「おっし、これで終わりだ」
「はい」
過去の思い出に浸りながらも課せられたノルマを口にしていた。ようやく空になった皿をテーブルに戻しながらの言葉にやっとか、と思う。
あのあと、わかる範囲での自分の出生を彼に話したところ、自分ですら気付かなかったスタンドについての基礎知識と扱い方、固有能力の使い方といったスタンド保持者として必要な事を教えてくれた。傍について混乱しそうになるジョルノを無言でありながらも支え、普通の人と違い、夜目が利くことや聴覚が長けている事を知り、クリスタルによる精神への侵害を和らげる方法を共に考えてくれた。さらに天涯孤独になったジョルノにSPWへの入団を提案し、紹介状を用意してくれた上に後見人として取り次いでくれたのだ。
いたれりつくせりな対応に戸惑いはしたが生き抜く為に二つ返事で受け入れた。入団してからも彼について信じられない事実を色々と耳にしたが、今となってはそれも懐かしい思い出だ。
JOJOとはそれ以降会う機会がなかったのだが、ひょんなことから再会し今に至る。そして相変わらずの気遣いと対応に未だ面映ゆい思いをさせられていた。
最後のカナッペもしっかり咀嚼して胃に収めると満面の笑みを浮かべるミスタが頭を撫でてくれる。
「よーし、いい子だな」
「なんですか、それ」
「JOJOがしそうだろ?」
「あー……そうですね」
実際されたし、とは口にしないでおいた。彼はなにげに人の頭を撫でるのが好きだ。それも年下に限られるが、彼なりの愛情表現、可愛がり方、といったところだろう。そろそろ大人に近づく年をした思春期の少年にはかなり恥ずかしいのだが、当人が止めそうにないので仕方がない。
「あ、こら」
上体をひねったミスタがワインのボトルに手を伸ばしたが、その手を掴み取ると深く抱き込んだ。小さくお咎めの言葉が口にされるが、先ほどのように嫌がる素振りはない。
「もうドルチェを頂いてもいいですか?」
「んー、まぁ、約束だからいいけどよ。大丈夫なのか?」
「どう思います?」
噛みごたえのある首筋に唇を沿わせながらしなやかな腰を引き寄せると己のそれを押し付ける。すると腕の中でぴくりと跳ねる体に小さく笑いを零した。
「あ〜、っと……まぁ、その……お手柔らかに」
「わかってます。今度はちゃんとJOJOを口説き落としますから、今日は僕の手で我慢してくださいね?」
「おぅ、楽しみにしてる」
鼻をすりあわせて笑いあうと互いの唇を重ね合わせた。
「……ったく、好き勝手言ってやがるな」
扉に凭れつつしばらく聞き耳を立てていたJOJOはため息を吐き出し背を浮かせた。意趣返しのつもりで謀りはしたが、二人を仲違いにするつもりはない。しかしそんな心配は無用のものだったようだ。うっかりこちらが当てられてしまいそうな雰囲気に、やれやれとこぼす。
「さて、俺も仕事に入るか」
ジョルノから押し付けられた犬の世話だ。正直言えば、気乗りしない……ことはない。なかなかに楽しめそうな気配がある。
すぐ隣の扉を開けると、そわそわと落ち着きなく歩き回っていた背中がびくっとその場で跳ねる。そのままぎしりと固まってしまったらしい様子に特に何も言わずソファへと座った。
「……え?」
そろり、と肩ごしに振り返った瞳がめいっぱいに見開かれる。そうして勢いよく振り返った顔をJOJOは肘掛に凭れながら眺めていた。
「えぇ!?」
「……なんだ?不満でもあんのか?」
「え!?いやっそのッ!」
自分がどういう状況に置かれているかは把握したが、まさか相手がJOJOだとは思わなかったようだ。顔を赤らめたり青ざめたりと随分忙しい。そんな仗助に帽子の下で唇がふわりと弧を描く。それはどこか悪戯っぽい雰囲気だった。
「てめぇの上司に感謝するんだな」
「へ?」
「いつもは初見相手なんざ断るところだが。あいつ直々の指名だから仕方なく、だ」
「そ、それじゃ……ホントに?」
「あぁ、今晩中はお前の相手をしてやる」
するりと組まれた足がコートの裾からその姿を現わす。明るい室内灯に照らされた太腿は舞台で見た時よりもうんと白く、滑らかに見えた。自然と心臓を打つ音が早まり喉が鳴る。
