「……か、可愛いねって言われたのが、最初だったの」
ホットココアを飲みながら美幸が話し出した。 帰ってきたときに美幸は、泣きはらした顔を親に見せたくないと言った。だから母親とは貴幸だけが挨拶を交わし、それ以上を話す前に部屋に引っ込んだのである。 自分の部屋へ来て先ほどの恐怖が蘇ってきたのか、美幸はまた息を詰まらせた。そんな彼女の頭を撫でたり、ココアを出したりして貴幸は美幸を落ち着かせようとする。 「あの中の一人に……。でも私、怖くて逃げちゃって……。そしたら時々会ったときに絡まれるようになって」 無理して話さなくてもいいぞと言う貴幸に美幸は首を振った。お兄ちゃんは心配して助けに来てくれたんだから、と。 「それで今日、あそこに連れられていって……。私がびくびくするから、反応が面白いって色々してきて、それで最後には、あ、ああいう……」 「……そうか」 貴幸は、美幸の頭をもう一度優しく撫でた。 その隣で美幸はまた少し泣きそうな顔をした。 「どうしよう」 「何がだ?」 「先生たち、みんな聞くことになるよね。私がそういうことされかけたって……」 「ん、それは……」 何と言えばいいのか、貴幸には分からない。 経緯を言わなければ教員に事情が伝わらないのだから、勿論悟志は話すはずである。けれど美幸にとってはそのことも苦痛なのだ。だから貴幸はは答えを濁すことしかできなかった。 美幸は悲しそうに俯いた。 「……どうしよう。先生たちに知られたら、私、私……」 「美幸……」 ただの気休めかもしれないと思いながらも貴幸は言った。 「大丈夫だよ。何があっても、俺も悟志も、おまえのこと守るから……」 「……悟志くん」 ぴくりと、美幸が反応する。 「悟志くん、大丈夫かな。助けてくれたのに、先生に何か言われてたら……」 「……そうだな」 貴幸にもとても心配である。悟志のことだ、怒られて泣いてはいないだろうか。かれこれもう、貴幸たちが帰ってきてから一時間半ほど経っている。話はどうなっただろう――。 どうしても気になり、貴幸は立ち上がった。 「俺、学校行ってくる。美幸も、無理しないで寝てろよ」 「うん」 美幸のこともまだまだ心配だ。できることなら、寝付くまででも側にいてやりたい。それでも悟志が気に掛かってどうしようもなかった。 一刻も早く悟志に会いたくて、いつもは徒歩で学校へ向かうのに自転車に乗った。漕いでいる間ずっと悟志のことを考えていた。外は既にかなり暗い。それが余計に貴幸の不安を煽るのだった。 |