AV女優というと「借金を返すために私脱ぎます」みたいな想像をしている人がいるが、いまどき借金の形なんて時代錯誤な理由でこの業界に来る人は相当少ないんじゃないだろうか。見た目が良いか肩書きがあるか、とにかくAV女優として「名前で作品が売れる」ような女優(いわゆる単体や企画単体)でもない限りは儲かる職業でもないのが現実だ。儲かると思って「私脱ぎます」と言っても仕事が来ず、事務所をやめていく人を何人も見ている。そもそも見た目や年齢的にAV女優になれない人だって中にはいるくらいだ。そんなわけでギリギリAV女優をやれている私を含め「名前で作品が売れない」企画女優の大多数は、「借金返済やら生活費やらホスト遊びだったりに使う金を稼ぐために、学歴とか関係ないし、風俗と比べると仕事量によるのでなんともいえないけどバイトよりはるかにもらえるので、私脱ぎます」という程度の気持ちで仕事をやっているのが本当だと思う。
 一応AV女優として仕事がもらえているが、平凡な顔立ちで、太すぎるわけではないが取り立てて胸も大きくなく、ウエストも細くない標準体型で、学歴もアイドルなどの経歴もなく、さらに若くもない22歳の私にやってくる仕事というと、AVのエキストラ(有名な女優を引き立たせるために一緒に全裸になって風呂に入るだけ、とか、脱ぎもせず痴漢にあう女優のそばで電車セットに立っているだけ、とか)だったり、体を張る作品(全裸で殴りあうキャットファイトだったりハードな内容のもの)がほとんどで、たまにAV女優らしくフェラやSEXの仕事をすることがあったが、そんなのは月に何度かあれば良い方だった。当然エキストラの仕事は楽だがギャラが非常に安く、体を張る仕事はそこそこ儲かるが内容がキツイ。キツイ仕事をNGにする娘もいるが、私は多少キツイのは平気だし仕事がほしかったのでスカトロ以外にNGはなかった。
 今回も体を張る仕事――「水に顔を突っ込んで息を我慢し、苦しむ表情を見る」というマニアックなAVの撮影であり、事前に”苦しい”とは聞いていたのでコレくらいは許容範囲である。先週のSMビデオのエキストラの仕事――縄で縛られて立っているだけ――のせいでまだ体にうっすらと縛られた痣がのこっているために脱ぎの仕事ができない今の私にとって、服のまま苦しむだけというのは絶好の仕事と言える。しかし気絶するまで、というのはちょっとやりすぎな気がするので一応マネージャーに言っておこうと、浴びていたシャワーのコックをひねりながら心に決める。
 シャワーで体も温まり、パニック状態だった頭も落ち着いて来た。控え室に戻るとカバンから取り出した乾いた服に着替え、濡れた服はADからもらったビニール袋に入れてカバンに仕舞う。撮影に自分の服を使うのも良くあることなので濡れる事位は想定内だ。撮影の時は派手な長袖のチュニックにひらひらしたフレアスカートをはいて足をさらけ出していたが、普段着は移動だけなのでスリムなグレーのジーンズにタイトなTシャツ1枚という地味な軽装だ。控え室にある化粧台に座り、備え付けのハリウッドランプを点けて、自分のカバンから取り出したドライヤーで髪を乾かす。控え室にメイク台はあるが、当然こうした安い撮影ではメイクさんはいないので自分ですべてをやらねばならない。
 家に帰るだけなので、手早く髪を乾かしたら最低限の化粧を済ます。鏡を見ながら眉を書きつつ携帯を取り出し、マネージャーに電話をかける。撮影が終わったことと気絶するに至ったことを苦情のように告げると、ごめんごめんと軽くあやまられ、ギャラに2万上乗せすると言われて(きっと予定調和だろうが)それに同意する。そもそも5万のギャラが7万になったので上々だ。へたなSEX現場より儲かってるくらいだが、とはいえもう二度と御免だと思う。携帯を仕舞うとリップグロスを塗って、さっさと帰ろうと化粧台のランプを消して立ち上がる。
 控え室を出ると、薄暗い廊下にADが待機していた。次の娘の撮影が始まっているらしくスタジオの方からは光が漏れているが何の音も聞こえてこなかった。「表で撮影やってるんで帰りは裏口からお願いします」と小声でADに言われ、目線もあわさず礼をして背を向けると、示された先にある薄暗い階段へと足早に向かった。



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20120822








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