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『Wish You Were Here』 byRiko

 

第一章

 

昔々とある大陸のとある国に、一人の王がおりました。その王は若く、美しく才気に溢れ、万人の心を惹き付ける絶対的な力を持っていました。

決して大きくはないけれど豊かな国土、王家に厚い信頼を寄せる善良な民、忠実な臣下、心を許せる友、そして彼に想いを寄せる数々の女性───満たされるに充分な何もかもを持ちながら、それでも彼は先代の父王を亡くして以来、心の深い部分ではずっと「ひとり」でした。

何不自由ない全てに囲まれながら、その心は唯一つの「何か」を探し求めていました。

そしてある日───運命の女神の天秤は、突然彼に向かって傾き始めたのです。

 

 

その日王は、城から遥か北の森へと馬を走らせていた。欝蒼と木々の生い茂る深い森は、人間の介入を拒むような独特の空気があり、その奥深くには「人ならぬ者」が存在するという伝説もある。そんなわけで周囲に近寄る者もほとんどいないその森への遠乗りは、王にとって密かな息抜きの時間となっていた。

颯爽と風を切っていた王が、ふと馬の足を止めた。何かを確かめるようにぐるりと辺りを見回した涼しい目許が、訝しげに細められる。

(…声…?)

風に乗って聞こえてきた微かな声は、何処か儚げな旋律の唄を口ずさんでいた。その声に耳を傾けていた王の表情が、戸惑いと驚きの入り混じったようなものに変わる。暫し躊躇いをみせた王は、やがて意を決したように声の聞こえてくる方角へと再び馬を駆った。

(この唄声は……)

目に見えぬものに追い立てられているかのように、王は馬を飛ばす。暫くそのまま進むと緑深き木立ちが途切れ、少し開けた場所に出た。そこで彼は、到底信じ難い物をその目で見ることとなった。

「何だこれは…?」

首が反り返りそうなほど視線を上に向けたその瞳に映ったのは───彼の身の丈を十倍に伸ばしてもとても届かないであろう、圧倒的な高さでそびえ立つ塔だった。

「こんな物が…あったのか…?」

言うまでもなく彼はこの国の王で、この森は国の領土内である。だが彼は今日までこの塔の存在そのものを知らなかった。しかしそれ以前に、どう考えてもこれは有り得ないことなのだ。

