肌の色は刹那よりもまだ少し黒く、室内を見た感じ一番背が高いようだ。黒い真っ直ぐな髪と切れ長の鈍色の瞳、左目の下には黒子が2つ並んでいる。一言で言えば優男といった雰囲気だ。
「彼はヨハン・トリニティ。ネーナのお兄さん。俺らと同じ歳で会議で議長を務めてくれる。」
「誠実そうな人だ。」
「その通り。んで横にいるのは…」
すっと横に移動すればほぼ頭一つ分くらい低い男子。癖のある青藍色の髪の間から白いピアスが見え隠れしている。意志の強そうな煉瓦色の瞳は悪戯が好きそうに細められ、左目の下は黒子が一つ浮かびヨハンといっしょに布地を広げていた。
「ミハエル・トリニティ。こいつもネーナのお兄さん。俺らの一コ下で広報。」
「………」
「軽そうな奴だろ?」
「それにケツの穴もちっせぇぞ?俺らに身長抜かれたのずっと根に持ってっからな。」
「おい!聞こえてんぞ!Wロックオン!」
「…短気で喧嘩が早そうだ。」
「お前も!」
「くくっ…間違っちゃいねぇな。」
「ホント。的確だよ。」
ライルが耳元でこっそり「すっげぇ地獄耳でもあるんだぜ?」と囁くとぎらりと睨みつけてきた。「ほらな」と笑うライルにからかって遊んでいないか?と思いながらもニールの指が動いたので慌てて追いかける。すると不思議空間だと思っていたブルーシートの上にちゃぶ台らしきものを出してカッターをすいすいと動かしている人物に行き当たった。どうやらあのブルーシートは細かなゴミが出やすいのでフローリングの隙間に挟まってしまわないようにとの考慮だったようだ。
ヨハンのような黒髪だが、微妙に深緑が強く出ている。左は銀鼠色のような瞳、右は黄金色のような瞳のオッドアイだ。体つきはしっかりしているので何か格闘技でもしているのかと思えば生まれつきだと言う。本人曰く骨太なのだとか。
「俺らと同じクラスのアレルヤ・ハプティズム。その左が双子の妹ハレルヤ・ハプティズム。2人とも広報で主に放送とかポスターの作成をしてくれる。」
「…見分けがつかないな…」
「そうでもないさ。」
「ハレルヤのが目元きっついからな」
「悪かったな、悪人面で。」
「そこまで言ってねぇって。」
「そうだよ、ハレルヤ。眉間に皺が寄らなかったらちょっと怖いだけだから。」
「フォローになってねぇよ。このド天然…」
「ははっ…んで、そのド天然呼ばわりされた方がこの部屋のタペストリーとか部屋のプレートを作った張本人。」
「…器用だ…」
「ほいで、知ってるけども一応。」
つつ…と指を滑らせて、ハプティズム姉妹の近くにあるデスクに見知った後ろ姿がある。桃色の髪をツーテールにしているフェルトだ。抱えていたオレンジのノートパソコンを開いてなにやら打ち込んでいるらしい。
「書記のフェルト・グレイス。ちなみにノートパソコンの名前はハロ。」
「そこまで言わなくていいよ、ロックオン。」
「なんで?大事な仲間だろ?」
「…うん。」
くるりと振り返ったフェルトににっこり笑ってそう告げれば彼女は照れくさそうに頷いた。それに笑みを更に深めると最後になったクリスを指差してくれた。彼女はヨハンやミハエルと同じテーブルの端で少し大きめの鋏を出して刃の具合を確かめているらしい。
「クリスティナ・シエラも書記を務めてくれてる。とまぁこんなもんかな。」
そう言って手を膝元に戻したニールに「ありがとう」と告げれば「どういたしまして」と返してくれる。すると終わるのを待っていたのかライルの手がぽん、と刹那の上に乗せられた。びっくりして振り向けばニールと同じような笑みを向けられる。
「忘れてもらっちゃ困るなぁ、姉さん。」
「なんだよ?自分で言えるだろ?」
「冷たいねぇ…ま、いっか。」
「…?ジュニア?」
「ライル・ディランディ。生徒会副会長を務めさせていただいております。」
「え?」
「そしてニール・ディランディ。恐れ多くも生徒会長を勤めさせていただいてます。」
「…え??」
きょとりと2人の顔を見比べ、ぐるりと室内に視線を巡らせると視線が集まっている。那由多もまさかといった具合に固まってしまっている。