「ただし、だ」
「な、なんスか?」
「俺は弱ぇ野郎が嫌いなんだ」
「はぁ……」
「だから触りたけりゃそれなりの強さってもんを示してもらわねぇとな?」
さすが、ショーの間も一切指を触れさせなかっただけある。同衾に応じてもこの姿勢は崩さないようだ。それでもせっかく手に入れた千載一遇のチャンスだ。何もせずに帰るのも虚しいし、まかり間違っても弱いなんて思われたくもない。
何をさせられるのかとんと予想もつかないが挑戦してもいいだろうと腹を括った。
「なに……すればいいんスか?」
「簡単なことだ。俺を捕縛出来ればいい」
「え、と……」
「ただ俺も無抵抗というわけにはいかねぇ。付いてこい」
言葉の意味を測りかねていると、交渉は終了した、とばかりに立ち上がり、JOJOは続きの間があるらしい扉へと向かう。慌ててついて行くと扉の向こうは真っ暗だった。きょろりと見回してみるも窓一つないらしく、ただただ暗闇が広がっている。
しばらくすると、ぱっと灯りが灯った。するとそこはむき出しの石で作られたまるで牢屋のような部屋だった。何の調度品もなく、部屋を照らす為のライトが存在するのみ。ただしさきほどの部屋の6倍はありそうなほど広い。
「ここは?」
「どんな音や振動にもびくともしねぇ頑丈に作られた部屋だ。ここなら存分に暴れても心配はねぇ」
「暴れる?」
「さ、始めようか」
「へ?」
「力づくで俺を押さえ込んでみな」
ふわりとコートの裾を翻して振り向いた彼の淡い微笑みにどくりと心臓が高鳴った。
* * * * *
2時間後、床の上には大の字に伸びた仗助の姿があった。胸を忙しなく動かし荒い呼吸を繰り返している。そしてそのすぐ横に座り込んでいるのは、対照的にまったく呼吸を乱していないJOJOだ。
「余計な動きが多すぎだな。それじゃ体力が無駄に削られるだけだぜ」
「実感、した、ッス」
JOJOの挑発に乗ってすぐさま掴みかかったのだが、すんなりと避けられてしまった。めげるものか、と何度も突っ込んでみたのだが、すべてかわされてしまう。しかも彼は両手をポケットに入れたまま、その上靴が不安定そうな高いヒールのブーツを履いているのに、だ。
初めは丸腰の一般人相手ということもあってスタンドを使わなかったのだが、JOJOに挑発されて早々に発現させてしまった。先ほどまでよりも数倍はスピードが上がったというのにやはり捕える事が出来ず、振り回されっぱなしだ。
一度だけ、大きく飛び上がり着地の際、靴によって少々バランスを崩したJOJOの両肩を捕えることに成功した。のだが、その直後己を襲ったのは顎の下から喰らわされた強烈な頭突きだった。つまりこのくらいでは捕えられた事にはならないらしい。
スタンド使いでもない相手にこの様。落ち込まずにはいられない心境に追い打ちをかけるよう、未だ顎がじんじんと痛みを訴える。
「お前。どうしてSPWに入ったんだ?」
不意に掛けられた問いにきょとりと見上げる。するとそこには帽子の影になってはいるものの、真摯な表情があった。その表情に対して仗助はふ、と笑みを浮かべた。
「俺、『白銀の戦神』みたいになりたくて入団したんスよ」
「『白銀の戦神』?」
「そうっス!SPWの特殊部隊を作るきっかけになったすげぇ人っス!」
「知ってるのか?」
「もちろんっスよ!俺の憧れの人っスから!」
瞳をキラキラと輝かせ興奮気味な仗助に対してJOJOは少々困惑している。色々言いたいことはあるがどれを口にしたものか、と悩んでいるのだ。けれど表情にはあまり反映されず、彼が気づくこともなかった。
「お前……見た事あるのか?」
「はい!遠目にちらっとだけなんスけど」
「遠目?」
「その……俺の住んでた町が奴らの襲撃に遇いまして。そん時助けてくれたのが白銀の戦神『空条承太郎』さんっス!」
あまりの興奮に話が少々前後しつつではあるが、当時の事を話してくれる。
