水面に照明が反射してキラキラと輝き、夢みたいだと思った。そうぼんやり眺めていると、ふいに後頭部をつかまれて水中に顔を押し込まれる。鼻から口からぼこぼこと空気を吐き出し、徐々に肺が苦しくなってくるのに耐えていると、また後頭部をつかまれ水上に引き出される。ぜいぜいと息をしながら、次を待つ。髪の毛や顔面はびしょぬれで、服にまで水がつたって冷たい。しばらく目の前の水槽に浮かぶ水面のキラキラを見ていると、またいきなり後頭部をつかまれて顔を沈められる。台のついた大きな水槽に上半身をかがめて顔をつけている状態だ。また引き出され、息をしたところで、押し込まれる。じっと我慢する。引き出される。それを繰り返す。
 繰り返しているうちに、徐々に沈められている間隔が長くなってきたように感じる。何度目かの水中で私は耐え切れなくなって、右手を挙げた。「手を挙げたら”もう無理”という合図で終了だ」と事前に聞いていたのだが、後頭部の押し込む手は止まらなかった。一度引き出されたかと思うとすぐさま水槽に顔を押し込まれ、私は盛大に水を呑んだ。顔を突っ込んだ水槽の底から私をにらむカメラと目が合う。と、引き出されてゲホゲホと空気を求めて息を吸う。また、後頭部を押されてキラキラした水面に顔が近づき、ぐっと抵抗するように上半身を起こすのだが、力に耐えられずに顔が水に沈んだ。再度水を飲み、暴れる。鼻の奥に水が入り、こめかみがキンと痛くなる。パニックで視界がちらつき水槽の底のカメラが笑ったように揺れる。反射する照明のまぶしさに目がくらんだように、靄がかった目の前がひときわキラキラと真っ白くはじけて、その残像をまぶたの裏にカラフルに残し、意識は黒く沈んだ。



 目が覚めたとき、薄暗い控え室でそばにいた監督の男はニヤニヤと笑っていた。「ごめんね。言ったとおりで止めたら苦しいリアクションが捕れないから、その先までやらないと、ね。」と私に言う。
 ソファーに寝かされていた私は、撮影中に服を脱いでいたわけではないので、上半身がびしょびしょに濡れていた。上から毛布をかけられていたが、濡れて張り付いた服が体を冷やしていたようで夏だというのにぶるりと鳥肌が浮いた。起き上がると一瞬くらくらとしたが、倒れるほどではない。濡れるとは聞いていたので着替えを持ってきてあったはず、と部屋の隅においておいたカバンを取りに立ちあがる。
 「マネージャーさんには断ってあるから。立てるようならシャワーを浴びにいこうか」と監督がADに指示を出す。ADは私にバスタオルを渡してくれた。今日の現場はバスローブがないらしい。脱ぎがないから当然か。「一人で行けますか?」と問いかけるADに頷いてタオルを受け取ると、一人シャワー室へと向かった。





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20120822








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