「いやぁ〜…とんでもない発注枚数ですねぇ〜」
「それだけ出来が良かったということだ。」
「去年までと違って完全オリジナルだからな。物珍しいってのもあったんじゃね?」
「そうだねぇ…作り甲斐があるって感じだったしねぇ。」
「ま、造形の方も人数増えたから何とか間に合わせられたって感じだけどな?」
「でもすごく綺麗だったよ?」
「そうそう!まさか当日の朝に出来たなんて分からないくらい!」
「うんうん!もう、目の保養万歳!!」

お披露目会という名の生徒会役員の紹介が終わった次の週。
いつも通り放課後になると生徒会室に出向いていた。すると先週までは忙しなくミシンなどの音が響いていたのに、今日は静かでもしや集まらなくて良かったのか?などと不安を過ぎらせると、作業室にはいつも通りの面々がいる。ただし、ミシンやハサミはまったく動かしておらず、中央のテーブルにひしめき合って一様に壁を見つめていた。
何だろう?と部屋の中へ足を踏み入れれば掃除当番で遅くなっていた2人の到着に気付いたクリスが嬉しそうに手招きをしている。

「なに?」
「いいからいいから!こっちきて!」

早く早くとせかされる2人は顔を見合わせて首を少し傾げると荷物を手近なソファに放り近寄ると唯一座っているフェルトの後ろを空けてくれる。近くでよく見てみるとフェルトはハロを立ち上げて映像を白い壁に投影させているらしい。ハロのつぶらな目から光が差し出して壁一面に映像が映し出されていた。
何の映像かと見てみるとそれは刹那と那由多の2ショットだった。隅々まで見てみると右上に何枚中何枚目という感じの数字が表示され、左下には押しピンのようなアイコンとその横にも数字が表示されている。ただ、画面の中の2人は制服ではなく、それどころか現代の服装でもなかった。しかしその服装は記憶に新しいものだ。

「…集会の時の写真?」
「そ☆にぃにぃズが舞台セッティングとカメラマンを請け負ってるんだよ。」

てっきり全員が被写体になるのだと思っていた『撮影会』はディランディ姉妹、ハプティズム姉妹、ティエリアとセイエイ姉妹のみが被写体になって他の面子はメイクや着付け、進行など各々請け負っているらしい作業へと散っていってしまっていた。刹那と那由多も作業側を回ろうとしたらティエリアとネーナに捕まり、渋々撮られていたのだ。
その写真が今まさに壁に映されているそれであって…

「それにしても…随分枚数があるんだな…」

集会はほんの3時間ほどだった。その中で今見ている画像の中の格好をしていたのは二時間満たない時間だったはず。けれど枚数の数字を見る限り軽く500枚を超えている。

「カメラの達人2人にかかればこれで少ないくらいなんだよ」
「…もっと撮れるのか?」
「そうだなぁ…近くで直接指示を出せるようなら軽く4桁は乗るんじゃないかな?」
「…すごい…んだな…」
「ま、モデルがいいからな。」

今話題に上がっている内容は先週末に行われた集会の事だ。残り一週間弱であったにも拘らず2人の衣装がしっかりと二着出来上がり、無事にお披露目が済んだ。
…のだが…
事前に聞いていたように、お披露目会の後は『撮影会』に発展してしまった。これは毎年恒例であって、生徒会の行事でもあるらしい。去年までは既存の絵画を元に衣装を作っていたのだが、今年のメンバーはオリジナル衣装を作ってしまえるので随分と楽しみにされていたらしい。そのせいもあってか、生徒は皆、カメラの準備をしてきていて、その光景にセイエイ姉妹は思わず目を瞬いてしまう。流されるままに着替えて、指定されるがままに体を動かし…気付けばあっという間に終わってしまっていた。無意識に変な事をしていなかったかと確認すれば、皆一様に褒めるだけだった。
そんな怒涛の体験をした翌週。成果を確認する為でもあるのか、生徒会作業室の壁を使って閲覧をしていたのだ。

