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もはや知る者も無い遥か古の時 人は『神』から『火』を盗んだ それは最初の『罪』 そして、最初の『裏切り』───── 『神の火』 by Riko 焔は今日も花園へと足を向けていた。共に花を愛でた女性は、もはや此処には いない。それでも焔は日々通い続けた。あの場所以外に二人の想い出を辿るこ との出来る場所は、他になかった。 人の想いとは関わりなく、花々は鮮やかに咲き誇り続けている。この天界には、 地上のような季節の流れは存在しない。何処まで行っても何一つ変わらない、 魂さえ腐蝕されそうな『永えの春』があるだけだ。 焔がふと、その足を止める。自分以外に訪れる者などないであろうはずのその 場所に、小さな背中が揺れ動いているのが見えた。焔の気配を察したのか、小 さな背中の主はゆっくりとこちらを振り返る。 「あ…また会ったね。」 零れ落ちそうに開かれた眩い金の瞳が、弾けるように笑った。 色とりどりの花の中で、悟空はチョコンと腰を下ろしていた。その手の中には、 まだ編みかけの花の輪が一つ。 「…なかなか上手いものだな。」 お世辞にも格好がいいとは言い難い代物にそれでもそんな言葉をかけながら、 焔は悟空の傍らに腰を下ろす。悟空はパッと顔を輝かせて焔を見上げた。 「ホント?へへ…友達がさ、具合悪いっていうからお見舞いに持っていこうと 思ってさ。」 不器用な手つきで、けれども懸命に花を編む悟空を、焔はぼんやりと眺める。 ふと前髪をかき上げた焔の腕の鎖が、シャラリ…と音を立てる。その音に、悟 空が再び目線を上げた。 「アレ…?この間はちゃんと見なかったからわかんなかったけど、右眼の色… 俺と、同じ?その枷も?じゃああんたも『ホゴ』されてここにいるの?」 「…お前はそう言われて此処に連れて来られたのか?」 焔は悟空の両手両足に嵌められた枷に視線を向ける。こんな年端もいかぬ子供 に、このような真似をしておきながら『保護』だとは笑わせる。如何にもこの 天界らしい腐臭の漂いそうな綺麗事だと、焔は皮肉げに嘲笑った。 「うん。俺は『イタン』で、金色の眼は不吉だから『ホゴ』しとかなきゃいけ ないんだって。でさ、金蝉のトコに預けられたんだ。」 おそらく目の前の子供は自分が話していることの意味を、半分も理解してはい ないだろう。たどたどしい口調でなされた説明は、他の誰かが語っていたこと を丸写ししたものに相違ない。だが次の瞬間、その表情は満面の笑みに変わっ た。 「でもさ、俺の友達は『スゲェ』って言ってくれたんだ!『世界にお前の変わ りはいないってことだ』って。俺その時さ…何か、すっげぇ嬉しかった…」 面映そうに笑う悟空の姿をその瞳に映しながら、焔の脳裏には別の人物の面影 が浮かんでいた。 かつてこの傍らにいた、唯一人の女性が。 『私、焔の瞳の色がとても好き。左は深い空の色。右は瞬く星の色。この世界 でたった一人焔だけの、キレイな瞳の色だわ。』 見る者誰もが『災いの印』だと蔑んだこの瞳を「愛おしい」と微笑った彼女。 今となっては十億光年彼方の星よりも遠い遠い、泡沫の夢のようだった。 何かに引っ張られるような感触に、焔は現実へと引き戻された。ふと視線を下 げると、悟空が着物の裾をギュッと握っていた。 「俺…いけないコト言った?何だか…スゲェつらそうな顔してるから…」 零れ落ちそうな金の瞳が、心配そうに焔を真正面から覗き込む。他人からこの ような感情をほとんど向けられたことのない焔はひどく戸惑い、上手く言葉を 返せなかった。 ペタリと座り込んでいた悟空が、腰を上げて膝立ちの姿勢になる。戸惑う焔を 見上げたまま、その小さな手を精一杯伸ばし、悟空は焔の黒髪をポンポン…と 軽く撫でた。