仗助が10歳の頃。彼が住んでいた町に複数のヴァンパイアがやってきた。手当たり次第に襲い掛かっては吸血と殺戮を愉しむ奴らによって町はあっという間に悲鳴と逃げ惑う人とで混乱に陥った。そこに現われたのが、当時風の噂で聞き及んでいたSPWに所属している通称『白銀の戦神』こと、空条承太郎。たった一人であるにも関わらず、次々にヴァンパイアを倒していき、一掃してしまうと遅れて到着した救護班に一命を取り止めた者の手当を指示し、間に合わなかった人々の弔いを行ったのだ。
垣間見えたのはSPW共通のコートを着た背中と軍帽だけだが、崇められるほどの鮮やかな戦い方と圧倒的な力に少年は心酔したらしい。
「でも……いないんスよね」
鼻息荒く語り尽くしたと思えばしょんぼりと声のテンションが下がってしまった。
そう、今のSPWに空条承太郎はいない。数年前に忽然と姿を消し、帰らぬ人となったのだ。崇められていた彼がいなくなったことでしばらく弱っていたSPWだったが、今は彼の名残のように特殊部隊を作り新しく体制を整えて往年の活躍を取り戻しつつある。そして彼の活躍を忘れられない人々により英雄扱いとなっているのが現状だった。
「残念だったな」
「え?」
「白銀の戦神に会えなくて」
「そうなんスよ!せっかく傍にいられて怪我してもすぐ治してあげれるってのにその当人がSPWにいないなんて!」
ちくしょー!と天井に向かって吠える様は本当に犬だな、と彼には気づかれないように笑いを零した。とりあえず叫んだ事で落ち着いたようだ、唇を尖らせたままではあるが。
「すげー若かったからまだまだ現役だと思ってたのに」
「奴にもそれなりの事情があるんだろうよ」
「そりゃあ、分かりますけど……」
ぐゆっ、と恨めしげに歪められる表情に苦笑が漏れる。ミスタもそうだが、表情の変化が豊富で見ていて飽きない部類の人間だ。慰めのつもりで頭を撫でようとしたが、びしっと決めてある髪型を崩すのは忍びないな、と手の行き先を頭の上から頬へと変更した。
「!」
頬をするりと指の背が撫でると見上げる位置にある顔がふわりとした笑みを浮かべる。さきほどまでの荒々しく鋭い雰囲気とは全く別の印象に仗助は息をのんだ。
「じゃ、夜明けまでまだ時間もあるし、寝るか」
「え?」
ゆったりと立ち上がるJOJOに仗助も飛び起きる。するとその笑みが妖しげな空気を纏った。
「……え??」
ベッドのある部屋へと戻るとジャケットを脱がされた仗助は後ろ手に腕を縛り上げられてしまった。意外な展開に思わず声が上がる。
「あ?何を期待してたんだ?」
「え?なにって……」
「ノルマを達成してねぇんだ。お触り禁止に決まってんだろ?」
「……っスよね」
目の前でにっこりと笑うJOJOに肩を押されてベッドへと倒れ込んだ。結局千載一遇のチャンスは逃した、ということだろう。
「とはいえ」
「っ!」
「おしいとこまではいったからな。多少の褒美はくれてやるぜ?」
腕が下敷きにならないように横向きに転がると、明かりが絞られて薄暗くなった部屋の中でJOJOがコートを脱ぎ落した。さらに首輪、アームカバー、ブーツ、トップスと次々と脱いでいく光景に目を瞠る。きしっと小さく音を立ててベッドが揺れた。端にJOJOが座り、ストッキングの留め具を外しているのだ。音も立てず風に揺られながら脱がれたストッキングがブーツの上へと落ちていく。更に飾りの付いたパンツも足をするすると滑り落ちていった。
ふと振り返った顔は帽子の影になって表情がみえない。けれど視線はその顎の下に垣間見える白い肌と際どい位置まで見える腹部や寄せられた足へと吸い込まれる。覆いかぶさるように移動してきた彼を瞬きも出来ずに見上げていると、帽子を放り投げた手が上掛けを被せてきた。
「とっとと寝ろ」
「ね、寝れねーっスよ!!」
背中に回された腕に胸元へと引き寄せられてぶわぁっと熱を放つ頬に思わず叫んでしまう。
「なんだ、この褒美は不満か?」
「不満じゃねーけどっ充分すぎるっつーかっ与えられ過ぎっつーか!」
「くくっ……」
「なんスか!?」
「可愛いな、お前」
「う、嬉しくねぇっス!」
楽しそうな笑い声が目の前の震える白い胸から聞こえてくる。成人を目の前に控えた少年にとっては屈辱ではあるのだが、今笑っている彼の表情の方が気になってどうでもよく思えた。けれどいくら見上げたところで見えるのは鋭い顎のラインだけだ。