いかに深い森とはいえ、木の大きさなど高が知れている。これほどの物が建っていれば、かなり離れた場所から見ても気付かないなどということがある筈がない。

更に近付き、手を伸ばす。しっかりした煉瓦造りの壁は幻などではない。

そして遥か上から聞こえてくる、この唄声も。

王は再び視線を上に戻し、その口を開いた。

「…おい、そこに誰かいるのか?」

王の呼びかけに、流れていた唄声が止まる。

「…だーれ…?」

暫しの沈黙の後に耳に届いたのは、まだ幼さを残すあどけない声。王は遥か頭上に見える小さな窓を振り仰いだ。

「俺が誰か確かめたいなら、まずてめぇの方から面見せろ。」

数瞬の間を置いて、窓からヒョコリと小さな頭が覗いた。もう一度「だーれ?」と呟いた人物から、王は目を離すことが出来なかった。

風にサラリと流れた大地色の髪。華奢な印象の細い腕。そして───これほど遠目でもはっきりとわかる、零れ落ちそうな、黄金色の瞳。

「俺は…三蔵。お前は…?」

王───三蔵は魂を抜かれたように空を仰いだまま、やっとそれだけを口にする。三蔵を見下ろす金の瞳が、ゆっくりと大きな瞬きをした。

「…『さんぞう』…?俺は、悟空。」

そう答えた口許が、ほのかな笑みをみせた。たったそれだけのことに、自分でも馬鹿馬鹿しいほどに動揺していることを押し隠し、三蔵は視線を塔そのものへと戻した。

「ところで…この塔の出入り口は何処だ?」

三蔵は煉瓦の壁に手を当てたまま、塔の周囲をグルリと廻った。扉らしきものは何処にもなく、隠し通路のような繋ぎ目のようなものも見当たらない。

「出入り口…?たぶんそんなもの無いと思うよ。今まで誰もここに来たことなんてないし、俺もずっとここから出たことないもん。」

あまりにさらりとした口調で告げられた事実に、三蔵の顔に今度ははっきりと驚愕の色が浮かんだ。

「『ずっと』って…どのくらいだ?」

僅かに震える声での呟きに、悟空は少し困ったような表情で微笑った。

「さぁ…よくわかんないや。ずいぶん前のことだから、忘れちゃった…」

その言葉に彼───悟空がその容貌ほど幼くはないことを、三蔵は確信する。語り継がれている伝説、森の外からは見えぬ塔───ならば今、相対しているこの存在こそが「人ならぬ者」なのか。だが、それでも。

「おい、そこには縄を作れるようなモンはあるか?」

「…?蔦や蔓草なんかならあるけど…」

突然の三蔵の問い掛けに、悟空は不可思議そうな表情で小首を傾げる。しかし三蔵は自分のペースで話を続けた。

「よし。お前、ソレで今日から縄を編め。編み方わかるか?」

「わかん…ない。やったこと、ないし…」

「大して難しいことじゃない。何本かを集めて、縒り合わせる…それを繰り返していけばいい。出来るか?」

躊躇いがちに答えた悟空に、再度三蔵が問い掛ける。小首を傾げたままだった悟空が、やがて小さく頷いた。

「よくわかんないけど…やってみる。」

話の内容を掴みかねながらも、三蔵の真剣な様子に何か感じるものがあったらしい。悟空の反応に、三蔵は自らも大きく頷いてみせた。

「そうか。じゃあ俺は帰る。必要な道具を揃えて、また明日来る。」

「…また、明日?」

驚きに満ちた大きな瞳が、真っ直ぐ三蔵に向けられる。三蔵は面映そうに目を細めた。

「あぁ…また明日、な。」

もう一度そう呟いた三蔵は軽快な動作で馬に飛び乗り、元来た道を戻っていった。馬を走らせ森を駆け抜けたところで、三蔵は背後を振り返った。

その瞳に映った景色の中に、やはりあの塔はない。有り得ない場所に暮らす、有り得ない存在。だが、それでも。

それでも自分は、あの存在に近付きたい。あの瞳を、あの笑顔を、この目で確かめたいのだ。

この胸を突き上げる衝動の正体が何なのか、三蔵自身にもわからない。だが彼にとっては間違いなく、生まれて初めてのことだった。

 

 

次の日。三蔵は様々な道具を馬に積み、塔を訪れた。

「悟空」

初めてその名を呼ぶ。少しの間を置いて、昨日と同じように顔を覗かせた悟空が「さんぞ?」と呼び返してきた。まだ幼さを残す少し舌足らずな声が、自分でも驚くほどのある種の甘さを、三蔵の胸にもたらした。

