―幸―



「っちょ……こら銀次!」

 何が何でも脱がせようとぐいぐいコートを引っ張る銀次と、何としてでもそれを阻止しようと身を丸める蛮。その頑なさに銀次がむぅ、と口を尖らせる。

「そこまで嫌がるってことは食べられたんだ!」
「違うっての!」
「じゃあ何で!?」
「あのな!場所を考えろ!」
「場所?」

 蛮に言われて改めて周りを見回す。
 そこはロウアータウンの一角。瓦礫の山が連ねる殺風景な場所。
 場所を確認し、銀次が首を傾げる。

「場所がどうかしたの?」
―ガツンッ

 へにゃっとたれた銀次の顔面に蛮の右手がめり込んだ。そのままぽんぽんっと跳ねて転がっていく。

「いっ……痛いです!蛮ちゃん!!」
「あったり前だ!痛いように殴ったんだからな!」
「うぅ……」

 少し離れたところでびちびちとたれて文句を言う銀次に蛮は適切な言葉を返す。返された銀次はというとバンソーコを貼り、痛みに耐えるしかなくなってしまった。蛮が怒りのオーラを纏ったままだからだ。

「なんでぇ??」
「なんで?!ここどこか分かってんのかよ!」
「え?無限城」
「そこじゃねぇ!外だ!外!」
「うん……外、だね?」

 蛮が言わんとしてる事が全く分からない銀次はたれたまま首を何度も傾げるばかり。訴えている蛮は耳まで赤くしていたが、どうも怒りのせいではないようだ。

「蛮ちゃん?」
「こんな昼間っから外でなんかヤれるか!」
「……外じゃなかったらいいの?」
「……まだ考えてやれる……」
「分かった!ついてきて!蛮ちゃん」
「ちょ……おい」

 蛮のきちんとした返事を聞いた銀次が途端に表情を輝かせ始めた。蛮の経験上、こういう表情をする時はロクな事をしない。それでも片腕を掴み、ずんずん進む銀次に苦笑しながらその腕を振り払う事なくついていった。

―俺も甘いよなぁ……ま、たまにはいいか……

 心のどこかに銀次への罪悪感が残った蛮は今日一日くらいとことん付き合ってやろうかと覚悟を決めたのだった。

 * * * * *

「ここなら大丈夫でしょ?」
「………」

 そう言って連れてこられたのは、やはり無限城内にある建物。『建物』といっても、どちらかといえば廃屋と言った方が正しい。ヒビの入ったコンクリートの壁や天井。そして目の前には無造作に置かれたパイプのベッド。銀次が度々休みに来るのを知っているのだろうか?さほど埃が溜まっていない。もしくは、『使者達』が手を回したか……

「蛮ちゃん?」

 体を引き寄せられ、頬にキスをされる。そのままサングラスを外され、ハーフパンツのポケットに入れてしまうと、今度は唇にキスを落とされる。軽く何度か触れるだけのキスを繰り返す内に深さを増して酸素を奪っていく。息苦しさに薄く開いた所へ熱い舌が差し入れられ、思う存分に蹂躙していった。
 ぴちゃりと音を立てて離れると、二人の間を銀の糸が引く。

「……がっつき過ぎ……」
「えへ♥ごめん」

 言葉では謝罪しているものの、手はコートの上から体中を弄り、ボタンを外し始めている。頬に、額に、目元に、耳に、と、余す事無くキスをしていき、手を首から胸元へと滑らせていった。その後を唇が追いかける。

「っ……」
「……蛮、ちゃん?」
「ぁ?」

 首筋をぺろりと舐められて震えていると銀次が何かを耐えているような声をかけてきた。ふと下を見ると銀次が一点を凝視している。

「なんだよ?」
「これ……キスマーク……だよね?」
「は?!」

 震える銀次の指が触れたのは鎖骨の辺り。そこにはくっきりと紅い痕が一つ付いている。独占欲の強い銀次がそれを見て何も思わないわけがない。

「やっぱり……したんだ」
「な!ふざけんな!誰があんな奴とするかよ!」
「でも蛮ちゃん記憶がそぼろだったんでしょ?!」
「そぼろじゃなくておぼろだ!バカ!」
「なんにせよちゃんとした思考じゃなかったんでしょ!」
「そうだとしても絶対してねぇ!!」

 ひとしきり言い合いをした後、二人は無言で睨み合う。両者一歩たりとも引くものか、といった意気込みだ。そのまま数分が経過しようとした時、蛮がふと瞳を閉じた。が…

「うわっ?!」

 いきなり銀次をベッドへと突き飛ばしたのだ。ぼすん、という音と共に多少埃が舞い上がる。

「なにすっ……」

 上体を起こし、文句を言おうとした銀次の上に蛮が圧し掛かってきた。銀次の体を跨ぎ、靴を下へ落とす。細められた瞳が真っ直ぐに見つめてきて、銀次は言葉を呑んだ。

「……体で証明してやるよ……」

 言葉は至って蛮らしい強気なもの。だが、頬が赤く染まっているのを銀次は見逃さなかった。どうしたものか、と銀次が困っていると蛮が上体を屈めてキスをしてきた。それを甘受していると蛮の手が銀次の下肢へと伸びていく。

