神聖ブリタニア帝国。
世界の3分の1を支配下に置く超大国。
属領を『エリア』と称しナンバーを付けて植民地としている。その属領の一つ。
『エリア11』−
その名に変えられてから数年の時が流れていた。しかし、ここ近年の内に反乱が度々起こっている。元日本軍の『日本開放戦線』や地方のテロ組織によるもの…地方貴族が総督として配置されるも奇襲や暗殺紛いの事件が多発し、つい先日も重症を負い、本国へ強制送還されたところだった。
日に日に激化していく反乱の最中、今日、また新たに総督が送り込まれてきた。
天候は快晴。風も穏やかに吹き付ける春先…政庁から約一時間かかる羽田空港。普段は旅行者で賑わっているその空港は今日に限ってまったく別の空気に包まれていた。滑走路には多くの軍人、警備員が整列し、フェンス越しには多くの一般人が詰め掛けている。
それもそのはず…新たな総督が到着するからだ。
青く澄み渡った空から皇族専用のアヴァロン艇がゆっくりと降下してきた。
「今度の総督は皇族のお方らしいが……」
「はい。表立った場所には一切お出にならなかった方だとか……」
「あぁ、それはまだ学生であられるからだ。しかも皇女殿下。頼りないことこの上ない。」
「皇帝陛下もとんだご決断をされたものだ。もっと気骨のある方をよこして頂けばよいものを……」
「まぁよいではないか。お人形はお人形でいて頂くだけのこと。」
「左様。政治をお分かりでない深窓の皇女にはお飾りとして勤めて頂けば良いだろう。」
ひそひそと話し合う間にアヴァロンは静かに止まり、タラップが下ろされた。途端にあたり一面が静寂に包まれる。
コツン……と靴音を響かせ最初に出てきたのは燃えるような赤毛の少女だった。
肩で切りそろえられた真っ直ぐの赤い髪に少し吊り気味の青い瞳は強い輝きを称えている。しかし観客を釘付けにしたのはその容姿ではなく、服装だった。白を基調にしたパンツに詰襟の上着、左腰には剣を携え、胸元に騎士の証が太陽の光を受け煌いている。その姿は間違いなく皇族付きの騎士。
女性の騎士というのも珍しいものであるならば、年齢からしても珍しいことこの上ない。しかし毅然たる態度は彼女が騎士であることを唸らせるには充分だった。
辺りを一瞥した後に彼女は頭を垂れ片手を差し出した。その手にそっともう一つの手が重なる。
女騎士の奥からもう一人少女が現れた。
日の下にその姿が現れた瞬間辺りに息を呑む音が続いた。軍人も警備員も敬礼すら忘れて魅入るようにして見つめてしまっている。
しなやかな細く白い手首。ふわりと風に舞う黒髪は腰まで達し、緩く纏めた部分にすずらんの花を刺している。濃紺のドレスは理知的に見える反面、大きく開いた胸元と背中が彼女の色の白さを際立たせていた。大きくドレープが寄り、プリンセスラインを描くスカートを持ちゆっくりと降りてくる姿はそれこそ舞踏会のワンシーンのようで…
少し近寄りがたさを感じる整った顔の作りは淡く浮かべられた微笑によって甘いものになった。熟した葡萄のような紫の瞳に士官を映し込むと、ことんと愛らしく小首を傾げる。
「あ……え、遠路遥々ようこそお越しいただきました!」
呆けてしまっていることに気付き慌てて居住まいを正すと敬礼をする。すると他も彼に倣って敬礼をした。
「いいえ、わざわざお出迎えをありがとうございます。若輩者ですゆえ、色々至らぬ点はございますが、ご指導のほどよろしくお願いします。」
「イエス!ユア、ハイネス!勿体無きお言葉……」
「それでは……早速なのですが……」
「は、政庁へはあちらに車を用意してございます」
にこにこと朗らかな様子の新総督を前に士官長が手もみでもしそうな様子で答えた。その表情に新総督が少し困ったような顔になった。
「いえ、あの……地方を見てまわりたいのですが……」
「は?地方でございますか?」
「はい。総督としてこのエリアのことを知りたいのです」
「そうは申されましても…手続きなどがございますので……」