全く心の準備のなかった焔は、驚きに目を見開く。そんな焔に、 悟空は少し気恥ずかしげに笑ってみせた。 「俺が元気ない時さ…金蝉がこうやってくれると、あったかくなって嬉しくな るんだ…イヤだった?」 真っ直ぐに自分へと向けられた、温度を感じる眼差し。焔は口許に自然に笑み が浮かんでくるのを自覚した。自らへの嘲りや、もう戻らない過去を懐かしむ こと以外で笑ったことなど、とても久しぶりの気がする。焔はゆっくりと首を 振り、自身がされているのと同じように、悟空の大地色の髪をそっと撫でた。 その柔らかな感触に、悟空は心地良さそうに目を細めた。 「悟空、と言ったな…『空を悟る者』…か。」 「うんっ、金蝉がつけてくれたんだ。」 誇らしげに語るその瞳の色は、何処までも澄んで明るい。焔は今度は自分から その瞳を真っ直ぐに見据え、静かに笑った。 「俺の名は、焔。『火の群れ』という意味だ。」 「『ほむら』…か。キレイな名前だな…うん、覚えた。」 焔と真っ直ぐ視線を合わせたまま、悟空は大きく頷いた。 それから悟空は再び花を編むことに没頭し始めた。焔は傍らでその様子を眺め ている。特別何かをしているというわけでもないのに心が満たされている時間 が、そこには確かに存在した。 「よーし、出来た!アイツ、喜んでくれるかなぁ?」 半時程が過ぎた頃、悟空が編み続けた花は、ようやく一つの輪になった。悟空 はそれを天に掲げながら、勢いよく立ち上がった。 「じゃあ俺、行くね。焔…また遊んでくれる?」 「…俺に会いたくなったら、いつでもここに来るといい。」 「うん!焔、またな!」 満足げに頷いた悟空は踵を返して足早に花園を去って行った。次第に遠ざかる 小さな後ろ姿を、焔はいつまでも飽きることなく見送った。 それ以来悟空は、足繁くその花園へと通うようになった。会ったからといって、 二人は特別何かをするわけではない。大体は日頃起こったたわいない出来事を 悟空が語って聞かせ、焔は静かに笑んで相槌を打つ。そんな事の繰り返しだっ たが、焔の周りの穏やかな空気が、悟空は好きだった。 ある日。二人は珍しく観世音菩薩の城の庭園を歩いていた。この頃帰りが遅い ことを金蝉に窘められたと語る悟空に、それならば今度は自分が悟空の元を訪 れようと焔が提案した為だった。こちらも鮮やかに咲く花々は決してあの花々 に見劣りすることはなく、その中を二人はそぞろ歩いていた。 和やかな時間が流れる中、不意に焔が話の口火を切った。 「悟空…お前はこの世界を、どう思う?」 今まで見たこともないほどに真剣な目をして尋ねてくる焔を、悟空は不可思議 そうな表情で見上げた。 「この世界って…この天界のこと?それとも、下の世界も全部ってこと?」 「どちらでも。お前の思ったとおりに答えてくれたらいい。」 悟空の素朴な問い掛けに答える焔の声は、いつもと変わりなく穏やかで。でも やはりその表情はこの上なく真剣で。悟空は暫し沈黙し、やがて小さな頭で懸 命に考えたことを、ぽつぽつと話し始めた。 「…場所としてどっちが好きかって言ったらさ…俺、下の方が好きだと思う。 空も緑もキレイだったし、水も風も気持ちよくて、会った人もみんな優しかっ たし…ここはさ、ずっとあったかくて花もいっぱい咲いてるけど…何かみんな つまんなそうで、何処か嘘っぽい感じがする…でもさ、ここに来たから金蝉に 逢えたんだし、天ちゃんやケン兄ちゃん、ナタクや焔とも友達になれたしさ… だから俺…ここも好きだよ。焔は…?焔はここが嫌いなの?」 不安げな色を湛えた瞳が、一心に焔を見上げてくる。焔は口許に微かな笑みを 刻み、悟空の頭に優しく手を置いた。 「…此処には俺のいるべき場所は、ない。