「あぁ…どうだ、縄は編めたか?」

「ん?うん、ちょっとしか出来なかったけど…こんな感じでいいのかな?」

悟空が小さな窓から下へと垂らすようにして見せた物は、まだ本当に僅かな長さしかなかったが、一応縄らしき形になっていた。

「初めてやったにしちゃ上出来だ…毎日少しずつでもいいから、そのまま続けろよ。」

そう答えながら三蔵はゴソゴソと持ってきた袋を探り、道具を取り出す。金属性の杭と槌を手に持った三蔵は、煉瓦造りの壁に手を当て、観察を始めた。

「三蔵…何してんの?」

昨日同様に不可思議そうな表情で悟空が尋ねる。手触りで壁の固さを確かめている三蔵は、視線を上げぬままそれに答えた。

「足場を作る為に、何処に杭を打てばいいか考えてんだよ。」

「足場を…作る?」

「しょうーがねぇだろうが。てめぇの面を間近で確かめる為には、こっちから登ってくしかねーだろ?」

一切の他者の侵入を拒むこの塔。ならば───それでも彼に近付きたいのなら、唯一つ外界へと開かれているあの小さな窓へと辿り着くより外ないのだ。

杭を打ち易そうな箇所をみつけた三蔵が槌を振り始める。黙々と作業を進める三蔵を、悟空はもの珍しげに眺めていた。

瞬く間に時は過ぎ、空に夕暮れが迫り始めた頃。三蔵は手を止め、軽い溜め息を一つついた。

「思ってたより進まねぇもんだな…まぁ、初日だしな。おい、今日はこれで帰る。また明日会うまでに、縄作り進めとけよ。」

視線を合わせた悟空は、やはり不思議そうな表情で。おそらくは、塔の外壁を登るという三蔵の言葉に、実感が伴わないのだろう。それでも小さく頷いた悟空に軽く手を上げ、三蔵は森を後にした。

 

次の日も、その次の日も三蔵はやって来た。悟空と二、三言葉を交わし、外壁の上へ上へと杭を打ちつける作業を進めていく。悟空も日を重ねていく毎にコツを掴んだようで、かなり長い縄を編めるようになっていた。三蔵が足場を作る間、悟空は唄を口ずさみながら縄を編む。不思議な安息の時間が、そこにはあった。

三蔵が悟空の元を訪れて七日目の帰りのこと。片付けた道具を馬に乗せていると、悟空が「三蔵」と声を掛けてきた。三蔵が軽く振り返る。

「…また明日…な?」

はにかみがちの笑顔で、ぽつりと呟かれた一言。悟空からは初めての、明日への「約束」。三蔵の紫の瞳が、彼を知る者が見れば驚かずにはいられないほど柔らかな光を帯びる。

「あぁ…また明日、な。」

 

 

しかし次の日、三蔵が悟空の元へ姿を現すことはなかった。

教養深く頭脳明晰な三蔵は、若い王にはありがちな「飾り物」などでは決してなく、国政のあらゆる事柄に辣腕をふるっていた。王宮で最も権威ある存在はまた、王宮で最も多忙な存在でもあった。その多忙な毎日の中、時間を割いて三蔵は塔に向かい平素はしない肉体労働をし、城へ戻ってからはその分の埋め合わせをする為に夜更けまで書面に向かっていた。

武道の嗜みもあり、そこらの兵士などよりよほど体力のある彼をもってしても、日々蓄積されていく疲労は限界を超えていたらしい。朝の謁見を終え椅子から立ち上がろうとした三蔵は、そのまま意識を手放し倒れてしまった。

かなりの高熱をだしていた彼は、荒い息を繰り返しながら、ひたすらに眠り続けた。

 

そして床に臥してから幾度めかの朝を迎え───三蔵はようやくはっきりと目を覚ました。

自分の今の状況を悟った三蔵が、ガバッと勢いよく身を起こす。

「気が付きましたか…?あーぁ、ダメですよ、そんな急いで起き上がっちゃ…貴方、三日間眠り続けてたんですよ?」

三蔵が起きたことに気付いた青年が、寝台の方を振り返った。彼は王宮付きの医師で、王とは旧知の間柄である。名を八戒という。

「三日…だと!?」

八戒の口から知らされた事実に、三蔵の端正な造りの顔が歪んだ。

 

『…また明日…な?』

 

脳裏に甦る、はにかんだ笑顔。七日が過ぎて、初めてその唇から紡がれた言葉。

何ということだ。どのくらいかも忘れてしまうほどの永い間、ずっと独りだったちっぽけな子供。その彼がやっと心を傾ける気になった、その時に。

次の瞬間、シーツを蹴飛ばす勢いで三蔵が起き上がった。そのまま扉へ向かおうとする三蔵を、八戒が押し止めた。

「待ちなさい!貴方、自分の身体の状態がわかっているんですか?貴方が公務の合間を縫って、毎日何処かへ出かけていたのは知っています…ですがその無理がたたって、こんなことになったんですよ!?」

