の朗々とした言葉に周囲が、いや、この放送を見ている人々がざわめき出した。『日本』と、『日本人』という言葉をこのエリア11内で使うことは罰則を科せられるのだ。いや、それ以前に、皇族付きの騎士にナンバーズがなっているというのも前代未聞。困惑の色を深くする人々を尻目に士官やブリタニアの上級貴族達は顔の色を失った。それもそのはず。このエリア11を牛耳っているのはその限られた層の人間のみだ。それ以下の人間、貴族であっても中級から下級の貴族ですら他のエリアでの政治は知らない。
「何から話しましょうか……そもそも……この日本を『エリア11』と呼ぶのがおかしいという事から話すべきでしょうか?
わが国ブリタニアは昨今新たな方針を貫き続けております。世界は『世界』のままに……唯一の存在など必要ない。そんなものがあれば否定され圧迫される側が反発を起こすのは当然。
現にこの日本で頻繁に起こっているしな?……本来『エリア』とナンバーを使うのは軍の作戦会議のみだった。軍に無関係な人間が使うのはおかしい。ではなぜこの日本はエリアで呼ばれ、ナンバーズやイレブンといった差別を受けているのか?」
柔らかな曲線を描いた彼女の瞳が眇められる。たったそれだけの動作に背筋が凍りつく感覚に襲われた。
「これは我々の落ち度だ。この日本に……無能な貴族を総督もしくはその補佐として送り込んでしまったのだから。」
「なッ……」
「聞いているか?政庁前の士官どもよ。」
かたんと音を立て静かに立ち上がると瞳を吊り上げ見下すように正面を睨みつけた。怒りもあらわにした彼女を見上げ、士官達は思わずあとずさった。
「無駄に贅沢な地方視察をさせてくれたお陰でいかにお前達が無能があるか浮き彫りにしてくれた。感謝しているよ?」
「こ……皇女殿下!我々が無能だなど……」
「証拠が欲しいか?お前達の手配してくれた先々で面白いくらいに出てきたがな」
「そ……そんな……」
「不等な待遇に始まり、一方的な弾圧。禁止しているはずの薬物取引、現地出身というだけでの死刑。こうも本国への提出書類と違うとはな。何よりここ数年でこれらの行為が激化しているようだ。」
「それは!テロ活動が!」
「テロ活動?これらの不当な政治に対する反対デモか?はっ……自業自得ではないか。現地を我が物顔で支配し続けたお前達のな」
「うっ……」
「殿下……準備が整ったようです」
「うむ。ご苦労」
なんらかの抗議を上げようと躍起になっていたが、ふと隣に立っているカレンが目配せとともに口を挟んできた。それへの満足そうな返事に士官達は背筋を震わせる。
「さぁ、始めよう。我らナイトオブラウンズの名において士官どもに裁きを」
* * * * *
抜けるような青い空。雲は疎らに散らばり、吹く風も穏やかだ。
政庁の屋上に設計されたポートに一機のアヴァロン艇が静かに降り立った。もちろん政庁の屋上など下から見えるはずもなく、政庁で働く人々も、近くの会社勤務の人々も誰一人として気付くものはいない。秘密裏、お忍び、といってもいい来訪だった。
機内から数人降りてくると、他には目もくれずにとある一室へ向かって競歩の如く歩いていく。エレベーターで数階降りて辿り着いたフロアには働く人間が数人デスクに向かっていた。しかし突然の来訪者に目を見開き一様に固まってしまっている。そんな周りなどお構い無しに当事者はずんずんと進んでいった。
フロアの最奥に位置する扉の前で一つ呼吸をおくとゆったりとノックをする。中から入室の許可が返ってくると静かに扉を開いた。
「失礼いたします、ルルーシュ殿下」
「お久しぶりです、殿下」
「ご機嫌……麗しく……」
扉を開いた人間の後ろから更に2人入室してくると同じように一礼をする。
言葉の通り、その部屋にはルルーシュがいるのだが、その他にも数人存在していた。その内の一人は突然の来訪者達に目を剥き、もう一人は持っていた書類を床にばら撒いてしまっている。さらにもう一人は持っている煙管をくるりと回しただけで、最後の一人はため息をついていた。来訪者は三人。皆、同じデザインのマントを羽織ってはいるが、色は紺、深緑、赤紫とばらばらで、ついでに言うと身長もバラバラだ。
