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ヴァンデ地方の寒村。道の両脇一杯に生えたトウモロコシ。夏が終わりかけた匂いがしている。マルタン・マルクは帰路を急いでいた。交差点に立っていた一人の娘。「どこか子猫に似ていた」。 |
「髪の毛を後ろに払った女。こちらを見つめながら股間に手を伸ばしてくる。特上の微笑みだ。俺も笑い返してやった」 |
成り行きから女と寝るはめになったマルタン。だが娘は「犯された」と告発する。逮捕され、調書を取られ、裁判にかけられる。妻は子供を連れて家を出る。何度か面会に来た父親は息子の無罪を知ることなく病死する。家を、家族を、全てを失ってしまう。年が明けてようやく判決が下る。免訴。 |
「随分と待った。まずは父親から消していこう。後は順々に、一人ずつ」 |
片手に22口径のロングライフル。マルタンの復讐が始まる。 |
精神分析家だったジャック・シレイジョルはJ.‐B.プイとの接触を経てセリ・ノワールに参入。デビュー作となった「ヴァンデ地方、黒の三部作」第一部がこの『復讐篇』でした。通りすがりの女に騙されて破滅した一男性の復讐譚ですが、「冒頭部、誘惑の物語」、「中盤、牢獄での孤独感」、「後半、ジワジワした反撃の開始」とシンプルながら飽きさせない展開。 |
むせ返るほどの"雄"の匂いが作品を満たしています。洗練されていない何かが最後の最後で凶暴な力を剥き出しにします。初期〜中期ジャウアンを想起させる悲劇と「狂」の感覚が素晴らしい一作。 |
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