三蔵が八戒の方へと顔を向ける。その瞳に浮かんでいたのは、他の者なら震え上がってしまうほどの、圧倒的な怒りだった。

「ゴチャゴチャうるせーよっ、これ以上邪魔すんなら、テメェをはっ倒してでも出てくぞ!!」

その激しさに、八戒は思わず息を呑んだ。三蔵は元来厳しい人間だが、それほど感情の起伏が激しい方ではない。こんな風に他人に激情をぶつける彼を見るのは、非常に稀なことだった。一体何が、これほど彼の感情を揺り動かしているというのか。

八戒は大きく息をつき、「降参」の形で両手を挙げてみせた。

「看病した上に、はっ倒されるなんてゴメンです…その代わり、条件を一つ。今日は用事を終えたら、すぐに帰ってくること…いいですね?」

「…わかった。」

軽く頷いてみせた三蔵は、駆け足で寝室を飛び出していった。

 

 

三蔵が塔の下に辿り着くと、聞き慣れた微かな唄声が耳に届いた。

「悟空」

三蔵の呼び声に、唄がフッと途切れる。少し置いて、「…三蔵?」と確かめるような悟空の声が返ってきた。

「そうだ…わかってんなら、面見せろ。」

また少し置いて、おずおずと悟空が顔を覗かせた。そしていつもどおりに編み上げた縄を垂らして三蔵に見せる。

「ずいぶん進んだな。これなら…」

あともう少し伸ばせれば、三蔵が作った足場の位置くらいまで届く。そんなことを考えていると、悟空は何処かもの淋しげな薄い笑みを浮かべていた。

「…ずっと、編んでたから…でももう来ないかもって思って、明日はやめようかなって…思ってた…」

「やめるなよ」

たどたどしく言葉を繋ぐ悟空に、三蔵はきっぱりとした口調で言い切った。

「また明日も来る。だから、やめるな。」

一切言い訳はしない。どんな理由があろうと、三蔵が三日間此処に来なかったという事実に変わりはないのだから。その代わりに、自分の意志が変わっていないことだけを伝える。真っ直ぐに、相手の目を見据えて。三蔵の顔を覗き込むように、悟空がいつもより深く身を乗り出した。

「三蔵…?」

「何だよ」

「…無理、しないで。」

虚を突かれたように、三蔵がその瞳を見開く。相対する悟空の表情は、ひどく穏やかだった。

この三日間、儚げな声で唄を口ずさみながら、訪れない三蔵を待っていたに違いないのに。その唇から零れたのは怒りでも嘆きでもなく、「無理しないで」という一言。そしてこんな時の彼は、その幼い横顔に不似合いな、遠い瞳をしているのだ。

三蔵は歯痒そうに唇を噛み締めた。

「無理なんかしてねーよ、バカ…お前がもう一日気合い入れてくれたら…明日はソコに、辿り着ける。」

今度は悟空が驚きに目を見開く番だった。零れ落ちそうな金の瞳が、三蔵に向けられた。

「ホント…?」

「あぁ…だからもう一日、頑張って編めよ。今日はこれだけ伝えに来た…また明日な。」

三蔵が再度「また明日」と告げる。風の流れる音に紛れてしまいそうなほど小さな声で、悟空は一言「わかった」と呟いた。

 

 

そしてまた次の日。三日間滞っていた公務を気力で終わらせた三蔵は、自らの逸る想いのままに森へと馬を走らせた。

「悟空っ」

馬から飛び下り、塔へと駆け寄る。こちらも待ち兼ねていたように、悟空はすぐに顔を見せ、昨日より更に長くなった縄を窓から垂らした。

「ずいぶん頑張ったな…よし、そっちの端を何処かしっかり結び付けられる所へ結べ。」

三蔵の指示を聞き、悟空がヒョイと顔を引っ込めた。三蔵はそのまま、窓から下がった縄が内側へと引かれていく様を眺めていた。ゆらゆらと左右に揺らいでいた縄の動きが止まった頃、再び悟空が顔を覗かせ準備の完了を告げた。

