私は暴力から逃げるため家族を捨てた。彼女には家族がいなかった。だから私たちは身を寄せたのだ。



 玄関のドアを開けると、そこにはムッとした熱気が立ち込めていた。マンションは2LDKで、それぞれの部屋とリビングその他は共通という使い方だ。帰る頃には外はすっかり暗くなっていて人気のないリビングも真っ暗な闇に沈んでいた。電気を点けると、彼女の趣味で付けられている明るすぎない小さなシャンデリアがソファの前に置かれたテーブルに柔らかい光を落とした。そこへ先ほど買った惣菜を並べていく。アジの南蛮漬け、3色おこわ、アボカドとサーモンのカルパッチョ、オリーブのカクテル。デザートにケーキも買ったのでそれは冷蔵庫へ入れる。好きなものばかり買いすぎてしまったが、たまにはいいだろう。冷蔵庫から入れ替わりに缶ビールを取り出して一息つくと、エアコンのスイッチを入れ、流れる汗にため息をついてソファに沈んだ。
 彼女は去年大学を卒業しヘルスも辞めて、今は小さな不動産会社で働いている。仕事の内容によっては私のほうが帰りが遅いこともあるが、休みの日は一緒にいることが多くなった。堅気の仕事一本になったら関係が崩れてしまうのではと私は不安を抱いていたが、それはどうやら杞憂だったようで、彼女はむしろ以前よりも積極的にスキンシップを図るようになった気がする――


 「ただいまー」
と、彼女の声がして顔を上げる。時間を見れば30分ほど寝ていたようで、のみかけだった缶ビールはすっかり外側が結露してテーブルの上に水の輪を描いていた。
「涼しー…わ、すごいね。コレどうしたの?…由美ちゃん寝てた?」
開襟シャツの上に薄手のサマーカーディガンを羽織り下はタイトスカート、というOLルックの彼女がリビングに入ってきて声をかけた。
「恵理…ちょっと寝てた、お帰り。…臨時収入があった、っていうか入る予定だから前祝い、的な?」
「…ふうん」
彼女はカバンをどさりと置き、羽織っていたカーディガンをソファーに投げた。外見でお嬢さんかと思っていたが、案外ガサツな面があることが一緒に住んではじめて判った。
「さっそく食べる?」
「暑すぎて…先にお風呂入ろうかな」
彼女はソファーに座る私の隣にドカリと座って襟をつまんでパタパタと風を送り込んでいる。汗が首筋を伝っている様子にこっちが暑くなってくる。
「あ、お風呂用意してないや。シャワー?」
「え、風呂入りたーい!」
「はいはい」
 トイレ一体型の風呂は嫌だ、という彼女の希望をかなえたこのマンションの浴室は、独立の1坪ユニットでまあまあ広い。彼女が好きだと言っていたバラの香のバスバブルを入れて風呂のスイッチを入れる。ジャーと音を出して給湯器がお湯を注ぐにつれて泡立ち、香りが浴室に広がって行く。
 「お、いい香り」
と、脱衣所に彼女がやってきて覗き込む。
「まだいま入れはじめた所だからちょっとかかるよ」
「えー、でももう我慢できない」
そう言って彼女は脱衣所で乱雑にタイトスカートとパンストを脱ぎ捨てた。じっとりと汗を吸ったシャツは重そうな音を立てて床に落ちる。あっというまに彼女は薄いピンクのシンプルな下着姿になっていた。
「由美ちゃんもはいろ」
と浴室で唖然と見ていた私のシャツを脱がしにかかる。
「ちょっと」
「もう半分くらい溜まってるし、二人で入ったらちょうどいいって」
Tシャツを脱がされ、さらにジーンズのボタンに手がかかったのをあわてて押しとどめる。
「もう…自分で脱ぐから。先にシャワーで汗流しなよ」
そう言って脱衣所に行ってジーンズのボタンを自らはずすと、ついてきた彼女は微笑んで自分のブラジャーに手をかけた。
 彼女の胸は仕事をしていた当時のプロフィール上でEカップだったが、ヒアルロン酸注射でカップを上げていたために今ではDカップまで戻っていた。それでも形の良い胸がさらけ出され、そのままためらうこともなくパンティも脱ぎ捨てる。ビキニラインを永久脱毛したらしいアンダーヘアは綺麗なひし形をしていて、汗で張り付いたようにくしゃりと小さくなっていた。
「じゃあシャワー浴びてるね」
と言い残して浴室に入っていく。自分も手早くジーンズと下着を脱ぎ捨て、彼女の後を追った。




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20120822








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