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女は故郷のボルドーから遠く離れ、「光」と呼ばれる首都パリに身を落ち着けていた。 |
「この蝋燭を消すように戦争が降りかかってきた。飛行機は物で塞がれた通りに死を撒き散らす。サイレンが鳴り響いている。数少ない友達は1940年の春に街を離れていた。消息を絶った数人。他の知人も戻ってはこなかった。国境線が守ってくれると信じていた。幻に過ぎないのに」 |
1942年、ドイツ軍占領下のパリ。女は広いアパルトマンで孤独と退屈に苛まれていた。不幸な流産の後、夫エドモンとの関係はぎくしゃくとしはじめていた。「愛人を作るんだね」。旧友のカミーユに誘われてパーティへと顔を出す。独軍士官たち、そして親独派の人々が集まっていた。 |
夫の忠告通り愛人を作ってみる。最初は親独派のジャーナリスト。次はゲシュタポ隊員が微笑みを向けてくる。愛されるのは悪いことではなぁった。束の間の贅沢。しかしドイツ軍の凋落はすでに始まっていた。 |
「対独協力者の売女、気をつけろ」、脅迫状が一通。ドイツ軍高官から「取引」を持ちかけられたのはこの時だった… |
パリ解放後に姿を消したブルジョワ一女性の半生。煙草の密売や蓄音機の扱いなど細部一つ一つに説得力有り。結末は数通りの読みが可能で独特の余韻を残していきます。軽目のお笑い路線で人気を博した作家ですが、シリアスに転調すると軽く推理小説大賞をかっさらってしまう辺りが流石。 |
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