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「ビュトロンを殺害した黒人と白人二人組は既に発っていた。まだ3人が残っていて、怠け者のカウボーイ風に帽子を目深に落としながらホールの長椅子でウトウトしていた。二人はユーゴ製のスタン短機関銃、もう一人はシュマイザーを所持していた」 |
地方都市ルーアンで一青年が射殺される。犯人二人組は地元警官に「後始末」を依頼するとムスタングをパリへ走らせていく。ツタに囲まれた洋館、書斎で「元帥」が待っていた。殺し屋は青年ビュトロンが最後に残した録音テープを元帥に手渡した。元帥の黒い肌に微笑んだ白い歯が浮かび上がる。 |
録音テープにはビュトロンの半生が記録されていた。田舎の大学で哲学と文学を専攻した大学生時代。ジャズに憧れドラマーを目指すも放棄。車泥棒の常習犯、一度など車の持ち主と取っ組み合いになり怪我を負わせていた。大学の極右武闘派からコンタクトがあり、半ば退屈しのぎにテロ行為にも手を染めていく。 |
爆破テロへの加担で一旦は収監。恩赦により出獄の後、父親の遺産を手にパリに上京。かつての恋人からジンバブエの政治活動家たちを紹介される。彼らの英雄は「アフリカのマルコムX」ことヌギュストロ。ビュトロンは彼を主人公とした映画で一儲けしようとする。しかし反ヌギュストロ派がそれを嗅ぎつけて陰謀に利用していく… |
1965年、パリで実際に発生したモロッコの要人拉致事件を漠然と下敷きにした一作。本作品についての詳細な、そして非常に愛情のこもった日本語解説は別サイト(→リンク)にありますのでそちらも参考にしてください。 |
平和と博愛の士ヌギュストロ抹殺を図る元帥側の動きと、その陰謀劇に撒きこまれていく一地方青年の人生の軌跡をパラレルに描き出しています。 |
マンシェット著作では唯一「告白体」の比重が大きな作品。作家が語り部に徹した後の諸作とはやや雰囲気を異にしています。傲慢と卑劣、シニカルな明晰さ…主人公のビュトロンはしばしば単純化されて語られるような「極右青年」ではなく、当時の時代の悪素を多分に吸いこんだ複合的、複雑なキャラクターとして描かれています。 |
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