≪2≫ 「アハハハハハハ……あ、アニキ……ぷ、ぷふふっ……たいへん、くふふ、だった、ね……あはははあはははは……ひゃはははあふはははははっ!」 ソファに座った野々子が大笑いする。盛大に笑いすぎて、転がり落ちそうな勢いだ。 兄の恥ずかしい秘密を暴いたあと、二人は強烈なイカ臭さを避けて居間まで逃げてきていた。 (ううっ……死にたい……俺、もう生きてられない……) 将一は腰の隆起をタオルで隠しながら、今にもこぼれそうな涙をこらえている。 大量の精液を吐き出した彼の牡器は、いまだに隆々と聳え勃ったままだ。それも、いつもより三割増しぐらいにボリュームアップして、見事な巨根と化している。 数分近く続いた射精はどうにか収まっていた。けれども出すだけ出しきったはずなのに、萎える気配は一向にない。血管の浮いた茎肉も、海綿体もみっしり膨らんだままである。 (俺の人生……終わった……なにもかも、すべて終わりだ……) みっともない下半身事情を妹に知られてしまった。 兄としてのプライドは、ズタズタに引き裂かれている。 消えることができるなら、このまま消えてしまいたい。本当にもう、死んでしまいたいぐらいだった。枕があれば顔を埋めて足をバタつかせていただろう。 「ぷくく……で、でもそんなに……うっふふふ……心配、しなくて……も、あひゃひゃひゃ……」 笑いながら兄を慰める野々子。 将一は、思わず声を大きくした。 「そっ、そんなに笑うことないだろ!」 「あははははっ……ご、ごめん……」 苦虫を噛み潰したような顔をする兄の前で、野々子は目ににじんだ涙を指で拭う。 「でも、よかったね。アニキってなんのとりえもなかったけど、今日からは……ぷっ、ぷふふ……くっくっく……」 将一が怒ってみせても、妹はこみ上げる笑いをこらえきれないようだ。 (いくらなんでも笑いすぎだろ……ちょっとは気を使えよ……だいたい、こいつはいつも余計なことばかりして……) 無邪気に明るい野々子の笑顔。 あっけらかんとした妹の顔を見ていると、胸の中でドス黒い感情がムクムクと膨らむ。 とはいえ、将一に何ができるわけでもない。 今できることといえば、膝を抱えてうずくまるぐらいのことであった。 「俺、もう死ぬ……死んでやる……呪われろ……こんな世界、消えてしまえばいい……」 「ごめんごめん。悪かったってば。ね、アニキ」 落ち込む兄の姿を見せつけられて、さすがに悪いと思ったらしい。 動かない将一の近くまでやってきた野々子は、慰めるみたいに肩に手を置いて、ほがらかに微笑む。 「治すの手伝ってあげるから、カンベンしてよ。いいでしょ」 「治す、って……どうやるんだよ?」 ぶっきらぼうに問いかけると、妹は唇に指先を添えた。いつもよくやる、ちょっと考え込むときの仕草だ。 「んー……っと、さっきみたいにオチンチンからセーエキを出せば、治るんじゃないの」 少女の口から、さらりとえげつない言葉が出てきた。 「おっ、おおお、女の子がそんなこと言っちゃいかん!」 将一が目の端をつり上げる。 「じょっ、上品にっ! もっとエレガントな言葉を使えよっ」 「ナニそれ〜。アニキ、ボクのことバカにしてない?」 説教臭い口調の兄に、野々子が唇をとがらせる。 「ボクだってね、もう子供じゃないんだよ。ボクだって、いろいろ……その、エッチなこととか……知ってるもん」 「そ、そうですか……」 兄妹の間に、ちょっぴり気まずい空気が流れた。 直前の発言がやはり照れくさかったらしい。野々子の頬がほんのりと赤く染まっている。 性的な知識はあっても、あからさまな単語を口にするのは抵抗がある。そんな微妙なお年頃のようだ。そうでありながら子供扱いされるのが嫌だという、厄介なプライドも身についてきている。 まさに思春期まっさかりであった。とはいえ、ひとたび言ってしまったことに恥ずかしさもあってか、視線を部屋のかたすみに送っている。 自意識と羞恥心をせめぎあわせている妹の微妙な変化に、将一はさっぱり気づかない。 兄は兄で、自分のことだけでいっぱいいっぱいなのだ。今にもタオルをつき破りそうな股間の盛り上がりと、俯き顔で向きあうだけではあったが。 (どうしたらいいんだ、これ? やっぱり……なんか俺、このまま死にたい気分になってきたかも……) 気分を沈ませる一方の兄に、野々子は元気よく笑いかける。 「エヘヘ……とにかくやってみようよ! ね、アニキ」 「でもなあ……なんか、出せば治るって感じでもないし……出しすぎたら、かえって危なそうだし……」 不安を感じた将一がぶつくさと文句を言う。 兄のすぐ横でソファに並んで座った野々子は、膝関節を軽くパタつかせながら耳を傾ける。どうやら常に動いていないと落ち着かない様子だった。 「イヤならお医者さんに行こっか。ヒニョーキカ、だっけ?」 「それは絶対にイヤだ。恥ずかしくて死ぬ」 「じゃあ決定ね。ハイ、決まりィー」 ポンと一回手のひらを打って、妹はバンザイしてみせる。 「そうと決まったら……うーん。やっぱりお風呂場がいいかなぁ」 どんどん話を勝手に進めていく野々子。 すっかりペースを奪われた将一は、たちまち渋い顔になった。 「なんで風呂場なんだよ」 「だっていっぱい出るんでしょ? 部屋で出したらニオイもすごいし、洗ったりできないじゃん」 「ま、まあ……たしかにそうだけど」 たしかに妹の言うとおりだ。 けれども将一は、いまひとつ釈然としない。 妹の言いなりになってたまるか、という兄としての自尊心がわずかに残っている。 「ほら。早く行こうよ。急がないと、お父さんかお母さんが帰ってきちゃうからさ」 野々子が将一の腕をつかんで、グイグイと引く。 「お、おい。待てって。ひっぱるなよ。タオル落ちちゃうから!」 「アニキってば、女の子みたいなこと言ってる」 「う……うるせえ」 兄の矜持はズタズタだ。将一は泣きたい気持ちになった。 落ち込む彼の肩をポンポンと気安く叩いて、野々子は笑う。 「あははっ。一緒に手伝ってあげるから、いっぱい出してね。アニキ」 「う、うん……」 妹のさわやかな笑みが目にまぶしい。 今度は、将一の頬が気恥ずかしさに赤らんだ。 |