「「ようこそ、生徒会執行部へ。」」
そうして全く同じ声が綺麗にハミングした。
「終わった。次、刹那。」
「はいはーい。出番ですよ、刹那」
「う…あ…はい…」
ニールとライルが生徒会の人間だとは思わなくて意表を突かれた刹那はまだ驚きから立ち直れていない。よろよろっと立ち上がると入れ替わるように那由多がソファへと座りに行く。ジャケットを脱いだ刹那がネーナとティエリアの間へ立った。
「はい、それじゃ、測りまーす」
「…お手柔らかに…」
うきうきとしたネーナに刹那は無理だろうと分かっていながらも声をかけておいた。作業の間は洗礼を受けないだろうけれども警戒はしておいた方がいいか、とニーナの手の動きをじっと見つめている。ブラウスの上からではあるがするすると滑るメジャーに眉一つ動かす事のない刹那にニールとライルは違和感を覚えた。着々と進められる計測はなんの障害もなく進んでいく。
「那由多…」
「…なんだ?」
「刹那…平気っぽいのはなんでだ?」
刹那といえばディランディ姉妹との初対面でニールの手を思い切り振り払い走り去った人物だ。その日の内に刹那と和解したらしいニールが手懐けライルも徐々にではあるが慣れて最近では急に触れても肩をびくつかせるだけで済んでいたのだが…初対面の人間にあぁも簡単に触られているのは何故だろう?と2人して首を傾げた。てっきり強張る刹那を度々宥めに席を立たなくてはならないと思っていたのだ。すると間に座る那由多がそんな2人を上目遣いに見上げて口元から苺牛乳のストローを放す。
「慣れてきた…と言っていた。」
「「へ?」」
「ロックオンとジュニアで、人に触られる心地良さを知って…慣れてきたのだと言った。」
「はぁ…」
「だから、初対面でも相手がちゃと見えてたらもう怖くはないのだと。」
ぽつりと落とされた言葉に2人は顔を合わせて刹那を振り返る。一般的なスリーサイズから太ももの周り、首周りから腕の長さ、足の長さまで測り尽くしているニーナに刹那は至極無表情で。初対面のあの日が嘘のように感じる。それでもこの変化は喜ばしいことなので素直に笑みを浮かべる事にした。少々胸の内に面白くないという感情が燻って入るが、個人の我がままに刹那を振り回させるわけにはいかない。
そうこうしているうちに採寸が終了したらしく、メモを持ったティエリアが計測した数字からさらに修正を加え、ニーナが確認をすると2人はヨハンとミハエルに数字を伝えに行く。ジャケットを着直しながらソファの方へと近づいてきた。
数字を確認したヨハンが山積みになってた紙の束を広げると物指しを当ててマークを打っていくと横のミハエルに手渡した。渡されたミハエルはその独特の形をした紙に迷う事無く鋏を入れて切り刻んでいく。どうやらそれは型紙だったらしく、いま図った2人のサイズに直しているようだ。切り終わった型紙を受け取ったクリスは机に転がっていた色鉛筆、チャコペンシルを手に取ると机に広げた布に書き写していく。その流れるような作業がしばし続くとマーカーを点け終えたヨハンもクリスに倣って書き写す作業へと入っていった。最後の型紙を切り終えたミハエルも書き写し作業に加勢をする。そうすると今度はクリスの手に裁ち鋏が握られ、慣れた手つきで布を裁断し始めた。ヨハンとミハエルも書き写し終わったのか鋏を握り裁断へと加わった。
ふと気付けばティエリアとネーナはハプティズム姉妹のスペースに移動して、紙にシャーペンを走らせながら何やら話し込んでいる。するとその横でフェルトがパソコンを閉じて窓際へ移動していた。そうして窓際にあったカバーを取るとプラグをコンセントに差し込むとその片方に腰を落ち着ける。そうすると今度はその横にクリスが座り、切り終えた布を何枚かフェルトに手渡していった。机の上にあったのはどうやらミシンのようで、糸巻きが一台に4個ついているものとよく見る家庭用ミシンが各二台ずつある。なんだか分からなかった塊の中身が分かって納得していると二人揃ってミシンを走らせ始めた。