「ところで…この下の数字はなんだ?」
「あぁ、それは発注数ですよ。」
「発注数?」
「そ。この画像の写真が欲しいって申し込みしてくれた人の数なの。」

説明を受けた上で表示されている数字をもう一度よく見てみる。どうも数字はもうすぐ三桁にかかるようだ。

「…こんなに…いるのか?」
「そうだ。しかもこの数字は今日一日分しかない。申し込み期間は3週間。初日でこれだからもっと増えるだろうな。」

詳しく聞けば、公開している写真は全てではなく選りすぐった結果100枚程度に抑えているらしい。それでもかなりの枚数だと思っていたのだが、どうやらこの公開している場所というのは学園の全学年が利用出来る電子図書室の一角だとか…てっきり中高等部のみだと思っていたのに随分範囲が大きい事に思わず眉間へと皺が寄る。

「「………」」
「そんな…あからさまに嫌そうな顔すんなよ?」

くっくっ…と笑いながら突付いてくるハレルヤにむすっとした顔で振り返るとヨハンやミハエルにまで笑われた。あまりカメラや写真というものに慣れていないというのもあって、どちらかといえば苦手である2人は画面端に表示されている数字を見てうんざりとしている。軽く1学年分はいくだろうその数字の人数に自分の写真が渡されるのはあまり気分の良いものではない、というのが本音だ。けれど、ティエリアが言うには「写真の焼き増し代を衣装の費用に当てるので多ければ多い方がいい」…そうだ。
それにしても…と2人は顔を寄せてフェルトの手元にある画面を覗き込む。

「それにしても…すごい人気だね…刹那と那由多。」

焼き増し依頼の数字は満遍なくくっついてはいるが、刹那と那由多のショットに対する申し込み件数が若干他のメンバーより多いように見える。けれど、ニールのカメラ目線やライルのピンショットというのは圧倒的な数ではあるのだが…それでも2人の写真の申し込み件数もなかなかだろう。
画像を次、次…と送りながらぽつりと囁いたフェルトの言葉にクリスやネーナ、アレルヤ達も笑い出す。

「そりゃもう…あんなの見せられたら…ねぇ?」
「…いや…俺達に振られてもわからない。」
「確かにアピールしてとは言ったけど…あんなの見せてもらえるとは誰も思わなかったよ。」

お披露目会では、体育館に並べられた椅子に座る生徒達の間を通って舞台へと上がり紹介をされた。最初に会長であるニールが司会である前会長に呼ばれて出て行き、そのあとはニールがメンバーを順番に呼んで紹介をしてくれたのだが…みんなの言う『あんなの』というのはこの時の事だ。

…それというのも…

体育館の扉の外で待機していた面々はつい先日仕上げた黒を基調とする軍服のデザインをした衣装を身にまとっていた。
所々個人でデザインが異なるそれは所謂『生徒会の正装』というものになるらしい。デザインの違いは各々の役職のイメージを強調しているので遠目でもどの役職か分かりやすくされている。
例えば…ニールだけ帽子がありジャケットの上からロングコートを纏い、ライルはジャケット自体が長くて腰からサーベルを下げている。ヨハンは髪をオールバックにして伊達メガネをかけて首からマフラーを下げていた。
ティエリアとネーナはタイトのミニスカートにヒールのパンプスでこちらもレンズの細いメガネをかけている。この2人に対してフェルトとクリスは髪をアップにして一纏めにし膝丈のタイトスカートでロングブーツを合わせていて、アレルヤ、ハレルヤ、ミハエルは腕章が付いていて編み上げのロングブーツに肩から生徒会旗を掛けていた。
刹那と那由多はというと他の面子より少しぴったりと体に沿ったジャケットにスカーフを巻き、プリーツスカートにスパッツと編み上げのロングブーツを合わせていた。
他にも、ジャケットの袖の長さ、細さが違ったりズボンのデザインが異なったりとしているので、一人として同じデザインはなかった。
その全員のデザインを見た時、よくこんなにデザインが浮かぶものだ、と刹那と那由多は心の底から感心していた。