その三人の真正面にあるデスクに足を組み紅茶を楽しんでいたルルーシュは軽く目を瞠るだけですぐににっこりと微笑を浮かべた。
「遠路遥々ご苦労」
「勿体無きお言葉……」
「また……お会い出来て光栄……」
「思ったよりも早かったじゃないか」
「早くありませんよ……」
顔を上げた三人に労いの言葉を掛け、穏やかに進むように見えた会話だが、その内の一人、スザクの声によって室内温度が急激に下がってしまった。ため息をついていたカレンは、今度は頭痛に耐えるように眉間にそっと指を押し当てる。相変わらずソファーに寝そべっているラクシャータはニヤニヤとした笑顔を浮かべ、残り二人……扇と玉城はフリーズしたままだった。
「本当なら遅くても就任演説の次の日には来るつもりだったんだ」
つい先日、電波ジャックをして行った就任演説はブリタニアに属する各国に向けても放送されていたのだ。日本以外にもいるかもしれない能無し貴族への見せしめを目的としたもので、その演説の直後は大騒ぎだった。
首都の政庁を始め、各地で汚職に塗れた士官、貴族を一斉に捕り物にしたからだ。
ルルーシュが日本に来てすぐ地方へ出向いたのは、汚職の証拠を掴むこととそれに関わった要人、首謀者を余す事無く上げていく為。更に現地で信頼に足るテロ組織や元日本軍の軍人などとパイプを作り、演説の日に一斉に動けるように下準備する為だった。元日本軍の四聖剣と中佐の藤堂を責任者としてグループを作り、九州地方、中国・四国地方、関西地方、中部地方、東北地方、北海道地方と配置していた。資金は京都六家が出費してくれることになり、関西地方も請け負ってくれた。
そうして演説当日。関東をルルーシュ及び扇グループが中心に動くことで日本全体を一度に一掃することを可能にした。
ちなみに一般への電波ジャックはこの日よりも前から行っており、日本以外の情報を度々流して士官や上級貴族への不満を煽って一掃する際に協力してもらっていたりもする。
抜け目がない、と言えばそうなのかもしれないが、そんな下準備があったなど全く知らない本国や各国ではさぞかし驚いただろう。なにより首都ペンドラゴンにある宮廷ではルルーシュを可愛がっている面子内でとんでもない騒ぎだったのだ。シュナイゼルは苦笑を浮かべるのみだったが、クロヴィスとコーネリアは発狂せんばかりの悲鳴を上げ、ナナリーとユーフェミアは格好いいとか言ってはしゃぐ始末。そこにさすがはわが娘!やる事が大胆不敵で大変よろしい!とばかりにマリアンヌ妃も混ざった。ちなみに皇帝シャルルは空に向かって雄たけびを発したとかなんとか……
「どうせ前線に出てたんだろう?」
「いいや。僕は本国で提出する書類の最終チェックをしてただけだから」
「じゃあ、どこかに借り出されたのか?」
「……違う……」
「私が駄々をこねた」
「アーニャが?」
「ついでに私もこねました」
「ジノまで?」
はーい、と言わんばかりに手を挙げた二人にルルーシュは目を丸くした。この二人が駄々をこねるとか……想像がつかないのだろう。
「ジノが戦況は落ち着いたから一緒に連れて行けって言って……戻ってくるのを待つのに三日待った」
「はぁ……」
「アーニャの方は一緒に連れて行ってくれなきゃアヴァロン艇をハドロン砲で打ち落とすとか言うし……」
「それは……また……」
「仕方なくアーニャの入る戦場へ向かってジノと二人掛りで手伝ってようやくこっちへ……」
がっくりと肩を落とすスザクの背に哀愁が漂っている。「お気の毒様」と呟いたカレンの言葉は本人には届いていないようだった。
* * * * *
「どうしていつも殿下はこうなのかな?」
「なにがだ?」
重苦しいため息と共にスザクは苛々とした調子で会話を切り出した。
