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白い雲の伸びた先に細長い島が見える。56年3月。写真家アイヴォリー・パールは飛行機でキューバに向かっていた。 |
村で煙草とラムを買う。荷物を積んだラバと一緒に山道を登っていく。一台のライカ、そして45口径のコルトが相棒だった。崖の上から川下を見張りつづけている。野生の豚の群れを発見、どこからか飛んできた矢が一頭を射殺する。黒豚に近づいて来たのは30才前後の男だった。アイヴォリーは男の後をつけていく。 |
木の枝、土塊れ、草で隠れ家を作っていた。汚い少女が飛び出してきた。男から受け取った豚を料理し始める。アイヴォリーは腰の銃を確かめる。一歩踏み出した。 |
「昼食にご招待?」 |
二人は驚いた様子も見せなかった。少女は数年前に誘拐されたアルバ・ブラック。伯父は悪名高い武器の密輸商人アーロン。誘拐劇は奇妙な仲間割れで終わり、実行犯の一人と少女アルバが行方不明のままになっていた。同時期、姪の消息を掴んだアーロンがキューバに刺客を送る。三人組の奇妙な逃避行が始まった… |
82年からマンシェットは長い沈黙に入りました。後に「悪しき時代の人々」と名づけられる連作の構想があったようで87年には長編『イリス』の冒頭部を試し書き。その後『血の王妃』の執筆を開始します。しかし89年に腫瘍が発覚、闘病生活の中で取材と執筆を続けますが95年6月3日に亡くなっています。 |
未完の絶筆。残された原稿は第29章まで、全体の半分弱といったところ。東欧情勢(ハンガリー)、キューバ情勢、アルジェリア戦争を絡めた犯罪絵巻が完成するはずでした。作品としては…旧作に比べると物足りなさが残りますが、だからこそ「完成していたら」と愛好家の夢想をかきたてます。 |
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