その一部の隙もない流れるような作業に刹那と那由多は目を瞠る。
「みんな…プロなのか?」
「いいや?それぞれ特技を生かした結果ってやつかな。」
「刹那?ちょっといい?」
「え?あぁ…」
「腕を真っ直ぐ伸ばして?」
「うん…」
「拳作って90度右に回転。」
「うん…」
「OK、ちょっとの間そのままね。」
「了解。」
言われたように腕を動かし固定するとアレルヤが持って来ていた木の棒を手の甲に宛がわれる。上下の位置を調節しながら少し顔を離し全体を見ながらポケットに入れてあったマーカーで印をつけていった。それが終わると刹那に礼を告げ、次は那由多へと移っている。那由多にも同じように指示しているが微妙に違うようだ。ささっと済ませてしまうとアレルヤはまたブルーシートの方へと戻っていった。
「………」
「………それで…」
「うん?」
「何故俺と那由多はここに呼ばれたんだ?」
「あぁ、それ。」
「むしろそちらの方が大事なんだが…」
「悪い悪い。」
なんだかんだで生徒会メンバーを紹介してもらって説明が終わってしまった。肝心な呼び出しの理由を聞いていないので促せば忘れてたとばかりに手を打ち鳴らされる。本当にこんなやつが会長を務めていいのか?となんとも訝しげな表情で見れば「そんな顔すんなよ!」と苦笑が返された。
「ここにお前さん達を迎えたのは他でもない。」
「執行部の一員になってもらう。」
とんでもないことをさらっといいやがる。
それが刹那と那由多の胸中だった。冷静に考えて欲しい…転入一ヶ月ほどの中等部の女生徒を捕まえて執行部に入れと?いくら常識に疎いこの2人にだってそれが異常なことであることなんて分かっている。二人して頭痛を抑えるかのように額に手を当て長いため息とともに俯いてしまった。
「ま、お前さんらの反応は最もだな。」
「実はさ、表向きには現役会員による個人的な指名ってなってんだけど…本当はヴェーダから弾き出された結果なんだ。」
「…ヴェー…ダ?」
「そ。うちにいる生徒の全てのデータを統括してるシステム。」
「システム……そんなものが…」
「あるんだなぁ…」
「そのヴェーダが生徒会役員候補に2人の名前を弾き出したわけだ。で、あとは現役役員が当人と接触して可否を決定する、と。」
開いた口が塞がらない状態に陥った2人をニールとライルでソファに沈め、その手に飲みかけの苺牛乳を握らせる。放心状態に陥った2人を横目にクリスとフェルトが小さく笑った。
「でもそれを知らされたのがテスト1日目って厳しいよねぇ〜」
「ホント…覚えた教科書の内容が全部消えちゃうかと思った。」
「それは俺も同感。」
「まさかって思ったもんなぁ。」
「軟弱な脳だな。」
「そんなこと言わないであげてよ、ティエリア」
「ふん…」
「俺たちゃ今日が初対面だが、この4人はそれこそ普通に友達で付き合ってたはずだからなぁ。」
「衝撃も一入、といったところでしょうね?」
「そんなに驚くもんかぁ?」
「ミハ兄だってあたしが選ばれた時は散々驚いてたじゃん」
「…そうだっけ??」
「そうだよ。あまりにびっくりしたからって俺の部屋に来て一緒にね…」
「ッおーもい出した!思いだしたからそれ以上はッ!!!」
周りの雰囲気も彼女達の会話からも、どうやら刹那と那由多はすでに役員に決定してしまっているらしい。二人にしてもこの学校の選出方法によって決定してしまっては断る理由がなくなってしまった。
「…しかし…メンバーに入るとしても俺達が出来ることなど…」
「あぁ、実は役員に空きが二つあってな。」
「え?」
人数は自分達2人を除いても10人いるから役職などないと思っていたのにまだ『空き』があるという。驚きに顔を上げればポケットから何か取り出しているニールが見えた。瞬きを繰り返して見ていると刹那の左襟に何か取り付け始める。少しして手が離れると、「よし!」と満足気な声が聞こえた。そうして那由多にも同じ事をして離れると、襟に銀色に輝くピンバッチが見える。そっと自分の襟にも指を這わせるとひんやりと冷たい感触が指先に伝わった。