「っ!……蛮ちゃん!」

 まさか、と思った時にはすでに遅く、服の中から取り出された雄を躊躇する事無く口の中へと含んだ。濡れた音を立てて雄が頬張られている。その光景に下肢を更に熱くした銀次はそっと蛮の髪を梳いた。少し伸びた前髪がさらさらと上気した頬の上に落ちていく。
紅い唇に咥えられた雄がどんどん早く脈打つのが感じられた。
 ……限界が近いのだ。

「ん……むぅ……」
「蛮……ちゃん……も……」
「っ……んっ!」

 どくっと大きく脈打ったかと思うと口の中へ白濁が吐き出される。温かいソレを喉の奥に収めるとようやく雄を口から出した。

「っぁ……はぁ……」
「……は……っ……」

 二人して乱れた息を整えていると、蛮の顎に手が添えられ、引き寄せられる。顔を寄せられ口元を舐められると、咥えていた時に溢れたモノが舌によって拭われる。

「……ずいぶん……大量じゃねぇか」
「うん……だってしなかったもん」
「……一人でも?」
「うん。蛮ちゃんの中じゃなきゃやだ」
「ばーか」

 憎まれ口を叩きながらも寄せた顔に両手を沿えて口付けをする。子供じみたキスを繰り返すと銀次が動きだした。

「蛮ちゃんは?」
「は?」
「俺だけなんてずるいよ」
「あ!こら!」

 銀次が蛮の足首を掴み引き上げると、今度は銀次が覆い被さる体勢になった。黒いコートの裾がベットから落ち、白いシーツの上に広がる。その黒い布の中央には白い上体があった。白い首から指を滑らせてバックルに辿り着くとあっさりと脱がせてしまう。黒と白のコントラストの中に、紅いピアスとラズライトの瞳が映える。

「……銀……次……」

 脱がせてなお引き上げさせたままの足を辿れば、弱々しくも怒張し始めている蛮のモノが晒されている。その羞恥のせいで頬はさらに紅く染まり、見上げてくる瞳は潤んでいた。掴んだ足首に唇を触れさせればぴくりと震えて反応を返す。そのまま舌を少し出して白い肌をなぞっていけば自然と蛮のモノへと辿り付き、間を置く事無く口に含んだ。途端に蛮の体が跳ねる。

「……あっ……」

閉じようとする足を開かせて自分がされた事をお返しとばかりにやり返す。蛮が咥えるよりも銀次が咥えることが多い為、銀次は蛮の性感帯を知り尽くしている。故に蛮が絶頂を迎えるのは早いのだ。

「ぁ……銀次ッ……イくっ……」
「早いね?……久しぶりで感じやすいのかな?」
「ぁんっ……ゃあ……も……だめッ……」

 銀次が蛮のモノをキツク吸い上げると、白い肢体が仰け反り達してしまった。仰け反ったままびくびくと震えると途中でふっと力が抜ける。

「……気持ち良さそうだね?蛮ちゃん」
「……んぅ……」

 顔を上げた銀次の前にはくたりと横たわる蛮の姿があった。かすかに体を震わせ片手は先程までベッドを掴んでいたのか、上に上がっている。

「……銀次……交代……」
「へ?」
「場所……交代しろよ」

 そう言うと銀次の首に腕を絡めて再びベッドへと沈めた。銀次の上を跨ぐと自ら腰を擦り付けてくる。最奥に潜む蕾に擦りつけ、銀次の先走りで濡らしていく。

「蛮ちゃん?」
「……動くなよ?」

 銀次の雄に手を添え、自らのモノと一緒に握り込む。銀次と自らの先走りを指に取ると蕾へと手を伸ばしていく。

「っん……ぁ……ぅん……っ……」

 銀次の体の上で蛮が鳴き始める。自らの手で銀次と共に擦り上げ、自らの指を蕾に指し込み、手の中の雄を迎え入れる準備をし始めた。自分の上で晒される痴態ぶりに銀次は体を火照らせる。

「蛮ちゃん……俺の指……舐めて?」
「ん……っぅ……」

 上体を起こし、蛮の体を支える。そうして、甘い声を漏らす口元に指を運べば舌を出して迎え入れてくれた。両の手は休む事無く動き、時折蕾から濡れた音を響かせる。
 二本の指で舌を挟んでは擦って上顎をなぞり、たっぷりと濡らしたところで紅い唇から指を抜き取った。

「ぁ……」
「蛮ちゃん……指の動かし方、教えてあげるよ」
「え?……あぅっ」
「力抜いて?」
「……んっ……むりっ……っ」

 蛮の中指を咥え込んでいる蕾に、銀次が先程濡らした二本の指を新たに咥えさせた。一気に増した質量に蛮の蕾がきゅうっと引き締まる。
 後ろに仰け反りそうな蛮の体を足で支え、止めてしまった前の動きをもう片方の手で再開させる。そうすれば先程まで締め付けていた蕾が、花開くようにふわりと力が抜けていく。その隙を逃がさずに銀次の指が蛮の指と絡まって蠢き始めた。