それを合図に三蔵は自らが打ち込んだ杭に足を掛け、塔の外壁を登り始めた。

丁度足場にしていた杭が終わった位置に合わせるように、悟空が編んだ縄が下がっている。二、三度強く引き、緩みがないことを確かめた三蔵は、そこからは縄を使って悟空の待つ窓を目指す。話しかけると気を散らせてしまうと思っているのか、三蔵が外壁を登り始めてから悟空は一言も口を開かない。只じっと、少しずつ近付いてくる三蔵の姿を見守っていた。

三蔵の足が地を離れてから半時ほどが過ぎ───ようやく三蔵の手が窓枠に掛かった。そのまま勢いをつけ、窓枠を飛び越えるようにして、ついに三蔵は塔の中へと辿り着いた。

次の刹那、塔の内部をその瞳に映した三蔵は、思わず言葉を失った。

「───…っ」

閉じられた筈の塔の中には、「森」があった。鳥が鳴き、蝶が飛び、水が流れ、視線を上げればそこには青空すら見える。三蔵が伝ってきた縄は、一番手近な木に括りつけられていた。三蔵がその視線を、すぐ横で自分を見上げている悟空へと移す。

誰をも寄せ付けぬよう閉じられた内部の、開かれた世界。無理やり閉じ込めているのだと思い込んでいたこの塔は、いとけない彼を人の世界から護る為の物だったのだろうか───。

三蔵が手を伸ばし、悟空の頬にそっと触れる。悟空は驚いたように、大きな瞬きを一つした。

「間近で見ると…こういう色だったんだな。やっと、確かめられた…」

静かな声でそう呟いた三蔵は、湧き上がる感情を抑えきれないように、その目許に唇を押しあてた。くすぐったそうに肩をすくめた悟空が、自らも三蔵へと腕を伸ばす。

「俺も…やっとわかったよ、三蔵の瞳の色。髪の色はさ、下にいた時からキラキラしててキレイだなぁって思ってたけど…瞳の色も、キレイだったんだな。夕暮れの、空の色だ…」

柔らかく微笑んだ悟空は、少し背伸びをして、同じように彼の目許にそっと口付けを落とした。その時、言い知れぬ甘い感覚が三蔵の身体を駆け巡った。未だかつてどんな女性と触れ合っても、これほどの甘さを感じたことはない。

「…おい、特に持っていきたいモンはあるか?」

「?モノなんて、別にないけど…」

突然の問い掛けに、悟空は小首を傾げて三蔵の顔を覗き込む。

「そうか、じゃあ行くぞ。陽が落ちきらないうちに、森を抜けねぇとな。」

「行くって…何処へ?」

三蔵が悟空の目の前に、手を差し出した。

 

「───この窓の、向こう側へだ───」

 

悟空の金の瞳が、零れ落ちそうなくらい大きく見開かれる。

「…イヤか?」

「イヤじゃない…けど…」

「怖いか…?」

「ちょっと怖い…かも…」

「俺と二人でも?」

幾分か俯きがちだった悟空が、弾かれたように顔を上げる。そこには一切の迷いのない瞳で、真っ直ぐに自分をみつめる三蔵がいて。

悟空は気持ちを落ち着かせるように深呼吸を一つして、晴れやかに笑った。

「三蔵と二人なら、怖くない。」

三蔵の手の上に、小さな悟空の手が重ねられた。確かめるように、互いに互いの手を握りしめる。

 

この塔の目的が封印の為であっても、護りの為であっても───どちらにしても彼を外へ連れ出すことは、過ちなのかもしれない。

もし、そうなのだとしても。

それでも自分は、他の誰でもない、この存在が「欲しい」のだ。

 

三蔵が悟空の身体を抱き寄せ、窓枠に手を掛ける。

 

 

かくして。

巡り合った二つの運命の輪は、重なり合い、廻り始めたのであった───。

 

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