「おら、いつまでも興奮してねぇで深呼吸しろ。その内眠れるだろ」
「うぅ……」
ぽんぽんと背中を優しく叩く手が明らかに子供扱いをしてきている。それでも大人しく従ってしまうのは彼の腕の中に納まっているからだろうか?すぐ近くで聞こえる穏やかな呼吸と背を一定のリズムで叩く手にゆるゆると睡魔がもたげてくる。なんだかんだ言ってもやっぱり自分はまだ子供なんだな、と少し悔しく思いながら大きく腕を広げる眠りの世界に意識を委ねていった。
「あの……JOJO、さん?」
「なんだ?」
「また、手合わせ、してくれます?」
「……そうだな、日中は無理だろうが夜ならなんとかなるだろう」
「へへ、ありがとうございます」
半分微睡みに捕まった声はふわふわとどこか覚束無い音を持っている。それも聞きたい事を聞けた途端に穏やかな寝息へと変わっていった。
「……」
しばらく動かなかったJOJOは繰り返される寝息に肘をついて顔を覗き込んだ。くるくると変化を見せた表情は眠ってしまうとぐっと幼さが引き立つ。
その寝顔を見ながらジョルノの言っていた言葉を思い出した。
『純粋過ぎるが故に幼い』
それは先ほどの無理矢理持ち込んだ手合わせでも顕著だった。壁や床を抉るほどの強烈な破壊力を有していながら、その腕がめり込んだ場所から離れると途端に出来上がった破壊痕が跡形もなく消えてしまう。救護班にいたというだけあって、治癒・修復能力が高いのが分かった。しかしあれは無意識のうちに発動させてしまっているようだ。
手合わせでならばいいが、対峙する相手がヴァンパイアとなると話が変わってくる。むしろ致命的だ。
スタンドの固有能力は保持者の内面を表す。例えば、大切な人を守る為に強力な力を持ちたいとか、自らの手で生命を生み出したいとか、狙った獲物を確実に仕留めたいとか。
仗助の場合は守りたい為の強力な力と誰も傷つけたくない優しさが混ざり合っている。その為に壊したものもすぐに直してしまうのだろう。対象が敵であろうが物であろうが関係ない。すべてを救いすべてを守りたい。
「純粋ってんじゃなくて優しすぎるんだな」
ふ、と苦笑が浮かんでくる。さて、この少年を上司が求めるようなスタンド使いにするにはどうすればいいものか。
自分よりも高い体温を持つ少年を腕に抱えながらJOJOは空が白み始めるまで考え続けた。
* * * * *
「くぁ……」
「大きな欠伸ですね?」
「あ、すんませんっ」
毎朝行われる朝議が済み、各々の所属部署が所有する部屋へと向かう途中、仗助は大あくびを漏らしていた。その姿をタイミングよく上司であるジョルノに見られてしまう。慌てて佇まいを正しつつ振り向いたが彼はニコニコとした笑顔を浮かべていた。怒られたわけではないのか、とほっとする。
今朝、目が覚めると広いベッドの上で一人きりだった。縛られたはずの腕は解放されており、まるで夢でも見ていたかのような心地になる。早朝の淡い光が差し込む部屋の中を寝起きのぼんやりした頭で見回した。するとソファにかけられた孔雀刺繍のロングコートを見つけて思わず赤面してしまう。
それは今も引きずっており思わず口元を手で覆って顔を隠した仗助にジョルノは小さく首を傾げた。
「昨夜はそんなに激しかったんですか?」
「激しかったっつーか、完全に遊ばれたっつーか」
予想していた答えとは違ったらしく更に首をひねられたので、昨夜別れてから後の出来事をありのまま報告した。何せあの状況を作り出したのは目の前にいる上司であって、代金も彼持ちだったのだ。報告する義務があると思われる。順を追って話していき、手合わせの内容を話し始めるとジョルノはやけに食いついてきた。結果は分かっているだろうに。けれど詳しく、と乞われて渋々ながらも格好悪くて話したくなかった部分まで口にした。
「あの人、頭突きかましてきたんスよ」
「は?」
「頭突きっス。両手で捕まえて押さえ込めたって思ったら、こう、顎の下からガツンって」