部屋は小さめの会議室に移し、ラウンズの面々のみで集まっている。途中の書類は扇に分かるところだけすればいいと押し付け、ラクシャータには到着したアヴァロン艇に乗っているであろう、ランスロット、トリスタン、モルドレッドのメンテナンスを任せた。きっとロイドとセシルがいるだろうけれど情報交換というのもいいだろうと思い勧めておく。行くか行かないかは本人次第だが……ちなみに玉城は処理を済ませた書類の整理を任せている。いわゆる持ち運び係り。本人は気付いていないようだが……使いっ走りとそう変わらない。
戦場から直行してきた三人にルルーシュ自ら紅茶と手作りのお菓子を振る舞っている。
「何が?って……君のその周りに言わず急に行動を起こすこと」
「何かまずいのか?」
「まずいもなにも……心配するだろ!?」
「そう……か?」
「殿下は……自覚ないから……」
「今回本国の方はすごかったみたいですよ?」
「どうしてだ?」
「皇帝陛下は空に向かって雄たけびを上げるわ、コーネリア殿下とクロヴィス殿下は発狂しそうだわ……ヴァルトシュタイン卿だって頭を抱えてらした」
「それ……宥めるのにスザクが駆け回ってた……」
「殿下が孤立してるんじゃないかって気が気でないってね?」
「日本に……殿下の協力してくれる人たちがいるって……知らないもの」
「それでか……」
言われて見てようやく気付くといった雰囲気のルルーシュ。しかしその頭の中で言われた事をありありと想像しているのだろう。表情が少し引きつった笑いになっている上に青褪めている。
「それで?三人もこちらに出向いて……殿下に会いに来たとか愚痴を言いに来たってわけじゃないんでしょ?」
その会話を横で聞いていたカレンが口を挟んだ。いくら文句を言いたいとしてもわざわざ辺境の地ともいえる日本まで来る必要はないはずだ。しかも皇帝の剣であるナイトオブラウンズが三人も。それ以前にすでにナンバー『0』と『8』であるルルーシュとカレンがここにいるのでこれでラウンズは5人となる。つまりほぼ半数もこの小さな日本に留まっていた。
「あぁ、乗ってきたアヴァロン艇で殿下の言う『豚ども』を本国へ運んでもらうんだ」
「あぁ。それで……護送の為に三人も」
「違う」
「あれ?違うの??」
「そう、違う。私たちのここに来た理由は殿下の補佐。」
「「補佐??」」
てっきり捕まえた貴族達の護送をする為に来たと思っていた。人数が多い気はしたが非常事態に備えて……とかいう理由かと思っていたところにジノから意外な単語が吐き出された。その驚きからルルーシュとカレンの声が綺麗に重なる。
「各地でまだ捕らえ切れていない人間がいるんだろ?しかも無駄なあがきとかして」
「まぁ……それはそう……だが……」
「けど三人も出向いてもらわなくても私と殿下で……」
「っていうと思ってたけどさぁ……コーネリア殿下がね?」
「姉上が?どうかしたのか?」
「映像に映し出された殿下とカレン……少しやつれて見えた」
「「えぇ!?」」
「だから私たちが向かって、手伝って来い!!ってね?」
「実際徹夜してたんでしょ?」
「えと……その……」
「 何 徹 ……したの?」
にっこり笑っているはずのスザクがとても怖い。こういうオーラを醸し出している時は心のそこから怒りをあらわにしている時だ。
スザクがここまで怒るのは理由がある。
彼がまだルルーシュの騎士としてついていた頃。ルルーシュが勉強と称して図書室で缶詰状態になっていた時だ。勉強熱心なのはいいことだと始めは特に何も思わなかったのだが、ルルーシュときたら、一度本に向かったり、何か書き始めるとほとんど飲まず食わずになってしまう上一睡もしなくなってしまう。没頭……といえばまだ聞こえはいいがはっきり言ってルルーシュは病的である。そんな風になるとはまだ知らなかったスザクだが、あまりに姿を見せない主に焦れてそっと様子を伺いに行けば栄養失調で倒れているのを見つけるに至った。
それ以来だ。ルルーシュが1回でも徹夜しようものならスザクがとてつもない冷気を発しつつ怒るようになったのは。そしてそれは今この瞬間にも起きている。