「あっ……ぁんっ……っぁあ……」
「気持ちいい?」
「……あ、銀次ッ……んっ」
「まだキツイね?蛮ちゃんの蕾」
「……あ……でも、もっ……」
「なに?蛮ちゃん?」

 前後同時に攻め続けられ、蛮の腰が無意識に揺れ始める。先走りも量を増やし、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てていた。

「蛮ちゃん?」
「……いれたい……」

 切なげに囁かれ潤んだ瞳で見つめられれば、どう拒否できるだろうか?体中で求めてくる体をどう断れるか?
 そんな事、考える必要はないだろう。すでに銀次とて張り詰めて今にも突き上げてイってしまいたいというのに……

「いいよ……」
「ぁ……」

 優しくキスをすると絡めた指を一緒に抜き去った。一瞬にして消えた質量感に、蛮が切なように身を捩る。扱いていた手も取り除き、体を両手で支えた。

「あ……だめ……」
「うん?」
「駄目だ、っつってんの」
「え?なんで?」

 表情は快感に溺れきっているというのに、いざ入れようとすると拒否の言葉が返ってきた。困惑の表情を浮かべていると、腰を鷲掴んでいる腕をやんわりと外される。そのまま上体を押し倒されて、銀次は蛮に見下ろされる形になった。見下ろしてくる瞳は妖艶な色を持ち、表情も笑みを称えていた。

「体で証明してやるっつっただろ?」

 そう言ったところで蛮が腰を下ろしていく。熱く猛った雄が徐々に蛮の中へと飲み込まれていった。ぬるりとする感触に銀次は身震いをする。視線を上げれば、眉間に皺を寄せ圧迫感に耐える蛮の顔が見える。浅く呼吸を繰り返し、少しでも痛みを和らげようとしているのが分かった。

「あぅっ」
「……っ……」

 銀次が腰をぐっと上げることで蛮の奥深くまでえぐる。すると当然の如く蛮の蕾が締め付けてきた。
 衝撃の余波で荒く呼吸を繰り返したいた蛮がふと顔を上げる。すると銀次の表情が窺えた。銀次とて荒い呼吸を繰り返してはいるのだが、表情は『気持ちいい』としか語っていない。その表情に喜びを感じていると銀次が視線に気付いたのか微笑を返してきた。蛮にどかされた手でそっと太腿を撫でる。

―大丈夫?

 と無言で聞いてきているのだ。その答えに頬を摺り寄せると、今度は頭を撫でてくれる。中でとくとくと脈打つソレが時折ぴくりと反応する。更なる快感を与えろ、と命令をしているのだろう。
それに苦笑を漏らすと、上体を起こし銀次の腹に両手をついた。

「っ……はっ……あっ……ぁんっ……」

 ついた手に力を込めて体を揺さ振り始める。銀次の先走りで中が更に濡れ、卑猥な音を立て始めた。水とは違う、粘着質な音。二人の体液によって作り出されるその音に蛮は眩暈を感じた。

「ほんと……気持ちいい……蛮ちゃんの中……」
「ぁっ……銀、次?」
「うん?」
「証明できた、だろ?」
「うん。俺の以外入った感じはないもん。変な癖もついてないし……」
「っふ……ぁ……」

 銀次の言葉に安心したのか、蛮の表情が緩む。そのまま更に体を揺さ振ろうにも快感に蝕まれた体では自由に動く事もままならない。

「でも……これは消しちゃおうね?」
「え?……っあ……」

 銀次の手がつぅっと鎖骨を滑る。滑らせている間に上体を起こした銀次が鎖骨に噛み付いた。

「ぃっつ……銀次ッ……」
「もうちょっと……」
「っ……ぁ……」

 紅い痕をしつこく舐め上げては歯を立てる。いい加減引き剥がそうかと思った時、ちゅぅっと音を立て、銀次が朱を散らした。

「……銀次……」
「この痕は俺がつけた痕。蛮ちゃんを食べれるのは俺だけ……蛮ちゃんは俺だけのもの……」

 うわごとのように零れる銀次の言葉。蛮は銀次の首に腕を回して引き寄せた。

「銀……」
「こうやってしたら鳴いてくれるのも俺だけなんだから……」
「あんっ……っぁあ……」
「俺だけの……蛮ちゃん……」
「あっ……あぁっ……」

 言葉を繰り返されつつ、律動が激しくなっていく。がくがくと揺さ振られ、ともに絶頂を迎えるべく銀次が動き出す。

「誰にも渡さない……触らせない」
「ぎっ……ん……っんあぁ……」
「……綺麗……蛮ちゃん……すっごく、きれい……」
「ぎんっ……じ……」
「蛮ちゃん……一緒に……」
「あっ……あぁぁぁぁぁ!!」

 銀次の雄が最奥を抉ると蛮の白い肢体が仰け反った。白濁が吐き出される。

 夜は今始まりを告げたところ。二人の情事は日が昇るまで終わりを告げない……


―ざあぁぁぁぁぁぁぁ…



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