肩を押さえつけられておきながら何故失敗に終わったのか。その最たる原因を話したところでジョルノが固まった。その表情は常に笑顔を浮かべたポーカーフェイスの彼には珍しく、ぽかんとしている。どうかしたのか、と様子を伺っているとその顔が何かを耐えるように崩れ、肩が震えてきた。
「ボス?」
「……〜〜っぷっ」
「え?」
「ちょ、す、すいません。でも、ず、頭突きって」
「ホントっスよ!あんな綺麗な顔してやることえげつねぇったらないっス!もぉ、なんなんスか、あの人!」
あまりにツボへ入ったのかジョルノが本格的に笑いだした。彼の元に来てからさほど時は経っていないが、こんな彼は初めて見る。
それでもずっと笑い続けられるのも癪に障るので半眼になった瞳でじとりと睨みつけた。
「いつまで笑うんスか」
「あぁ、すいません。あまりに意外な展開だったのでつい」
「ったく……」
謝ってはくれているのだが、あまり申し訳なさそうには聞こえない。むっとした顔で見つめ続ければようやく笑いを収めてくれた。執務室に入りデスクに着くとお詫びに種明かしを、と話し始める。
「ふふ……彼はね、僕の恩師なんですよ」
「は?恩師?」
「スタンド技術の恩師です。見せて貰わなかったですか?」
「え?何をっスか?」
「彼の力ですよ」
「あぁ、怪力な上に動きが早いっスよね」
「……」
やることなすこと型破りなことばかりだが、常人でありながらあの身のこなしや判断の速さと的確さには見習うべき点が多くあった。戦闘能力としても相反しやすい力と素早さがバランスよく取られていたように思う。しかもジョルノの恩師となれば尚の事納得がいく。常人離れしていて当たり前だ。
疑問がすっきりした、といった仗助に対してジョルノは怪訝そうな顔をしている。何かおかしな返答をしただろうか?と不安になっているとため息が吐き出された。
「え?なんスか?」
「彼も人が悪いですね。スタンド使いですよ、あの人」
「はぃ?!」
「スタンド技術の恩師って言ったでしょう?」
「い、言いましたけどもっ」
「しかし、今の話から推測するとスタンド能力を使ったのはほんの少しのようですね」
「少し?あれで??」
「えぇ、スタンドの姿は見ていないでしょう?」
スタンドは皆一様に何かしらの姿を持っている。その姿は一般人には見えなくともスタンド使い同士では見る事が出来るので、手合わせする時も本体を攻撃するよりまずスタンドを打ちのめすことから考える。さら姿が見える時というのは保持者がその能力を使用する時であり、ちょっとした動作を同調させる程度では可視状態には至らないのだ。
ふと昨夜のJOJOを思い出すと、スタンドが見えていないにしては綺麗に避けていた、と思い当った。つまりあれは見えずに避けていたのではなく、見えていて避けていたのだ。
知らなかったとはいえ、憮然とした気分に陥ってしまう。
「今から行ってきますか?ピアスを返しに行きがてら」
「へ?ピアス?」
なんのことだ?と首を傾げると苦笑を浮かべたジョルノが壁掛けの鏡を指さす。それに倣いひょこっと覗きこむと、左右でピアスの色が違っていた。右は見慣れたアメジストのピアスだが、左側のピアスには見覚えがない。
「あれ??」
「JOJOのピアスですよ、それ。しかも彼のお気に入り」
「え!?」
慌ててもう一度鏡を覗き込む。鼻がつくくらい近寄って左耳を凝視すると、銀色だと思っていた石は薄っすらと青く染まっていた。よくよく見ていると線状の銀が六方へ走っている。
「スタープラチナ」
「へ?」
「彼のスタンドにちなんで作られたピアスです」
「め、めちゃくちゃ大事なもんじゃねぇっスか!」
「えぇ、そうですね。彼の耳から外されているところは初めて見ました」
「うわぁ……え、えと、じゃあ……」
「朝議がなければ今日は遠征帰りでもともと休日ですからね。抜けても問題ありませんよ」
「いってきまーすっ!」
「いってらっしゃい」
和やかな声を背に受けながら扉から駈け出して行った。
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