こちらも困った表情を作ると明らかに落胆の色も濃く項垂れてしまった。どうしたものかと困惑の色を示していると女騎士が口を挟んでくる。
「殿下、本日は到着したばかりですから、政庁に足を運ばれた方がよろしいかと…」
「そうですね。分かりました。」
「そ、そうですか」
ぱぁっと顔を輝かせて実にあっさりと引いてしまったのに少し面食らいながら胸をなでおろす。相手が皇族である以上、あまり不愉快な気分にしては面倒なことになりかねない。一昔前ならば思い通りにならないだけで打ち首をするような皇族もいたくらいなのだ。出来るなら当たらず触らずでいたい。
「お忙しいとは思いますが、明日から行ける様に手配をしていただけますか?」
「イエス、ユアハイネス」
即答で返された返事に気をよくしたのか再び笑顔を浮かべると騎士に手を引かれて車へと向かっていった。その背中を見送って士官達はひそひそ話しを再開する。
「観光気分で来ておられるようだな」
「うむ。来て早々に地方とは……遊び盛りといったところか?」
「ふん。思った通りだな。ならば精々遊んでいただくとしようか」
ゆったりとした足取りで車に向かう間に女騎士の表情は徐々に曇っていった。滑走路横のフェンスに群がる一般人は一様に皇女殿下の就任に祝いの言葉を投げかけているが、その中に暗い表情の『イレブン』が混ざっている。彼らを見るたびに表情に影が落ちてきてついには俯いてしまった。
「俯くな、カレン」
「ッ!」
突然、手をぎゅっと握られ弾かれた様に顔を上げる。そっと隣の麗人に視線を投げるとちらりと視線を寄越してすぐにまた前に戻してしまった。
「毅然とした態度でいろ。なんの為に一年我慢したんだ?」
「……イエス、ユアハイネス」
握られた手を握り返し、女騎士、紅月カレンは挑むように目の前に視線を飛ばした。
* * * * *
次の日……
新聞、報道番組ともに新総督一色だった。しかし、新総督の就任演説は今だされていない。というのも、朝早くから新総督である皇女殿下が地方に出て行ってしまったからだ。南はオキナワから北はホッカイドウまで……隅々まで見て回った後に演説をするということで、日程としては2ヵ月後くらいとしている。曖昧ではあるが日程が決まっている以上外野は何も言えず、仕方ないので地方での皇女殿下の足取りを追っていた。今だ名前の公表もされていない皇女にどこの報道も釘付けだった。我先にと名前を明かそうと躍起になっているといっても過言ではない。テレビや雑誌の紙面で微笑む彼女はいつも白薔薇を髪につけており、政庁に戻る2週間ほど前からは待宵草の花を刺すようになっていた。
そんな彼女の顔と睨めっこをする男が一人。
テレビに映る微笑みを称えた顔を見て深い、重いため息を零した。
「……約束……忘れちまったのかな?」
ぽつりと呟いて顔を上げると再度ため息を吐き出した。テレビの中では一週間前に政庁へ戻ってきた皇女殿下が映し出されている。その横にはいつも影の如く寄り添うカレンの姿がある。報道陣のカメラや一般市民ににこやかな笑みを浮かべて手を振る姿はまさに『箱入り皇女』そのもので……後ろに控えたカレンの表情が寄り一層固く感じられる。
薄暗い倉庫の中、小さなテレビを前にイレブンの男は唸っていた。
ブリタニアの一方的な圧政に強いられている現状に牙を向こうと決起したテロ組織の一つであり、首都トウキョウを中心に活動しているグループのリーダー、扇要だ。特にこのエリア11は属領となった当時、まだまだ戦える余力を残して降伏した為にブリタニアの強いる政治に事ある毎反発をしていた。それ故に弾圧は一層酷いものになり、差別も他のエリアに比べて一層濃いものとなっている。しかしその反発は4年ほど前に一時緩和を見せた。歯向かう力が尽きかけていたからに他ならず、2年後には再び反発が激化してきている。扇のグループもその頃から活動を開始しており、密かに人数も増やしつつあった。