俺はいつの日か、今ある天地をひっ くり返してでも『俺の場所』を手に入れる…悟空、もし時が満ちたら…その時 は、俺の『共犯者』になってくれるか?」 「『きょーはんしゃ』って、なぁに?」 「同じ『秘密』を分かち合う『仲間』のことだ。」 「仲間…?いいよ。わざわざそんなこと訊かなくても、俺と焔は友達だろ。」 当たり前のことのように答える悟空の様子笑みを深くした焔は、悟空の頭に置 いていた手を離した。 「そうか…では、誓いを立てよう。」 「誓いって…あ、約束のことだよな?ハイ。」 今度は焔が口にした少し大人びた言葉の意味を理解できた悟空は、得意げな笑 みで右手の小指を差し出した。焔はその小さな手を包み込むように握り、軽く かぶりを振った。 「そうじゃない…指切りなんて頼りのないものじゃなく、俺達は『俺達だけが 持つ絶対のもの』に誓うんだ。この世界中で俺とお前だけが持つ、この『印』 に……」 静かな声でそう言い終えた焔は、悟空の両肩に手を置いて身を屈め、両の瞼に 口づけを落とした。くすぐったそうに笑って肩を竦めた悟空は少し背伸びをし、 焔の仕草を真似て右の瞼にそっと口づけた。互いの金の瞳に、互いの姿が映り 合う。二人は暫し顔を見合わせ、それからクスリと笑った。 「悟空───!!何処へ行った!?」 静寂を破って聞こえてきた、悟空を探す金蝉の声。焔は苦笑いを浮かべ、屈め ていた身を起こした。 「迎えが来たようだな…行くがいい。」 「うん、またな焔。」 「あぁ…また、な。」 小さく手を振った悟空は、金蝉の声のする方へと駆けていった。程なくして、 眩い金の髪の持ち主が現れ、不機嫌そうな表情で悟空の頭を軽く小突く。突然 降ってきた拳骨に不満をこぼしながらも、悟空は嬉しげに金蝉の腰に抱きつく。 その小さな身体を受け止めながら、金蝉はたった今気付いたという様子で焔の 方を振り返った。 深い紫の瞳と、左右の色の異なる瞳が絡み合う。金蝉は平素悟空に接する表情 からは想像が出来ないほどの剣呑とした眼差しを焔に向けた。そんな金蝉のあ まりに素直な反応に、焔はさもおかしそうに口許だけで軽く笑ってみせてから、 音もなく庭園を後にした。 「金蝉…?」 話し掛けても一向に反応のない金蝉を、悟空は訝しげな表情で見上げている。 我に返った金蝉は、悟空を真っ直ぐに見下ろして口を開いた。 「…奴と何を話した…?」 「へ?何をって…」 「同じ秘密を分かち合う『仲間』のことだ」 「うーん」と考えるような仕草をした悟空の脳裏にふと、先刻の焔の言葉が甦 る。悟空は過剰なほどに大きく首を横に振った。 「別に、一緒に散歩しただけ…そんだけだよっ」 (誓ったんだから、守んなきゃな…『秘密』だもんな…) 上手く黙りとおすことが出来たと悟空は安堵の溜め息をついたが、無論金蝉が そんな返答で納得するはずもなく、焔への不信感を更に募らせるだけだった。 明くる日のこと。焔は自分が歩いている回廊の先に佇む人影を認めた。この回 廊とその人物が住まう館とは全く正反対の方角にある為、わざわざ自分が通り かかるのを待っていたのだということは明らかだった。徐々に二人の距離は縮 まっていく。長い金色の髪、深い紫の瞳と目にも眩しい白の装束───目の前 に立ちはだかった人物は、金蝉童子その人だった。 「これはこれは…金蝉童子御自ら、このような処まで如何なる御用向きで?」 空々しい焔の言葉に、金蝉の形の良い眉がピクリと上がる。対する焔は金蝉の 反応を気にした様子もなく、悠然と微笑んでいた。 「…知恵の浅いサルに、余計なことを吹き込むな。」 「あいつは何と言っている?」 「『一緒に散歩をしただけ』だと」 「ならば、その言葉のとおりだろう。」 さらりと言ってのけた焔が、軽く肩を竦めてみせる。その態度に、金蝉の苛立 ちは更に増した。 