「役職は『風紀』。2人は番だからな。」
「…つがい…?」
「2つで一つってやつ。」
「だからピンのデザインも半分ずつ。」
そう言われて二人は顔を見合わせる。ちらりと襟に視線を走らせればそれは天使のような翼の形をしていた。
そして『番』という言葉の意味を理解する。
刹那のそれは向かって左にひろがり、那由多のものは右へと広がる。つまり二つで一対の翼が完成するのだ。
もう一度指を這わせてニールを見上げた。よくよく見るとテスト期間中は着いていなかったシルバーのピンが左の襟の上で輝いている。どうもデザインが違うように思えて素直に聞いてみると役職によって形が違い、その違いで役職を見分けるのだという。
ほぅ…と感心していると役職と形を教えてくれる。実際に見るのはいつでも言ってくれたらいいなんて言ってくれた。
まず、会長のニールはクラウン。副会長ライルは剣、議長ヨハンは杯。会計のティエリアは月、ネーナは太陽。書記のクリスとフェルトは刹那達と同じように左右ばらばらに広がる月桂樹の葉。広報のハプティズム姉妹、ミハエルは星。この星も正面を向いたものと左右に傾いたものがあるらしい。
この形の由来も追々教えてくれるということで刹那は一度しっかりと頷いた。
俯けば襟元で光る銀色のピンが見える。
まだ全部確認はしていないが、この部屋にいるみんなが着けているのだという。それはまるですでに出来上がっていた一つの大きな輪に迎え入れられたようで…胸の奥がしわりと熱を持つ。ちらりと瞳を上げるとニールが微笑みかけていた。
「よろしく頼むよ、風紀員?」
「了解した。」
ふわりと微笑む刹那の顔を見て那由多は驚いた顔をする。そうしてじっと刹那を見つめた後、那由多も笑みを漏らしたのだった。
* * * * *
よほどピンバッチのデザインが気になったのか、2人は作業の邪魔にならないようにとそっと覗き込んだり、ちょうど手を止めたところで見せてくれるのをまじまじと眺めたりして部屋の中をうろうろし始めた。一通り見回ると刹那はブルーシートの端に立ちハレルヤの作業を、那由多はかたかたと音を立てるフェルトとクリスの機械とヨハンとミハエルの機械を交互に興味深々で見ている。しばし見比べていた那由多が何か思いついたらしくニールとライルが座るソファへと振り返った。
「ところでロックオン。生徒会へ勧誘の為に呼び出されたのは分かったが…」
「うん?」
「みんなは何を作っているんだ?」
「あぁ、これはな、お前さんらの衣装だよ。」
「「衣装?」」
ぐるりと同じ表情で振り返る2人に笑いを漏らしながら説明を加えてくれる。
生徒会役員は全部で12人になるのだが、風紀が2人欠けていたので生徒会執行部のお披露目はしていないという。このお披露目というのは通常ならば春の部活勧誘会と一緒にやる役員からの抱負と挨拶を兼ねた顔見せのことだ。何せ、この生徒会役員は生徒の投票で決まるわけではない。だから一般生徒の前で自己紹介をしないと誰が会長で副会長かなど、役員を全く知らないことになる。これでは役員が不適切かどうか判断しようがない。それを考慮しての顔見せだ。
他のメンバーはすでに衣装は出来上がっており、残るは風紀の2人のみ。
「お披露目は今週末にある集会で。」
「その集会では球技大会に向けてテンション上げる為の決起会が本筋だけどな。」
「…そうか………刹那?」
「ん?…あ、あぁ、なんだ。」
続けられていた説明の半分あたりから刹那の様子が変わっていた。視線は一点に集中したままで声をかけても明らかに上の空だった。その視線の先を確かめようとニールとライルに那由多も近づいてくるとどうやらハレルヤの手元に集中しているらしい。彼女の手元は今、刳り貫かれた白いボードの端にボンドをつけて接着している。その形はまるでレンズのように湾曲を描き、大きさは椰子の実くらいだろうか。そしてテーブルの上には先ほど記しをつけた棒に同じ白いボードが片面だけ貼られている。ボードの形からするとナイフのようにも剣のようにも見えた。あまりに熱心に、それこそ穴が開くのではないかというほど見詰めている刹那にティエリアが顔を上げる。