しかしいかに反発行動をとろうにも大国ブリタニアが相手では動物の甘噛み程度にもならない。
そんな鬱々とした頃だ。
一人のブリタニアの少年が扇達に言い残したことがある。
『一年耐えろ。必ず戻ってくる』
その後、突如として消えてしまったカレン。言葉を信じ正体の分からない相手ではあったがカレンの様子から敵ではないことは分かる。そして一年耐え偲んでみれば彼女は皇族付きの騎士となっていた。
もちろんグループ内での反響はすさまじいものだった。二言目には「弾けろ、ブリタニア!」と叫んでいた彼女がそのブリタニアに付いていることもさることながら、今エリア11に戻ってきた彼女から全く連絡がないこともだ。皇女付きで多忙だということは理解しているが、メールの一つも出来ないことはないだろう。グループ内でも寝返っただの裏切っただのと言い出すメンバーもいる。
「なぁ、扇。いい加減吹っ切ったらどうだ?カレンだってもうこっちに戻ってくる気ないみたいだしさ」
「……あぁ……でも」
「あのカレンが……って……思うのよね」
「それはそうだが……」
「あ〜あぁ!かったりぃな!」
グループの創設当時からいたメンバーのみで話をしていた時、その中の一人、玉城が大声を上げた。皆一様に振り向くと大げさに腕を振り回して言い放った。
「向こうが連絡する気ないんならこっちから聞きに行けばいいじゃねぇか」
その提案にきょとんとして顔を見合わせたが、出来ないことではない、という結論に達し、今夜にも、決行に移すことになった。
* * * * *
前総督に重症を負わせたのも扇のグループであり、その時政庁に忍び入ったので今回も同じ方法で忍び込むことにした。まずは総督を捕縛してカレンの居所を聞くべきだということで意見の一致を見せた。大人数では目立つとのことで、扇、玉城、南、井上の4名で乗り込んでいる。脱出経路の確保の為、南と井上は外で待機。扇と玉城の二人で建物の内部へと侵入する。
以前襲撃があったにも関わらず、総督の部屋は同じ位置にあり、その上警備もまばらになっている。その事を訝しげに思いながら総督の居住フロアに辿り着いた。
「……あれ?玉城?」
ふと辺りがあまりにも静かになっていることに気付き後ろを向くと、そこにいるはずの玉城の姿がなかった。周りを見回すも見える範囲内にそれらしき人影は見当たらない。
「あのバカ……どっかで迷いやがったな」
この広い政庁内を探し回るわけにもいかず、扇は意を決して先に進むことにした。玉城とて自分で判断が出来ないほどのバカではない。危険だと分かれば自力で脱出を試みるだろう。
足音を忍ばせ、銃を片手に廊下を走りぬける。他のフロアと違い全く人の気配がしていないことが不気味に思えるが今はカレンに会うことだけを目的に進み続けた。総督のベッドルームに続く廊下を曲がると扉の前に一人の人が立っている。扇は肩をびくりと震わせたが、雲の切れ間から差し込む月の光がその人物を照らし出した瞬間息を飲み込んだ。
「……カレン」
「話は中で。殿下がお待ちですから」
「!」
すっと一歩脇に避けると片手で扉を押し開ける。中へと招き入れるように手で合図すると一瞬顔を強張らせたが意を決して室内へと踏み入れた。
以前は入るなり目の前に置かれていた天蓋付きのベッドはどこにもなく、代わりに執務用の机と革張りの椅子が置かれている。机の向こう側の壁にはいくつものモニターが点灯しており、それが今扇が抜けてきた廊下だと気付くのにさほど時間はかからなかった。椅子はこちらに背を向けてはいるが誰か腰掛けているようで大きな背もたれの上から少し頭が見え隠れしていた。書類の束が詰まれた机の片隅には今日の昼に総督が髪に付けていた待宵草の花が一輪だけ生けられている。
背後で扉が閉まる音がすると腕に何か携えたカレンが椅子の方へと歩いていく。