「二度とあいつに近付くな───。」 「そんなに険しい表情をするなよ、愛し子が怯えるぞ。心配するな、何もあり はしない…少なくとも『今は』な…。」 焔の思わせぶりな言葉に、金蝉の涼しい瞳が見開かれる。焔は薄く笑んだまま、 スルリと金蝉の横を擦り抜けて去って行った。しん…と静まった回廊には、茫 然と立ち尽くす金蝉だけが残された。 「金ゼーーンッ、俺、外に遊びに行ってくるなっ」 その日の午後。悟空はいつもどおり執務室で仕事中の金蝉に声をかけて、その まま出て行こうとした。平素なら机から顔を上げようともしない金蝉が珍しく 「悟空」と呼びかけ、中に入るよう促した。 「何…?金蝉、何か用?」 不思議そうな表情を浮かべながら、悟空がトコトコと金蝉の元に寄る。金蝉は 椅子ごと悟空の方へと向き直り、真っ直ぐに金の瞳を見据えた。 「悟空…俺は今までお前が何処に行こうと誰と会おうと、一切どうこう言った ことはない…だが、あいつは駄目だ。二度と会いに行くな。」 「あいつって…焔のこと?何で?何で急にそんなこと言うの?」 日頃から金蝉はよく悟空を叱りつけたし容赦なく叩いたが、こんな風に悟空の 言い分を聞くこともなく一方的に自分の考えを押し付けるようなことは、今ま で一度としてなかった。どうして突然このような理不尽なことを金蝉が言い出 したのか、悟空には理解出来ない。 「…少し情をかけられて『いい奴だ』程度にしかお前は思っていないだろうが …あいつはお前が考えている以上に危うい存在だ。これ以上お前が無防備に近 付くのは、危険過ぎる。」 実を言えば金蝉自身も、焔の正体を詳しくは知らない。天帝の一族に連なる者 だとの噂もあるが、彼は存在そのものが話題に触れることすら禁忌とされてい た。そんな焔と『異端』と称されている悟空が必要以上に近付くことが、良い 結果を生むはずがない。 「何だよそれ!?焔の眼が片っぽ金色だから?両手に枷を嵌められてるから? だから他の奴らが俺を差別するみたいに、金蝉も焔を差別すんの!?焔はいい 奴だもん、金蝉が忙しくてあんまり顔も見らんなかった時も、俺の話いっぱい 聞いてくれて、いっぱい笑ってくれたんだからっ!!」 悟空は胸に湧き上がった激情を、ありのまま金蝉にぶつける。金蝉がその胸に 抱える『大人の事情』など知る由もない悟空には、金蝉が焔を差別して嫌って いるという風にしか映らない。金蝉は心底困った表情で、深い溜め息をついた。 「…悟空」 静かにその名を呼び、手を差し伸べる。不満だらけの表情で、それでも近付い てきた悟空を、金蝉はそのまま膝の上へ抱き上げた。 「金蝉…?」 その小さな身体を、金蝉はすっぽりと胸に収めてしまう。身体中で感じる金蝉 の温もりの心地よさに、悟空は先刻までの憤りを忘れたかのようにその身を委 ねる。金蝉の手が、悟空の背中を宥めるように繰り返し撫でる。悟空の身体か らすっかり力が抜けた頃、金蝉は悟空の顎に指をかけた。 「ん……」 額に、瞼に、頬に、ついばむような口づけを次々と落としていく。最後に小さ な唇に軽く触れて、唇は離れていった。ゆるゆると瞼を開いた悟空は、淡い潤 みを帯びた瞳で金蝉を見上げた。 「…話を聞いてほしいなら、出来る限り俺が聞いてやる。遊び相手なら、天蓬 達もいるだろう…その代わり、あいつに会うのはもう駄目だ。わかったな。」 大地色の髪を優しく梳きながら、静かな声で金蝉は悟空を諭す。それまで完全 に金蝉の胸に身を預けていた悟空が、弾かれたように半身を起こした。 「悟空?」 「…わかんない、金蝉が優しくしてくれるのは嬉しいけど、だから焔と会うの はダメだなんて、そんなのわかんないよっ…俺達せっかく友達になったのに、 何でたったそれだけのことがいけないんだよ、金蝉のバカッ!!」 