「あ、あの……一日だけよ?1徹だけだから、ね?殿下」
「……ってカレンは言ってるけど。どうなの?ルルーシュ」
「え!?」
カレンすらスザクの気迫に押されたじたじになりつつも素直に答えたが、不意に振られたルルーシュが異常な反応を返してきた。それでもスザクは笑顔のまま。いや、実際には目が据わったままで笑ってなどいないが……けれどその反応に驚いたのはカレンだった。
「殿下?まさか……前日の1徹だけじゃないっていうんじゃ……」
「ルルーシュ?」
「……その前に三日ほど……」
「嘘!ちゃんと寝てたって!」
「口先だけ……だったんだ?」
「………」
口元を引きつらせたままルルーシュは顔を背けた。なぜにこうもスザクには嘘をつけないのかと困惑しているようだ。さらにこういう風に静かに怒るスザクに勝てた覚えはない。このまま低い声で説教に入るだろうことを覚悟して出来るだけ視線を外しておく。その表情を見る勇気が今は持てないから。
「……まったく……」
痛いところをここぞとばかり抉ってくる説教の代わりに呆れた声とため息を出てきた。予想外なそれにルルーシュがきょとんとした表情で振り返る。するとスザクががっくり項垂れつつも立ち上がるところだった。どうしたのかと首を傾げつつ見上げていると不意に覆いかぶさってきた。
「ッな!?」
「じっとしてて」
「!ほわぁあああ!!?」
落ち着き払った声で動きを制して、驚きのあまり硬直するルルーシュを難なく肩に抱き上げる。ラウンズのマントを羽織ったままだったので見ようによっては黒い布袋に見えなくはないような担ぎ方。腰と膝の裏にしっかりと腕を回して暴れるのを押さえつけるとくるりとジノを振り返った。
「ジノ、カレンをよろしく」
「はいはーい」
「え?私が何?」
「はい、失礼」
「ひやああぁあああぁぁぁ!!」
こちらはルルーシュのような俵担ぎではなく所謂お姫様抱っこ。ただしマントでしっかりくるんでからされているので暴れようにも暴れられないでいる。
「ルルーシュもカレンも寝不足には弱いんだから」
「それとこれと何の関係がある!?」
「強制的に今から睡眠を取ってもらうんだよ」
「何!?」
「あ、あたしは大丈夫よ!だから殿下だけで……」
「その意見は却下」
「なんですって!?」
「さっき歩いてる時ふらついたのを見た」
「うぐ……」
「あはは、二人ともスザクには逆らわない方が吉だと思うよ?逆らっておしおきとか嫌でしょ??」
ジノがいかにも楽しそうに薄ら寒い事を告げるのを二人して強張った表情で聞いていた。そのおしおきというのが座禅3時間ならまだマシといったところ。特にルルーシュは過去に何度かこういった『オイタ』をしたのでスザクの提案するおしおきがいかに屈辱的だったり辛かったりするかは熟知している。
そんな二人の姿を携帯に記憶しながらアーニャはぽつりと呟いた。
「執務の方は……私が何とかしてみる……」
「うん、よろしく、アーニャ」
「な、ちょ!待て!アーニャは書類が苦手だったんじゃ!」
「大丈夫……出来るところだけする……」
「それじゃあ後はよろしく」
「……了解」
「私も後で手伝うから」
「うん……期待せずに待ってる……」
ひらひらと小さく手を振るアーニャを部屋に残し、二人と二つの『荷物』は出て行った。
途端にルルーシュの体が硬直して再び慌て出した。
「ちょ……こら、スザク!下ろせ!自分で歩ける!」
「駄目」
「こんな格好で歩いたら注目の的になるだろう?!」
「うん、分かってる」
「な!命令だ!下ろせ!!」
「駄目。これもおしおきの一環」
「くっ……」
「……殿下……静かにしておいた方が目立ちませんよ……」
すぐ後ろで抱っこされたままのカレンにぽつりと助言されるもすでに遅く、二組の姿を物珍しそうに振り返る人間が総督の居住フロアに着くまで絶えなかった。
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