「造形に興味あるのか?刹那。」
「あ…ぅ…」
「マジでか?せっかくならちょいとやってみる?なんだったら技術叩き込んでこのブースの担当増やすのもありだし。」
「あ、それいい考えだね。僕もずっと手伝えるわけじゃないし。」
「…いい…のか?」
「やってみたらいいと思いますよ?何事も経験してみないと。」
「そうそう。やってみたら意外に楽しかったー、なんてのも結構あるしな?」
もじもじとし始める刹那にヨハンとミハエルが後押しの声をかける。というのも、この2人は初めこの作業に関われるわけがないと思っていたのだが、パターンを考えるのもミシンを走らせるのも、やってみれば楽しいんだということを思い知らされたのだ。その実体験もあって言葉には重みがある。
2人の言葉にちょこんと小さく頷くとティエリアとネーナがブルーシートから出て場所を刹那に譲ってくれる。アレルヤとハレルヤの間にちょこっと座りまずは手始めにと簡単なものから取り掛かっていった。机に齧りついて説明に熱中してしまった刹那をニールが様子見とばかりに覗き込んでいる。そこでふと那由多が横にいないことに気付いたライルはぐるりと部屋を見渡すとなんてことはない、すぐ後ろにいる。じぃっと興味深そうにフェルトの手元を見ている那由多。その真剣な表情にライルは首を傾げてそっと傍による。
「…興味あんの?」
「初めて見る…面白そうだ…」
「…やってみる?那由多」
そんな那由多の様子にフェルトが動かしていたミシンを止めて振り向いた。するとわかりにくい変化ではあるが、その瞳がきらきらと輝き始める。刹那と那由多の出身は良く知らないが中東の出だろうことは安易に予想がつく。そしてその辺りの近年の情勢を考えるとこんな作業をする時間などあるわけもなく…きっと逃げ回るので精一杯な日が続いたに違いない。
そんな想像をおくびにも出さずにフェルトが席を那由多に譲るとティエリアも近づいてきた。
「…那由多にミシンをさせるのか?」
「大丈夫。今裾の始末だから普通の直線縫いだけだし。」
「…そうか…なら問題はないな。」
那由多にミシンの使い方を軽く説明してどう縫えばいいかを教えると黙々と言われたとおりに実行する。軽くフットコントローラーを踏み込み動きを確認すると那由多の手が布地を持ち直した。緊張しているのか?と思えば次の瞬間ミシンがものすごい速さで動き出す。
「え!?」
「ちょッちょちょちょ!」
「止まれッ止まれ!那由多!」
「?どうかしたのか?」
急に慌て出した三人にきょとりとした表情で那由多が振り返る。両肩をがっしりと掴んだライルががくりと項垂れている。ティエリアとフェルトはというと一瞬の内に50cmは進んだであろう縫い目を慌てて確認しにかかった。と、今度は2人が呆気に取られた表情になる。それを訝しげに思ったライルが手元を覗くと縫い目は全くの狂いもなく真っ直ぐに走っていた。覗き込んだライルもぽかんとしていると首を傾げた那由多がポツリと呟いた。
「…車とあまり変わらないように思えて…」
「「「車!?」」」
「……えと…」
さらに驚いた顔をされて困り果てた那由多がちらりと刹那に視線を投げる。と、そちらでも高速なミシンの音に驚いたらしいニールとハプティズム姉妹がぽかんと見上げてきているが、刹那はいたって普通だ。むしろ何か驚くことでもあるのか?と首を傾げてすらいる。
「俺達の育ったところでは10歳になればバイクと車の運転を親から教わるんだが…」
「何か…おかしいのか?」
更に開いた口が塞がらなくなった面々にセイエイ姉妹は首を傾げるばかりだ。けれどいち早く復活したティエリアがずり落ちたメガネを押し上げつつ小さなため息をついた。
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