今にも泣き出しそうな表情で金蝉に向かって怒鳴りつけた悟空は、あっという 間にその腕から抜け出して部屋から走り去って行った。 「バカはどっちだよ、バカザル…ったく、人の気も知らないで…」 既に走り去ってしまった後ろ姿に向かって、金蝉が苦々しそうに呟く。しかし 一方で、本当に自分はあの幼子を護りたいという理由だけで、焔から遠ざけよ うとしているのだろうかとも思う。 あの瞳が、あの笑顔が自分以外の者に向けられることなど許せないと、心の何 処かでそう思ってはいないか。悟空の焔に対する感情が、天蓬や捲簾への親し みとは微妙に異なることに、金蝉は気付いていた。それは世界で唯一人、自分 と同じ瞳を持つ者への『無条件の親愛』というものなのだろうか。 「…俺もつくづく沸いてるな…あんなチビ一人に…」 書類の広げられた机に無造作に足を投げ出し、金蝉は自嘲気味に笑った。 金蝉への反発心から衝動的に駆け出してきた悟空は、自分でも無意識のうちに いつもの花園へと辿り着いていた。変わりなく咲き誇る花の中で悟空はペタリ と座り込み、ポロポロと涙を零した。 「泣きベソとは珍しいな。」 よく通る落ち着いた声が、背後から語りかける、振り返った悟空は、迷うこと なく目の前の人物にしがみついた。その声の主───焔は少し驚いたようだっ たが、宥めるようにその背中を軽く撫でた。 「何があった…?」 「金蝉が…もう焔と会っちゃダメだって。何でかって訊いてもちゃんと答えて くれないし、一方的に『わかったな』って言われて…金蝉、いつもはあんな言 い方しないのに…」 時折りしゃくり上げながら、悟空は懸命に言葉を繋ぐ。焔は一つ息をついて、 微かな苦笑いを浮かべた。 「そうか…金蝉童子がそう言ったのなら、もうこうして会うのは終わりにした 方がいいな。」 あまりに静かな焔の呟きに、悟空は驚愕の思いで顔を上げた。 「何で!?金蝉がもうダメって言ったから…焔、俺のこと嫌いになった!?」 焔はゆっくりと首を振り、自らも腰を下ろして悟空の顔を間近から覗き込んだ。 「そうじゃない…だがこの辺が潮時だろう。お前も周りから聞かされていると おり、俺達の持つ金晴眼は『吉凶の源』とされている。その二人が親しくして いるなどと天帝の耳に入れば、今は『保護』となっているお前の処遇も、どう なるかはわからない。悟空、金蝉童子は決して俺を忌み嫌って意地悪を言った わけではない…ただあまりに幼く無防備なお前が、心配でならないだけなのだ ろう。」 一言一言を言って聞かせるように、焔は丁寧に言葉を紡ぐ。小さく頷きながら も、尚も泣き止まない悟空の涙を、焔は優しく指で拭った。 「…じゃあ、もう会えないの?」 「…『今は』な。だが時が満ちたら…その時はまた、必ずお前に会いに行く。 忘れてはいないだろう?俺達は『誓い』を立てたのだから。」 互いの金の瞳を絡ませ、焔は穏やかに笑う。悟空はゴシゴシと濡れた目許を拭 い、大きく頷いた。 「さぁ、もう帰った方がいい。金蝉童子もきっと心配している。」 「うん。焔…『またな』でいいんだよな?絶対また会えるんだよな?」 促されて立ち上がった悟空が、真剣な思いそのままの強い眼差しを焔に向ける。 焔は躊躇うことなくそれを受け止め、静かに頷いた。 「勿論だ。俺はきっと再び、お前に会いに行く。」 たとえその時、お前がそれを望んでいなかったとしても───。 二人はもう一度互いをみつめ合い、それぞれ別の方向へ帰っていった。 そしてそれが…悟空と焔の天界での、最後の出会いとなった。 二人が再び邂逅を果たすのは、これより五百年のちの事となる───。 第一章・終 NEXT >> |
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