よくよく見てみると、カレンの髪型は以前のようにぴんぴんと跳ね上がっている。服装も昼間テレビで見た騎士服とは違うようだ。黒い詰襟のインナー、皮の長手袋、白い燕尾のジャケット。その隙間から白い短パンが見え隠れしている。黒のブーツは膝上まであるニーハイタイプでヒールはさほど高くない。
「……殿下?」
「そんな小さい声じゃだめよぉ?」
「!?」
不意に横から発された声に振り返ると壁際に備え付けられた長ソファーの上に女性が寝転んでいた。煙管をふかし、だらしなく開けられたシャツの間から褐色の肌が覗く。その色に反発するような白い白衣のようなロングコードが彼女の体の曲線を浮き彫りにしていた。顔にかかる淡い金色の髪を気だるげに掻き上げると更に妖艶な笑みを浮かべる。
「彼が来るの遅くてうたた寝しちゃったみたぁい」
「え!こんな短時間で!?ちょっ……殿下!!」
先ほどまでのきりりとした風貌から一転、見覚えのある慌てた表情を浮かべるカレンに扇はどこか安心してしまった。しかし、椅子の主はカレンの揺さぶりでも起きる気配はないらしい。……よほど寝汚いのか……
「ら、ラクシャータさぁん」
「しょーうがないわねぇ〜」
とてとてとゆったりした歩調で椅子の横まで行った彼女は煙管を口につけると深呼吸し……
「ふぅ〜……」
「……ッ!?げほげほげほげほげほ!!!!?」
吸い込んだ煙を椅子の主に吹きかけた。
「はぁい、おはよぉ〜?」
「らっラクシャータ!今日の香料は嫌いな匂いだからあれほど吹き付けるなと!」
「殿下。到着しましたよ」
「え?」
雪崩が起きたかのごとくラクシャータと呼ばれた女性へ喰いかかる『皇女殿下』にカレンは一層落ち着いた声で話しかけた。途端に止まった声。どこか聞き覚えがある響きなのは気のせいか?……ふと首を傾げていると椅子がくるりとこちらを向いた。
そこにいたのは確かにテレビで見た皇女殿下その人。しかし……髪型が、服装が、風貌がまるで違う。
「遅ーい!!!」
「!?」
顔を見るなり第一声はそれだった。
黒髪にミルクのような白い肌。葡萄色の瞳は強い光を称えて吊りあがっていた。テレビに映っていた皇女の髪は腰まで届く長さがあったのに、今目の前にいる彼女の髪は肩より少し短いくらいで猫っ毛なのか毛先が跳ねている。
服装も随分と昼間とイメージが違う。
背中の開いた白い燕尾型のジャケットにラウンズの紋章が入った短パンに太めのベルト。中にはカレンが着用しているものと同じデザインだが、丈が鳩尾の下あたりまでしかない。ノースリーブの腕には二の腕まで覆う黒の皮手袋。足はロングブーツと青紫色のニーハイ。ロングドレスはどこにも見当たらず、もしや別人ではないかと疑ってしまいかねない。
瞳を瞬かせていると、皇女は机の前まで回りこみ腕組をして仁王立ちになる。
「遅すぎる」
「え?」
「お前たちがなかなか来ないから危うくくだらない懸案事項にサインさせられるところだった」
「は……あ??」
「しかも、地方が痺れを切らせてまだかと催促の連絡が毎日毎日……」
「あ……の?」
先ほどよりも少し低い響きの声に脅えが走る。何よりいきなり『遅い』といわれても意味が分からない。横に立つカレンに視線で助けを求めるも苦笑で返されてしまった。意を決して口を挟んでみる。
「あの……どういうことでしょう?」
「どういうこと……だと?」
更に眉が吊りあがり纏うオーラがめらめらと燃え出したのに思わず後ずさってしまう。美人が怒ると怖いというがそれどころの迫力ではない。腕を組んでいた手がびしっと机の上に飾ってある花を指差した。
「明日この花を使い切ってもお前たちが来なかったらこっちから適当に罰則をでっち上げて連行させるところだったということだ!」
「でっちあげ……って……花???」
「待宵草。花言葉は『あなたを待っています』だ」
「そして先週まで刺してたのは白薔薇」
「白薔薇の花言葉は『約束を守る』という誓いの意志でつけた」
「それ……って……」