「さてと、皆さん。」

各々襟を正したり裾の皺を伸ばしたりとしている中、帽子のつばの方向を直しながらニールが振り返った。その表情はまるでこれから戦いに挑む直前の気分が高揚している時のようだ。

「全員集合の初お披露目だ。それなりにアピールしながら舞台まで来てくれよ?」
「もっちろーん☆」
「貴方は人の心配より自分の心配をしたらどうですか?」
「全くだ。一番手なのだからせいぜい無様な事態を引き起こさないよう気をつけてください。」
「そんなヘマしねぇよ。」

ひらひらと手を振り、目の前の扉を覆う遮光カーテンを鷲掴む。館内では前生徒会長の男子生徒が任期終了にあたる挨拶をしているのが聞こえる。その言葉を聞いているとそろそろ呼ばれるようだ。

「そんじゃ、お先。」

そう言い残して開いたカーテンの向こう側へと消えていく。彼女が入った瞬間、館内が震えるような歓声に沸き立った。そっとカーテンの隙間から覗いてみると、花道として座る生徒達の真ん中に通路が作られており優雅に歩いていく後姿が見える。時折手を振って声援に応えたりしながら歩いていくと壇上へと上がっていった。コートの裾を翻して振り返ると優雅に一礼する。その姿はまるでどこかの貴族のようだ。ぼんやり眺めているとカーテンの隙間から覗いているのに気付いたのか視線を合わせてウィンクされてしまう。かっと熱くなった頬に刹那は慌てて引っ込むと館内から黄色い声が上がった。

「到着したみたいですね。」
「しかもこの沸きよう。乙女心はがっちりってやつ?」
「それを天然でやってのけるから性質悪いよな。」
「嫉妬は見苦しいぜ?ミハエル。」
「べっつにぃ〜?」

口を尖らせてぷいっと背くミハエルに少し笑い合っていると舞台上でライルが紹介され、彼女もまた黄色い声援の中へ入っていった。

「姉妹揃ってこの声援…嫉妬してもおかしくないと思うけどな?」
「ま、おかしくはないだろうね?」
「要は…それを表に出すか出さないか…でしょ☆」
「つまり分かりやすく出したミハエルは…」
「いい!それ以上言うな!!」

などと緊張を程よく解しながら話してはいるものの、中では着々と紹介が進んでおり、1人…2人と待機メンバーが減っていく。役職ごとに紹介をしているらしく会計、書記と進むと、2人一緒に入っていった。会場が先ほどまでの高い声とは異なり低い唸り声に近い声援が湧きあがり、やはり女の子よりも圧倒的な男子人気をあの4人は得ているのだな…と再確認してしまった。
となると…と少し考えると…

「変に緊張しなくていいからね?」
「んじゃ、刹那、那由多。また後でな〜。」
「おっさき〜!」

広報の三人が肩から掛けた旗を翻して暗幕の向こう側へ消えていってしまった。入っていった三人は男子と女子どちらかに偏ってはいない声援にミハエルの友達だろう野次も微かに聞こえてくる。
三人三様の言葉を残して行かれた刹那と那由多は顔を見合わせた。

「アピールと言っていたな…」
「あぁ。そうだな。」
「…しかし…」
「残念ながら俺達にはショーモデルのようなアピールの仕方は分からない。」
「確かに。」

そこまで話し合って…ふむ。と2人は頷きあった。

「ショーモデルは無理だが…」
「…『あれ』…か?」
「あぁ。充分にアピール出来ると思う。」
「ちょうど通路も開いているしな…」
「出来るか?那由多。」
「出来ないわけない。」

暗幕をきゅっと掴んで2人は互いに微笑み合った。
黒い布一枚隔てた向こう側では舞台上に立ったニールが最後の役員を紹介し始めていた。


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