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アントワーヌは新聞の切抜きに目を通す。赤丸のついた「32才。女。寂しすぎるの。だから若い人が」。 |
切り抜きに載っていた住所宛てに手紙を書いてみる。女からの返事。「喫茶店で。午後四時に」。レアとの出会いだった。電話帳で名前を探してみる。取り留めない恋文などを書いてみる。夢を生きているようだった。 |
レアは仲間の指示に従って誘拐の準備を進めていく。交渉をしているの間、子供の隠し場所が必要だった。アントワーヌはそのために選ばれた生贄だった。 |
だが女は本当にアントワーヌに恋してしまう。「誘拐なんてもう止めたいの。お金なら返すから」。心変わりは許されなかった。着々と進んでいく誘拐計画。真実を告げることができぬまま時間が流れていく… |
80年度の推理小説大賞を獲得した作品(邦訳有)。アントワーヌとレア、誘拐された少女が築いていく奇妙な擬似家族。90年代になって頻繁に扱われていく親子、家族の主題が上手く先取りされています。 |
サスペンス叢書「冷汗」からの一作ですが、仏流サスペンスの本流ともやや異なっていて繊細で矛盾だらけの心理描写を丁寧に動かしていきます。今読むと「和み系のスリラー」。現在ほとんど忘れられている作家ですが、他の作品も面白いのでもう少し評価上げときたいかなという気はします。 |
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