「くそ……この私が何故そのような花を髪に刺してわざわざ報道陣の前で目立つようなことをッ……おかげで目ざといテレビ屋の連中が花言葉にちなんで誰か想い人へのメッセージかとかなんとか聞いてくる始末!」
「だぁから言ったじゃないですか。扇さん達が花言葉に気付くはずないって」
「っ……くぅッ……」
「え……えと……カレン??」
机に両手を突いて悔しがる皇女の横でカレンがほら見たことかと言わんばかりの態度でいる。まったく見えてこない会話におろおろしているとカレンがため息混じりに答えてくれた。
「1年前約束したじゃないですか。必ず戻ってくるって。」
「え……じゃああの時の少年って」
「ルルーシュ殿下ですよ。それでせっかく戻ってきたのに扇さん達は全く姿を現さないし……」
「そんなこと言われても……相手は皇族だろ?一般市民の俺達がどうやって会えと……」
「今こうして会いに来てるじゃないか」
肩越しに恨めしそうな視線を投げられる。いや、確かに忍び込めばそれも可能かもしれないが……
「それを言うなら……カレンこそ何故連絡してきてくれなかったんだ?」
「あ……」
「皇族付きの騎士は多忙なんだろうけど……メールの返事くらい出来るだろう?」
「……それは……」
言い分なら扇側にもある。それを突き出すと途端にカレンが困った表情を浮かべた。そうしてちらりと視線を移すとその先には椅子へと再び腰掛けるルルーシュがいる。視線に気付いたのかふと顔を上げると不適な笑みを浮かべた。ゆったりと椅子に体を沈め、足を組む。そして事も無げに言葉をつむぐ。
「私が禁じたからだ」
「なッ!……何故です?!」
「何故?……愚問だな」
そう呟くとすぅっと瞳を細めて机の上に両肘を立て手を組んだ。真っ直ぐに射抜くような視線を浴びせてゆっくりと口を開く。
「自ら動く気のない者に力を貸す気はない」
「ッ!」
吐き出される凍てついた声音に背筋を震え上がらせる。しかし言葉はそれで止まらなかった。
「1年というブランクが空いた今でもなお、その気持ちに変わりはないか……今なおその決意に揺らぎはないか……それらを持ち合わせていないものに力を貸したところで敗北は目に見えている」
「………」
「今一度問いかけよう……扇」
ルルーシュの瞳がゆっくり閉じられる。その間は僅かに一呼吸できるか否か……しかし扇にはそれよりもずっと長く感じられた。すぅっと紫電の瞳が開かれる。
「お前に成し遂げる覚悟はあるか?」
「もちろん」
「……いいだろう」
その言葉で場の雰囲気が穏やかになる。
答える瞳に揺らぎの色はない。その瞳を真っ直ぐに受け止めてルルーシュは柔らかく微笑んだ。
「さて。そうと決まれば早速……」
「あ!ちょ……すまん!」
「ん?どうした?」
「実は……ここに来る途中仲間の一人とはぐれて……」
「仲間の一人……?……こいつか?」
言うや否やサイドデスクに乗ったキーボードを目にも留まらぬ速さで叩く。最後にエンターキーをかちゃりと押すと壁の一部が開きその中から簀巻きになった玉城が転がり出てきた。
「たっ玉城!?」
「おうぎぃ〜」
「こそ泥のような事をしているからだ。政庁の警備を甘くみた報いだな」
「だぁって誰もいないじゃねぇか」
「バカが。普段はオートシステムでメインコンピュータに登録されていない者は即座にその状態にされる。更に本来ならば留置所に直行だ」
「え……じゃあ今は……」
「私が手動モードに切り替えているからお前達はすんなり入れたんだ。とはいえこのシステムが完成したのは先月くらいだがな
あぁ、そうだ。お前達が今日使った地図も私が偽装して横流ししたものだからな」
「………」
にやりと笑うその顔はテレビで見ていた皇女と同一人物とは到底思えないものだった。手際がいいというか……その手に完全踊らされていたというか……もう唖然とするしかない。
すべては目の前の皇女の思惑通りだったということだ。
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